セット販売に関する消費者庁景品類Q&A30番について
消費者庁ウェブサイトの景品類に関するQ&Aの30番では、
「Q30 このたび、イベント企画会社である当社が主催して誰でも参加できる有料のイベントを実施することになりました。
このイベントの⼊場チケット代⾦は5,000円で、イベント来場者には必ずTシャツが配布されます。
このTシャツは、景品規制の対象となりますか。」
との設問に対して、まず、
「A 景品類とは、顧客を誘引するための⼿段として、事業者が⾃⼰の供給する商品⼜は役務の取引に付随して相⼿⽅に提供する物品、⾦銭その他の経済上の利益をいいます。
本件が、イベントの⼊場チケット5,000円の取引に付随して、もれなくTシャツが提供される企画であると認められる場合、
総付景品の規制の対象となります。この場合に提供できる景品類の最⾼額は1,000円(5,000円の10分の2)となります(Q61、Q110参照)。」
と回答されているのですが、やや驚きなのが、続けて、
「しかしながら、例えば、Tシャツ付き⼊場チケットとして販売するなど、
イベントの参加とTシャツがセットで5,000円であることが明らかであれば、
原則として取引に付随する提供に当たらず、景品規制の対象とはなりません(Q29参照)。」
と回答されていることです。
これがなぜやや驚きかというと、「Tシャツ付き⼊場チケットとして(as)販売する」ということ以外には、入場チケットとTシャツとの関係性(たとえば、ローリングストーンズのコンサートなら、舌を出した唇のマークがプリントされているとか、ウクライナ戦争反対のイベントなら水色と黄色の2トーンのTシャツだとか)について、何ら限定する素振りが見えないからです。
つまり、本体商品と附随する経済上の利益の関係は問わない(少なくとも設問は明示的には要求していない)、ということです。
セット販売については、従来より、定義告示4⑸で、
「(5) ある取引において二つ以上の商品又は役務が提供される場合であっても、次のアからウまでのいずれかに該当するときは、原則として、「取引に附随」する提供に当たらない。
ただし、懸賞により提供する場合(例 「○○が当たる」)及び
取引の相手方に景品類であると認識されるような仕方で提供するような場合(例 「○○プレゼント」、「××を買えば○○が付いてくる」、「○○無料」)は、
「取引に附随」する提供に当たる。
ア 商品又は役務を二つ以上組み合わせて販売していることが明らかな場合
(例 「ハンバーガーとドリンクをセットで○○円」、「ゴルフのクラブ、バッグ等の用品一式で○○円」、美容院の「カット(シャンプー、ブロー付き)○○円」、しょう油とサラダ油の詰め合わせ)
イ 商品又は役務を二つ以上組み合わせて販売することが商慣習となっている場合
(例 乗用車とスペアタイヤ)
ウ 商品又は役務が二つ以上組み合わされたことにより独自の機能、効用を持つ一つの商品又は役務になっている場合
(例 玩菓、パック旅行)」
と規定されていました。
これらア~ウは、かなりの部分重なっており、あまり厳密に分けて考える必要はありませんが、「例」として挙がっているものはどれもセット販売であることが明らかなものばかりで、実務で出くわす微妙な事例にはあまり参考にならないものでした。
(なぜか、「玩菓」だけは、お菓子とおもちゃの組み合わせがちょっと異色で、私なんかは昭和の時代の「ビッグワンガム」を思い出してしまいますが、「玩菓」は、『大辞林』にも、「玩具と一体となって製品化されている瑕疵。玩具菓子。」と載っているので、社会的に認知されているということなのでしょう。)
というより、定義告示運用基準の「例」が、本体商品と付随的利益の関係がきわめて密接で、あまりに手堅いものばかりなので、何でもかんでもセット販売というわけにはいかないのだ、というメッセージを強く感じました。
ところが今回、Q30が、「Tシャツ付き⼊場チケットとして販売」していればよい、というかなり緩やかな立場を明らかにしたため、必ずしも上記運用基準の具体例に引きずられる必要は無い、ということが明らかになったように思います。
ちなみに、Q30では、
「イベントの参加とTシャツがセットで5,000円であることが明らか 」
と述べているので、これは、定義告示運用基準4⑸アの、
「商品又は役務を二つ以上組み合わせて販売していることが明らかな場合」
に当たると考えられていることがわかります。
ですが、イベントとTシャツの組み合わせは、その「明らか」さの程度において、アで挙げられている、
「ハンバーガーとドリンクをセットで○○円」、
「ゴルフのクラブ、バッグ等の用品一式で○○円」、
「美容院の「カット(シャンプー、ブロー付き)○○円」」、
「しょう油とサラダ油の詰め合わせ」
というのとは、だいぶ違うように思われます。
つまり、イベントとTシャツは、明らかさの程度がかなり低いと思われます。
実際、Q30の回答の前半では、
