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2024年6月

2024年6月30日 (日)

フリーランス該当性判断についての難点

フリーランス適正化法2条1項では、同法の保護の対象である「特定受託事業者」(フリーランス)を、

「業務委託の相手方である事業者であって、次の各号のいずれかに該当するものをいう。

一 個人であって、従業員を使用しないもの

二 法人であって、

一の代表者以外に他の役員

(理事、取締役、執行役、業務を執行する社員、監事若しくは監査役又はこれらに準ずる者をいう。

第六項第二号において同じ。)

がなく、かつ、

従業員を使用しないもの」

と定義しています。

ここで問題になるのは、取引先に従業員がいるのかいないのかを、発注者はどのように知ったらいいのか、ということです。

これが下請法であれば、個人はすべからく下請事業者に該当しますし(個人が相手方かどうかは契約書とか見積書とかの取引関係書類で確認できます)、法人は資本金で下請事業者であることが確認できる(しかも中小企業はほとんど資本金3億円以下)ので、ほぼ迷うことはありません。

これに対して、個人や法人に「従業員」がいるかどうかは、相手に聞かないとわからないことも多いのではないかと思われます。

たとえば我々弁護士のなかにも、従業員を雇っていない人がけっこういたりします。

明らかにアパートらしき建物名の1室が事務所だったりすると、「自宅で開業しているんだな」とか、「そうしたら従業員もいないかも」と推測できたりすることもあるかもしれませんが、貸しオフィス的なものを使われていると住所もそれらしいので、それすらわかりません。

しかも、この「従業員」にはさらに細かい定義があります。

すなわち、「特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律 の考え方」p3では、

「⑴ 従業員を使用

「従業員を使用」とは、

①1週間の所定労働時間が20時間以上であり、かつ、

②継続して31日以上雇用されることが見込まれる労働者

(労働基準法(昭和22年法律第49号)第9条に規定する労働者をいう。)

を雇用することをいう。

ただし、労働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働者の保護等に関する法律(昭和60年法律第88号)第2条第4号に規定する派遣先として、

①1週間の所定労働時間が20時間以上であり、かつ、

②継続して31日以上労働者派遣の役務の提供を受けることが見込まれる派遣労働者を受け入れる場合には、

当該派遣労働者を雇用していないものの、

「従業員を使用」に該当する。

なお、事業に同居親族のみを使用している場合には、「従業員を使用」に該当しない。」

とされています。

こうなるとやっぱり相手に聞かないと分からないし、同居の親族は含まないということなので、奥さんに秘書をやってもらっている弁護士はフリーランスに該当することになります。

なので、事務所に電話をしたら弁護士でなく秘書さんが電話を取ったからといって、油断はできません。

その人が弁護士の奥さんかも知れないからです。

相手方が個人の場合には安全をみて全てフリーランスとして扱うという対応も考えられますが、相手方が法人だとそういうわけにもいきません。

なので、発注者側の現実的な対応としては、

取引の相手方が個人の場合、その人が間違いなくフルタイムの従業員を雇っているとわかっているのでないかぎり、基本的に全員フリーランスとして扱う、

取引の相手方が法人の場合は、従業員がいないとわかっている場合にかぎり、フリーランスとして扱う、

手間を惜しまないのであれば、少なくとも個人の取引相手方には、従業員雇用の有無を尋ねる、

ということが考えられます。

逆に、フリーランス側の対応としては、自分が従業員を雇用していないのであればその旨を発注者にあらかじめ知らせておくべきではないかと思います。

というのは、従業員がいると誤解している発注者に、法律違反をさせてしまう可能性があるからです。

とくに発注者が、フリーランスに従業員がいると誤解していると思われる場合には、フリーランスは積極的にその誤解を解くべきようにすべきでしょう。

2024年6月29日 (土)

フリーランス適正化法5条(特定業務委託事業者の遵守事項)の適用範囲の疑問

フリーランス適正化法5条(特定業務委託事業者の遵守事項)では、

「第五条 特定業務委託事業者は、特定受託事業者に対し業務委託

政令で定める期間以上の期間行うもの

(当該業務委託に係る契約の更新により当該政令で定める期間以上継続して行うこととなるものを含む。)

に限る。以下この条において同じ。)

をした場合は、次に掲げる行為

(第二条第三項第二号に該当する業務委託〔役務提供委託〕をした場合にあっては、第一号及び第三号に掲げる行為を除く。)

