マラソン大会の賞金とeスポーツの賞金との違い(消費者庁景品Q&A28番と54番)
6月30日に改訂された消費者庁ウェブサイトの景品に関するQ&Aの28番では、
「Q このたび、イベント企画会社である当社が主催して市⺠向けのマラソン⼤会を実施することになりました。
マラソン⼤会の参加費は5,000円で、上位⼊賞者には賞⾦が提供されます。
マラソンの記録を競うために⼤会に参加費を⽀払って出場し、その結果として賞⾦が提供される場合にも、景品規制の対象となるのでしょうか。」
との設問に対して、
「A 正常な商慣習に照らして取引の本来の内容をなすと認められるものは、「取引に付随」する提供に当たらないことから、景品類ではありません。
本件のマラソン⼤会での賞品が正常な商慣習に照らして取引の本来の内容をなすと認められれば景品規制の対象とはなりませんが、
通常は参加費を⽀払ってマラソンを⾛ることが取引の内容であり、
賞⾦は、その取引に付随して提供される景品類であると考えられます。
したがって、本件は、参加費5,000円の取引に付随して、特定の⾏為の優劣によって賞⾦の提供を受けられるとして、⼀般懸賞の規制の対象となります。
この場合に提供できる景品類の最⾼額は10万円(5,000円の20倍)となり、景品類の総額を懸賞に係る売上予定総額の2%までに収める必要があります(Q61、Q86参照)。
(参照) 「景品類等の指定の告⽰の運⽤基準について」(昭和52年事務局⻑通達第7号)4(4)
「懸賞による景品類の提供に関する事項の制限」(昭和52年公正取引委員会告⽰第3号)第2項、第3項」
と回答されています。
つまり市民マラソンの賞金は景品だ、ということです。
これに対して、Q54では、
「Q いわゆるeスポーツ⼤会で提供される賞⾦については、景品規制の対象とならないと聞いたことがありますが、どのような考え⽅なのでしょうか。」
という設問に対して、
「取引の相⼿⽅に提供する経済上の利益であっても、仕事の報酬等と認められる⾦品の提供は、景品類の提供に当たりません。
eスポーツ⼤会で提供される賞⾦についても、個々の⼤会の実態から、仕事の報酬等と認められるのであれば、景品類の提供に当たらず、景品規制の対象とはなりません。
考え⽅の詳細は、下記を参照してください。
(参照)「法令適⽤事前確認⼿続照会書」
「法令適⽤事前確認⼿続回答通知書」(消表対620号令和元年9⽉3⽇)」
と回答されています。
つまり、eスポーツ大会の賞金は、「仕事の報酬等と認められるのであれば」景品類にはあたらない、ということです。
(ちなみに、eスポーツ大会の賞金の景品類該当性を問題にしているときの、取引附随性の有無が問題になる本体商品は、大会で用いられるゲーム機です。ノーアクションレターの照会書では、「顧客が5,000円を支払うことによって購入することができるコンピューターゲーム」を本体商品とするという前提で照会がされています。)
この2つのQ&Aは、一見矛盾しているようにも見えますが、要は、賞金が「仕事の報酬等」と認められれば景品類ではないし、認められなければ景品類だ、ということなのでしょう。
もう少し具体的にいうと、マラソン大会のほうは、42.195キロ走れることを中心とした大会に参加者を参加させることが、主催者が提供する役務なのでしょう。
これに対して、eスポーツ大会のほうは、選手にeスポーツの対戦をさせることが提供役務ではありません。
選手の側からいえば、対戦できるという役務提供を主催者から受けるわけではありません。
対戦だけなら、2人でプレイステーションでも使ってテレビゲームをしたらいいだけでしょう。
これに対して、マラソンは、勝手に42.195キロ走ったらいい、というわけにはなかなかいきません。
また、eスポーツ大会は、観客に(基本的には、何らかの意味で有償で)見せるところに存在価値があります。
選手の実技は、そのようなエンターテインメントのインプットに過ぎません。
なので「仕事」なのです。
ノーアクションレターでは、
「本ケースにおいて賞金を受け取る可能性のある選手は、仕事の内容として、高い技術を用いたゲームプレイの実技若しくは実演又はそれに類する魅力のあるパフォーマンスを行い、多数の観客や視聴者に対してそれを見せ、大会等の競技性及び興業性を向上させることが求められている」
とされていますが、選手にとってのパフォーマンスはまさに「仕事」なのでしょう。
これに対して、市民マラソン大会は、基本的に、人に見せるものではありません。
沿道にいる人たちは、あくまで応援しているだけです。
というわけで、eスポーツ大会での競技は「仕事」だけれど、市民マラソン大会の走行は「仕事」ではない、ということになります。
ちなみに、Q&A28番では市民マラソンですが、これが、プロのランナーを招いたマラソンだったら、どうなるのでしょう。
市民マラソンの賞金が景品類になるという場合の本体商品は、主催者が参加者をマラソン大会に参加させる役務です。
かかる役務を参加者は5,000円で購入するわけです。
では、プロのランナーが参加するマラソン大会はどうなのかというと、仮にエントリーフィーを取っていたとしても、プロのランナーは事業者であるということで、賞金は景品類にはあたらない、といえそうな気がします。
もしそうなら、eスポーツの大会で、仮にエントリーフィーを取って、大会に参加させることが本体商品であると解される場合であったとしても、そこに賞金目当て参加するプレイヤーは事業者なので、賞金は景品類に該当しない、ということも可能であるように思われます。
ちなみに、前述のとおりeスポーツ大会における本体商品はゲーム機ですが、マラソン大会には、そのような意味での本体商品はありません。
例えば、マラソンに出るのにナイキの靴を履くことを求めるマラソン大会をナイキが主催したら、本体商品はナイキの靴、ということになりますが、普通のマラソン大会はどの靴を履いても参加できるはずなので、賞金は靴の取引に決して付随しません。
というわけで、似たようなものを2つ比べるといろいろと見えてくるという好例でした。
それから、蛇足ですが、Q28の、
「通常は参加費を⽀払ってマラソンを⾛ることが取引の内容であり、
賞⾦は、その取引に付随して提供される景品類であると考えられます。」
という部分をみて思い出すのは、定義告示運用基準4⑷の、
「(4) 正常な商慣習に照らして取引の本来の内容をなすと認められる経済上の利益の提供は、「取引に附随」する提供に当たらない(例 宝くじの当せん金、パチンコの景品、喫茶店のコーヒーに添えられる砂糖・クリーム)。」
という記述ですね。
ここでは、パチンコの景品は、パチンコの本来の取引の内容である(なので取引に「付随」しない)と述べられています。
つまり、パチンコの場合には景品が取引の内容そのものだけれども、市民マラソン大会の場合には走らせてもらうことが取引の本来の内容であって、賞金はあくまでおまけである、ということですね。
逆に言えば、市民マラソンは走ることを楽しむのがメインの内容だけれど、パチンコは球を弾くのがメインの内容ではない(少なくとも、球を弾くのを楽しむだけではパチンコは成り立たない)、ということです。
パチンコがそういうものとして世の中に定着してしまっている以上、そういう解釈になるのでしょうけれど、世の中に純粋に球を弾くことを楽しむゲームがあってもおかしくないわけで(反対に、理屈の上では、賞金目当てがメインの市民マラソン大会も、あっておかしくはありません)、結局、取引に附随するかどうか(取引の本来の内容かどうか)は、「正常な商慣習」(定義告示1項)に照らして判断するほかない、ということなのでしょう。
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