不実証広告ガイドラインの第3(「「合理的な根拠」の判断基準」)の2(「提出資料が客観的に実証された内容のものであること」)の⑵(「専門家、専門家団体若しくは専門機関の見解又は学術文献」)のアでは、
「ア 当該商品・サービス
又は
表示された効果、性能
に関連する分野を専門として実務、研究、調査等を行う専門家、専門家団体又は専門機関(以下「専門家等」という。)による
見解
又は
学術文献
を表示の裏付けとなる根拠として提出する場合、
その見解又は学術文献は、次のいずれかであれば、客観的に実証されたものと認められる。
① 専門家等が、
専門的知見に基づいて
当該商品・サービスの表示された効果、性能について
客観的に評価した見解又は学術文献であって、
当該専門分野において一般的に認められているもの
② 専門家等が、
当該商品・サービスとは関わりなく、
表示された効果、性能について
客観的に評価した
見解
又は
学術文献
であって、
当該専門分野において一般的に認められているもの」
とされています。
しかし、②は、何を言っているのか、今ひとつよく分かりません。
②は、①が「当該商品・サービスの表示された効果、性能について 」、つまり、対象商品役務の効果性能に関する見解や学術文献であることであることとの対比であることからすると、あるいは、「当該商品・サービスとは関わりなく」とされていることからすると、これをぼーっと読むと、②は商品とは無関係に効果性能に関して評価した見解や学術文献でも合理的根拠資料と認められる、と言っているように見えます。
たとえば、あるサプリメントが「ビタミンDはコロナに効く」と表示した場合、そのサプリメント自体のコロナ予防効果についての学術文献ではなく、そのサプリメントとは無関係の、ビタミンD一般のコロナ予防効果に関する論文が、②にあたりそうに読めます。
でもそうすると、山田養蜂場の事件(2022年9月9日措置命令)が、合理的根拠ありになりかねず、それはさすがにまずいでしょう。
そこで、①と②の文章をもう一度きちんと読んでみましょう。
①は、ここでの関心をもとに要約すれば、
当該商品の効果について評価した学術文献
ということなので(いわば商品そのものを評価した学術文献)、まあ合理的根拠資料となるだろうなと納得できます(そんなものが世の中に存在するのかはさておき)。
これに対して、②は要約すると、
当該商品とは関わりなく、表示された効果について評価した文献
となり、ここで「表示された効果」というのが出てきます。
「表示された効果」というのは、言葉を補うと、「当該商品の広告で表示された効果」という意味でしょう。
たとえば、「コロナに効く!」という広告をするビタミンD入りサプリの場合なら、「当該商品の広告で表示された効果」というのは、「コロナに効く」という「効果」であり、合理的根拠資料と認められる学術論文とは、ビタミンDにコロナに効くという効果があるという学術論文、ということになります。
というわけで、文章をきちんと読んでも前述と同じ、受け容れがたい結論になってしまいます。
どうすればいいのでしょうか。
この点に関して、立案担当者解説(公正取引638号7頁)では、
「②の場合について、
提出された見解又は学術文献が
当該専門分野において一般的に認められているものであるとしても、
当該見解又は学術文献において客観的な評価の対象となった効果、性能が、
当該商品・サービスの効果・性能とは異なるものであるというケースが想定される。
この場合には、当該見解又は学術文献は、
当該商品・サービスの効果、性能について客観的に実証された内容のものとは認められないことはいうまでもない。」
とされています。
大事なところだけ要約しつつ言葉を補うと、
②の学術文献において客観的な評価の対象となった効果が、
当該商品の効果とは異なるものであるというケースでは、
当該学術文献は、〔合理的根拠資料〕とは認められない
となります。
しかし、これまた何が言いたいのか、私にはよくわかりません。
たとえば、ここでの「効果」を「コロナ予防効果」としてみましょう。
すると、上記の担当官解説要約は、
②の学術文献において客観的な評価の対象となったコロナ予防効果が、
当該商品のコロナ予防効果とは異なるものであるというケースでは、
当該学術文献は、〔合理的根拠資料〕とは認められない
となります。
でも、
学術文献において客観的な評価の対象となったコロナ予防効果
と、
当該商品のコロナ予防効果
が、
「異なる」
というのが、何を言っているのか、私には理解できません。
「学術文献において客観的な評価の対象となったコロナ予防効果」も、「当該商品のコロナ予防効果」も、同じ「コロナ予防効果」なのではないでしょうか? (少なくとも担当官解説を論理的に読む限り)
もっと言えば、「②の学術文献」というのは、
「② 専門家等が、
当該商品・サービスとは関わりなく、
表示された効果、性能について
客観的に評価した・・・学術文献〔以下省略〕」
であり、これを上記担当官解説要約に代入(かつ一部加工)すると、
専門家等が、当該サプリとは関わりなく、コロナ予防効果について客観的に評価した学術文献において
客観的な評価の対象となったコロナ予防効果が、
当該商品のコロナ予防効果とは異なるものである場合、
当該学術文献は合理的根拠資料とは認められない
となります。
ここで、
「コロナ予防効果」≠「コロナ予防効果」
