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2023年7月

2023年7月31日 (月)

今朝の日経法務面のインボイス制度に関する記事について

今朝(7月31日)の日経朝刊法務税務面に、

インボイス、取引先への圧力懸念 複雑ルールも背景に

という記事が載っていますが、私は大いに問題のある記事だと思います。

このブログでも何度も指摘していますが、そもそもインボイス非登録業者に対して、発注者が税額控除できない額に相当する額の報酬減額を発注時の合意に従って求めることは、経済合理性から考えても、契約自由の原則からしても、さらにはインボイス制度の趣旨からしても、当然のことであり、何も不当なことはありません。

それに、インボイス制度の趣旨からすれば、そもそも事業者はインボイスの登録をすべきなのです。

もちろん、登録は強制ではないので、あえて登録しないという選択をするのも自由ですが、そうしたら、取引先から報酬額の減額を求められることは当然予想されることであり、それは消費税法も予定しているというべきですから、そういう不利益も甘受してしかるべきです。

(「マイナカードの取得は任意。」と言いながら保険証を廃止することで事実上取得を強制するのが認められるのだったら、任意のインボイス登録をあえて登録しなかった人が報酬額の減額を求められるのくらい、何の問題もないはずです。)

もし発注者側の経営方針の変更(例えば取引規約の変更)で取引先に不利益を与えるのであれば、十分に周知してていねいに交渉するよう促すことにも合理性はありますが、インボイス制度は法律で導入された制度ですから、個別の事業者が取引先に対して説明しなければいけないような性質のものではそもそもありません。

しかも、インボイス制度が導入されると、こういうこと(非登録事業者の報酬が減額されること)が起きることは、当然予想(予定)されていたことですから、周知期間も改正消費税法施行から十二分すぎるくらいにあり、発注者にさらに時間をかけて説明させる意味がありません。

これを優越的地位の濫用とか、下請法違反とかいう、公取委の解釈の方がおかしいのです。

それなのに、記事ではそのあたりの根本的な問題には何ら触れることなく、

「取引先への圧力懸念」

という見出しとか、

「消費税の税率と税額を記した請求書などをやりとりするインボイス制度が10月に始まるのを前に、取引先に不適切な圧力をかける企業などが出始めた。」

という記述とか、インボイス非登録業者に消費税相当額の報酬減額(もちろん、将来の取引の減額であり、すでに発注しているものを減額することは基本的にできません。)を求めることが、あたかも「不適切な圧力」であるかと印象づけるもので、報道として大変バランスを欠いていると言わざるを得ません。

この点に関しては、以前このブログで書いた、

朝日新聞2023年6月9日「公取委から突然の電話 「海猿」作者がインボイス制度に今思うこと」という記事を読んで

という記事で言及した朝日新聞の記事の方が、はるかにバランスが取れています。

日経記事の見出しでは、「複雑ルールも背景に」とあり、その趣旨の記述もありますが、ことこの問題に関しては、なにも複雑なことはありません。

確かに、一般論としては、平山先生が記事でコメントされているとおり、

「そもそも『優越的地位』やその『乱用』の認定はいずれも難しい。適切な対応と不適切な乱用の線引きは、非常にわかりにくい」

というのはそのとおりですが、ことこの件に関する限り、公取委は、「優越的地位」なんてほとんど無視していることが明らかです。

これは、前述の朝日新聞の記事からも明らかで、公取委は、ことこのインボイスの問題に関しては、普通であれば優越的地位なんておおよそ認められそうにない事業者に対しても注意をしています。

