ステマ告示の経過措置?
ステマ告示では冒頭に、
「不当景品類及び不当表示防止法(昭和三十七年法律第百三十四号)第五条第三号の規定に基づき、一般消費者が事業者の表示であることを判別することが困難である表示を次のように指定し、令和五年十月一日から施行する。」
と規定されています。
今年の10月1日から施行されると書いてあるだけで、特段経過措置等はありません。
なので施行日前の広告についてはステマ告示は適用されないし、10月1日以降(1日を含む)の広告についてはステマ告示が適用されることになります。
そう言ってしまうと簡単なのですが、気をつける必要があるのは、アフィリエイトなどのインターネット上の表示です。
さまざまな表示(広告)がいつなされたのか(表示の時点)の問題については、
「不当景品類及び不当表示防止法第8条(課徴金納付命令の基本的要件)に関する考え方」(以下「課徴金ガイドライン」といいます。)
が参考になります。
同ガイドラインの1(「課徴金対象期間」)の⑸(「想定例」)の⑤では、
「⑤ 事業者Eが、自ら直接一般消費者に対して販売する商品e の取引に際して、
商品e について有利誤認表示を内容とするウェブサイトを平成31 年11 月1日から平成32 年4月30 日までの間公開した場合、
事業者Eの課徴金対象行為をした期間は、平成31 年11 月1日から平成32 年4月30 日までとなる。〔以下省略〕」
と説明されています。
つまり、ウェブサイトの表示の場合は、最初にサイトを公開した日だけでなく、公開を続けていた期間中、不当表示行為をしている、とみなされる、ということです。
ということは、アフィリエイト広告の場合、広告主がアフィリエイターに広告の掲載を指示したのがステマ告示施行前であっても、施行日後もそのアフィリエイト広告が引き続きアフィリエイトサイトに表示されつづけていれば、ひきつづき表示がされ続けていることになる、ということです。
なので、ステマ告示前に掲載を開始したアフィリエイト広告についても、10月1日の告示施行日までに、「広告」など、広告主の表示であるとわかるひょうな表記をしてもらう必要があります。
これは、場合によっては広告主に結構厳しい結果になるかもしれません。
というのは、アフィリエイトサイトを管理しているのはアフィリエイターなので、広告主は直接アフィリエイト記事を消したり変更したりすることができないからです。
この点、課徴金ガイドライン1⑸の想定例①では、容器包装の表示について、
「① 商品a を製造する事業者Aが、
小売業者を通じて一般消費者に対して供給する商品a の取引に際して、
商品a について優良誤認表示を内容とする包装をし、
その包装がされた商品a を、
平成30 年4月1日から同年9月30 日までの間、
毎日小売業者に対し販売して引き渡した場合、
事業者Aの課徴金対象行為をした期間は、平成30 年4月1日から同年9月30 日までとなる
(小売業者の一般消費者に対する販売行為は、事業者Aの行為ではない。
なお、当該小売業者が事業者Aとともに当該優良誤認表示の内容の決定に関与していた場合は、
当該小売業者が一般消費者に対して商品a を販売して引き渡す行為について、
別途課徴金対象行為の該当性が問題となる。)〔以下省略〕」
とされています。
つまり、容器包装への表示の場合は、商品を引き渡す行為が不当表示をする行為であり、その後小売店で販売される行為は不当表示行為ではない(よって小売店の店頭にならんでいる商品を回収する必要は無い)、ということです。
想定例②でも、チラシについて、
「② 事業者Bが、
自ら直接一般消費者に対して販売する商品b の取引に際して、
商品b について有利誤認表示を内容とするチラシを、
自ら平成30 年10 月1日から平成31 年3月31 日までの間配布した場合、
事業者Bの課徴金対象行為をした期間は、
平成30 年10 月1日から平成31 年3月31 日までとなる。〔以下省略〕」
とされていて、チラシの不当表示行為はチラシを配布する行為だとされています。
したがって、いったん配ったチラシを回収したりする必要はありません。
このように、商品やチラシの場合は引き渡したり配布した時点で不当表示行為が終わるのに対して、ウェブサイトの場合は表示され続けている限り不当表示行為が続くというのは、バランスを欠くように見えるかもしれません。
