ふるさと納税のポイント還元に景品規制は適用されるか(2023年12月8日付朝日新聞デジタル記事について)
2023年12月8日付の朝日新聞デジタルに、
「ポイント、⾦券…ふるさと納税、「おまけ」乱発 寄付なら許される︖」
という有料記事があり、その中で寄附額の30%ものポイント還元をする大手ふるさと納税仲介サイトのキャンペーンが景表法の20%までという総付規制の上限に違反するのではないか、という問題が指摘されています。
そして、寄附は「取引」にあたらないので景表法に違反しないと考えているという仲介サイトのコメントが紹介された後、
「⼀⽅、景表法を所管する消費者庁の⾒⽅は異なる。
担当者は「個々のケースを⾒ないといけない」としたうえで「寄付額を取引価額として考え、ポイントなどの付与は寄付の2割以下を基準とするという考え⽅は⼗分ありうる」と話し、規制対象にもなりうるとの⾒⽅を⽰した。」
という消費者庁担当者のコメントが紹介されています。
しかし、この消費者庁担当者の考え方は、明らかに間違いです。
理由を一言で言えば、無償行為である寄附は「取引」(景表法2条3項)に該当しないからです。(百歩譲って無償行為も「取引」に当たるという前提に立っても、今度は返礼品は「商品」(景表法2条3項)に該当しなくなり、かつ、ふるさと納税において「商品」にあたりそうなものはほかにないので、いずれにせよポイントは景品類には該当しません。)
つまり、「景品類」は、景表法2条3項で、
「3 この法律で「景品類」とは、顧客を誘引するための手段として、その方法が直接的であるか間接的であるかを問わず、くじの方法によるかどうかを問わず、事業者が自己の供給する商品又は役務の取引(不動産に関する取引を含む。以下同じ。)に付随して相手方に提供する物品、金銭その他の経済上の利益であつて、内閣総理大臣が指定するものをいう。」
というように定義されています。
そして、景表法には、「取引」(景表法2条3項)という用語自体の定義ははありませんが、定義告示3⑵では、
「(2) 販売のほか、賃貸、交換等も、「取引」に含まれる。」
とされています。
ここで挙げられている「販売」「賃貸」「交換」はいずれも有償の取引(取引の対象商品役務と消費者が支払う金員等が対価関係にある取引)であることから、景表法2条3項の「取引」も有償取引に限られると考えられます。
また、「取引」という言葉の通常の意味としても、「取引」は有償取引に限られるというべきです。
たとえば、内閣法制局法令用語研究会『法律用語辞典』では、「取引」は、
「商人間又は商人と一般人との間において営利目的で行われる売買行為。実質的な意味での商行為と同義に用いられることが多い。例、『不当な対価をもって取引すること』(独禁2⑨2)」
と定義されており、有償行為に限られています。
広辞苑でも、「取引」は、
「①商人と商人、または商人と顧客との間の売買行為」
と説明されています。
それでももしふるさと納税が「取引」に該当すると考えられるとすれば、寄附額と返礼品が対価関係にある、という解釈が成り立つ場合でしょう。
しかし、寄附額と返礼品とは対価関係にはありません。
これは、一般人の素朴な感覚としてもそうですし、ふるさと納税制度の制度設計に照らしてもそうです。
すなわち、ふるさと納税制度は、そのふるさと納税額(寄附額)が寄附金控除として一定の限度で所得税・個人住民税から全額控除されることが法律上明確に定められています(地方税法37条の2第1項、同法314条の7第1項)。
当然、一般消費者もふるさと納税の寄附は(寄附金控除を受けられる)寄附であると十分に理解してふるさと納税制度を利用していると考えられます。
(もし寄附金控除を受けられないなら、いくら返礼品がもらえても、ふるさと納税なんてする人はいないでしょう。もしいるとしたら、本当にその自治体に自腹を切って寄附をしたいという人くらいでしょう。)
また、ふるさと納税の返礼品は一時所得に該当するとされていることも、ふるさと納税額は返礼品の対価ではないことを傍証しているものと言えます(「『ふるさと納税』を支出した者が地方公共団体から謝礼を受けた場合の課税関係」https://www.nta.go.jp/law/shitsugi/shotoku/02/37.htm)。
つまり、もし寄附額と返礼品が対価関係にあるなら、例えば1万円の寄附をして3000円相当の返礼品をもらったときに、3000円分が所得になるはずがありません。