「濫用」なんて、消費税分減額したら濫用だといっているに等しいので、優越的地位の濫用の中では、きわめて明確です。

唯一、わかりにくいのは、記事でも触れられている、どれくらい交渉したら十分な交渉をしたことになって濫用にならないのか、という手続面に関することです。

この点に関しては、長澤先生の、

「(適切な手続きを進めるには)かなり複雑で作り込んだマニュアルが必要になる」

というのは、確かにそうかもしれません。

ただ、記事で、

「大半の企業は、もっぱら税理士と相談しながら対応準備を進めている。独禁法に詳しい弁護士の助言も受けるような、充実した準備ができる企業は少ない。」

と述べられているように、こんなことに弁護士に大枚はたいて相談できる企業なんて、インボイス制度に関係する事業者(つまり、日本のほぼ全ての事業者)の中では少数派でしょうから、複雑なマニュアルを作り込むなんていうのは、多くの事業者には無理な注文かもしれません。

(前述の朝日新聞の記事では、税理士さんが間違ったアドバイスをしていると、前述の私の記事にも書きましたので、ご覧下さい。だいたい、税理士さんに、優越的地位の濫用や下請法のアドバイスができるはずがありません。)

そこで、どうしたらいいのかを私なりにまとめると、(ほんとうは公取委と徹底的に争うことをおすすめしたいですが(笑)、それはさておき)、

①インボイスの登録をしない取引先に対して、説明会(前記の朝日新聞記事では公取委はリアルの説明会を求めているみたいですが、オンラインで十分です。)を行う。

②説明会の案内メールでは、インボイスの登録をしないと発注者にどのような不利益があるのかをていねいに説明する。(ていねいにメールで説明したらそれで十分な気もしますが、前述の朝日新聞の記事によると、説明会をしないと「十分な協議」とは認めないのが公取委の方針みたいです。)

③説明会で、「インボイスの登録をしないと報酬を減額する。」と言ってしまうと一方的だと言われかねないので、「インボイスの登録をしない事業者は、個別の事情を考慮して報酬額を改定する可能性があるのので、相談して欲しい。」くらいにとどめる。

③説明会では、質疑応答の時間を設ける。

④希望する取引先には、さらに別の機会に、個別に相談する機会を1回設ける(オンラインやメールで十分)。

といったあたりで十分ではないかと思います。

これでも、取引先が多い発注者には大変な労力のはずで、オンライン説明会ですら複数回行わないといけないかも知れません。

とはいえ、この日経記事のおかげで、インボイス制度にからんで独禁法の問題が生じうるということが世に知らしめられた、という意味においては、この記事も評価できると思います。

2023年7月30日 (日)

料金無料の価格設定に関する消費者庁景品Q&A34番についての疑問

消費者庁の景品Q&A34番(「利⽤料を無料とする価格設定」)では、

「当社で有料の施設運営しています。この施設内の特定のスペース利⽤するには、別途利⽤料の⽀払いが必要となります。

今後、特定の曜⽇の施設来場者に対して、この特定スペース無料で開放したいと考えております。

これは、景品規制の対象となるのでしょうか。」

という設問に対して、まず、

「経済上の利益と認められるか否かは、

「提供を受ける者の側からみて、通常、経済的対価を⽀払って取得すると認められるもの」

といえるか否かで判断されます。

本件のように、特定の曜⽇に通常有料の利⽤料を無料とすることは、

そもそも特定の曜⽇の施設来場者に特定のスペースの利⽤料を負担させる予定がないということですから、

経済上の利益に含まれず、景品規制の対象とはなりません。」

と回答されています。

う~ん、こんなこと言ってしまっていいのでしょうか?

特定の曜日に無料であっても、他の曜日には有料なわけですから、「通常(=他の曜日には)、経済的対価を支払って取得する」といえるのではないでしょうか。

さらにいえば、この、「通常、経済的対価を支払って取得する」というのは、もっと一般的、抽象的に、そもそも一般消費者がお金を払って取得する性質のものかどうかで決まるというべきでしょう。

事業者が特定の曜日(例えば月曜日)に無料にしたからといって、「月曜日の当該特定のスペース」といったような狭いサービスを想定してそれが有料か無料かを判断するというような類いのものではないと思います。

