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2024年3月

2024年3月15日 (金)

『はじめて学ぶ景品表示法』(オレンジ本)の期間限定表示に関する解説の疑問

掲題の書籍のp66に、ハピリィに対する措置命令(3914)の解説の一部として、

「期間限定表示については、表示と実際のものとの間に乖離が生じるのは、表示された『期間限定』の期間が終了した後である。」

という記述があります。

でも、これはかなり問題のある解説だと思います。

結論からいえば、表示と実際の乖離は、「期間限定」の期間中に既に生じています。

例えば、同書で解説されているハピリィの事件では、通常38,700円のところが、

「対象期間:6月1日(月)~7月31日(金)」

に限って19,800円になる、と表示されていましたが、ここでの「表示」の意味をかみ砕いていうと、

5月31日以前(の最近相当期間)は38,700円であったけれど、6月1日から7月31日までに限って19,800円になり、8月1日以降は再び38,700円になる

という意味になるところ、「実際のもの」は、

5月31日以前(の最近相当期間)も19,800円であったし、6月1日から7月31日までも19,800円であったし、8月1日以降も19,800円であった

ということになり、上記「表示」の意味のうち、期間前(過去の実績)と期間後(将来の予定)の価格について、表示期間中(6月1日~7月31日)に、既に表示と実際の乖離が生じています。

決して、「『期間限定』の期間が終了した後」にだけ、乖離が生じているわけではありません。

また、もし同書のように考えると、不当表示の期間中には表示と実際の不一致が生じていないことになり、そもそも不当表示ではないということになりかねません。

この点は、「将来の販売価格を比較対照価格とする二重価格表示に対する執行方針」ではきちんと整理されていて、同指針第2(「将来の販売価格を比較対照価格とする二重価格表示について消費者庁が景品表示法を適用する際の考慮事項等」)の1(「景品表示法上の考え方」)では、

「事業者が自己の供給する商品等について、将来の販売価格を比較対照価格とする二重価格表示を行うと、

当該表示を見た一般消費者は、通常、

比較対照価格とされた将来の販売価格に十分な根拠がある

すなわち、

セール期間経過後に、当該商品等が比較対照価格とされた価格で販売されることが予定されており、かつ、その予定のとおり販売されることが確実である

と認識すると考えられる。

したがって、事業者が、比較対照価格とされた将来の販売価格で販売する確実な予定を有していないにもかかわらず、

当該価格を比較対照価格とする二重価格表示を行うと、

このような消費者の認識と齟齬が生じ、景品表示法に違反する有利誤認表示となるおそれがある。」

とされています。

ここでは、表示の意味(=消費者の認識)は、「将来は確実に比較対照価格で販売される」ということであるのに、実際は、そのような確実な計画は(表示期間中において)なかった、という齟齬があるために有利誤認表示になるのだ、という考え方で一貫しています。

期間限定の期間後に表示どおりの価格で販売しなかった事実は、

「事業者が、・・・将来の販売価格で販売できない特段の事情が存在しないにもかかわらず、当該将来の販売価格で販売していない場合・・・には、通常、合理的かつ確実に実施される販売計画を有していなかったことが推認される」(第2,2⑴)

という形で、期間限定の期間後に表示どおりの比較対照価格で販売していなかったことは、表示期間中に「合理的かつ確実に実施される販売計画を有していなかったこと」の推認材料である、と位置付けることを明らかにしています。

つまり、どこまでも、不当表示は期間限定表示であり、不当表示期間は期間限定表示をした期間です。

当たり前です。

同書の解説はこの指針にも真っ向から反しており、ちょっと筆が滑ったというレベルではすまないのではないかと思います。

2024年3月14日 (木)

『はじめて学ぶ景品表示法』(オレンジ本)の有利誤認表示に関する解説の疑問

掲題書籍の61頁に、有利誤認表示(景表法5条2号)の解説として、

「『取引の相手方に著しく有利』というのは、取引条件自体は事実であっても『あなただけ』などと特定の相手方にだけ提供されるお得な条件であるかのように表示しているが、実際には、全員に対して同じ条件であった場合などを規制するためのものである。」

という記述があります。

でも、これはすごく誤解を招くのではないでしょうか。

これをぼーっと読むと、「取引の相手方」というのは実は「特定の相手方」という意味であり、「あなただけ」というのだけが有利誤認表示に該当すると勘違いされそうな気がします。