しかも、アフィリエイトの場合、広告主はアフィリエイト記事に対する直接のコントロールを有しないので、いわば、商品を小売店に引き渡してしまった(その結果商品へのコントロールを失った)メーカーと同じ立場にいるのではないか(よって、コントロールを失った時点以降の表示については不当表示行為はないといえるのではないか)、という気がしないではありません。
でもやはり、アフィリエイトの場合も、広告主自身が行うウェブサイトの広告と同じように、掲載され続けている限り不当表示行為が継続すると考えるべきでしょう。
少なくとも、課徴金ガイドラインを素直に読む限り、そのようにしか解せません。
また、コントロールは確かに及びませんが、コントロールが及ばないことを広告主は理解しながらアフィリエイトを使っているわけですから、自業自得です。
したがって、たとえば何年も前に表示を開始したアフィリエイト記事も含めて、10月1日以降も表示され続けるのであれば、すべて「広告」などの注記をする必要があります。
そして、アフィリエイターが「広告」の注記を拒否した場合でも、ステマ告示違反を問われるのはあくまで広告主です。
これも、アフィリエイトの仕組み上、仕方ありません。
また、仮にアフィリエイターが「広告」との注記をすることを拒否した場合に、広告主がステマ告示違反になるのはしかたないとしても(しかたないではすまされないですが)、さらに、広告主は「広告」との注記をさせるよう最善を尽くさないと、管理措置義務違反(景表法26条)となるというべきでしょう。
たとえば、「広告」である旨の注記に応じないアフィリエイターに対してひきつづき出稿を依頼し続けるというようなことをすると、管理措置義務違反になると考えます。
そして、以上述べたことはアフィリエイターだけでなく、インフルエンサーに広告を依頼していた場合にもあてはまります。
アフィリエイターやインフルエンサーを使っていた広告主は大変ですが、未対応の広告主は10月になるまでに対応されたらよいかと思います。
【2024年3月16日追記】
ステマ告示とガイドラインのパブコメ196番では、
「本告示の制定により規制対象になるのは、告示施行後に事業者又は第三者が行う表示行為のみであるとの理解でよいか。特にアフィリエイト広告については、施行前になされた表示まですべて確認し、必要な対応をとることは事実上不可能であるため、配慮されたい。」
というコメントに対して、消費者庁から、
「一般的に、立法によるにせよ、告示によるにせよ、新たな法規制は、施行日後に生じた事実に適用されるものであり、施行日前に遡及することはありません。
アフィリエイト広告等、事業者が施行日前に第三者に行わせた表示であっても、その後、表示の作成者である第三者と連絡がつかず、事業者が表示を管理できない状態にあるなど施行日後において事業者の表示と判断される実態を欠いている場合には、本告示の対象となることはありません。
しかし、事業者が施行日前に第三者に行わせた表示であっても、施行日後も、当該表示の作成者と連絡がつくなど事業者が表示を管理できる状態にあるなど施行日後において事業者の表示であると判断される実態にある場合は、施行日後の表示が本告示の対象となる可能性があります。」
との回答がなされています。
まとめると、
原則、施行日前に行わせたアフィリエイトの表示でも、ステマ告示の対象となる
例外的に、施行日後にアフィリエイターと連絡が取れないなどの場合は、ステマ告示の対象とならない
ということのようです。
連絡はつくけど言うことを聞かないときはステマになって、連絡がつかないときはステマにならないというのでほんとうにいいのか、とか、アフィリエイト以外にもどこまで同じに考えて良いのか、とか、この理屈で行くと優良誤認や有利誤認の時にもいろいろと影響があるのではないか、とか、いろいろ細かい論点は思い浮かびますが、ひとまずアフィリエイトについては消費者庁がこう言っているのですから、この考え方に従っておけばよいと思います(それでも大変ですが)。
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