スタンプラリーの取引の価額に関する消費者庁景品Q&A71-2について
6月30日に大幅改定された消費者庁の景品Q&Aでは、その71-1番(「スタンプラリーの取引の価額2」)で、
「⼟産物店3店舗、有料観光施設2施設、無料の観光スポット3か所を巡るスタンプラリーによる懸賞企画を考えています。
スタンプを押す条件は、⼟産物店は商品を購⼊すること、観光施設は⼊場チケットを購⼊すること、観光スポットは来場することです。
応募のために必要なスタンプは、4個⼜は8個ですが、スタンプ8個で応募する場合は、スタンプ4個での応募はできません。
なお、⼟産物店で販売する商品のうち最も安い商品の価格はいずれも200円、有料観光施設の⼊場料⾦は500円⼜は700円です。また、無料の観光スポットで販売⾏為はありません。
この場合の取引の価額はどのように算定すればよいでしょうか。」
という設問に対して、
「商品⼜は役務の購⼊者を対象とするが購⼊額の多少を問わないで景品類を提供する場合の取引の価額は、原則として100円ですが、その景品類を提供する対象商品⼜は役務の取引の価額のうち最低のものが明らかに100円を下回っているときはその価格を取引の価額とし、また、通常⾏われる取引の価額のうち最低のものが100円を超えると認められるときは、その最低のものを取引の価額とすることができ
ます。
本件では、スタンプ4個⼜は8個を集めるために必要となる取引のうち最低の⾦額を取引の価額とすることになりますが、そのためには、スタンプを押す条件ごとに個別に取引の価額を検討する必要があります。
⼟産物店でスタンプを押す条件は、購⼊額の購⼊額の多少を問わずに商品を購⼊することですので、取引の価額は原則として100円となります。ただし、その店舗で通常⾏われている取引のうち最低のものが明らかに100円を上回っているときは、取引の価額はその最低の価格となりますので、本件は、200円となります。
有料観光施設でスタンプを押す条件は、⼊場チケットを購⼊することですので、取引の価額は⼊場チケットの料⾦である500円⼜は700円になります。
販売⾏為のない無料の観光スポットでスタンプを押すことは、取引に付随しませんので算定する取引の価額がありません。
上記を前提に、4個スタンプを集めるために必要な取引のうち最低のものは、無料の観光スポットを3か所巡り、⼟産物店で200円の商品を1個購⼊した場合ですので、取引の価額は200円になります。
8個スタンプを集めるために必要な取引のうち最低のものは、無料の観光スポットを3か所巡り、⼟産物店3店舗で200円の商品を1個ずつ購⼊し(200円×3店舗)、有料観光施設に⼊場するため料⾦500円と700円を⽀払った場合ですので、取引の価額はこれらの価格を合計した1,800円になります。
(参照)「『⼀般消費者に対する景品類の提供に関する事項の制限』の運⽤基準について」(昭和52年事務局⻑通達第6号)1(2)
「『⼀般消費者に対する景品類の提供に関する事項の制限』の運⽤基準について」(昭和52年事務局⻑通達第6号)1(2)」
と回答されています。
ポイントは、景品をもらうためにしなければいけない最低の取引の価額は何なのかをみていく、ということです。
これは良いのですが、注意すべきは次の71-2番です。
71-2番では、
「Q71-1について、応募のために必要なスタンプを3個にした場合、無料の観光スポットを巡ればスタンプを集めることができるため、取引に付随する提供に当たらず、景品規制の対象とはならないでしょうか。」
という設問に対して、
「「取引に付随して」とは、取引を条件としない場合であっても経済上の利益の提供が取引の相⼿⽅を主たる対象として⾏われるときは、取引に付随する提供に当たります。
これは、取引に付随しない提供⽅法を併⽤していても同様〔注・全体として取引附随性ありになる〕です。
本件企画は、無料の観光スポットを3か所巡れば取引を⾏うことなく応募することが可能ですが、
他のスタンプを押す条件は取引が条件となっていますので、
取引に付随しない提供⽅法を併⽤しているとみて、
〔注・無料の観光スポット3か所を巡って集めた〕スタンプ3個であっても取引に付随する提供に該当します。
取引に付随しない提供⽅法と付随する提供⽅法を併⽤することを前提とした場合、
スタンプ3個を集めるために必要となる取引のうち最低のものは、無料の観光スポットを2か所巡り、⼟産物店で200円の商品を1個購⼊した場合ですので、取引の価額は200円になります。
(参照)「景品類の指定の告⽰の運⽤基準について」(昭和52年事務局⻑通達第7号)4(2)