特に、同書が想定する、景表法を「はじめて学ぶ」読者にとってはそうだと思いますし、何を隠そう私も初めて読んだときはびっくりしました。

確かに、注意深く読むと、

「・・・場合など

と、「など」が入っているので、「あなただけ」は例示に過ぎない、ということが読み取れます。

でも、いくら例示で挙げるにしても、一般的な解説における例示はできるだけ典型例とすべきであって、「あなただけ」なんていうのは典型例でも何でもないと思います。

それに、文章の読みやすさという点からいえば、例示を表す「など」の前の部分(例示部分)は、短ければ短いほど誤解を招かなくていいです。

(「当該」の後ろが短ければ短いほど誤解を招かないのと同じです。)

ところが上記引用部分では、

「『取引の相手方に著しく有利』というのは、取引条件自体は事実であっても『あなただけ』などと特定の相手方にだけ提供されるお得な条件であるかのように表示しているが、実際には、全員に対して同じ条件であった場合などを規制するためのものである。」

のうち、実に、

「取引条件自体は事実であっても『あなただけ』などと特定の相手方にだけ提供されるお得な条件であるかのように表示しているが、実際には、全員に対して同じ条件であった場合」

が全部例示ということになって、たいへん読みにくいです。

しかも、上記解説部分は、「など」より前の例示部分を例示なので論理的には無意味と考えて削ると、

「『取引の相手方に著しく有利』というのは、・・・を規制するためのものである。」

となり、論理的には何も言っていないことになりかねません。

(「・・・」の部分を、「何らかの場合」と置き換えてみて下さい。)

さらに、有利誤認表示には、

①表示された取引条件自体が実際の取引条件と異なる場合と、

②表示された取引条件自体(例、価格5,000円)は実際の取引条件(5,000円)と一致するけれども、取引条件の有利さを基礎付ける事実(例、通常1万円のところ、今だけ5,000円)が実際(例、いつも5,000円)と異なる場合、

の2とおりがありますが、上記解説では①が想定されていない(∵「取引条件自体は事実であっても」とあるため)と読まれかねません。

ほかにも、同書の有利誤認表示の解説はやや疑問な(見方によっては、おもしろい)ことを言っていて、同じくp61には、

「『取引条件』〔注・景表法5条2号〕とは、商品または役務の内容以外のものを指す。」

と解説されています。

でも、「取引条件」と条文にはっきり書いてあるのに、「商品または役務の内容以外のもの」と読み替えるのは、さすがに無理ではないでしょうか。

優良誤認で商品の内容をカバーし、有利誤認で商品の内容以外のものをカバーすることで、不当表示をもれなくカバーしたい、という気持ちはわかりますが、条文の文言を無視するのはやりすぎだと思います。

それから、同じく61頁にで、「著しく有利である」というのを「ものすごくお得である」と言い換えています。

大事なので正確に引用すると、

「『著しく有利である』(ものすごくお得である)」

とあり、5条2号の文言を引用しつつ直後に括弧で「ものすごくお得である」と書いてあります。

この部分は「著しく有利」自体の解説の部分ではなくて、「価格その他の取引条件」に関する解説の一部なので、きっと筆が滑ったのでしょう。

けれども、こういう書き方をされては、例示でも典型例でもなくて、定義あるいは言い換えであると言わざるを得ません。

とすると、「ものすごくお得である」とは言えないくらいの、多少お得であるというくらいの表示なら、有利誤認には該当しないと誤解されかねません。

実際私も、「『著しく』に該当しないので不当表示にならないと言えませんかね?」というご相談をよく受けますが、事実と異なるけれど「著しく」に当たらないので大丈夫、と答えたことはほとんどありません。

消費者庁の方が書かれた書籍だけに、「『ものすごくお得である』とまでは誤認させていないので不当表示ではない」という主張が事業者側から出てこないか、ちょっと心配になります。

2024年3月13日 (水)

不実証広告ガイドラインの商品役務とは無関係の学術文献に関する記述とその担当官解説の疑問

不実証広告ガイドラインの第3(「「合理的な根拠」の判断基準」)の2(「提出資料が客観的に実証された内容のものであること」)の⑵(「専門家、専門家団体若しくは専門機関の見解又は学術文献」)のアでは、

「ア 当該商品・サービス

又は

表示された効果、性能

に関連する分野を専門として実務、研究、調査等を行う専門家、専門家団体又は専門機関(以下「専門家等」という。)による

見解

又は

学術文献

を表示の裏付けとなる根拠として提出する場合、

その見解又は学術文献は、次のいずれかであれば、客観的に実証されたものと認められる。

① 専門家等が、

専門的知見に基づいて

当該商品・サービス表示された効果、性能について

客観的に評価した見解又は学術文献であって、

当該専門分野において一般的に認められているもの

② 専門家等が、

当該商品・サービスとは関わりなく

表示された効果、性能について

客観的に評価した

見解

又は

学術文献

であって、

当該専門分野において一般的に認められているもの」

とされています。

しかし、②は、何を言っているのか、今ひとつよく分かりません。

②は、①が「当該商品・サービス表示された効果、性能について 」、つまり、対象商品役務効果性能に関する見解や学術文献であることであることとの対比であることからすると、あるいは、「当該商品・サービスとは関わりなく」とされていることからすると、これをぼーっと読むと、②は商品とは無関係に効果性能に関して評価した見解や学術文献でも合理的根拠資料と認められる、と言っているように見えます。

