« 2024年4月 | トップページ | 2024年6月 »

2024年5月

2024年5月27日 (月)

キャンペーンのくり返し(同一性)に関するセドナエンタープライズに対する措置命令の担当官解説の疑問

(株)セドナエンタープライズがキャンペーンのくり返しをしたとして、2022年3月15日に有利誤認表示で消費者庁から措置命令を受け、その担当官解説が公正取引867号64頁に掲載されています(羽原広一「株式会社セドナエンタープライズに対する景品表示法に基づく措置命令について」公正取引867号64頁)。

この事件は、セドナエンタープライズが、その販売する脱毛器について、期間限定で、30%の値引きに加えレビューを投稿すればさらに15%のポイントを付与するキャンペーンと20%のポイントを付与するとのキャンペーンを交互に行っていたことが、有利誤認表示と認定されました。

つまり、同じ付与率で付与をくり返していたわけではないけれど、それでも有利誤認表示になるのかが問題となりました。

この点について前記担当官解説p65では、

「(1) 「乗り換え割」の期間限定表示

「乗り換え割」〔注・不要になった脱毛器と交換すると割引でセドナの脱毛器が購入できるキャンペーン〕の期間限定表示については、

1か月毎に期限を区切って月交代で5%違うポイント〔注・15%と20%〕を繰り返し付与していたことから、

ポイント数に着目すれば「期間限定」であったともいい得ることから、

毎月繰り返されるポイントの付与に変更があった場合でも、その前後のキャンベーンと同ーのキャンベーンであると評価できるのかという点が問題となる。」

「この点、ポイントの付与は、レビューを投稿すれば、代金の15%又は20%相当額のポイントが付与されるかのように表示をしていたが、

付与されるポイントに5%の違いがあるにせよポイントが付与されることに変わりはなく

一般消費者は、同ーのキャンベーンであると認識するものと考えられる。

したがって、本件乗り換え割の期間限定表示の取引に付随するポイントの付与については、

毎月繰り返されるポイント数に若干の変更があった場合でも、これらは同ーのキャンベーンと評価されることから、乗り換え割の期間限定表示は、有利誤認表示に該当するとされたと考えられる。」

と解説されています。

しかし、私はこの解説はおかしいと思っています。

キャンペーンのくり返しが有利誤認表示になるのは、先行する第1キャンペーンと後続の第2キャンペーンが「同一のキャンペーン」だからではありません。

キャンペーン終了後の取引条件に関する第1キャンペーンの表示が実際と異なるから、優良誤認表示になるのです。

たとえば、第1キャンペーンで「期間限定、通常価格より50%OFF」と表示していれば、その意味するところは、キャンペーン期間が終了したら「通常価格」に戻る、ということでしょう。

なので、キャンペーン期間が終了したら、通常価格に戻さないといけません。

当然のことだと思います。

たしかに、第1キャンペーンと第2キャンペーンが同一の内容であれば、第1キャンペーンの表示は有利誤認表示になるのでしょうけれど、同一内容である場合というのは、キャンペーン期間終了後の取引条件に関する第1キャンペーンの表示内容が実際と異なる場合の一例に過ぎません。

セドナの事件での問題の表示は、

「・「乗り換え割って? 不要になった脱毛器 ※光脱毛器・レーザー脱毛器のみ 除毛マシーンやシェーバーは不可 or 脱毛サロ
ン会員証 ※脱毛ラボ以外 を送ることで・・・ 3/14までレビュー投稿で45〔※2〕%OFFで脱毛ラボ Home Edition(新古品※3)を購入できる超おトクなサービスです!」

・「※2 レビュー投稿なしのお場合は30%お値引き、レビュー投稿ありの場合は30%お値引き+15%ポイント付与で実質45%お値引き価格で購入いただけます」

というものでしたが、このように、「3/14までレビュー投稿で45〔※2〕%OFF」と表示すれば、3月15日以降は45%オフをしない、つまり、通常価格に戻す(0%オフにする)、という意味であると解するのが自然だと思います。

私見と軌を一にするといえるものとして、消費者庁の「将来の販売価格を比較対照価格とする二重価格表示に対する執行方針」(将来価格ガイドライン)の第2-1では、

「事業者が、セール期間経過後に比較対照価格とされた将来の販売価格で販売するための合理的かつ確実に実施される販売計画・・・を、セール期間を通じて有している必要がある」

