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2024年2月23日 (金)

キャンペーンを繰り返した場合の課徴金について(ファクトリージャパン)

カラダファクトリーの屋号で整体サロンを経営するファクトリージャパンに対して、2020年3月18日に、392万円の課徴金支払いを命じる課徴金納付命令が出ています。

この事件は、いわゆるキャンペーンの繰り返しに対して措置命令が出ていた事件ですが、キャンペーンの繰り返しをした場合の課徴金額算定という観点からは、ちょっと興味深い内容になっています。

すなわち、命令書を読むと、

①2018年1月1日から2月28日までの間に、”今なら通常8,964円が3,980円”といった趣旨の表示をした行為

②2018年3月1日から4月30日までの間に、同様の表示をした行為

が、課徴金の対象になっています。

そして、同じく命令書では、

①の行為の期間中の売上額は62,714,800円、課徴金額は1,880,000円

②の行為の期間中の売上額は68,311,900円、課徴金額は2,040,000円

と認定されています。

ここでまず気になるのが、どうして課徴金の対象になったのが①と②の行為だけなのか、ということです。

というのは、措置命令では、これ以外にも、2016年6月あたりから連続して、同じようなキャンペーンの繰り返し行為を何回も続けていたことが認定されていたからです。

どうしてそれらの行為が課徴金の対象にならず、上記①②だけが対象になったのかを想像してみると、おそらく、①②の行為以外は売上額が課徴金の裾切額である5,000万円に届かなかったからではないか、と思われます。

というのは、①②の期間の売上は、いずれも6,000万円台で、そうすると、この整体サロンの1カ月間の売上は3,000万円少々だったのではないか、ということがうかがわれるからです。

つまり、1か月ごとにキャンペーンをさんざん繰り返していた時期は、1か月の売上が5,000万円に届かなかったので課徴金の対象にならず、上記①②の行為だけは2か月単位のキャンペーンの表示だったので売上額が裾切額を超えてしまった、ということのようです。

この課徴金納付命令の考え方だと、さんざん繰り返していた時期の違反行為は課徴金の対象にならず、たった1回繰り返した行為だけが対象になるということになり、いかにもバランスが悪いような気がします。

何より、同じキャンペーンを繰り返す場合には1回のキャンペーン中の売上額が5,000万円を超えないようにキャンペーン期間を短めに設定しておけば何回繰り返しても課徴金は免れる、ということになってしまい、なんだかなぁ、という感じがします。

でも、課徴金は法律の規定に従って形式的に算定されるものなので、仕方ありません。

このような結論になる前提として、キャンペーンの繰り返しをした場合には、毎回の表示は別の表示行為だ、ということが当然の前提になっています。

なぜそうなるのかというと、キャンペーンの期間が異なるからです。

上記①では、「1月1日から2月28日まで」となっており、上記②では「3月1日から4月30日まで」となっているので、①②は異なる期間に提供される異なる役務だ、ということです。

この考え方は、課徴金ガイドライン(「不当景品類及び不当表示防止法第8条(課徴金納付命令の基本的要件)に関する考え方」)にも表れていて、同ガイドライン第4、2⑴では、