たとえば、あるサプリメントが「ビタミンDはコロナに効く」と表示した場合、そのサプリメント自体のコロナ予防効果についての学術文献ではなく、そのサプリメントとは無関係の、ビタミンD一般のコロナ予防効果に関する論文が、②にあたりそうに読めます。

でもそうすると、山田養蜂場の事件(2022年9月9日措置命令)が、合理的根拠ありになりかねず、それはさすがにまずいでしょう。

そこで、①と②の文章をもう一度きちんと読んでみましょう。

①は、ここでの関心をもとに要約すれば、

当該商品効果について評価した学術文献

ということなので(いわば商品そのものを評価した学術文献)、まあ合理的根拠資料となるだろうなと納得できます(そんなものが世の中に存在するのかはさておき)。

これに対して、②は要約すると、

当該商品とは関わりなく、表示された効果について評価した文献

となり、ここで「表示された効果」というのが出てきます。

「表示された効果」というのは、言葉を補うと、「当該商品の広告で表示された効果」という意味でしょう。

たとえば、「コロナに効く!」という広告をするビタミンD入りサプリの場合なら、「当該商品の広告で表示された効果」というのは、「コロナに効く」という「効果」であり、合理的根拠資料と認められる学術論文とは、ビタミンDにコロナに効くという効果があるという学術論文、ということになります。

というわけで、文章をきちんと読んでも前述と同じ、受け容れがたい結論になってしまいます。

どうすればいいのでしょうか。

この点に関して、立案担当者解説(公正取引638号7頁)では、

「②の場合について、

提出された見解又は学術文献が

当該専門分野において一般的に認められているものであるとしても、

当該見解又は学術文献において客観的な評価の対象となった効果、性能が、

当該商品・サービスの効果・性能とは異なるものであるというケースが想定される。

この場合には、当該見解又は学術文献は、

当該商品・サービスの効果、性能について客観的に実証された内容のものとは認められないことはいうまでもない。」

とされています。

大事なところだけ要約しつつ言葉を補うと、

②の学術文献において客観的な評価の対象となった効果が、

当該商品の効果とは異なるものであるというケースでは、

当該学術文献は、〔合理的根拠資料〕とは認められない

となります。

しかし、これまた何が言いたいのか、私にはよくわかりません。

たとえば、ここでの「効果」を「コロナ予防効果」としてみましょう。

すると、上記の担当官解説要約は、

②の学術文献において客観的な評価の対象となったコロナ予防効果が、

当該商品のコロナ予防効果とは異なるものであるというケースでは、

当該学術文献は、〔合理的根拠資料〕とは認められない

となります。

でも、

学術文献において客観的な評価の対象となったコロナ予防効果

と、

当該商品のコロナ予防効果

が、

「異なる」

というのが、何を言っているのか、私には理解できません。

「学術文献において客観的な評価の対象となったコロナ予防効果」も、「当該商品のコロナ予防効果」も、同じ「コロナ予防効果」なのではないでしょうか? (少なくとも担当官解説を論理的に読む限り)

もっと言えば、「②の学術文献」というのは、

「② 専門家等が、

当該商品・サービスとは関わりなく

表示された効果、性能について

客観的に評価した・・・学術文献〔以下省略〕」

であり、これを上記担当官解説要約に代入(かつ一部加工)すると、

専門家等が、当該サプリとは関わりなくコロナ予防効果について客観的に評価した学術文献において

客観的な評価の対象となったコロナ予防効果が、

当該商品のコロナ予防効果とは異なるものである場合、

当該学術文献は合理的根拠資料とは認められない

となります。

ここで、

「コロナ予防効果」≠「コロナ予防効果」

という式は論理的に成り立たない(矛盾)のではないか、というのが上述したところですが、これを何とか成り立たせようとするならば、「コロナ予防効果」と「コロナ予防効果」を比べるのではなく、