とされており、有利誤認表示とならないためには「比較対照価格とされた将来の販売価格」で販売しなければならないことを当然の前提にしているものといえます。

ほかにも前記担当官解説にはいろいろと問題があって、まず、

「レビューを投稿すれば、代金の15%又は20%相当額のポイントが付与されるかのように表示をしていた」

という部分ですが、実際に15%または20%のポイントは付与されていたわけですから、「15%又は20%相当額のポイントが付与されるかのように表示をしていた」というのはまずいと思います。

これではまるで、15%または20%のポイントを実際には付与していなかった(のに付与するかのように表示していた)かのようです。

ここは正しくは、

「レビューを投稿すれば、キャンペーン期間に限り、代金の15%又は20%相当額のポイントが付与されるかのように表示をしていた」

というべきでしょう。

また、仮に同一内容かどうかを基準にする消費者庁の見解に立っても、

「付与されるポイントに5%の違いがあるにせよポイントが付与されることに変わりはなく

一般消費者は、同ーのキャンベーンであると認識するものと考えられる。」

という理由付けは荒っぽすぎると思います。

ここで言っていることを文字どおりに理解すれば、同一性(有利誤認表示の成否)は、ポイントキャンペーンか、そうでない(例えば、単純な値引き、抽選でハワイ旅行プレゼント、記念品進呈、など)か、で判断し、ポイントキャンペーンであるかぎりは付与率にかかわらず(「ポイントが付与されることに変わりはなく」)、一般消費者は、同ーのキャンベーンであると認識する、といっているのです。

しかし、ポイント付与率(≒値引率)に5%もの差(15%と20%の比を取れば33.3%の差)があれば、顧客誘引力もずいぶんと違うでしょうから、それなのに「同一のキャンペーン」というのは、ちょっと無理なんじゃないかと思います。

もちろん私見でも、ポイントキャンペーンとハワイ旅行プレゼントは別のキャンペーンと考えています。

しかしそれは、「期間限定でポイントを付与する」という表示が、キャンペン期間経過後はポイントを付与しないという意味に解されるにとどまり、およそいかなるキャンペーンも行わないとまでは読めないからです。

ほかには、担当官解説は、

付与されるポイントに5%の違いがあるにせよポイントが付与されることに変わりはな(かった)」・・・①

と指摘する一方で、

「毎月繰り返されるポイント数に若干の変更があった場合でも、これらは同ーのキャンベーンと評価される」・・・②

とも言っており、

①では、ポイント付与率の違いは意味がなく、ポイントが付与されることに変わりがなければ違反なのだ、

とも取れる説明をしながら、

②では、「若干の」変更を超える変更であれば、同一キャンペーンと評価されず違反にはならないのだ、

とも取れるような説明をしており、いったいどっちなんだと言いたくなります(たぶん、②でしょうけれど)。

こんな大事なところの説明は、もうちょっと気を遣ってほしいものです。

このように、担当官解説には理論的な問題があるのですが、実務的には、15%と20%くらいの差でも同一のキャンペーンとみなされてくり返しが有利誤認表示になるということがはっきりしたことが大きいと思います。

これは、ポイントキャンペーンだけでなく、値引きキャンペーンでも同じでしょう。

ですので、キャンペーンの内容を多少変えれば違反を免れられると考えるのは、危ないと思います。

2024年5月20日 (月)

JAROでの講演がReport JAROに載りました。

2月15日にJARO(日本広告審査機構)さんで「最近の措置命令から読み解く不当表示対応のポイント」というセミナーをオンラインでさせていただいたのですが、その講演要旨がReport JAROの5月号に掲載されました。

Jaro
Report JAROではこれまで何度かその時々の最新の景表法の措置命令の解説を書かせていただいているのですが、それをいちど講演の形で、ということで実現したもの(の講演録)です。

