『はじめて学ぶ景品表示法』(オレンジ本)の有利誤認表示に関する解説の疑問
掲題書籍の61頁に、有利誤認表示(景表法5条2号)の解説として、
「『取引の相手方に著しく有利』というのは、取引条件自体は事実であっても『あなただけ』などと特定の相手方にだけ提供されるお得な条件であるかのように表示しているが、実際には、全員に対して同じ条件であった場合などを規制するためのものである。」
という記述があります。
でも、これはすごく誤解を招くのではないでしょうか。
これをぼーっと読むと、「取引の相手方」というのは実は「特定の相手方」という意味であり、「あなただけ」というのだけが有利誤認表示に該当すると勘違いされそうな気がします。
特に、同書が想定する、景表法を「はじめて学ぶ」読者にとってはそうだと思いますし、何を隠そう私も初めて読んだときはびっくりしました。
確かに、注意深く読むと、
「・・・場合など」
と、「など」が入っているので、「あなただけ」は例示に過ぎない、ということが読み取れます。
でも、いくら例示で挙げるにしても、一般的な解説における例示はできるだけ典型例とすべきであって、「あなただけ」なんていうのは典型例でも何でもないと思います。
それに、文章の読みやすさという点からいえば、例示を表す「など」の前の部分(例示部分)は、短ければ短いほど誤解を招かなくていいです。
(「当該」の後ろが短ければ短いほど誤解を招かないのと同じです。)
ところが上記引用部分では、
「『取引の相手方に著しく有利』というのは、取引条件自体は事実であっても『あなただけ』などと特定の相手方にだけ提供されるお得な条件であるかのように表示しているが、実際には、全員に対して同じ条件であった場合などを規制するためのものである。」
のうち、実に、
「取引条件自体は事実であっても『あなただけ』などと特定の相手方にだけ提供されるお得な条件であるかのように表示しているが、実際には、全員に対して同じ条件であった場合」
が全部例示ということになって、たいへん読みにくいです。
しかも、上記解説部分は、「など」より前の例示部分を例示なので論理的には無意味と考えて削ると、
「『取引の相手方に著しく有利』というのは、・・・を規制するためのものである。」
となり、論理的には何も言っていないことになりかねません。
(「・・・」の部分を、「何らかの場合」と置き換えてみて下さい。)
さらに、有利誤認表示には、
①表示された取引条件自体が実際の取引条件と異なる場合と、
②表示された取引条件自体(例、価格5,000円)は実際の取引条件(5,000円)と一致するけれども、取引条件の有利さを基礎付ける事実(例、通常1万円のところ、今だけ5,000円)が実際(例、いつも5,000円)と異なる場合、
の2とおりがありますが、上記解説では①が想定されていない(∵「取引条件自体は事実であっても」とあるため)と読まれかねません。
ほかにも、同書の有利誤認表示の解説はやや疑問な(見方によっては、おもしろい)ことを言っていて、同じくp61には、
「『取引条件』〔注・景表法5条2号〕とは、商品または役務の内容以外のものを指す。」
と解説されています。
でも、「取引条件」と条文にはっきり書いてあるのに、「商品または役務の内容以外のもの」と読み替えるのは、さすがに無理ではないでしょうか。
優良誤認で商品の内容をカバーし、有利誤認で商品の内容以外のものをカバーすることで、不当表示をもれなくカバーしたい、という気持ちはわかりますが、条文の文言を無視するのはやりすぎだと思います。
それから、同じく61頁にで、「著しく有利である」というのを「ものすごくお得である」と言い換えています。
大事なので正確に引用すると、
「『著しく有利である』(ものすごくお得である)」
とあり、5条2号の文言を引用しつつ直後に括弧で「ものすごくお得である」と書いてあります。
この部分は「著しく有利」自体の解説の部分ではなくて、「価格その他の取引条件」に関する解説の一部なので、きっと筆が滑ったのでしょう。
けれども、こういう書き方をされては、例示でも典型例でもなくて、定義あるいは言い換えであると言わざるを得ません。
とすると、「ものすごくお得である」とは言えないくらいの、多少お得であるというくらいの表示なら、有利誤認には該当しないと誤解されかねません。
実際私も、「『著しく』に該当しないので不当表示にならないと言えませんかね?」というご相談をよく受けますが、事実と異なるけれど「著しく」に当たらないので大丈夫、と答えたことはほとんどありません。
消費者庁の方が書かれた書籍だけに、「『ものすごくお得である』とまでは誤認させていないので不当表示ではない」という主張が事業者側から出てこないか、ちょっと心配になります。
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