「『⼀般消費者に対する景品類の提供に関する事項の制限』の運⽤基準について」(昭和52年事務局⻑通達第6号)1(2)」
と回答されています。
ちなみに、ここで参照されている定義告示運用基準4⑵は、
「(2) 取引を条件としない場合であっても、経済上の利益の提供が、次のように取引の相手方を主たる対象として行われるときは、「取引に附随」する提供に当たる(取引に附随しない提供方法を併用していても同様である。)。
ア 商品の容器包装に経済上の利益を提供する企画の内容を告知している場合
(例 商品の容器包装にクイズを出題する等応募の内容を記載している場合)
イ 商品又は役務を購入することにより、経済上の利益の提供を受けることが可能又は容易になる場合
(例 商品を購入しなければ解答やそのヒントが分からない場合、
商品のラベルの模様を模写させる等のクイズを新聞広告に出題し、回答者に対して提供する場合)
ウ 小売業者又はサービス業者が、自己の店舗への入店者に対し経済上の利益を提供する場合
(他の事業者が行う経済上の利益の提供の企画であっても、自己が当該他の事業者に対して協賛、後援等の特定の協力関係にあって共同して経済上の利益を提供していると認められる場合又は他の事業者をして経済上の利益を提供させていると認められる場合もこれに当たる。)
エ 次のような自己と特定の関連がある小売業者又はサービス業者の店舗への入店者に対し提供する場合
① 自己が資本の過半を拠出している小売業者又はサービス業者
② 自己とフランチャイズ契約を締結しているフランチャイジー
③ その小売業者又はサービス業者の店舗への入店者の大部分が、自己の供給する商品又は役務の取引の相手方であると認められる場合(例 元売業者と系列ガソリンスタンド)」
という規定であり、総付告示運用基準1⑵は、
「(2) 購入者を対象とするが購入額の多少を問わないで景品類を提供する場合の「取引の価額」は、原則として、百円とする。
ただし、当該景品類提供の対象商品又は役務の取引の価額のうちの最低のものが明らかに百円を下回つていると認められるときは、
当該最低のものを「取引の価額」とすることとし、
当該景品類提供の対象商品又は役務について通常行われる取引の価額のうちの最低のものが百円を超えると認められるときは、
当該最低のものを「取引の価額」とすることができる。」
という規定です。
この71-2の回答は、結論としてはQ&Aのとおりでよい(ほかにありえない)のですが、少なくとも、定義告示運用基準4⑵の文言解釈を根拠にこの結論を導いているのは、解釈論としては間違いだと思います。
ポイントは、定義告示運用基準4⑵の
「(2) 取引を条件としない場合であっても、経済上の利益の提供が、次のように取引の相手方を主たる対象として行われるときは、「取引に附随」する提供に当たる(取引に附随しない提供方法を併用していても同様である。)。」
の意味です。
素直に読む限り、この、取引に附随する提供方法と、取引に附随しない提供方法の「併用」というのは、「取引に附随」しても景品類が提供されるし、「取引に附随しない」でも景品類が提供されるという、選択的な提供を意味していると読むのが自然であるように思われます。
例えば、定義告示運用基準4⑵で挙げられている、
「ア 商品の容器包装に経済上の利益を提供する企画の内容を告知している場合」
であれば、容器包装での告知と新聞広告での告知を併用している場合です。
この場合、容器包装だけを見て応募する人も、新聞広告だけを見て応募する人(もちろん商品を購入しなくても応募できることが前提)もいるでしょうが、どちらも区別せず取引附随性ありとみなす、ということです。
次の、
「イ 商品又は役務を購入することにより、経済上の利益の提供を受けることが可能又は容易になる場合
(例 商品を購入しなければ解答やそのヒントが分からない場合、
商品のラベルの模様を模写させる等のクイズを新聞広告に出題し、回答者に対して提供する場合)」
というのは、(ちょっと無理矢理ですが)商品に記載されているヒントを元に特定の問題に解答するだけでも、夏休みの思い出を絵日記に書いて応募するだけでも、同じ景品がもらえる、という場合でしょうか。
次の、
「ウ 小売業者又はサービス業者が、自己の店舗への入店者に対し経済上の利益を提供する場合
(他の事業者が行う経済上の利益の提供の企画であっても、自己が当該他の事業者に対して協賛、後援等の特定の協力関係にあって共同して経済上の利益を提供していると認められる場合又は他の事業者をして経済上の利益を提供させていると認められる場合もこれに当たる。)」