いつもReport JAROは実務上有益な情報が満載で、とくに巻頭特集はそうなのですが、今回私の講演録が巻頭を飾ってしまいました💦

講演を振り返ってみると、われながらなかなかマニアックな内容でしたが、JAROの会員さんには目が肥えた方が多いそうなので、そのあたりをかなり意識しました。

ふだんの原稿の場合と比べると、やはり講演ではパワーポイントを使いながらていねいに説明できるので、その点はよかったと思っています。

私は世の中は論理で成り立っていると思っているので、基本的に図やイラストで説明するのが嫌いで、文字以外の情報は常に不正確な部分が残るので文字情報しか信じないようにしているのですが、景表法は表示物(場合によっては動画なども)を評価するので文字だけというわけにも行かず、やっぱりパワポは便利ですね。

講演に参加いただいた方も、参加されなかった会員のみなさまも、ご一読頂けると幸いです。

2024年5月18日 (土)

労務費転嫁ガイドラインについて

公正取引委員会は2023年11月29日、内閣官房と連名で、「労務費の適切な転嫁のための価格交渉に関する指針」(労務費転嫁ガイドライン)を公表しました

このガイドラインには、発注者は取引先から言われなくても人件費高騰による値上げの必要性について自発的に協議しないといけないとされていているなど、法律家の目からみるとおよそ法律論の名に値しないようなひどい内容なのですが、このガイドラインに書いてあるようなことに反すると社名を公表するなど(このガイドライン公表前ですが、2022年12月27日公取委報道発表)、現在の公取委はほんとうにこういう運用をしているので、どうしようもありません。

いちおう公平を期すためにガイドラインの関連箇所を引用しておくと、p3では、

「発注者が本指針 に記載の 12の 採るべき行動/求められる行動 に沿わないような行為をすることにより、公正な競争を阻害するおそれがある場合には、公正取引委員会において独占禁止法 及び 下請代金法 に基づき厳正に対処していく 。」

としており、12の行動を採らなかったからといって直ちに優越的濫用に該当するとまではいっていません。

つまり、「公正な競争を阻害するおそれがある場合には」というのは、いわゆる黒灰白の3分類によれば「灰」に該当するものについての定型句なので、これらに該当してもケースバイケースで判断する、ということです。

ただ、優越の公正競争阻害性なんて、流取ガイドラインや知財ガイドラインと違って、ほとんどあってないような要件で、行為の外形が認められたら即公正競争阻害性ありとされるので、ほんらいは限りなく黒に近いともいえます。

また続けてガイドラインでは、

「他方で、後記第2の1〔発注者が採るべき6つの行動〕及び3〔双方が採るべき2つの行動〕に 記載の 全ての行動を適切に採っている場合には 、

取引条件の設定に当たり取引当事者間で十分に協議が行われた もの と考えられ、

通常 は 独占禁止法 及び 下請代金法 上の 問題は生じない と考えられる ことから、

独占禁止法 及び下請代金法 違反行為の未然防止の観点からも、同行動に沿った積極的な対応が 求められる 。」

としており、12の行動はいわばセーフハーバーないしはベストプラクティスという位置付けなのだということのようです。

でも、実際には、前述のとおり12の行動は違反すると限りなく黒に近いと捉えられかねない記載にしており、ベストプラクティスというのとはまったく異質な印象を受けます。

いわば、ベストプラクティスをするように脅しているようであり、国家権力のありようとしてたいへんいやらしいものを感じます。

でも本音のところでどこまで真面目にこのガイドラインに付き合わないといけないのかと疑問に思われる方もいらっしゃるかもしれないので、私なりの感覚を述べておくと、12の採るべき行動のうち、これに反すると注意を受ける可能性があると思われれるのは、

受注者が求めなくても価格引上げ協議をすること(発注者の行動②)

公表されたもの以外の根拠資料を求めないこと(発注者の行動③)

値上げを求められたことを理由に不利益な取扱いをしないこと(発注者の行動⑤)

でしょうね。

逆に、

経営トップの関与(発注者の行動①)

受注者の拙い交渉には値上げの考え方を提案すること(発注者の行動⑥)