ちなみにこのQ&Aが引用している定義告示運用基準5⑴では、

「5 「物品、金銭その他の経済上の利益」について

(1) 事業者が、そのための特段の出費を要しないで提供できる物品等であっても、又は市販されていない物品等であっても、提供を受ける者の側からみて、通常、経済的対価を支払って取得すると認められるものは、「経済上の利益」に含まれる。

ただし、経済的対価を支払って取得すると認められないもの(例 表彰状、表彰盾、表彰バッジ、トロフィー等のように相手方の名誉を表するもの)は、「経済上の利益」に含まれない。」

とされています。

「提供を受ける者の側からみて」といっているので、事業者が月曜日に無料にしたからといって直ちに「経済上の利益」にあたらなくなるわけではないと思います。

もし、事業者が月曜日に無料にしたことにより、一般消費者が、「通常、経済的対価を支払って取得する」と認められなくなるのであれば、「経済上の利益」に該当しないことになるのかもしれませんが、そんなことは普通ないでしょう。

Q&Aの回答は、

「そもそも特定の曜⽇の施設来場者に特定のスペースの利⽤料を負担させる予定がないということですから」

というのを理由にしており、事業者の「予定」がポイントであるかのような説明をしていますが、事業者にそんな予定があるかとか、予定が近い将来変わらないかどうかなんて、消費者には分からないことです。

ですので、事業者の「予定」を基準にするのはおかしいと思います。

この回答ではさすがにまずいと思ったのか、Q&Aの回答ではさらに続けて、

「なお、例えば、特定の曜⽇ではなく、⼀時的なキャンペーンとして特定スペースの無料開放を実施する場合などには、

経済上の利益に該当する可能性があります。

その場合、本件は有料施設の来場者を対象にもれなく提供することから、総付景品の規制の対象となります(Q61、Q110参照)。」

と、景品類に該当する場合があると逃げの一手を打っていますが、実務的にはこちらの方が大問題です。

そもそもこの設問が想定している、「施設」とか、「特定のスペース」として、具体的にどのようなものを想定するのかによって結論が変わってきそうな問題ですが、例えば、テーマパークの中の特定のスペース(東京ドイツ村の中の「ジージの森」とか)や、美術館の中の、常設展示ではないほうの、特別展示スペースのようなイメージでしょうか。

でも、もしそういうイメージなら、それを総付景品だというのは、ちょっと常識に合わないと思います。

そういう、有料の「施設」の中に、さらに追加料金を払って入る「特定のスペース」がある場合、そもそも「施設」と「特定のスペース」は、両者に高い親和性があり、全体として1つの商品といえる場合が多いのではないでしょうか。

もし1つの商品と言えるなら、「特定のスペース」を無料にするというのは、たんなる値引きです。

そして、それが常識的な感覚なのではないでしょうか。

例えば、上述の東京ドイツ村の場合、本日現在の入場料は大人800円、子供400円で(わりとしょっちゅう変わります😵)、ジージの森の入場料が1人600円ですから、ジージの森を一時的に無料にすることはできないことになってしまいます。

(ちなみに、このジージの森は、いろいろとワイルドな遊びができておすすめです。)

感覚的には、東京ドイツ村のはほかにも有料のアトラクションがたくさんありますし、ジージの森だけが無料になっても、全体で遊ぶ支出が少し減ったくらいの感覚のはずで、ジージの森が景品類だなんて、考えないと思います。

あるいは、東京ドイツ村には無料のアトラクションもたくさんありますから、ジージの森が一時的に無料になっても、普段有料のアトラクションが今日は無料になった、くらいの感覚だと思います。

いったい、このQ&Aの作成者は、どんな場面を想定していたんでしょうね。聞いてみたいものです。

というわけで、このQ&Aの前半の部分は「あまあま」で、要は「特定のスペース」の料金を特定の曜日を無料にするのは景品類にあたらない、ということで、そういう価格設定をしたい事業者には朗報ですが、後半は、まじめにとらえるとものすごい波及効果がありそうな気がします。

2023年7月29日 (土)

マラソン大会の賞金とeスポーツの賞金との違い(消費者庁景品Q&A28番と54番)

