使途を限定した割引券に関する消費者庁景品Q&A47番について
消費者庁景品Q&A47番(「減額し⼜は割り戻した⾦銭の使途を制限する場合」)では、
「Q47 当店では期間を限定して、商品A(1,000円)を10個購⼊した⽅全員に、当店で商品Bを購⼊するときに使⽤できる3,000円割引券を提供したいと考えています。
この割引券は商品Bに限定しているため、「減額し⼜は割り戻した⾦銭の使途を制限する場合」に該当し、景品規制の対象となるのでしょうか。」
との設問に対して、
「A ⾃⼰の供給する商品⼜は役務の取引において、取引通念上妥当と認められる基準に従い、取引の相⼿⽅に対し、⽀払うべき対価を減額すること(複数回の取引を条件として対価を減額する場合を含む。)は、正常な商慣習に照らして値引と認められる経済上の利益に該当し、景品類に含まれず、景品規制の対象とはなりません。
ただし、対価の減額⼜は割戻しであっても、減額し⼜は割り戻した⾦銭の使途を制限する場合、例えば、減額し⼜は割り戻した⾦銭を旅⾏費⽤に充当させる場合などは景品類に該当することとなります。
この「⾦銭の使途を制限する場合」とは、本来、減額し⼜は割り戻した「⾦銭」は⾃由に使⽤できるにもかかわらず、特定の商品を購⼊するためにしか使うことができないという条件を付して減額する⼜は割り戻す場合は、値引とは認められないという意味であり、「⾦銭」以外は含まれません。
本件は、条件を満たす購⼊者に対し、「⾦銭」ではなく、商品Bの購⼊時に使⽤できる⾃社の「割引券」を提供しているだけですので、
「減額し⼜は割り戻した⾦銭の使途を制限する場合」
には該当せず、取引通念上妥当と認められる基準に従っていれば、正常な商慣習に照らして値引と認められる経済上の利益として景品類に含まれず、景品規制は適⽤されません。
(参照)「景品類等の指定の告⽰の運⽤基準について」(昭和52年事務局⻑通達第7号)6(3)ア、(4)ア」
と回答されています。
(ちなみに、引用されている定義告示運用基準6⑶アというのは、
「(3) 次のような場合は、原則として、「正常な商慣習に照らして値引と認められる経済上の利益」に当たる。
ア 取引通念上妥当と認められる基準に従い、取引の相手方に対し、支払うべき対価を減額すること
(複数回の取引を条件として対価を減額する場合を含む。)
(例 「×個以上買う方には、○○円引き」、「背広を買う方には、その場でコート○○%引き」、「×××円お買上げごとに、次回の買物で○○円の割引」、「×回御利用していただいたら、次回○○円割引」)。」
という規定であり、6⑷アというのは、
「(4) 次のような場合は、「値引と認められる経済上の利益」に当たらない。
ア 対価の減額又は割戻しであっても、懸賞による場合、減額し若しくは割り戻した金銭の使途を制限する場合
(例 旅行費用に充当させる場合)
又は同一の企画において景品類の提供とを併せて行う場合
(例 取引の相手方に金銭又は招待旅行のいずれかを選択させる場合)」
という規定です。)
つまり、商品Aの取引に附随して総付で商品Bのみの割引に用いられる割引券を提供することは、値引に該当するので景品規制は適用されない、ということです。
結論としては、消費者庁が値引だ(景品規制は適用されない)というのですから特段異を唱えるつもりはないのですが、理由付けがおかしいと思います。
まず、Q&A回答のうち、
「この「⾦銭の使途を制限する場合」とは、・・・「⾦銭」以外は含まれません。」
という部分は、そのとおりでしょう。
「金銭」には、「金銭以外」は含まれません。以上。
ですが、設問のような使途を特定商品Bに限定した割引券について、
「本件は、条件を満たす購⼊者に対し、「⾦銭」ではなく、商品Bの購⼊時に使⽤できる⾃社の「割引券」を提供しているだけですので、
「減額し⼜は割り戻した⾦銭の使途を制限する場合」
には該当せず・・・」
という理由で値引だと整理しているのは、定義告示運用基準6⑷アの解釈を誤っていると思います。
つまり、定義告示6⑷アは、
「(4) 次のような場合は、「値引と認められる経済上の利益」に当たらない。
ア 対価の減額又は割戻しであっても、懸賞による場合、減額し若しくは割り戻した金銭の使途を制限する場合
(例 旅行費用に充当させる場合)
又は同一の企画において景品類の提供とを併せて行う場合
(例 取引の相手方に金銭又は招待旅行のいずれかを選択させる場合)」
と定めており、提供される経済上の利益が「対価の減額又は割戻し」の態様であることが前提です。
これに対して、割引券は、ここでの「対価の減額又は割戻し」の態様に該当しません。
別の切り口から言うと、「金銭」には「金銭以外」は含まれないという理由で47番のような回答を理由付けることができるためには、