「本件が、イベントの⼊場チケット5,000円の取引に付随して、もれなくTシャツが提供される企画であると認められる場合、総付景品の規制の対象となります。」
と明確に述べられているわけであり、イベントとTシャツはこの組み合わせにより必然的にセット販売であることが「明らか」となると考えられているわけでは決してないことがわかります。
ということは、Q30の前半と後半を分けるのは、セット商品「として」販売しているかどうかだけである、ということになりそうです。
そして、セット商品「として」販売するというのは、その大半は、その商品を売るときにどのような表示をするのかという、表示(プレゼンの仕方)の問題に解消されるように思われます。
とすると、「セット商品」と表示すれば、ほぼ何でもセット販売になりうる、ということです。
実は、このようにセット販売の該当非該当の判断においては表示が重要だということは、定義告示運用基準4⑸の柱書のただし書の、
「ただし、・・・取引の相手方に景品類であると認識されるような仕方で提供するような場合(例 「○○プレゼント」、「××を買えば○○が付いてくる」、「○○無料」)は、「取引に附随」する提供に当たる。」
という規定に表れていました。
しかしながら、定義告示運用基準4⑸は、
①ア(セット販売であるあることが「明らか」)、イ(セット販売が「商慣習」)またはウ(セット販売が「独自の機能、効用」を持つ)のいずれかに該当すること、かつ、
②取引の相手方に景品類であると認識されるような仕方で提供しないこと、
という2つの要件をクリアしてはじめてセット販売に該当する、という構造だったのに、
Q30の判断基準は、
セット販売であることが明らかであればセット販売であり、明らかでなければセット販売ではない、
という1点だけであり、上記①(ア(セット販売であるあることが「明らか」)、イ(セット販売が「商慣習」)またはウ(セット販売が「独自の機能、効用」を持つ)のいずれかに該当すること)は要件として不要になった、と言わざるを得ません。
そして、私はこのQ30のようなゆるやかにセット販売を認める考え方でよいと思います。
というのは、最近はいろんな商品役務が組み合わされて販売されることが多くなり、そのような販売方法に景品規制を幅広く適用してしまうと、販売方法のイノベーションが阻害されてしまうからです。
ただし、Q30のように、「セット販売であることが明らかであればセット販売であり、明らかでなければセット販売ではない」という一本の基準でいくのではなく、基準に濃淡をつけて、
⑴セット販売とわかるような売り方をしていれば、原則としてセット販売、
⑵⑴のような売り方をしているのに、あえて景品類と認識されるような売り方をすると、例外的に景品類、
と考えるのがよいと思います。
ところで、このように考えていくと、マクドナルドのハッピーセットもセット販売でいいような気もします。
というのは、イベントとTシャツがセット販売なのに、ハンバーガーとポテトとドリンクのセットにクレヨンしんちゃんのおもちゃを付けたのがセット販売ではない、と考える合理的理由がないように思われるからです。
もしこの考え方に違和感を覚える人がいたら、無意識のうちに、
Tシャツは単独で売り物になりそうだけれど、
ハッピーセットのおもちゃは、ちゃちで単独の売り物にはならなさそう、
と考えている可能性がありますが、そういう人は、値段の高いものほど景品類にはならず、安い物ほど景品類になる、と考えていることになり、高額な景品類を規制する現行法の解釈として、あまり合理的ではありません。(条文の根拠もありません。)
あるいは、もう一工夫して、
Tシャツは単独で売り物になりそうなので、セット販売であることが「明らか」っぽいけれど、
ハッピーセットのおもちゃは、ちゃちで単独の売り物にはならなさそうなので、セット「販売」であることが「明らか」とは言いにくい、
という理屈もあるかもしれませんが(「販売」に値しないものは「セット販売」にもならない)、かなり回りくどくて屁理屈っぽいと思います。
あるいは、ハッピーセットもセット販売だという考え方に違和感を持つ人は、消費者の判断を歪める点に(これも無意識に)着目して、
イベントにTシャツを付けても、Tシャツ目当てでイベントに参加する人はあまりいなさそうだけれど、
ハッピーセットに立派なおもちゃをつけたら、おもちゃ目当てで欲しがる子供はたくさんいそう、
と判断している可能性があります。
このように、消費者の合理的選択の確保に着目するのは、ある程度説得力はあるように思いますが、それでも、定義告示運用基準にそのようなことが何も書かれていないのにそういう判断をするのは、実務的にはあまりよろしくないと思います。
というわけで、私はハッピーセットも今やセット販売でよいと思います。
もちろん、子供が立派なおもちゃに惹かれて食べ物を選んでしまわないようにという教育的配慮から本体の2割以内におもちゃを抑えるのは、立派な企業姿勢だと思います。