は、さすがにこれに従わなかったからといって直ちに注意を受けると言うことは考えにくく、あくまでベストプラクティスなのだと思います。

経営トップ(代表取締役社長に 加え 、代表権を持つ取締役等実質的に会社組織の最上位に位置する者も含む)の関与については、具体的には、

①労務費 の上昇分 について取引価格 への 転嫁 を受け 入 れ る 取組方針を 具体的に 経営トップまで上げて決定すること、

②経営トップが同方針 又はそ の要旨 など を 書面等の形 に 残る方法で 社内外に示すこと、

③その後の取組状況を定期的に経営トップに報告 し、 必要に応じ、経営トップが更なる対応 方針 を示すこと。

が求められていますが、そもそもこんなことにまで経営トップが関与しなければ独禁法違反になるなんていう解釈は馬鹿げてます。

きっと、カルテルで経営トップの関与が重要だというのに着想を得た思いつきのレベルでしょう。

受注者の拙い交渉には値上げの考え方を提案すること(発注者の行動⑥)については、関連部分を引用すると、

「受注者からの 申入れ の巧拙 にかかわらず 受注者と 協議を行い 、必要に応じ 労務費上昇分の価格 転嫁に 係る考え方を提案する こと。」

とされています。

つまり、値上げの要求の仕方が分からないという取引先には、発注者が手取り足取り値上げ交渉の仕方を教えてあげなさい、ということです。

私はそんな取引先は潰れても仕方ないと思いますが(あるいは経営コンサルでも雇うべきでしょう)、公取はけっこう本気のようです。

このガイドラインでもう1つ気になったのは、なぜか発注者の行動⑤(不利益扱いの禁止)のところ(p11)に書いてあるのですが、

「そもそも、労務費も原材料 価格 やエネルギーコストと同じく 適切 に 価格 に反映 させるべき コストであ り 、発注者においては 、 受注者から 、原材料価格やエネルギーコストとは明示的に分けて 労務費の上昇を理由とした取引価格の引上げ を求められた場合 についても協議のテーブルにつくことが求められる。」

という記述です。

要は、人件費とその他のコストは分けて協議しないといけない、ということです。

分けて積み上げていったら全部まとめて交渉するときよりも大きな値上げに結びつきやすいのが通常だと思われるので、発注者の側は要注意でしょう。

下手をすると、原材料費の高騰を理由に値上げ交渉して妥結したら、その後に人件費の高騰を理由に別途値上げを要求された、というようなことも理屈の上では起こりうるわけです。

その当否はさておき(そもそも本ガイドラインは法的な当否を論じるに値しないことは冒頭で述べたとおりです)、もしこれを書くなら独立した行動として書くべきであり、不利益扱いの禁止とか、ぜんぜん関係ないところに書くにはいかがなものかと思います。

わかりにくいですし、体系的ではありません。

また上記引用箇所につづけて、

「なお、持続的な賃上げの実現の観点からは、受注者 が過去に引 き上げた賃金分の転嫁だけでなく 、今後賃金を引き上げるために必要な 分の転嫁についても 同様に、協議のテーブルにつくことが求められる。」

と書かれており、これも不利益扱いの禁止とは何の関係もありません。

ただ、言っていることは理解できて、要は、従業員の給料を上げるためにはまず値上げに応じてもらわないと上げられないので、まだ人件費が増えてなくても、増やす見込である(増やしたい)ということをもって、値上げの理由として受け入れろ、ということです。

これは、人件費が他のコストと異なり受注者が自分で決められることからくる人件費の特徴といえます。

ですが、これはけっこう大事なことなので、これまた不利益扱いの禁止の中でこっそり書くようなことではないと思います。

たぶんこのような法的に議論する価値のないガイドラインは学者の先生方が論評することもまずないでしょうけれど(もしそういう論評をご存じの方がいたらぜひ教えて下さい)、おかしいものはたとえつまらないことでもおかしいといわないといけないと考え、今回は書いてみました。

世の中にこれを参考にしてくる人が少しでもいてくれたらうれしいです。

2024年5月 5日 (日)

景表法の確約運用基準について

2024年4月18日に、「確約手続に関する運用基準」が定められました。

気になった点をいくつか指摘しておきます。

まず、「5 確約手続の対象」「(3) 確約手続の対象外となる場合」では、

「①違反被疑行為者が、違反被疑行為に係る事案についての調査を開始した旨の通知を受けた日、景品表示法第25 条第1項の規定による報告徴収等が行われた日又は景品表示法第7条第2項若しくは第8条第3項の規定による資料提出の求めが行われた日のうち最も早い日から遡り10 年以内に、法的措置〔注・措置命令または課徴金納付命令〕を受けたことがある場合(法的措置が確定している場合に限る。)、

