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2023年8月 1日 (火)

グループの別法人で使える割引券に関する消費者庁景品Q&A41番の疑問

消費者庁景品Q&Aの41番(「⾃店値引の範囲」)では、

「Q 当社は、スポーツクラブを運営しているほか、エステティックサロンも運営しています。このたび、スポーツクラブの新規⼊会者に対し、エステティックサロンで使⽤できる値引券を提供したいと考えています。

この値引券は他店の値引として、景品類に含まれ、景品規制の対象になりますか。」

という設問に対して、まず前半部分で、

「⾃⼰の供給する商品⼜は役務の取引において、取引通念上妥当と認められる基準に従い、取引の相⼿⽅に対し、⽀払うべき対価を減額すること(複数回の取引を条件として対価を減額する場合を含む。)は、正常な商慣習に照らして値引と認められる経済上の利益に該当し、景品類に含まれず、景品規制の対象とはなりません。

これは、商品・サービスの購⼊時に対価を減額する場合だけでなく、次回以降に商品・サービスを購⼊する際に対価を減額する場合も含み、また、同⼀の商品だけでなく、別の種類の商品について対価を減額する場合も含みます。

本件は、スポーツクラブとエステティックサロンは別のサービスですが、どちらもこの事業者が供給するものですので、取引通念上妥当と認められる基準に従っているのであれば、正常な商慣習に照らして値引と認められる経済上の利益に該当し景品類に含まれず、景品規制の対象とはなりませ。」

と回答されています。

これはいいのですが、Q&Aは続けて、

「なお、仮に、エステティックサロンは別法⼈が運営するものであるという場合には、この事業者のスポーツクラブの取引に付随して、他店であるエステティックサロンの値引券を提供していることになりますので、景品類に含まれ、総付景品の規制の対象となります(Q68、Q110参照)。

(参照)「景品類等の指定の告⽰の運⽤基準について」(昭和52年事務局⻑通達第7号)6(3)ア」

と、同一法人か別法人かで区別するとの回答をしていますが、これは大いに問題だと思います。

(ちなみに、引用されている定義告示運用基準6⑶アは、

「(3) 次のような場合は、原則として、「正常な商慣習に照らして値引と認められる経済上の利益」に当たる。

ア 取引通念上妥当と認められる基準に従い、取引の相手方に対し、支払うべき対価を減額すること(複数回の取引を条件として対価を減額する場合を含む。)(例 「×個以上買う方には、○○円引き」、「背広を買う方には、その場でコート○○%引き」、「×××円お買上げごとに、次回の買物で○○円の割引」、「×回御利用していただいたら、次回○○円割引」)。」

という複数回取引を条件とする値引きの話なので、この後半部分には関係がありません。)

いやしくも競争法の端くれであった景表法において、同じグループ(競争単位)なのに、同一法人か別法人かで結論が異なるということは、解釈論としてちょっとありえないのではないでしょうか?

景表法は消費者庁の下で純粋消費者保護法になったとしても、消費者の目からみて同一法人か別法人かなんてわかりようもありませんから、なおさらこのような解釈には実質的な根拠がないと思います。

そうすると、このQ&Aの回答が依拠しているのは、専ら、「値引」というのは自分と取引した人に対して当該取引の対価を減額することである(他人との取引の対価の減額は、言葉の意味からして「値引」ではありえない)ということと、同じグループでも別法人なら別人格だという、極めて形式的な根拠だけなのではないかと疑われます。

このように、景品類に該当するかどうかを判定するに当たって、同一法人かグループ内別法人かで結論が異なるということになると、実務上のインパクトはかなり大きいと思われます。

以前、あるクライアントから、「競合他社がやっている、クレジットカード利用でのポイントキャンペーンをうちでもやりたいが、可能か」という質問を受けて、いろいろ話を聞いても、どうしても不可能だったのですが、その競合他社がどこなのかを聞いたところ、その競合他社はグループにカード会社を持っていることがわかり、それできっと、同じグループなので自己値引と整理しているのだろう、と分析したことがありました。

でも、今回のQ&A41番のように、グループ内でも別法人なら「値引」に該当しないとなると、その「競合他社」のやっていたポイントキャンペーンは、自他共通割引券の要件を満たさない限り総付規制の対象になってしまいます。

なので、もし自己値引きとして整理しているのだろうという私の見立てが正しかったとすると、このQ&A41番を見て、その「競合他社」は大騒ぎになっているのではないかと想像されます。

これはほんの一例ですが、同一グループなのに別法人だと別人扱いされて値引に該当しなくなるとすると、その影響は計り知れないのではないかと思われます。

しかも、告示や運用基準の解釈を明らかに間違っている回答なら、私も「あれは間違いですから、無視して構いません。」とクライアントにアドバイスしやすいのですが、景品規制においてグループ内別法人を他人と扱うかどうかというのは、告示にも運用基準にも手がかりがなく、しかも景表法(定義告示)の条文の解釈としては、別法人である以上同一グループでも他人であるというのはまったく根拠がないわけでもない(むしろ文言だけを見れば根拠がある)ので、個人的にはおかしいと思っていても、安易に「無視して構いません。」ともいいにくいところがあります。

しかも、このような根本的な論点に対して、真正面から、二義を許さないほどにはっきりと「別法人なら、別人です。」と言われてしまっては、今回問題になっている案件は事実関係が違うとかこじつけて何とか救ってもらうというのも難しく、消費者庁に質問すれば、必ず「だめです。」と言われそうな気がします。

自社グループで心当たりのある方は、ぜひ、このQ&Aをよく読んで、対応を検討されるべきだと思います。

あと、このQ&Aでグループ会社の論点が全て片付いたのかというと、やや微妙な気もします。

例えば、このQ&Aでは、スポーツクラブとエステティックサロンという別の業態ですが、スポーツクラブ同士ならならどうか、というのも気になるところです(たぶん、同じ結論でしょう)。

逆に、グループですらない全くの別法人でありながら同じブランドの下で一体的に事業をしている、コンビニのフランチャイズのような場合はどうなのでしょうか。

景表法でも下請法でもフランチャイズの本部と加盟店は一体と扱うという解釈が定着しているので、この点は動かないのだろうと想像しますが、100%親子でも別人だというのがこのQ&A41番の意味するところでしょうから、少なくともフランチャイズの場合と整合性がとれていないのではないかという問題は指摘できそうです。

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