紹介者を過去の商品購入者に限定する紹介キャンペーンに関する消費者庁景品Q&A31番の疑問
今年6月30日に大幅拡充された消費者庁景品Q&Aの31番では、
「Q31 いわゆる紹介者キャンペーンとして、新規顧客を紹介してくれた紹介者に提供する謝礼は、景品類に該当しますか。」
という設問に対して、
「A ⾃⼰の供給する商品⼜は役務の購⼊者を紹介してくれた⼈(紹介者)に対する謝礼は、取引に付随する提供に当たらず、景品類には該当しません。
ただし、紹介者を⾃⼰の供給する商品⼜は役務の購⼊者に限定する場合には、取引に付随する提供となり、景品類に該当し、通常、総付景品の規制の対象となります。
例えば、商品Aを購⼊した上で、誰かを紹介することが条件となっている場合であれば、商品Aの取引に付随することになりますので、取引の価額は、商品Aの価格になります(Q61参照)。
また、紹介者を過去に⾃⼰の供給する商品⼜は役務を購⼊してくれた者に限定する場合であれば、今後の取引に付随することになりますので、取引の価額は、この企画を告知した後に発⽣し得る通常の取引のうち最低のものになります(Q10参照)。」
と回答されています。
しかし、私はこの回答のうち、
「また、紹介者を過去に⾃⼰の供給する商品⼜は役務を購⼊してくれた者に限定する場合であれば、今後の取引に付随することになりますので、取引の価額は、この企画を告知した後に発⽣し得る通常の取引のうち最低のものになります(Q10参照)。」
の部分は疑問だと思います。
過去の商品購入者に資格を限定するのであれば、当該過去の商品購入取引に附随した経済上の利益(景品類)の提供ということにならざるをえないと思われます。
それがどうして、今後の取引に附随することになるのか、理由が不明です。
このQ&A集のほかの設問では、取引附随性に関して、商品役務の購入に「直ちにつながるもの」でなければ取引附随性は認められない、ということが繰り返し述べられています(Q18、19、20、21、22、23、24)。
そうなのであれば、このQ31でも、過去の商品購入は今後の取引に直ちにつながるものではないため(今後の取引との)取引附随性は認められない、となるはずです。
ここで注意点は、事象Xが取引に「直ちにつながるもの」かどうかを判定する際には、事象Xを満たすことで景品が提供されるかどうかは考慮してはならない、ということです。
つまり、景品による顧客誘引力を前提に、何らかの取引に「直ちにつながるもの」かどうかを判断するのではなく、事象Xそれ自体が、何らかの取引に「直ちにつながる」かどうかを判断しなければなりません。
例えば、上で引用したQ18は、
「SNSにおいて当社アカウントをフォローし、「いいね」を押すことで応募ができる懸賞企画を考えています。告知は当社ホームページとSNSで⾏い、景品は当選者に郵送します。
この企画は景品規制の対象になるのでしょうか。」
という設問ですが、該当箇所では、
「取引を条件として経済上の利益を提供する場合だけではなく、取引を条件としない場合であっても、経済上の利益の提供が取引の相⼿⽅を主たる対象として⾏われるときには「取引に付随」する提供に当たります。
〔中略〕
本件のように、SNSのアカウントのフォローや「いいね」を押すことは、通常、商品・サービスを購⼊することに直ちにつながるものではありません。〔中略〕
したがって、本件は、他に取引につながる蓋然性が⾼いと認められる事情がない限り、告知から景品提供まで⼀切取引に付随せず、景品規制の対象にはなりません。」
と回答されています。
つまり、ここでは、「SNSのアカウントのフォローや「いいね」を押すこと」自体(=事象X)が、商品役務の購入につながるかどうかを問うているわけで、SNSのアカウントのフォローや「いいね」を押したら経済上の利益がもらえることで商品役務の購入につながるかどうかを問うているのではありません。
そうすると、Q31でも、過去に取引をした事実(=事象X)があれば将来の商品購入に直ちにつながるかどうかを問題にすべきであり、答えはもちろん、直ちにつながらない、でしょう。
というわけで、理屈の上ではこのQ31は、私は間違いだと思います。
ではこのQ31は全く無視してよいのかというと、「消費者庁がそう言っているのだから守るべき」という点を措くとしても、なかなか微妙なところだと思います。
というのは、このQ31の結論は妙に収まりがよいので、これはこれで、こういうルールにすると決めたのならそれもありかな、と思えてくるのです。
逆に言うと、これ以外の結論は、ちょっと収まりが悪い気がします。
1つの割り切りは、過去の取引なのだから紹介の謝礼は一切景品類に該当しない、とすることです。
しかし、こう考えたときにすぐに浮かぶ疑問は、過去の購入者と、これから購入する人に、紹介者を限定したときに、対象者に過去の購入者という取引附随性が認められないグループがいる以上、全体として、取引附随性なしになると考えざるを得ず、これは結論として妥当ではないのではない(収まりが悪い)のではないか、ということです。
Q31の結論を擁護したくなるもう1つの理由は、Q31は1回限りの過去の商品購入を想定しているように見えるものの、世の中でこの手の紹介キャンペーンが行われるのは、フィットネスクラブなど、継続的な取引の場合が多く、そういう場合に、
「取引の価額は、この企画を告知した後に発⽣し得る通常の取引のうち最低のものになります。」
という結論は、何とも良い塩梅で妙な納得感があるからです。
それでもやはり、個人的には、Q31は間違いであり、将来の取引との取引附随性はない、と考えるべきだと思います。
上述の、紹介者を過去の購入者(会員)と現在の購入者(会員)に限るケースは、全体として取引附随性無しと割り切るべきでしょう。
そうすると、企画の告知を見て紹介の謝礼に惹かれて取引に入る消費者も出てくるでしょうが、どうしてもそれを景品規制で縛らないといけないというほどの実害もないと思われます。
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