という式は論理的に成り立たない(矛盾)のではないか、というのが上述したところですが、これを何とか成り立たせようとするならば、「コロナ予防効果」と「コロナ予防効果」を比べるのではなく、
「学術文献において客観的な評価の対象となったコロナ予防効果」
と
「当該商品のコロナ予防効果」
とを比べた上で、上記担当官解説は、
「学術文献において客観的な評価の対象となったコロナ予防効果」
が
「当該商品のコロナ予防効果」
と異なる場合、つまり、
「学術文献において客観的な評価の対象となったコロナ予防効果」≠「当該商品のコロナ予防効果」
の場合には合理的根拠資料とは認めないと読むのだ、という読み方が考えられます。
しかし、こう読んでしまうのも問題です。
というのは、②の「学術文献」は、
「当該サプリとは関わりな〔い〕・・・学術文献」
ですから、そのような
「〔当該サプリとは関わりない〕学術文献において客観的な評価の対象となったコロナ予防効果」(たとえば、当該サプリとは直接関係ないけれど、当該サプリに含まれるところの、ビタミンD一般のコロナ予防効果)
が、
「当該サプリのコロナ予防効果」
と異なるというのは、②からは(ほぼ)論理必然です(∵当該論文は当該サプリとは無関係なので)。
そうすると、担当官解説は、②から論理必然に導かれる命題が偽であることは「いうまでもない」といっていることになり、ひいては、②は常に偽である(矛盾)といっていることになるからです。
というわけで、担当官解説が正しいとするならば、②はほぼ空文である(ほぼ矛盾である)ということになりそうであり、実際、そのような結論が妥当だと思われます。
しかしそれでも、担当官解説が言っていることは理解不能です。
具体的には、
「当該見解又は学術文献において客観的な評価の対象となった効果、性能が、
当該商品・サービスの効果・性能とは異なるものであるというケース」
というのが、どのような「ケース」を「想定」しているのかがわかりません。
このケースにあてはまるものとして、たとえば、「当該見解又は学術文献において客観的な評価の対象となった効果、性能」というのが、亜鉛がコロナに効くとする学術文献であり、「当該商品」には亜鉛は含まれずビタミンDだけが含まれていた、というケースが、理屈の上ではありえます。
しかし、そんなケースが合理的根拠資料にならないのは当たり前すぎるくらい当たり前です。
そうすると、このような、亜鉛≠ビタミンDみたいなケースだけが合理的根拠資料にならないことが「いうまでもない」といわれても、「だからどうした」(So what?)という感じで、②を否定していることにはほとんどならないと思われます。
そうすると、担当官解説のいう、
「当該見解又は学術文献において客観的な評価の対象となった効果、性能が、
当該商品・サービスの効果・性能とは異なるものであるというケース」
としてほかにどのようなものが考えられるのかというと、当該学術文献が、男性を被験者としたところビタミンDがコロナに効くことがわかったという学術文献なのに、男女を問わず効くかのように表示した、というケースでしょうか。
しかし、それを言い出すと、学術文献ではイタリア人を被験者にしたのに、それをこの商品は日本人にも効くかのような表示をしたら不当表示になるといってしまっていいのか、という別の問題が出てくるように思います。
たぶん上記担当官解説が言いたいのは、仮にビタミンDにコロナが効くという学術文献があっても、それをもってビタミンDを含有するサプリがコロナに効くということにはならないのだ、ということなのだろうと思われますが、それを、
「当該見解又は学術文献において客観的な評価の対象となった効果、性能が、
当該商品・サービスの効果・性能とは異なるものであるというケース」
という形にまとめてしまったのが間違いだった(言いたいことと言ったことが噛み合っていない)、ということなのだろうと思います。
(そもそも、不実証広告ガイドラインが、合理的根拠と、表示と根拠の適切な対応という2段階に分けたことに問題の根っこがある(本来は表示に根拠があるかの1段階で判断すべき)のですが、この点についてはまた改めて論じたいと思います。)
しかも、
仮にビタミンDにコロナが効くという学術文献があっても、それをもってビタミンDを含有するサプリがコロナに効くということにはならないのだ
と言ってしまうと、②を正面から否定することになりかねません(私は否定してもいいと思いますし、消費者庁の実務では実際否定していますが)。
「性能」と「性能」を比べる論理構造なら、論理的には、結論は両者が同じか違うかの二択しかなく、上記担当官解説の、
「効果・・・が・・・効果とは異なる」
という記述はまさにそのような論理構造になっているわけですが、そのような論理構造に乗せて説明しようとしたのがそもそも間違いだった、ということなのだろうと思います。
あるいは、「異なる」という言葉にいろいろな意味を込めようとしすぎなのだと思います。
というわけで、②は担当官解説ですら上手く説明できていないし、②が合理的根拠資料になる場合が想定できないので、無視するほかない(①で行くしかない)と思います。
②に依拠して広告した事業者が不当表示で措置命令を受けて取消訴訟で争って、「だってガイドラインでも②はOKっていっているじゃないか。」と主張しても、おそらく裁判所には無視されるだけだと思われます。