もちろん、世の中には様々な寄附があり得ますので、ものによっては、返礼品と寄附が対価関係にあることもあるかもしれませんが、ふるさと納税の場合には、上述のとおり税法上制度化されていることにより、寄附と返戻金は対価関係にないことが明らかです。
また、朝日新聞の記事は仲介サイトが提供するポイント等をテーマにしているので、実は景品規制の観点からは一ひねり入った事例なのですが、もっと単純な、自治体自体がポイント還元をしたら景品類にあたるのか、という事例を考えてみると、消費者庁担当者の考え方がおかしいことがより一層はっきりします。
まず、「取引」は有償のものに限るという前述の通説的見解を前提にすると、ポイントが景品類に該当するためには、本体商品(景品が誘引しようとする取引の対象商品)は返礼品だ、ということになります。
つまり、1万円の寄附をして2000円相当の返礼品をもらうのは、1万円の寄附をして2000円相当の返礼品を購入したのと同じだ(取引価額は1万円)と考えるわけです。
そうすると、そのような場合に、自治体が寄附額の3割の3000円をポイント還元(その自治体内で使えるポイントでも、ペイペイの残高でも、auペイの残高でも、なんでもいい)したら、それは、3000円の値引以外の何物でもありません。
つまり、本来1万円出して「購入」すべき返礼品を7000円で購入できた、ということです。
なので、3000円のポイントはたんなる値引であって、景品類にはなりません。
もし、「7000円しか払っていないのに2000円相当の返礼品をもらえるのは不当な寄附の誘引だ」と考えたくなる人がいたとしたら、それは、ふるさと納税の返礼品が寄附額の3割までに制限されていること(の潜脱)と、景品類による消費者の合理的選択の阻害とを混同しています。
つまり、景品類がなぜ消費者の合理的選択を阻害するのかと言えば、本来の取引の内容ではないからです。
ですが、値引は、本来の取引の内容である対価を減額するものです。
なので、ポイント還元(=値引)の結果、取引の魅力が増して寄附が誘引されたとしても、それは、本体取引とは別の(取引附随性のある経済上の利益の提供としての)景品類による誘引とは、まったく別物です。
そして、自治体自体が提供するポイント還元が(ふるさと納税制度の返戻金の上限に違反するかはさておき)値引であって景品類ではないとすると、仲介サイトが提供するポイント還元も、値引にしかなりようがありません。
というのは、仲介サイトが提供するポイント還元が景品類に該当するためには、
①仲介サイトが、商品(返礼品)の供給主体であり(商品供給主体性。自治体との共同供給も可)、かつ、
②仲介サイトが、ポイントの提供主体であり(景品類提供主体性。自治体との共同提供も可)、かつ、
③ポイントが返礼品の取引に附随したものであること(取引附随性)、
が必要です。
しかし、仲介サイトが返礼品の供給主体だ、というのは、(無償行為も取引だというほど無茶ではないですが)かなり無理があると思います。
(なお、ECサイトの商品供給主体性については緑本第6版に解説がありますが、その問題点は以前「オンラインモールの商品供給主体性についての緑本第6版の解説について」という記事で指摘したとおりです。名前が「仲介サイト」というだけで、不動産仲介業者と同じように考えるのは無理があります。)
やはり、返礼品を供給しているのは自治体だというべきでしょう。
さらに、仮に仲介サイトの商品供給主体性が認められるとすると、仲介サイトが提供するポイントは、自己の供給する商品の対価の減額ということになり、やはり値引となります。
つまり、どう転んでも、仲介サイトの提供するポイントは、景品類にはなりません。
以上は、ふるさと納税は寄附額による返礼品の購入だという、それ自体かなり無理のある(それでも、取引は有償取引に限るという通説的見解に立つ限りはポイント還元が景品類だといえる可能性のある)解釈を採り、やはり景品類にはならないという結論を導いたのですが、次に、ふるさと納税は無償の寄附だ、それでも「取引」に当たるのだ、と考えた場合には、以下のように考えられます。
ここでも、自治体自身がポイント還元をする、仲介サイトがからまない、単純なケースを考えてみましょう。
例えば、ある自治体が、1万円の寄附者に対して、3000円の返礼品を贈っていたとします。
さらにその自治体が、3000円の返礼品に加えて、4000円のポイント還元をしたとします。
もしここで、4000円のポイント還元を、1万円の寄附という「取引」に附随した景品類だと考えるとすると、3000円の返礼品も、1万円の寄附という「取引」に附随した景品類だと考えざるを得ないでしょう。