「学術文献において客観的な評価の対象となったコロナ予防効果

「当該商品のコロナ予防効果

とを比べた上で、上記担当官解説は、

「学術文献において客観的な評価の対象となったコロナ予防効果

「当該商品のコロナ予防効果

と異なる場合、つまり、

「学術文献において客観的な評価の対象となったコロナ予防効果」≠「当該商品のコロナ予防効果

の場合には合理的根拠資料とは認めないと読むのだ、という読み方が考えられます。

しかし、こう読んでしまうのも問題です。

というのは、②の「学術文献」は、

「当該サプリとは関わりな〔い〕・・・学術文献」

ですから、そのような

「〔当該サプリとは関わりない〕学術文献において客観的な評価の対象となったコロナ予防効果」(たとえば、当該サプリとは直接関係ないけれど、当該サプリに含まれるところの、ビタミンD一般のコロナ予防効果)

が、

「当該サプリのコロナ予防効果

と異なるというのは、②からは(ほぼ)論理必然です(∵当該論文は当該サプリとは無関係なので)。

そうすると、担当官解説は、②から論理必然に導かれる命題が偽であることは「いうまでもない」といっていることになり、ひいては、②は常に偽である(矛盾)といっていることになるからです。

というわけで、担当官解説が正しいとするならば、②はほぼ空文である(ほぼ矛盾である)ということになりそうであり、実際、そのような結論が妥当だと思われます。

しかしそれでも、担当官解説が言っていることは理解不能です。

具体的には、

「当該見解又は学術文献において客観的な評価の対象となった効果、性能が、

当該商品・サービスの効果・性能とは異なるものであるというケース」

というのが、どのような「ケース」を「想定」しているのかがわかりません。

このケースにあてはまるものとして、たとえば、「当該見解又は学術文献において客観的な評価の対象となった効果、性能」というのが、亜鉛がコロナに効くとする学術文献であり、「当該商品」には亜鉛は含まれずビタミンDだけが含まれていた、というケースが、理屈の上ではありえます。

しかし、そんなケースが合理的根拠資料にならないのは当たり前すぎるくらい当たり前です。

そうすると、このような、亜鉛≠ビタミンDみたいなケースだけが合理的根拠資料にならないことが「いうまでもない」といわれても、「だからどうした」(So what?)という感じで、②を否定していることにはほとんどならないと思われます。

そうすると、担当官解説のいう、

「当該見解又は学術文献において客観的な評価の対象となった効果、性能が、

当該商品・サービスの効果・性能とは異なるものであるというケース」

としてほかにどのようなものが考えられるのかというと、当該学術文献が、男性を被験者としたところビタミンDがコロナに効くことがわかったという学術文献なのに、男女を問わず効くかのように表示した、というケースでしょうか。

しかし、それを言い出すと、学術文献ではイタリア人を被験者にしたのに、それをこの商品は日本人にも効くかのような表示をしたら不当表示になるといってしまっていいのか、という別の問題が出てくるように思います。

たぶん上記担当官解説が言いたいのは、仮にビタミンDにコロナが効くという学術文献があっても、それをもってビタミンDを含有するサプリがコロナに効くということにはならないのだ、ということなのだろうと思われますが、それを、

「当該見解又は学術文献において客観的な評価の対象となった効果、性能が、

当該商品・サービスの効果・性能とは異なるものであるというケース」

という形にまとめてしまったのが間違いだった(言いたいことと言ったことが噛み合っていない)、ということなのだろうと思います。

(そもそも、不実証広告ガイドラインが、合理的根拠と、表示と根拠の適切な対応という2段階に分けたことに問題の根っこがある(本来は表示に根拠があるかの1段階で判断すべき)のですが、この点についてはまた改めて論じたいと思います。)

しかも、

仮にビタミンDにコロナが効くという学術文献があっても、それをもってビタミンDを含有するサプリがコロナに効くということにはならないのだ

と言ってしまうと、②を正面から否定することになりかねません(私は否定してもいいと思いますし、消費者庁の実務では実際否定していますが)。

「性能」と「性能」を比べる論理構造なら、論理的には、結論は両者が同じか違うかの二択しかなく、上記担当官解説の、

「効果・・・が・・・効果とは異なる」

という記述はまさにそのような論理構造になっているわけですが、そのような論理構造に乗せて説明しようとしたのがそもそも間違いだった、ということなのだろうと思います。

あるいは、「異なる」という言葉にいろいろな意味を込めようとしすぎなのだと思います。

というわけで、②は担当官解説ですら上手く説明できていないし、②が合理的根拠資料になる場合が想定できないので、無視するほかない(①で行くしかない)と思います。

②に依拠して広告した事業者が不当表示で措置命令を受けて取消訴訟で争って、「だってガイドラインでも②はOKっていっているじゃないか。」と主張しても、おそらく裁判所には無視されるだけだと思われます。

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