というのは、入店しただけでも景品をもらえるし、入店せずにウェブサイトから申し込むだけでも、同じ景品がもらえる、というような場合が考えられます。
次の、
「エ 次のような自己と特定の関連がある小売業者又はサービス業者の店舗への入店者に対し提供する場合
① 自己が資本の過半を拠出している小売業者又はサービス業者
② 自己とフランチャイズ契約を締結しているフランチャイジー
③ その小売業者又はサービス業者の店舗への入店者の大部分が、自己の供給する商品又は役務の取引の相手方であると認められる場合(例 元売業者と系列ガソリンスタンド)」
というのは、上記ウの入店者と同じパターンが考えられます。
このように、定義告示運用基準4⑵の、取引附随性がある方法と、無い方法の、「併用」というのは、取引附随性がある方法と、無い方法の、いずれか(or)を満たせば景品類がもらえる、という意味ではないかと思うのです。
これに対して、71-2番が述べている、
「本件企画は、無料の観光スポットを3か所巡れば取引を⾏うことなく応募することが可能ですが、
他のスタンプを押す条件は取引が条件となっていますので、
取引に付随しない提供⽅法を併⽤しているとみて、スタンプ3個であっても取引に付随する提供に該当します。」
という部分はよいのですが、次の、
「取引に付随しない提供⽅法と付随する提供⽅法を併⽤することを前提とした場合、
スタンプ3個を集めるために必要となる取引のうち最低のものは、無料の観光スポットを2か所巡り、⼟産物店で200円の商品を1個購⼊した場合ですので、取引の価額は200円になります。」
というのが、意味がよくわからないところです。
というのは、この回答は、
「スタンプ3個を集めるために必要となる取引のうち最低のもの」
であるところの、
「無料の観光スポットを2か所巡り、⼟産物店で200円の商品を1個購⼊した場合」
というのが、
「「取引に付随しない提供⽅法と付随する提供⽅法を併⽤」
する場合であり、ひいては定義告示運用基準4⑵の(取引附随性のある提供方法と)「取引に附随しない提供方法を併用」する場合である、という理解に立っているように思われるからです。
でも、
「「無料の観光スポットを2か所巡り、⼟産物店で200円の商品を1個購⼊」
というのを、「無料の観光スポットを2か所巡る」ことと、「土産物店で商品を購入する」ことを併せて用いることが、定義告示運用基準4⑵の「併用」だというのはおかしいし、ここで4⑵を引っ張り出す必要も無いと思います。
これは端的に、取引附随性のある方法で最も取引の価額が少ない方法は何か、と問うた結果の答えであり、取引附随性がある方法と無い方法を「併用」したかどうかを問題にすべき場面ではないと思います。
別の観点からいうと、私は元々定義告示運用基準4⑵柱書の括弧書の考え方はおかしい(適用範囲が広すぎる)と思っていますが(ご興味のある方は、以前書いた「インターネットと店舗の両方で受け付ける懸賞」という記事もご覧下さい。)、仮に4⑵柱書の括弧書が廃止されたとしても、本件での取引の価額が、
「「無料の観光スポットを2か所巡り、⼟産物店で200円の商品を1個購⼊」
した場合の取引の価額であるべき、という点については、問題なく受け容れるでしょう。
このように、
「「無料の観光スポットを2か所巡り、⼟産物店で200円の商品を1個購⼊」
した場合というのは、取引附随性のある方法(土産物店での商品購入)と無い方法(無料観光スポット巡り)を「併用」したと見るべきではなく、全体として取引附随性がある方法での提供だとみるべきだと考えます。
4⑵の文言解釈をすれば、
「「無料の観光スポットを2か所巡り、⼟産物店で200円の商品を1個購⼊」
というのは、4⑵の、
「取引に附随しない提供方法を併用 」
には該当しない、ということです。
特定の問題に回答するだけならこのQ&Aのようにそれらしい理由を付けて回答してしまってもよいのかもしれませんが、このような緩い解釈をしていると、いつかボロが出るのでやめたほうがいいと思います。
最後に余談ですが、この設問はスタンプラリーという、ちょっと牧歌的な設例ですが、同じ性質の似たようなものとして、世の中では、取引附随性のある方法でも無い方法でも同じ種類のポイントがもらえて(もちろん、取引附随性がある方法の方がずっとたくさんポイントをもらえる)、一定数のポイントを貯めると景品と交換できる、という仕組みがよくあり、そのような景品交換ポイントシステムにもこの設問はそのままあてはまりますので、けっこう適用範囲の広いQ&Aといえます。
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