①減額し若しくは割り戻した金銭の使途を制限する
という表現と、
②減額し若しくは割り戻した金銭以外の使途を制限する
という表現が、どちらも等しく論理的に成り立たなければなりません。
いわば、①と②が同じ論理構造にある必要があります。
ですが、②は、論理的におかしいです。
そのおかしさは、47番回答が行っている論理操作(「割引券」は「金銭以外」なので、商品Bの割引券は値引であるという論理操作)どおり、「金銭以外」を「商品Bの割引券」に置き換えてみればいいのです。
そうすると、
②’ 減額し若しくは割り戻した割引券の使途を制限する
という日本語になりますが、これは日本語として成り立ちません。
「割引券」は、減額したり割りもどしたりするものではないからです。
比喩的に言えば、47番の回答は、定義告示6⑷アの定義域(「金銭」)の外の値(「割引券」)を代入して結論を導くという論理的誤りを犯しています。
それに、「対価の減額又は割戻し」というのは、普通の読み方をすれば、本体商品(商品A)の対価の減額又は払い戻しという意味でしょう。
ここでいきなり、別商品(商品B)の対価の減額又は払い戻しの話が出てくるというのは、どうかんがえてもおかしいと思います。
設問に合わせて6⑷アを書き加えると、
「(4) 次のような場合は、「値引と認められる経済上の利益」に当たらない。
ア 商品Aの対価の減額又は割戻しであっても・・・減額し若しくは割り戻した金銭の使途を制限する場合」
となるはずなのです。
ですので、商品Bの割引券に定義告示6⑷アを適用するのは、明らかに間違いです。
では、商品Aの購入者に商品Bの3000円割引券を提供するのが「値引」に該当するとして、その理由はどう説明したらいいのでしょう。
私は素直に、定義告示1項ただし書の「値引」に該当すると言ってしまえばよく、それ以上の説明は要らないと思います。
あえて根拠を探せば、定義告示運用基準6⑶アで、
「(3) 次のような場合は、原則として、「正常な商慣習に照らして値引と認められる経済上の利益」に当たる。
ア 取引通念上妥当と認められる基準に従い、取引の相手方に対し、支払うべき対価を減額すること
(複数回の取引を条件として対価を減額する場合を含む。)
(例 「×個以上買う方には、○○円引き」、
「背広を買う方には、その場でコート○○%引き」、
「×××円お買上げごとに、次回の買物で○○円の割引」、
「×回御利用していただいたら、次回○○円割引」)。」
という例が挙げられていますが、商品Aの購入者に商品Bの購入に使える3000円割引券(金額証)を提供することは、商品Aと商品Bの取引(売主はもちろん同じ事業者)という「複数の取引を条件として」、商品Bの「対価を減額する」ことであるので、「複数回の取引を条件として対価を減額する場合」に該当する、と説明することができます。
また、6⑶アの
「背広を買う方には、その場でコート○○%引き」
というのは、特定のコート(「コート」というカテゴリーで「特定」されているという意味ではなくて、特定の品名で特定されているコートという意味)であってもよい、と説明してもよいですし、
「×××円お買上げごとに、次回の買物で○○円の割引」
では、「次の買物」で買える商品を(商品Bに)特定してもよいのだ、と説明してもよいでしょう。
というわけで、商品Aの購入者に商品Bの3000円割引券(金額証)を提供することを値引だとすることを妨げるものは、何もなさそうです。
ただし、商品Aの購入者に商品Bの引換券を提供することは、値引には該当せず、景品類に該当するというべきでしょう。
それは、商品Aの取引に附随して商品Bを提供しているのにほかならないからです。
例えば、商品Bが3,000円で、3,000円の割引券(金額証)で商品Bそのものが買えてしまう場合は、3,000円の割引券の提供は景品類の提供に該当するというべきでしょう。
この点については、Q&A47番でも、
「Q47 当店では期間を限定して、商品A(1,000円)を10個購⼊した⽅全員に、当店で商品Bを購⼊するときに使⽤できる3,000円割引券を提供したいと考えています。」
となっているので、その割引券だけで商品Bを購入できてしまうものは想定されていないと読めます。
つまり、商品Bの価格は1個3000円を超えるもの(例えば1万円)が想定されていると考えられます。
1つ注意を要するのは、定義告示運用基準5⑵で、
「(2) 商品又は役務を通常の価格よりも安く購入できる利益も、「経済上の利益」に含まれる。」
とされていることとの関係です。
この点については、Q&A47番が、事業者が自ら販売する商品Aの購入者に対して、同じく自ら販売する商品Bの3,000円割引券を提供することが(商品Bの)値引に該当するとしていることから、定義告示運用基準5⑵の