6月30日に改訂された消費者庁ウェブサイトの景品に関するQ&Aの28番では、

「Q このたび、イベント企画会社である当社が主催して市⺠向けのマラソン⼤会を実施することになりました。

マラソン⼤会の参加費は5,000円で、上位⼊賞者には賞⾦が提供されます。

マラソンの記録を競うために⼤会に参加費を⽀払って出場し、その結果として賞⾦が提供される場合にも、景品規制の対象となるのでしょうか。」

との設問に対して、

「A 正常な商慣習に照らして取引の本来の内容をなすと認められるものは、「取引に付随」する提供に当たらないことから、景品類ではありません。

本件のマラソン⼤会での賞品が正常な商慣習に照らして取引の本来の内容をなすと認められれば景品規制の対象とはなりませんが、

通常は参加費を⽀払ってマラソンを⾛ることが取引の内容であり、

賞⾦は、その取引に付随して提供される景品類であると考えられます。

したがって、本件は、参加費5,000円の取引に付随して、特定の⾏為の優劣によって賞⾦の提供を受けられるとして、⼀般懸賞の規制の対象となります。

この場合に提供できる景品類の最⾼額は10万円(5,000円の20倍)となり、景品類の総額を懸賞に係る売上予定総額の2%までに収める必要があります(Q61、Q86参照)。

(参照) 「景品類等の指定の告⽰の運⽤基準について」(昭和52年事務局⻑通達第7号)4(4)

「懸賞による景品類の提供に関する事項の制限」(昭和52年公正取引委員会告⽰第3号)第2項、第3項」

と回答されています。

つまり市民マラソンの賞金は景品だ、ということです。

これに対して、Q54では、

「Q いわゆるeスポーツ⼤会で提供される賞⾦については、景品規制の対象とならないと聞いたことがありますが、どのような考え⽅なのでしょうか。」

という設問に対して、

「取引の相⼿⽅に提供する経済上の利益であっても、仕事の報酬等と認められる⾦品の提供は、景品類の提供に当たりません。

eスポーツ⼤会で提供される賞⾦についても、個々の⼤会の実態から、仕事の報酬等と認められるのであれば、景品類の提供に当たらず、景品規制の対象とはなりません。

考え⽅の詳細は、下記を参照してください。

(参照)「法令適⽤事前確認⼿続照会書

法令適⽤事前確認⼿続回答通知書」(消表対620号令和元年9⽉3⽇)」

と回答されています。

つまり、eスポーツ大会の賞金は、「仕事の報酬等と認められるのであれば」景品類にはあたらない、ということです。

(ちなみに、eスポーツ大会の賞金の景品類該当性を問題にしているときの、取引附随性の有無が問題になる本体商品は、大会で用いられるゲーム機です。ノーアクションレターの照会書では、「顧客が5,000円を支払うことによって購入することができるコンピューターゲーム」を本体商品とするという前提で照会がされています。)

この2つのQ&Aは、一見矛盾しているようにも見えますが、要は、賞金が「仕事の報酬等」と認められれば景品類ではないし、認められなければ景品類だ、ということなのでしょう。

もう少し具体的にいうと、マラソン大会のほうは、42.195キロ走れることを中心とした大会に参加者を参加させることが、主催者が提供する役務なのでしょう。

これに対して、eスポーツ大会のほうは、選手にeスポーツの対戦をさせることが提供役務ではありません。

選手の側からいえば、対戦できるという役務提供を主催者から受けるわけではありません。

対戦だけなら、2人でプレイステーションでも使ってテレビゲームをしたらいいだけでしょう。

これに対して、マラソンは、勝手に42.195キロ走ったらいい、というわけにはなかなかいきません。

また、eスポーツ大会は、観客に(基本的には、何らかの意味で有償で)見せるところに存在価値があります。

選手の実技は、そのようなエンターテインメントのインプットに過ぎません。

なので「仕事」なのです。

ノーアクションレターでは、

「本ケースにおいて賞金を受け取る可能性のある選手は、仕事の内容として、高い技術を用いたゲームプレイの実技若しくは実演又はそれに類する魅力のあるパフォーマンスを行い、多数の観客や視聴者に対してそれを見せ、大会等の競技性及び興業性を向上させることが求められている」

