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2023年7月31日 (月)

今朝の日経法務面のインボイス制度に関する記事について

今朝(7月31日)の日経朝刊法務税務面に、

インボイス、取引先への圧力懸念 複雑ルールも背景に

という記事が載っていますが、私は大いに問題のある記事だと思います。

このブログでも何度も指摘していますが、そもそもインボイス非登録業者に対して、発注者が税額控除できない額に相当する額の報酬減額を発注時の合意に従って求めることは、経済合理性から考えても、契約自由の原則からしても、さらにはインボイス制度の趣旨からしても、当然のことであり、何も不当なことはありません。

それに、インボイス制度の趣旨からすれば、そもそも事業者はインボイスの登録をすべきなのです。

もちろん、登録は強制ではないので、あえて登録しないという選択をするのも自由ですが、そうしたら、取引先から報酬額の減額を求められることは当然予想されることであり、それは消費税法も予定しているというべきですから、そういう不利益も甘受してしかるべきです。

(「マイナカードの取得は任意。」と言いながら保険証を廃止することで事実上取得を強制するのが認められるのだったら、任意のインボイス登録をあえて登録しなかった人が報酬額の減額を求められるのくらい、何の問題もないはずです。)

もし発注者側の経営方針の変更(例えば取引規約の変更)で取引先に不利益を与えるのであれば、十分に周知してていねいに交渉するよう促すことにも合理性はありますが、インボイス制度は法律で導入された制度ですから、個別の事業者が取引先に対して説明しなければいけないような性質のものではそもそもありません。

しかも、インボイス制度が導入されると、こういうこと(非登録事業者の報酬が減額されること)が起きることは、当然予想(予定)されていたことですから、周知期間も改正消費税法施行から十二分すぎるくらいにあり、発注者にさらに時間をかけて説明させる意味がありません。

これを優越的地位の濫用とか、下請法違反とかいう、公取委の解釈の方がおかしいのです。

それなのに、記事ではそのあたりの根本的な問題には何ら触れることなく、

「取引先への圧力懸念」

という見出しとか、

「消費税の税率と税額を記した請求書などをやりとりするインボイス制度が10月に始まるのを前に、取引先に不適切な圧力をかける企業などが出始めた。」

という記述とか、インボイス非登録業者に消費税相当額の報酬減額(もちろん、将来の取引の減額であり、すでに発注しているものを減額することは基本的にできません。)を求めることが、あたかも「不適切な圧力」であるかと印象づけるもので、報道として大変バランスを欠いていると言わざるを得ません。

この点に関しては、以前このブログで書いた、

朝日新聞2023年6月9日「公取委から突然の電話 「海猿」作者がインボイス制度に今思うこと」という記事を読んで

という記事で言及した朝日新聞の記事の方が、はるかにバランスが取れています。

日経記事の見出しでは、「複雑ルールも背景に」とあり、その趣旨の記述もありますが、ことこの問題に関しては、なにも複雑なことはありません。

確かに、一般論としては、平山先生が記事でコメントされているとおり、

「そもそも『優越的地位』やその『乱用』の認定はいずれも難しい。適切な対応と不適切な乱用の線引きは、非常にわかりにくい」

というのはそのとおりですが、ことこの件に関する限り、公取委は、「優越的地位」なんてほとんど無視していることが明らかです。

これは、前述の朝日新聞の記事からも明らかで、公取委は、ことこのインボイスの問題に関しては、普通であれば優越的地位なんておおよそ認められそうにない事業者に対しても注意をしています。

「濫用」なんて、消費税分減額したら濫用だといっているに等しいので、優越的地位の濫用の中では、きわめて明確です。

唯一、わかりにくいのは、記事でも触れられている、どれくらい交渉したら十分な交渉をしたことになって濫用にならないのか、という手続面に関することです。

この点に関しては、長澤先生の、

「(適切な手続きを進めるには)かなり複雑で作り込んだマニュアルが必要になる」

というのは、確かにそうかもしれません。

ただ、記事で、

「大半の企業は、もっぱら税理士と相談しながら対応準備を進めている。独禁法に詳しい弁護士の助言も受けるような、充実した準備ができる企業は少ない。」

と述べられているように、こんなことに弁護士に大枚はたいて相談できる企業なんて、インボイス制度に関係する事業者(つまり、日本のほぼ全ての事業者)の中では少数派でしょうから、複雑なマニュアルを作り込むなんていうのは、多くの事業者には無理な注文かもしれません。

(前述の朝日新聞の記事では、税理士さんが間違ったアドバイスをしていると、前述の私の記事にも書きましたので、ご覧下さい。だいたい、税理士さんに、優越的地位の濫用や下請法のアドバイスができるはずがありません。)

そこで、どうしたらいいのかを私なりにまとめると、(ほんとうは公取委と徹底的に争うことをおすすめしたいですが(笑)、それはさておき)、

①インボイスの登録をしない取引先に対して、説明会(前記の朝日新聞記事では公取委はリアルの説明会を求めているみたいですが、オンラインで十分です。)を行う。

②説明会の案内メールでは、インボイスの登録をしないと発注者にどのような不利益があるのかをていねいに説明する。(ていねいにメールで説明したらそれで十分な気もしますが、前述の朝日新聞の記事によると、説明会をしないと「十分な協議」とは認めないのが公取委の方針みたいです。)

③説明会で、「インボイスの登録をしないと報酬を減額する。」と言ってしまうと一方的だと言われかねないので、「インボイスの登録をしない事業者は、個別の事情を考慮して報酬額を改定する可能性があるのので、相談して欲しい。」くらいにとどめる。

③説明会では、質疑応答の時間を設ける。

④希望する取引先には、さらに別の機会に、個別に相談する機会を1回設ける(オンラインやメールで十分)。

といったあたりで十分ではないかと思います。

これでも、取引先が多い発注者には大変な労力のはずで、オンライン説明会ですら複数回行わないといけないかも知れません。

とはいえ、この日経記事のおかげで、インボイス制度にからんで独禁法の問題が生じうるということが世に知らしめられた、という意味においては、この記事も評価できると思います。

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