「(1) 全国(又は特定地域)において供給する商品又は役務であっても、

具体的な表示の内容や実際に優良・有利誤認表示をした地域といった事情から、

一部の地域や店舗において供給した当該商品又は役務が「課徴金対象行為に係る商品又は役務」となることがある。」

とされていて、そこでの「想定例」として、

「② 事業者Bが、自ら東京都内で運営する10 店舗において振り袖bを一般消費者に販売しているところ、

平成30 年9月1日から同年11 月30 日までの間、東京都内で配布したチラシにおいて、

当該振り袖について

○○店、××店、△△店限定セール実施!通常価格50 万円がセール価格20 万円!」(○○店、××店、△△店は東京都内にある店舗)等

と記載することにより、

あたかも、実売価格が「通常価格」と記載した価格に比して安いかのように表示をしていたものの、

実際には、「通常価格」と記載した価格は、事業者Bが任意に設定した架空の価格であって、○○店、××店、△△店において販売された実績のないものであった事案」

という例では、

「事業者Bの課徴金対象行為に係る商品は、事業者Bが東京都内の○○店、××店、△△店において販売する当該振り袖となる。」

とされています。

つまり、表示自体で店舗を限定していれば、当該店舗での売上だけが課徴金の対象になる、ということです。

ガイドライン本文の、

「(1) 全国(又は特定地域)において供給する商品又は役務であっても、

具体的な表示の内容・・・から、

一部の地域や店舗において供給した当該商品又は役務が「課徴金対象行為に係る商品又は役務」となることがある。」

のほうでいえば、

「(1) 常時供給する役務であっても、

表示されている役務提供期間・・・から、

一部の期間において供給した当該役務が「課徴金対象行為に係る商品又は役務」となることがある。」

ということになる、ということでしょう。

つまり、

①の表示は「2018年1月1日から2月28日までの間」の役務が対象になっているのでその期間に提供された役務だけが課徴金対象役務であり、

②の表示は「2018年3月1日から4月30日までの間」の役務が対象になっているのでその期間に提供された役務だけが課徴金対象役務である、

ということです。

同じキャンペーンの繰り返しでも、表示としては別々で、行為としても別々だ、ということですね。

ほかにもこの課徴金納付命令はいろいろと興味深くて、この命令では、②の行為のあと、2018年5月1日から31日までの間キャンペーンが行われていたことをもってして、②の行為にも課徴金がかかっています。

(ちなみに、2018年5月1日から31日もキャンペーンを行っていたということは、宣伝もしないでキャンペーンをすることはあり得ないですから、当然、5月1日から31日も同様の表示をしていたはずですが、それは違反行為にはなっていません。きっと、キャンペーンを延長せず5月31日で終わったからでしょう。措置命令を見ても、6月はキャンペーンがなかったようです。ですが、7月と8月には、1か月ずつキャンペーンを行っていたようです。)

つまり、1回の延長でも課徴金がかかる、ということです。

(①の行為は、2回延長されていることになります。)

さらに、前記のとおり1回のキャンペーン中の売上が裾切額未満なら課徴金がかからないことの裏返し(?)として、1回あたりのキャンペーン期間を長く設定すると、延長した場合には、その期間全体の売上に課徴金がかかってきます。

たとえば、キャンペーン期間を6か月とすると、これを繰り返したら、6か月分の売上に丸々課徴金がかかってくる、ということになります。

さらに、本件では延長は1か月でしたが、1か月でなければ課徴金がかからないという理由はありません。

したがって、たとえば、1日だけ延長しても、課徴金がかかるおそれがあります。

なので、最悪の場合、キャンペーン期間を6か月に設定していて、何かの手違いで1日だけキャンペーン価格で商品役務を提供してしまったりすると、6か月の売上に丸々課徴金がかかる、ということになります。

(もちろん、それくらいの手違いは、消費者庁も大目に見てくれるとは思いますが。)

考えられる反論として、

「1日延びたくらいでは、キャンペーン期間中に購入した人も、それほど損をしたとは思わないのではないか」

とか、

「特に6か月のキャンペーンの最初のほうに購入した人は、1日延びたって何も感じないのではないか」

とか、いろいろ考えられますが、不当表示に当たらないとはなかなか言いにくいように思います。

ただし、本当に「何かの手違いで」間違って1日延長してしまっただけなら、そもそも不当表示にはあたらない、という理屈も充分ありうると思われます。

というのは、ある意味で当然のことなのですが、キャンペーンの繰り返しの場合でも、違反になる表示は、その違反行為の時点で違反であることが確定するのであり、現に繰り返した時点ではじめて違反になるのではないからです。

このことは、将来価格ガイドライン(「将来の販売価格を比較対照価格とする二重価格表示に対する執行方針」)にも表れていて、同ガイドライン第2の1では、

「事業者が自己の供給する商品等について、将来の販売価格を比較対照価格とする二重価格表示を行うと、

当該表示を見た一般消費者は、通常、

比較対照価格とされた将来の販売価格に十分な根拠がある

すなわち、

セール期間経過後に、当該商品等が比較対照価格とされた価格で販売されることが予定されており、かつ、その予定のとおり販売されることが確実である

と認識すると考えられる。

したがって、事業者が、比較対照価格とされた将来の販売価格で販売する確実な予定を有していないにもかかわらず、

当該価格を比較対照価格とする二重価格表示を行うと、

このような消費者の認識と齟齬が生じ、

景品表示法に違反する有利誤認表示となるおそれがある。」

とされています。

つまり、表示の時点で、キャンペーン終了後には表示していた将来価格で販売する「確実な予定」があったかどうかが問題なわけです。

実際に、表示していた将来価格で販売したかどうかは、あくまで、そのような「確実な予定」の存在(または不存在)を立証する間接事実でしかありません。

この理屈は、将来価格の二重価格表示だけではなく、広くキャンペーンの繰り返しにも当てはまると考えられます。

ちなみに、この事件については公正取引843号に担当官解説がありますが、以上で述べたようなことはなにも書いてありません。

せっかく興味深い論点がてんこ盛りで、こんなに面白い事件だったのですから、もっといろいろ書いたら良かったのに、と思います。

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