とされていますが、選手にとってのパフォーマンスはまさに「仕事」なのでしょう。

これに対して、市民マラソン大会は、基本的に、人に見せるものではありません。

沿道にいる人たちは、あくまで応援しているだけです。

というわけで、eスポーツ大会での競技は「仕事」だけれど、市民マラソン大会の走行は「仕事」ではない、ということになります。

ちなみに、Q&A28番では市民マラソンですが、これが、プロのランナーを招いたマラソンだったら、どうなるのでしょう。

市民マラソンの賞金が景品類になるという場合の本体商品は、主催者が参加者をマラソン大会に参加させる役務です。

かかる役務を参加者は5,000円で購入するわけです。

では、プロのランナーが参加するマラソン大会はどうなのかというと、仮にエントリーフィーを取っていたとしても、プロのランナーは事業者であるということで、賞金は景品類にはあたらない、といえそうな気がします。

もしそうなら、eスポーツの大会で、仮にエントリーフィーを取って、大会に参加させることが本体商品であると解される場合であったとしても、そこに賞金目当て参加するプレイヤーは事業者なので、賞金は景品類に該当しない、ということも可能であるように思われます。

ちなみに、前述のとおりeスポーツ大会における本体商品はゲーム機ですが、マラソン大会には、そのような意味での本体商品はありません。

例えば、マラソンに出るのにナイキの靴を履くことを求めるマラソン大会をナイキが主催したら、本体商品はナイキの靴、ということになりますが、普通のマラソン大会はどの靴を履いても参加できるはずなので、賞金は靴の取引に決して付随しません。

というわけで、似たようなものを2つ比べるといろいろと見えてくるという好例でした。

それから、蛇足ですが、Q28の、

「通常は参加費を⽀払ってマラソンを⾛ることが取引の内容であり、

賞⾦は、その取引に付随して提供される景品類であると考えられます。」

という部分をみて思い出すのは、定義告示運用基準4⑷の、

「(4) 正常な商慣習に照らして取引の本来の内容をなすと認められる経済上の利益の提供は、「取引に附随」する提供に当たらない(例 宝くじの当せん金、パチンコの景品、喫茶店のコーヒーに添えられる砂糖・クリーム)。」

という記述ですね。

ここでは、パチンコの景品は、パチンコの本来の取引の内容である(なので取引に「付随」しない)と述べられています。

つまり、パチンコの場合には景品が取引の内容そのものだけれども、市民マラソン大会の場合には走らせてもらうことが取引の本来の内容であって、賞金はあくまでおまけである、ということですね。

逆に言えば、市民マラソンは走ることを楽しむのがメインの内容だけれど、パチンコは球を弾くのがメインの内容ではない(少なくとも、球を弾くのを楽しむだけではパチンコは成り立たない)、ということです。

パチンコがそういうものとして世の中に定着してしまっている以上、そういう解釈になるのでしょうけれど、世の中に純粋に球を弾くことを楽しむゲームがあってもおかしくないわけで(反対に、理屈の上では、賞金目当てがメインの市民マラソン大会も、あっておかしくはありません)、結局、取引に附随するかどうか(取引の本来の内容かどうか)は、「正常な商慣習」(定義告示1項)に照らして判断するほかない、ということなのでしょう。

2023年7月28日 (金)

ジュリストに寄稿しました。

このたび、ジュリスト2023年8月号(No.1587)に、

「[連載/実践 知財法務]〔第22回〕 不当表示(景表法・不競法)――表示根拠の十分性について」

という論文を寄稿しました。

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奇しくも、改正景表法の特集と同じ号ですので、ご興味のある方はついでに読んで頂けるとありがたいです😃