及び

②違反被疑行為者が、違反被疑行為とされた表示について根拠がないことを当初から認識しているにもかかわらず、あえて当該表示を行っているなど、悪質かつ重大な違反被疑行為と考えられる場合

には、・・・確約手続の対象としない。」

とされています。

①の10年以内はまあいいとして、②の「根拠がないことを当初から認識」していたというのは、かなり広い(そのため確約の適用範囲はかなり狭くなる)と思います。

たとえば、「飲めば痩せる」系の健康食品は、確約の対象にはならないでしょう。

私はよく講演で、不当表示の原因を、

⑴ 虚偽だと知りながら表示していたケース

⑵ 事業者が表示の意味を誤解・曲解していたケース

⑶ 「実際」が変わったのに、表示を変えるのを忘れたケース(モデルチェンジ・製法変更)

⑷ 本来予定した「実際」が作れなかった(能力不足、材料不足)

に分けて説明するのですが、⑴は確約の対象外ということですね。

もともと⑴と⑵の限界は結構微妙でしたが、これまではいずれにせよ不当表示であるとの結論は変わらないため今まであんまり深く検討する必要もありませんでしたが、確約が導入されるとまさに⑴と⑵の区別が問われることになりそうです。

次に、「6 確約計画」「(3) 確約措置」「ア 基本的な考え方」「(イ) 措置実施の確実性」では、

「例えば、確約措置として一般消費者への被害回復を行う場合には、

当該措置の内容、被害回復の対象となる一般消費者が当該措置の内容を把握するための周知の方法並びに当該措置の実施に必要な資金の額及びその調達方法が具体的に明らかにされていなければ、

原則として、措置実施の確実性を満たすと認めることはできない。」

とされており、確約計画には返金する場合の資金調達方法を具体的に書くよう求められています。

独禁法の確約対応方針では資金調達方法まで書けとはいわれていないので、ちょっと驚きです。

独禁法とちがって景表法の場合は零細企業も違反者となることが多いので、とくに資金調達について言及したのかもしれません。

とはいえ、手持ち資金で足りるなら、「自己資金」でよいのでしょう。

では、そもそも確約が認定されるために被害回復をする必要があるのかについては、「6 確約計画」「(3) 確約措置」「イ 確約措置の典型例」「(オ) 一般消費者への被害回復」で、

「例えば、被通知事業者が違反被疑行為に係る商品又は役務を購入した一般消費者に対し、その購入額の全部又は一部について返金
(景品表示法第10 条第1項に定める「金銭」の交付をいう。)することは(注2)、

一般消費者の被害回復に資すること、及び自主返金制度が設けられた法の趣旨を踏まえると、

措置内容の十分性を満たすために有益であり、重要な事情として考慮することとする。」

とされています。

まず、この確約での被害回復は、景表法10条の返金措置とは何の関係もありません。

(運用基準の注2では、

「(注2)返金の手段、方法等は、事業者の自主的な判断に委ねられるが、自主返金制度において定める内容が参考となる。」

とだけされています。)

ですので、景表法10条の返金計画の認定は受けずに、任意で被害回復をしつつ確約にしてもらう、ということは当然可能だと考えられます。

次に、「有益であり、重要な事情として考慮する」ということの意味ですが、景表法の確約運用基準では、確約措置の典型例を、

「必要な措置」(「(ア) 違反被疑行為を取りやめること」「(イ) 一般消費者への周知徹底」「(ウ) 違反被疑行為及び同種の行為が再び行われることを防止するための措置」「(エ)履行状況の報告」)

「有益であり、重要な事情として考慮する」措置(「(オ) 一般消費者への被害回復」)

「有益」な措置(「(カ)契約変更」「(キ)取引条件の変更」)

の3段階に分けています。

これは、独禁法の確約ガイドラインが「必要」と「有益」(優越の返金措置だけですが)に分けているのと比べると、被害回復を「有益」から「重要」に格上げしたのだな、と理解できます。

独禁法の優越の確約でも、返金が求められる場合と求められない場合があり、結論をみるとそれなりに穏当な処理になっている(お金の問題じゃないものは返金は求められない)ように思われるのですが、景表法でも、きっとそういう処理がされるものの、あえて「重要」といているので、基本、被害回復は求められるんじゃないかと思います。