というのは、ここでは1万円の寄附と3000円の返礼品との間に対価関係はない(寄附は無償行為である)ということを前提にしているので、そうであるならば、3000円の返礼品が本体取引で4000円のポイント還元がそれに附随した景品類だ、というような主従関係を観念することができないからです。
さらにいうならば、もし取引に無償行為も含まれることを前提に景品類該当性が判断され、1万円の寄附が1万円の取引だと考えるのであれば、1万円の寄附に対して3000円の返礼品を供給することは、総付の2割の制限を超えてしまい、返礼品自体が景表法違反だ、ということになってしまいます。
でも、さすがに消費者庁担当者も、そのようには考えていないでしょう。
ということは、もし「取引」に無償行為も含まれ、寄附額と返礼品に対価関係がないという前提に立つと、4000円のポイント還元は、単に寄附額1万円のうち4000円をバックしているだけ(値引とすら言わない?)、ということになります。
そんなものが景品類に該当するはずがありません。
さらに言えば、無償行為も取引だという前提なら、そもそも返礼品は寄附とは対価関係になく、そうすると、景品類の定義の、
「この法律で「景品類」とは、顧客を誘引するための手段として、その方法が直接的であるか間接的であるかを問わず、くじの方法によるかどうかを問わず、事業者が自己の供給する商品又は役務の取引(不動産に関する取引を含む。以下同じ。)に付随して相手方に提供する物品、金銭その他の経済上の利益であつて、内閣総理大臣が指定するものをいう。」(景表法2条3項)
における、「自己の供給する商品」(商品供給主体性)の要件を満たさないので、やはりポイント還元は景品類には該当しないことになります。
以上を踏まえ、ふるさと納税は無償の寄附で、それでも「取引」に当たるのだ、という前提で、自治体が1万円の寄附者に対して3000円の返礼品を提供し、仲介サイトが4000円のポイントを提供する、という場合を考えると、やはり仲介サイトの4000円のポイントは、「景品類」には該当しません。
理由は自治体がポイントを提供する場合とほぼ同じなので繰り返しませんが、ここでも、対価関係を否定する以上、「商品」の要件を満たさないことは動かしようがないと思います。
ふるさと納税という、政治的なものもふくめいろいろと分析のノイズ(税金が仲介サイトの手数料やポイント原資になっているのではないか、など)が多い制度ではなく、単純な寄附を考えてみれば、分析はより明晰になります。
例えば、ある博物館が、クラウドファンディングで、1万円寄附した人に、3000円相当の返礼品を提供したとします。
(さらにイメージをふくらませるために、3000円相当の返礼品をその博物館は1000円で調達できるので9000円が手元に残り、充分ハッピーだ、と想定しましょう。)
もし、このクラウドファンディングが「取引」にあたるというだけで、返礼品(=景品類)が2割を超えるので景表法違反になるのだとしたら、世の中のクラウドファンディングはかなり困ってしまうはずです。
そして、ふるさと納税に対する3割のポイント還元が景表法違反だというなら、クラウドファンディングで3割の返礼品を提供するのも景表法違反だと言わないと辻褄が合いません。
消費者庁の担当者がそこまで考えて発言しているのか、はなはだ疑問です。
以上より、朝日新聞の記事にもかかわらず、仲介業者のみなさんは、景品規制を気にする必要はないと思います。
万が一消費者庁から注意を受けたら、以上を参考に反論してみて下さい。(どうせ、措置命令はありえませんし。)
私の経験では、公取委や消費者庁に質問して間違った回答がなされるということは、それほど珍しいことではありません(一部には、聞き方が悪かったのではないかと疑われるケースもありますが)。
この朝日新聞での消費者庁担当者のコメントは、そのようなことが実際にあるという例として、企業法務に関わる方々の記憶と記録に長くとどめておかれるべき価値のあるものでしょう。
さらに、役所の見解を批判的に検討する姿勢も大切です。
そして、役所に聞いて納得できなかったら、コストをかけてでも専門家に確認してみるべきでしょう。
今回のように、かなり露骨で単純な役所の間違いというのでなくても、たとえば、専門家に相談したら、役所に質問したときに大事な前提事実を伝えていなかったことがわかった、というようなことは起こりえます。
そのコストをかけるのがいやだという人は、役所の言うことに唯々諾々と従うしかないでしょう。
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