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2024年1月21日 (日)

スタートアップガイドラインに対するいくつかの疑問

「スタートアップとの事業連携及びスタートアップへの出資に関する指針」(令和4年3月31日)に対するいくつかの疑問点を指摘しておきます。

まず、事例29(28頁)では、

「〔スタートアップである〕c社は、

連携事業者との協業において、

営業秘密である販売先の情報を提供させられたが、

連携事業者は、情報を一切開示しなかった。」

というのが、濫用にあたりうるとされています。

これが、なぜ濫用になるのでしょう? 不思議です。

まず、「営業秘密」であるからというだけでこれを開示させるのが濫用だとすると、協業に必要な営業秘密の開示も求められなくなり、協業が成り立ちません。

事例29には、この肝心の、協業のための必要性についての記述がまったくありません。

むしろ、協業に必要ない営業秘密なら、それだけで(=連携事業者が開示するか否かにかかわらず)濫用にあたる可能性が濃厚ですから、協業に必要な営業秘密であることを前提にしていると読むのが自然でしょう。

でもそうすると、「自分は出したのに相手は出さないのはずるい」という、"対等の精神"だけが濫用の根拠になり、根拠として弱すぎます。

ちなみにその直前の一般論の部分(p27)では、

「取引上の地位がスタートアップに優越している連携事業者が、

顧客情報が事業連携において提供されるべき必要不可欠なものであって、

その対価がスタートアップへの当該顧客情報に係る支払以外の支払に反映されているなどの正当な理由がないのに、

取引の相手方であるスタートアップに対し、

顧客情報の無償提供等を要請する場合であって、

当該スタートアップが、事業連携が打ち切られるなどの今後の取引に与える影響等を懸念してそれを受け入れざるを得ない場合には、

正常な商慣習に照らして不当に不利益を与えることとなるおそれがあり、

優越的地位の濫用(独占禁止法第2条第9項第5号)として問題となるおそれがある。」

とされています。

これもちょっと回りくどくてわかりにくいですが、要するに、

必要不可欠な営業秘密なら開示を求められるけれど、正当な対価の支払いが必要

ということのようです。

これと併せて読むと、事例29は、この「正当な対価」が、連携事業者から開示される情報である、という趣旨であるようにも読めます(はっきりしませんが)。

でも、典型例であるべきこの種の事例に、情報と情報の価値の対等性というような、ほとんど立証不可能な例を持ってくるのは、いかがなものでしょう?

いずれにせよ、この手の事例は事例を読んだだけで納得感があることが大切であり、その前の一般論と併せ読んでもモヤモヤが残るというのは、ガイドラインとしてよろしくないと思います。

次に、「⑶ 損害賠償責任の一方的負担」について、31頁では、

「取引上の地位がスタートアップに優越している連携事業者が、

損害賠償責任が事業連携においてスタートアップが負うべきものであって、

その損害賠償責任に応じたリスクがスタートアップへの支払に反映されているなどの正当な理由がないのに、

取引の相手方であるスタートアップに対し、

事業連携の成果に基づく商品・役務の損害賠償責任の一方的な負担を要請する場合であって、

当該スタートアップが、事業連携が打ち切られるなどの今後の取引に与える影響等を懸念してそれを受け入れざるを得ない場合には、

正常な商慣習に照らして不当に不利益を与えることとなるおそれがあり、優越的地位の濫用(独占禁止法第2条第9項第5号)として問題となるおそれがある。」

とされていますが、それに続いて記載されている違反事例である事例34では、

「〔スタートアップの〕h社は、

連携事業者から、

h社が開発し、連携事業者に納品したシステムを搭載している製品に不具合があった場合には、

当該システムに起因するか否かにかかわらず

製品の損害賠償責任は全てh社にあり、連携事業者は責任を一切負わないと一方的に取り決められた。」

とされていて、一般論と事例が噛み合っていません。

つまり、事例34では、事業連携の成果であるシステムとは関係のないものに基づく損害賠償責任までスタートアップに負わせるというかなり無茶苦茶なものであり、濫用と言われても仕方ありません。

ですが一般論のほうは、スタートアップが負うべき責任を一方的にスタートアップに負わせることが濫用になる、といっており、これを濫用というのはかなり無理があります。

どうしてこんな食い違いが生じてしまったのか、不思議でなりません。

論理的には、事例はあくまで事例であり、おそらく一般論のほうが優先するのでしょう。

そうすると、ガイドラインは連携企業にとって厳しすぎると言わざるを得ません。

その厳しさを裏付けているのが、それに続く事例36で、そこでは、

「〔スタートアップの〕j社は、

連携事業者から

取引金額の数倍から数十倍の損害賠償責任を負わされた。」

というのが濫用にあたりうるとされています。

でも、損害が取引額の数倍から数十倍になることなんて、いくらでもありうるでしょう。

相手がスタートアップだというだけの理由で、それを請求したら濫用だというのは、あまりに乱暴です。

(実損害の数倍とかなら、公序良俗違反でしょうけれど。)

公取委は、もうちょっと民法の常識を勉強した方がいいと思います。

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