をしてはならない。

一 特定受託事業者の責めに帰すべき事由がないのに、特定受託事業者の給付の受領を拒むこと。

二 特定受託事業者の責めに帰すべき事由がないのに、報酬の額を減ずること。

三 特定受託事業者の責めに帰すべき事由がないのに、特定受託事業者の給付を受領した後、特定受託事業者にその給付に係る物を引き
取らせること。

四 特定受託事業者の給付の内容と同種又は類似の内容の給付に対し通常支払われる対価に比し著しく低い報酬の額を不当に定めるこ
と。

五 特定受託事業者の給付の内容を均質にし、又はその改善を図るため必要がある場合その他正当な理由がある場合を除き、自己の指定
する物を強制して購入させ、又は役務を強制して利用させること。」

と規定されています。

そして、「政令で定める期間以上の期間」について、同法施行令1条(法第五条第一項の政令で定める期間)では、

「第一条 特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律(以下「法」という。)第五条第一項の政令で定める期間は、一月とする。」

と規定されています。

さらに、「特定受託事業者に係る取引の適正化等関す法律の考え方」p26では、

「ア 単一の業務委託又は基本契約による場合」

として、この「期間」の始期は、

「単一の業務委託又は基本契約による場合における期間の始期は、次の日のいずれか早い日である。

①業務委託に係る契約を締結した日(3条通知により明示する「業務委託をした日」)

②基本契約を締結する場合には、基本契約を締結した日」

であり、終期は、

「単一の業務委託又は基本契約による場合における期間の終期は、業務委託に係る契約が終了する日又は基本契約が終了する日のいずれか
遅い日であり、具体的には次の日のいずれか遅い日である。〔中略〕

①3条通知により明示する「特定受託事業者の給付を受領し、又は役務の提供を受ける期日」(ただし、期間を定めるものにあっては、
当該期間の最終日)

②特定業務委託事業者と特定受託事業者との間で、別途当該業務委託に係る契約の終了する日を定めた場合には同日

③基本契約を締結する場合には、当該基本契約が終了する日」

であるとしています。

つまり、一番単純な、単発の契約で単発の発注だけをする場合であっても、「期間」の終期が給付受領日であるため、作業に1か月以上かかると、5条の遵守事項の対象となることになります。

しかし、私はこの「考え方」の解釈はおかしいと思います。

フリーランスの単発の仕事でも、たとえば個人でやっているイラストレーターとか、書籍の翻訳とか、仕事に1か月以上かかるものはいくらでもあると思います。

それらが単発の発注なのにすべて5条の対象になるというのは、実質的な理由がありません。

この点、立案担当者の解説である、松井他「特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律の概要」(NBL1246号39頁)では、5条の「期間」の趣旨について、

「本条〔5条〕で列挙している遵守事項は、政令で定める期間以上にわたり継続して業務委託をした場合(契約の更新により政令で定める期間以上継続して行うこととなるものを含む)に適用される。

これは、下請法の規制対象でない小規模な発注事業者であっても、従業員を使用していれば本法の特定業務委託事業者となり得るところ、

発注事業者とフリーランスとの間に経済的な依存関係が生じる継続的な取引の場合に、

発注事業者から不利益な取扱いを受けやすい傾向にあるという保護の必要性と

小規模事業者を含む発注事業者に過度な負担が生じることがないようにする観点を考慮し、

規律の範囲を定めるものである。」

と説明されています。

つまり、経済的な依存関係が生じることが、1か月という「期間」を定める趣旨なわけです。

なのに、単発の発注で作業が1か月以上かかるだけで「経済的な依存関係」が生じるというのは、どう考えても無理があります。

また、継続的な取引関係であるために経済的な依存関係が生じることに注目する立法例として独禁法2条9項5号の優越的地位の濫用の定義がありますが、そこでは、優越的地位の濫用は、

「五 自己の取引上の地位が相手方に優越していることを利用して、正常な商慣習に照らして不当に、次のいずれかに該当する行為をすること。

イ 継続して取引する相手方(新たに継続して取引しようとする相手方を含む。ロにおいて同じ。)に対して、当該取引に係る商品又は役務以外の商品又は役務を購入させること。