「実践 知財法務」という連載で不当表示の回の割当をいただいたのですが、不当表示で定番の、「ぼっちゃんあわびでないあわびを『ぼっちゃんあわび』と呼んではいけません。」みたいな切り口では「知財」の連載に載せるのに憚られたので、翠光トップライン東京高裁判決をモチーフにしたCASEを使って不実証広告規制(のオソロシサ)について書くことにしました。

伝熱額の技術的な話が多いので、判決を読むの自体骨が折れましたし、そのエッセンスを抽出してCASEを作るのはさらに骨が折れましたが、この判決の実体的側面に関する評釈はないようですので、実務でお伝えしたいポイントについてはある程度書けたことの価値はそれなりにあるのではないかと思います。

それでも、紙面の都合や連載の性質上で書きたくても書けなかったことは多々あります。

例えば、不実証広告規制はそもそも科学的真実を探求するのに極めて不向きなのではないか、と感じています。

というのは、不実証広告規制は、消費者庁が、表示どおりの性能がないこと(A)を直接証明せずに、提出資料に合理的根拠資料がないこと(B)を立証することで不当表示とみなす制度ですが、事業者の提出資料の合理的根拠資料該当性だけが訴訟では争点になるので、お互いに主張立証を尽くして真実を探求するという構造になりません。

これは、双方にとって窮屈な制度です。

まず、事業者側には、新たな証拠を出せないという、大変大きな縛りがあります。

反対に、消費者庁側も、自ら新たな実験をして表示どおりの効果がないことを直接立証することができません。

もしこれをやれば、違法な理由の差し替えとなるでしょう。

本来であれば(消費者庁が証拠をつかんでいるのであれば)、消費者庁もどんどん実験して証拠を出して、あとは裁判所に判断してもらえばいいのでしょうけれど、主張立証の対象が提出資料の合理的根拠資料該当性の1点に絞られるだけに、そういう主張立証をするわけにはいきません。

そうすると、消費者庁としては、事業者が提出した資料に徹底的にいちゃもんを付ける、というほかに術はありません。

裁判所にとっても窮屈で、裁判所が消費者庁を勝たせようとすると、事業者が出した何十何百といった証拠のいずれもが合理的根拠資料ではないといけなくなります。

というのは、事業者が提出した根拠資料の1つでも合理的根拠資料に該当すると判断すると、消費者庁を負けさせないといけないからです。

そのため、勢い、合理的根拠資料該当性の認定は厳しくなりがちです。

本当は、事業者が提出する資料を総合すると合理的根拠資料と認められるという認定もあり得るはずですが、少なくとも翠光トップライン東京高裁判決はそのような認定方法を採らず、原告提出証拠を1つ1つ検討しています。

他の裁判所でもおそらく同じでしょう。

不実証広告規制にはこのような大きな問題があるのですが、実務上は、少なくとも工業製品の性能については、そのような問題を意識して証拠固めをしておく必要があるでしょう。

2023年7月27日 (木)

1回3000円以上の購入者に懸賞で景品類を提供する場合の売上予定総額に関する消費者庁の解釈変更(旧Q&A60番→新Q&A90番)