「商品又は役務を通常の価格よりも安く購入できる利益」
には、
「商品Bを通常の価格よりも安く購入できる利益」
も含まれ、ひいては、「商品Bを通常の価格よりも安く購入できる利益」は、
「経済上の利益」
に含まれるけれども、
「正常な商慣習に照らして値引・・・と認められる経済上の利益」
なので、景品類には該当しない、と説明することになります。
もう1つ気をつけるべきなのは、特定商品との引換にのみ用いることができる金額証を総付規制の対象としている(総付規制の対象外から除外している)総付運用基準4⑵との関係です。
すなわち、総付運用基準4⑵では、
「4 告示第二項第三号の「自己の供給する商品又は役務の取引において用いられる割引券その他割引を約する証票」について
(1) 「証票」の提供方法、割引の程度又は方法、関連業種における割引の実態等を勘案し、公正な競争秩序の観点から判断する。
(2) 「証票」には、金額を示して取引の対価の支払いに充当される金額証
(特定の商品又は役務と引き換えることにしか用いることのできないものを除く。)
並びに
自己の供給する商品又は役務の取引及び他の事業者の供給する商品又は役務の取引において共通して用いられるものであって、同額の割引を約する証票
を含む。」
と規定されており、「特定の商品又は役務と引き換えることにしか用いることのできない」金額証は、総付告示2項3号で、
「2 次に掲げる経済上の利益については、景品類に該当する場合であつても、前項の規定〔注・総付の金額規制〕を適用しない。
一 商品の販売若しくは使用のため又は役務の提供のため必要な物品又はサービスであって、正常な商慣習に照らして適当と認められるもの
二 見本その他宣伝用の物品又はサービスであつて、正常な商慣習に照らして適当と認められるもの
三 自己の供給する商品又は役務の取引において用いられる割引券その他割引を約する証票であつて、正常な商慣習に照らして適当と認められるもの」
として、総付規制が適用されないとされている「証票」に含まれない、とされています。
つまり、割引券は総付の金額規制の対象外だけれども、「特定の商品」(商品B)と「引き換える」ことにしか用いることのできない「金額証」は、総付規制の対象だ、ということです。
このことと整合的に考えても、Q&A47番で値引に該当するとされている
「当店で商品Bを購⼊するときに使⽤できる3,000円割引券」
というのは、「特定の商品」(商品B)と「引き換える」ことにしか用いることのできない「金額証」であってはならず、したがって、割引券3,000円は商品Bの代金の(全部ではなく)一部に充当されるものに限られる(逆に言えば、商品Bは3,000円超でなければならない)、ということがわかります。
このことからさらに、総付運用基準4⑵で、総付金額規制の対象外とされている
「金額を示して取引の対価の支払いに充当される金額証」
の範囲から除外されている(よって総付規制の対象になる)
「特定の商品又は役務と引き換えることにしか用いることのできないもの」
というのは、文字どおり、特定の商品(商品B)そのものと「引き換える」ことにしか用いることができない金額証を意味しており、
代金の一部に充当できるに過ぎないものは、
「特定の商品又は役務と引き換えることにしか用いることのできないもの」
には含まれない、つまり、代金の一部に充当できるに過ぎないものは総付規制の対象外だ、ということがわかります。
今回、Q&A47番で、商品Bの3,000円割引券(金額証)が、値引だと明確にされたので、特定商品の代金の一部に充当できる金額証は、総付規制の適用の有無以前の問題として、そもそも「値引」である、と整理されていることがはっきりしたといえます。
« 【お知らせ】下請法のセミナーをします。 | トップページ | ⽉額サービス契約時の取引の価額に関する消費者庁景品Q&A68番について »
「景表法」カテゴリの記事
- チョコザップに対する措置命令について(2024.08.30)
- 差止請求の公表に関する消費者契約法施行規則28条の「相手方との間の協議が調ったと認められるもの」の解釈について(2024.08.24)
- 景表法の確約手続ガイドラインについて(2024.08.11)
- ステマ1号案件について(医療法人社団祐真会)(2024.07.01)
- 商品買い取りサービスに関する定義告示運用基準の改正について(2024.07.20)
« 【お知らせ】下請法のセミナーをします。 | トップページ | ⽉額サービス契約時の取引の価額に関する消費者庁景品Q&A68番について »
コメント