ロ 継続して取引する相手方に対して、自己のために金銭、役務その他の経済上の利益を提供させること。

〔以下省略〕」

と定義されていますが、これに例えば納期が1か月以上の単発の発注が入るのかというと、入らないと思います。

また、単発の発注を「継続的な取引」というのも、言葉の問題としてかなり無理があります。

さらに、単発の取引だけど納入までに1か月以上かかる取引なら「発注事業者から不利益な取扱いを受けやすい傾向にある」というのも、まったく成り立たないと思います。

さらに、「考え方」の解釈は、5条の文言にも反すると思われます。

すなわち、5条では、「政令で定める期間以上の期間行う〔業務委託〕」が、5条の遵守事項の対象だとしています。

そして、「業務委託」は2条3項で、

「一 事業者がその事業のために他の事業者に物品の製造(加工を含む。)又は情報成果物の作成を委託すること

二 事業者がその事業のために他の事業者に役務の提供を委託すること(他の事業者をして自らに役務の提供をさせることを含む。)」

つまり、1号であれ2号であれ、「業務委託」は、「委託すること」です。

そして、「委託すること」とは、発注(契約の申込み)をすることであると解されます。

このことは、「委託すること」は、広辞苑で「委託」が、

「法律行為または事実行為などをすることを他人に依頼すること」、

つまり他人に何かをお願いすることが「委託すること」であると説明されていることとも整合しますし、民法で、

「(委任)

第六百四十三条 委任は、当事者の一方が法律行為をすることを相手方に委託し、相手方がこれを承諾することによって、その効力を生ずる。」

「(寄託)

第六百五十七条 寄託は、当事者の一方がある物を保管することを相手方に委託し、相手方がこれを承諾することによって、その効力を生ずる。」

というように、「委託し」が契約の申込みを意味する用例があることや、同じく民法で、

「(遺産の分割の方法の指定及び遺産の分割の禁止)

第九百八条 被相続人は、遺言で、遺産の分割の方法を定め、若しくはこれを定めることを第三者に委託し、又は相続開始の時から五年を超えない期間を定めて、遺産の分割を禁ずることができる。」

というように、遺言という単独行為で「委託する」という行為がなされることを前提にしている用例があることとも整合的です。

よって、「政令で定める期間以上の期間行う〔業務委託〕」というのは、発注行為を1か月以上の期間にわたって行うこと、という意味になります。

すると、発注(「委託すること」)という、いわば「点」の行為を1か月以上の期間行う、というわけですから、これは、複数の発注を継続的に1か月以上行うという意味に解するほかないことになります。

そもそも、「業務委託」は、「x〔エックス〕を委託すること」なのですから(2条3項)、主語は発注者です。

なので、フリーランスの行為は、「業務委託」の定義に入ってきません。

よって、フリーランス側の行為である納入を「政令で定める期間以上の期間行う〔業務委託〕」に読み込むのは、概念における主語ー述語関係の読み違えです。

このような、主語ー述語関係の読み違えは、法律解釈では致命的です。

例えば事業譲受に関する独禁法16条では、

「 第十六条 会社は、次に掲げる行為をすることにより、一定の取引分野における競争を実質的に制限することとなる場合には、当該行為をしてはならず、及び不公正な取引方法により次に掲げる行為をしてはならない。

一 他の会社の事業の全部又は重要部分の譲受け

二 他の会社の事業上の固定資産の全部又は重要部分の譲受け

三 他の会社の事業の全部又は重要部分の賃

四 他の会社の事業の全部又は重要部分についての経営の

五 他の会社と事業上の損益全部を共通にする契約の締結」

というように、両社対等で取引の方向を概念できない5号を除き、すべて受け側の行為として統一されています。

(ちなみに、なので企業結合では、「事業譲渡」ではなく「事業譲受」(じぎょうゆずりうけ)という用語を使うことが圧倒的に多いです。)

フリーランス適正化法2条3項の「業務委託」を、委託を受ける側の行為も含むのだという解釈は、事業譲受を譲渡側の行為も含むのだと解釈するようなものであり、主語-述語関係の誤読です。

法律解釈では、概念の広狭を云々することも大事ですが、この主語-述語関係(概念と概念の論理的な関係)を読み違えないことのほうが、ずっと大事です。

時効の解釈において、期間よりも起算点が大事なのと同じです。

このように、フリーランス適正化法の条文のどこを見ても、「考え方」のように、業務委託(「委託すること」)の期間が、発注から給付受領までの期間を意味するという解釈は出てきません。