景表法違反でも、返金が納得感のある事例と、そうでないものがあると思います。

たとえば、「食べたら痩せる」系の健康食品は、全額返金でもいいでしょう。

これに対して、メルセデスベンツの事件の、オプションがカタログどおり付いていなかった、というのは、どちらかというとカタログの誤記だと思いますので、何十万円もするオプションを無料で付けろ(オプション代返金)というのは、ちょっと行き過ぎに思います。

近頃流行りのNo.1表示(優良誤認)は、一体何を返金したらいいのか見当が付きません。

キャンペーンの繰り返しも、返金という話ではないように思います。

さらにいえば、全般的に、有利誤認は被害回復に不向きでしょう。

というわけで、きっと景表法の確約では、返金に納得感がある事例では原則返金が必要で、上記のように返金に納得感がないものだけが例外的に返金不要となるのでしょう。

このように、任意の被害回復が確約の事実上の要件となると、これと景表法10条の返金措置との関係が気になるところです。

というのは、景表法10条の返金措置は手続がめんどうなわりに、むしろ課徴金を満額払ったほうが安く付くことがわかり、ほとんど利用されていません。

これが、確約をめざすためには被害回復が必要だということになると、どっちにせよ面倒な手続をするなら(確約の条件としての被害回復は、確約という正式な制度の中で行われる以上、優越の被害回復みたいに、被害者の特定などそれなりに厳密に行うことを要求されそうな気がします。)返金措置(10条)もやってしまえ、という判断に傾くこともありえなくはないように思われます。

というわけで、事実上死に体だった自主返金制度を亡霊のように生き返らせる可能性が、確約制度にはあるように思われます。

次に、細かいことですが、「6 確約計画」「(3) 確約措置」「イ 確約措置の典型例」に、

「(イ) 一般消費者への周知徹底」

とありますが、一般消費者へは「周知徹底」ではなく「周知」ではないでしょうか。

景表法の措置命令は昔からそうなのですが、従業員なら「周知徹底」でしょうけれど、消費者に「徹底」するというのは、いったい何様だという感じがします。

ちなみに独禁法では、たとえばクーパービジョンの確約では、

「前記(1)に基づいて採った措置を,自社の一日使い捨てコンタクトレンズ等の小売業者及び販売代理店に通知するとともに,一般消費者に周知し,かつ,自社の従業員に周知徹底すること。」

というように、「周知」と「周知徹底」を使い分けています。これが正しい日本語でしょう。

次に、「6 確約計画」「(3) 確約措置」「イ 確約措置の典型例」の「(エ)履行状況の報告」では、

「確約措置が措置内容の十分性を満たす場合であっても、実際に確約措置が履行されないのであれば、一般消費者による自主的かつ合理的な商品及び役務の選択を確保することができない。

このため、確約措置の履行状況について、被通知事業者又は被通知事業者が履行状況の監視等を委託した独立した第三者消費者庁が認める者に限る。)が消費者庁に対して報告することは、

措置実施の確実性を満たすために必要な措置の一つである。

なお、報告の時期及び回数は、確約措置の内容に応じて設定する必要がある。」

とされています。

米国の反トラスト法などで有名な、いわゆる外部モニター(external monitor)ですね。

しかも、「必要な措置」になっているので、確約をすると全件外部モニターに監視を委託することになりそうです。

外部モニターといってもそんなに毛嫌いする必要もなく、私は入れたらいいんじゃないかと思いますが、企業によっては確約のハードルになるかもしれません。

零細企業の場合にはモニターのコストもばかにならないかも知れません。

というわけで、全体としてはなかなか内容の濃い、読み応えのあるガイドラインでした。

2024年5月 4日 (土)

同一取引に対する複数事業者の企画の競合(暫定版)

掲題の件について以下のとおりまとめておきます。誤りや追加があれば随時修正します。

【前提】

事業者1と事業者2は、いずれも商品A,B,Cの供給者

A, B, Cは相互に排他的(お互いを含まない)

pa: 商品Aの取引の価額(以下同様)

Max(pa): paに基づく(=商品Aに附随する)景品法定上限(以下同様)

Max(pa+pb): 商品AとB両方の購入者に提供可能な景品法定上限(以下同様)

Kactual1: 事業者1が現実に提供する景品額(2も同様)

Kmax1: 事業者1が提供しうる景品上限(2も同様)