それに、決定的な問題として、「考え方」の解釈では、例えば1週間で終わる作業を毎月1件ずつ12か月にわたり発注し続けたような場合でも、基本契約がないかぎり、5条の対象にはならないことになり、むしろフリーランスの保護に欠けるのではないかと思われます。

これだと、たとえばウーバーイーツの配達員向け約款が「基本契約」に該当しないと仮定すると(該当するかしないかは、また別の機会に考えます。ひとまず頭の体操として、ここではこれを前提にして下さい)、ウーバーイーツの配達員はそれぞれの配達が1時間程度以内で終わるので、何年配達員をやっていてもフリーランス適正化法の保護を受けない、ということになります。

というわけで、「考え方」の解釈は誤りですから、発注者のみなさんは、納期が1か月以内の発注であっても、くり返し発注する場合にはフ適法5条が適用されることを前提に行動すべきと考えます。

2024年6月28日 (金)

フリーランス適正化法の3条通知の時期に関する疑問

今年11月に施行予定のフリーランス適正化法3条1項では、

「(特定受託事業者の給付の内容その他の事項の明示等)

第三条 業務委託事業者は、特定受託事業者に対し業務委託をした場合は、直ちに、公正取引委員会規則で定めるところにより、特定受託事業者の給付の内容、報酬の額、支払期日その他の事項を、書面又は電磁的方法・・・により特定受託事業者に対し明示しなければならない。〔以下項省略〕」

と規定されています。

そして驚くべきことに、この通知(3条通知)の起算点について、公取委・厚労省「特定受託事業者に係る取引の適正化等関す法律の考え方」p8では、

「「業務委託をした場合」とは、業務委託事業者と特定受託事業者との間で 、業務委託をすることについて合意した場合をいう。」

とされています。

これがなぜ驚くべきことなのかというと、下請法の3条書面では、発注後直ちに、という意味だと解されているからです。

すなわち、3条書面に関する下請法3条1項本文では、

「親事業者は、下請事業者に対し製造委託等をした場合は、直ちに、公正取引委員会規則で定めるところにより下請事業者の給付の内容、下請代金の額、支払期日及び支払方法その他の事項を記載した書面を下請事業者に交付しなければならない。」

と規定されており、この「製造委託等をした」というのは、発注をした、という意味だと解されているからです。

例えば、令和5年11月版下請法テキストp30では、

「Q31: 電話で注文をして、後日3条書面を交付する方法は問題ないか。」

という設問に対して、

「A: 緊急やむを得ない事情により電話で注文内容を伝える場合であっても、電話連絡後直ちに3条書面を交付しなければならない。」

と回答されています。

つまり、下請法の3条書面は注文後直ちに交付しないといけないということです。

そのことは、下請法テキストに載っている3条書面のひな形のタイトルが「注文書」となっていることにも表れています。

ですので、下請法上は、

発注書→発注請書

で契約が成立する場合に、発注請書が出てから3条書面を出すのでは遅いわけです。

これに対して、フリーランス適正化法では、「業務委託をすることについて合意した」場合に直ちに3条通知をすればいいということになるので、3条通知を出すのは発注請書が出てからでいい、ということになります。

細かいことをいえば、民法97条1項では、

「意思表示は、その通知が相手方に到達した時からその効力を生ずる。」

とされているので、契約の成立は請書が発注者に届いた時点ということなので、そこから「直ちに」3条通知をすればよいことになります。

これは、下請法の3条書面とは大違いです。

そもそも下請法の3条書面が、契約の申込みに過ぎない発注書があたかも契約内容を確定するかのような建て付けになっているのが理屈上はおかしいのであり、そのために下請法をやっているといろいろなところで理論的な矛盾が生じたりします。

でも、そこは、「下請法では細かいことは言わないもんだよぉ~」という、おおらかな解釈で実務が回ってきた、という実態があります。

また、下請取引では、発注書から契約内容が変更されたりすることがあまりないので、実用上も大きな不都合がなかった、ということもあると思います。

それが今回、フリーランス適正化法については、はっきりと、「合意」から直ちに、という意味であるとの解釈が示されました。

これはこれで理屈上はすっきりしますし、理論的には正しい方向なので、これでもよいのかなと思うのですが、下請法3条と同じ条文の文言なのにこんなに解釈が変わっていいものか、という疑問もあります。

それに、条文の文言解釈という観点からいえば、下請法の3条書面の解釈の方が、私は正しい(フリーランス適正化法の解釈は間違っている)と思います。

もう一度条文をみると、フリーランス適正化法3条1項では、

「業務委託事業者は、特定受託事業者に対し業務委託をした場合は、直ちに、公正取引委員会規則で定めるところにより、特定受託事業者の給付の内容、報酬の額、支払期日その他の事項を、書面又は電磁的方法・・・により特定受託事業者に対し明示しなければならない。」

とされています。

そして、「業務委託」とは、フ適法2条3項で、

「一 事業者がその事業のために他の事業者に物品の製造(加工を含む。)又は情報成果物の作成を委託すること

二 事業者がその事業のために他の事業者に役務の提供を委託すること(他の事業者をして自らに役務の提供をさせることを含む。)。」

と定義されており、「委託すること」というのは、作業を頼むこと、であり、これはつまり、委託の申込をすることだと解釈するほうが素直だと思います。

例えば、民法643条(委任)では、

「第六百四十三条 委任は、当事者の一方が法律行為をすることを相手方に委託し、相手方がこれを承諾することによって、その効力を生ずる。」

という用例があり、この場合の「委託し」は、委任契約の申込の意味であることが明らかです。

しかも、フ適法の3条通知が合意後「直ちに」であることは、発注者(特定業務委託事業者)にとってよいことばかりではありません。

というのは、合意後直ちに、という解釈だと、合意成立前には3条通知は出せないからです。

たとえば、食品宅配のウーバー・イーツの場合、案件の依頼がウーバーから配達員のスマホに届いた段階ではまだ「申込」ですから、この案件依頼を3条通知だとみなすことはできません。

そうすると、配達員が案件の「承諾」をクリックしたあとに、ウーバーはあらためて3条通知を出さないといけないことになります。

これはいかにも無駄なように思います。

果たしてこんな不合理なことに、本当になるのでしょうか?

私は、きっとならないと思います。

というのは、条文の解釈としては前述のとおり発注後直ちにと読むのが正しいのと、確かに上記「考え方」には「合意」と明記してありますが、きっと実務では下請法の運用に引きずられて、発注後直ちに(あるいは、発注と同時に)、と解釈されるように思われるからです。

それくらい、実務の慣行というのは大きく、ちょっと指針に「合意」と書いたくらいでは変わらないと思います。

ともあれ、フ適法施行後どのような運用になるのか、注目です。

2024年6月26日 (水)

代金支払期日を定める義務に関する下請法2条の2の民事上の効力

下請法2条の2では、

「(下請代金の支払期日)

第二条の二 下請代金の支払期日は、・・・親事業者が下請事業者の給付を受領した日・・・から起算して、六十日の期間内において、かつ、できる限り短い期間内において、定められなければならない。

2 下請代金の支払期日が定められなかつたときは親事業者が下請事業者の給付を受領した日が、

前項の規定に違反して下請代金の支払期日が定められたときは親事業者が下請事業者の給付を受領した日から起算して六十日を経過した日の前日が

下請代金の支払期日と定められたものとみなす。」

と規定されています。

これとほぼ同様の規定であるフリーランス適正化法4条では、

「(報酬の支払期日等)

第四条 特定業務委託事業者が特定受託事業者に対し業務委託をした場合における報酬の支払期日は、・・・当該特定業務委託事業者が特定受託事業者の給付を受領した日・・・から起算して六十日の期間内において、かつ、できる限り短い期間内において、定められなければならない。

2 前項の場合において、報酬の支払期日が定められなかったときは特定業務委託事業者が特定受託事業者の給付を受領した日が、

同項の規定に違反して報酬の支払期日が定められたときは特定業務委託事業者が特定受託事業者の給付を受領した日から起算して六十日を経過する日が、

それぞれ報酬の支払期日と定められたものとみなす。

〔3項以下省略〕」

と規定されています。

そして、フリーランス適正化法の担当官解説である、

松井他「特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律の概要」(NBL1246号35頁)