懸賞においては事業者1と2は重複当選を排除しない。

事業者1と2が各々単独でするい場合、2が1に景品類を追加するとする(1が先)。

事業者2の景品対象取引に「たまたま」事業者1の景品対象取引が含まれる場合、「同一取引」への複数景品提供とはみない(消費者庁景品Q&A95-1)。

事業者は、消費者がキャンペーン対象者かどうかはわかるが、どの商品を購入したか(対象商品の内訳)はわからない(知る必要がない仕組みとする)。

【パターン①-1】事業者1と2が共同で、商品A購入者に景品提供する場合

Kactual1 + Kactual2 ≦ Max(pa)

Kmax1 = Max(pa) ー Kactual2

Kmax2 = Max(pa) - Kactual1

【パターン①-2】事業者1と2が各々単独で、商品A購入者に景品提供

Kmax1 = Max(pa)

Kmax2 = Max(pa) ー Kactual1

【パターン②-1】事業者1と2が共同で、1は商品A and Bの購入者に、2はBの購入者に、景品提供

Kactual1 + Kactual2 ≦ Max(pa+pb) = Max(pa) + Max(pb)

Kmax1 = Max(pa+pb) - Kactual2 = Max(pa) + Max(pb) - Kactual2

Kmax2 = Max(pb) - (Kactual1 ー Max(pa)), if Kactual1 ≧ Max(pa)

           = Max(pb), if Kactual1 < Max(pa)

【パターン②-2】事業者1と2が各々単独で、1は商品A and Bの購入者に、2はBの購入者に、景品提供

Kmax1 = Max(pa+pb) =Max(pa) + Max(pb)

Kmax2 = Max(pb) - (Kactual1 ー Max(pa)), if Kactual1 ≧ Max(pa)

           = Max(pb), if Kactual1 < Max(pa)

【パターン③-1】事業者1と2が共同で、1は商品A or Bの購入者に、2はBの購入者に、景品提供

Kmax1 = min(Max(pa), Max(pb))

Kmax2 = Max(pb)

【パターン③-2】事業者1と2が各々単独で、1は商品A or Bの購入者に、2はBの購入者に、景品提供

Kmax1 = min(Max(pa), Max(pb))

Kmax2 = Max(pb)

(※パターン③-1に同じ。)

【パターン④-1】事業者1と2が共同で、1は商品A and Bの購入者に、2も商品A and Bの購入者に、景品提供

Kacutual1 + Kactual2 ≦ Max(pa+pb) = Max(pa) + Max(pb)

Kmax1 = Max(pa+pb) ー Kactual2 = Max(pa) + Max(pb) - Kactual2

Kmax2 = Max(pa+pb) ー Kactual1 = Max(pa) + Max(pb) - Kactual1

【パターン④-2】事業者1と2が各々単独で、1は商品A and Bの購入者に、2も商品A and Bの購入者に、景品提供

Kmax1 = Max(pa+pb) = Max(pa) + Max(pb)

Kmax2 = Max(pa+pb) - Kactual1 = Max(pa) + Max(pb) - Kactual1

【パターン⑤-1】事業者1と2が共同で、1は商品A and Bの購入者に、2は商品B and Cの購入者に、景品提供

Kactual1 + Kactual2 ≦ Max(pa+pb) + Max(pb+pc) - Max(pb) = Max(pa) + Max(pb) + Max(pc)

Kmax1 = Max(pa+pb) - (Kactual2 - Max(pc)), if Kactual2 ≧ Max(pc)

           = Max(pa+pb), if Kactual2 < Max(pc)

Kmax2 = Max(pb+bc) - (Kactual1 - Max(pa)), if Kactual1 ≧ Max(pa)

           = Max(pb+pc), if Kactual1 < Max(pa)

【パターン⑤-2】事業者1と2が各々単独で、1は商品A and Bの購入者に、2は商品B and Cの購入者に、景品提供

Kmax1 = Max(pa+pb) = Max(pa) + Max(pb)

Kmax2 = Max(pb+pc)- (Kactual1 - Max(pa)), if Kactual1 ≧ Max(pa)

           = Max(pb+pc), if Kactual1 < Max(pa)

« 2024年4月 | トップページ | 2024年6月 »

フォト
無料ブログはココログ