の脚注12(4条2項の説明に対する脚注)では、

「12  行政機関による執行との関係で支払期日が定められたものとみなされるだけで、契約当事者間の合意内容を変更させる等、民事上の効果を生ずるものではない。

と断言されています。

下請法2条の2ではこのような解説がなされることはなく、これはかなり驚きです。

しかしながら、フリーランス適正化法4条でこのような解釈がなされている以上、同条とうり二つの下請法2条の2でも同様の解釈がなされると考えるのが自然でしょう。

それに、個人事業者が主体のフリーランス適正化法における保護が、下請で資本金もさほど大きくないとはいえ法人事業者が保護の対象である下請法の場合よりも劣ってよいという理屈もないでしょう(その逆なら、まだ考えられなくもないですが。)

個人的には、上記担当官解説の解説は、どうしてこんな余計なことを突然言い出したのか(しかも、何ら根拠なく)、まったくもって不可解というほかなく、解釈として誤っていると考えています。

そもそも下請法もフリーランス適正化法も、行政が取り上げる事件は全体のごく一部になるはずで、そうすると、世の中の大部分の、民民の交渉に委ねられる事案では、法律上の支払期日の規定は意味がないことになってしまいます。

ともあれ、少なくともフリーランス適正化法については担当官解説がこれだけはっきりと言ってしまっているわけですから、公取委はそういう立場なのだと実務上は考えざるをえません。

(もちろん、同担当官解説にも、「なお、本稿中意見にわたる部分は筆者らの個人的な見解である。」というお決まりのディスクレイマーがありますが、実務的にはこれは建前だと考えるのが大勢でしょう。)

あとは、下請法について何らかの解釈が将来公取委から示されるのかが注目されます。

2024年6月 5日 (水)

2週間あけて将来価格二重価格表示をくり返す場合に関するガイドラインとパブコメの論理に関する若干の疑問

二重価格表示ガイドラインp7では、

「・・・比較対照価格とされた将来の販売価格で販売する期間がごく短期間であったか否かは、そもそも当該将来の販売価格での販売が、比較対照価格の根拠を形式的に整える手段として行われていたものではないかなどにも留意しつつ、具体的な事例に照らして個別に判断されるが、一般的には、事業者が、セール期間経過後直ちに比較対照価格とされた将来の販売価格で販売を開始し、当該販売価格での販売を2週間以上継続した場合には、ごく短期間であったとは考えられない(注6)。」

と規定されています。

そして、これに関連して同ガイドラインパブコメp24では、2週間だけ売ったら値下げしてもいいのか、という質問に対して消費者庁は、

「一般的には、セール自体の期間にかかわらず、比較対照価格とされた将来の販売価格での販売が2週間以上継続されれば「ごく短期間」であったとは考えられませんが、本執行方針第2の1に記載のとおり、合理的かつ確実に実施される販売計画を有しているかどうかが問われることになります。将来の販売価格は、将来における需給状況等の不確定な事情に応じて変動し得るものですので、長期間のセールを実施した後に、比較対照価格とされた将来の販売価格で販売することができるかどうかの検討が必要となります。

なお、長期のセールを行った後に将来の販売価格での販売期間を2週間実施するということを何度も繰り返したことにより、そのことが消費者にも認識され、将来の販売価格で購入する消費者がほとんどいなくなっているような状況においては、当該将来の販売価格での販売が「比較対照価格の根拠を形式的に整える手段として」行われているとみられる可能性があることに注意する必要があります。」

と回答しています。

たしかに、

「長期のセールを行った後に将来の販売価格での販売期間を2週間実施するということを何度も繰り返したことにより、

そのことが消費者にも認識され、

将来の販売価格で購入する消費者がほとんどいなくなっているような状況においては、

当該将来の販売価格での販売が

「比較対照価格の根拠を形式的に整える手段として

行われているとみられる可能性がある」

という理屈は理解できるのですが、他方で、そのようなくり返しが行われることが

「消費者にも認識され、

将来の販売価格で購入する消費者がほとんどいなくなっているような状況」

であれば、消費者が将来価格二重価格表示の有利性を誤認しているということもなく、そもそも、

「商品又は役務の価格その他の取引条件について、実際のもの・・・よりも取引の相手方に著しく有利であると一般消費者に誤認される表示」(景表法5条2号)

に該当しなくなるのではないでしょうか?

パブコメを立てれば法律が立たず、ということろでしょうか。

こういう脱法的なくり返しがけしからんという価値判断は理解できるので、これを違法にする法律構成もありそうですが、私にはちょっとわかりません。

少し考えてみたいと思います。

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