6月30日に改訂される前の消費者庁ウェブサイトの景品Q&A60番では、

「Q60  当店はスーパーですが,商品を合計3,000円以上購入してくれた顧客を対象に,抽選で景品を提供したいと考えています。

この場合の懸賞に係る取引の売上予定総額は,

①当店で商品を合計3,000円以上購入する顧客から見込まれる抽選実施期間中の売上予定額,

当店における抽選実施期間中の売上予定額

のどちらで算定すればよいでしょうか。」

という設問に対して、

「A.  懸賞に係る取引の売上予定総額とは,懸賞販売実施期間中における対象商品の売上予定総額を指します。

 本件では,抽選対象を商品を合計3,000円以上購入した顧客に限定しているものの,特定の商品を購入した顧客に限定しているわけではないため,

懸賞に係る取引については,スーパーで販売されるすべての商品の取引が対象となり得ると考えられますので,

本件における懸賞に係る取引の売上予定総額は,

当店における抽選実施期間中の売上予定額

とすることができます。

 なお,抽選対象を単価3,000円以上の商品を購入した顧客とした場合には,

特定の商品を購入した顧客に限定することとなり,

懸賞販売実施期間中における対象商品は単価3,000円以上の商品と考えられますので,

この場合の懸賞に係る取引の売上予定総額は,単価3,000円以上の商品の売上予定額となります。」

と、1回3000円以上の購入者を対象とした懸賞でも、全売上を基準に売上予定総額を算定してよいと回答されていました。

ところが、改訂後のQ90では、

「Q90  当店はスーパーです。当店でキャンペーン期間中に1回の取引で3,000円以上購入してくれた顧客を対象に、抽選で景品を提供したいと考えています。

この場合の懸賞に係る売上予定総額は、どのように算定すればよいでしょうか。」

という設問に対して、

「A 懸賞に係る売上予定総額は、懸賞販売実施期間中における対象商品の売上予定総額を指します。

本件では、抽選対象を、特定の商品を購入した顧客に限定しているわけではないため、

懸賞に係る売上げの対象商品は、スーパーで販売される全ての商品となります。

しかしながら1回の取引につき一定額以上の購入を行う顧客に限定しているため

対象となる顧客は、このスーパーにおいて1回の取引で3,000円以上購入した者となります。

したがって、本件の懸賞に係る売上予定総額は、1回の取引で3,000円以上購入する顧客から見込まれるキャンペーン期間中の売上予定額となります。

なお、例えば、抽選対象を単価3,000円以上の商品を購入した顧客に限定した場合には、特定の商品を購入した顧客に限定することとなります。したがって、この場合の懸賞に係る売上予定総額は、単価3,000円以上の商品を購入する顧客から見込まれるキャンペーン期間中の売上予定額となります。

また、例えば、抽選対象をキャンペーン実施期間中に合計で3,000円以上(レシート合算で3,000円以上)購入した顧客に限定した場合には、

スーパーで販売される全ての商品の取引が対象となり、

対象となる顧客は、この期間中に合計3,000円以上購入した者となります。

したがって、この場合の懸賞に係る売上予定総額は、合計3,000円以上購入する顧客から見込まれるキャンペーン期間中の売上予定額となります。」

と、1回3000円以上の購入者を対象とした懸賞では1回3000円以上購入する顧客からの売上を基準とすべき、というように、解釈が正反対に変更されました。

もともと旧Q&Aの解釈には難があり、新Q&Aのほうが正しいと思います。

念のため懸賞運用基準の文言を確認すると、同運用基準7項では、

「7 告示第三項及び第四項の「懸賞に係る取引の予定総額」について

懸賞販売実施期間中における対象商品の売上予定総額とする。」

と規定されています。

旧Q&Aは、この「対象商品」というのを、文字どおり、懸賞の対象となる商品、つまり、その商品を買うことで懸賞に応募できる商品、と解釈していたとうかがわれます。

というのは、旧Q&Aでは、

特定の商品を購入した顧客に限定しているわけではないため,

懸賞に係る取引については,スーパーで販売されるすべての商品の取引が対象となり得る」

というように、懸賞の対象となる商品かどうかを1回3000円の顧客からの売上に限定しない理由にしていたからです。

これに対して新Q&Aでは、

「1回の取引につき一定額以上の購入を行う顧客に限定しているため、

対象となる顧客は、このスーパーにおいて1回の取引で3,000円以上購入した者となります。」

というように、懸賞の対象となる商品かどうかを基準にするのではなく、懸賞の対象となる顧客かどうかを基準にしています。

なので、厳密に言えば、運用基準7項は、

「懸賞販売実施期間中における懸賞対象顧客からの対象商品の売上予定総額とする。」

とでも改正するのが正しいのでしょうけれど、それくらいは、今の運用基準の文言でも、解釈として十分読み込めると思います。

何より、旧運用基準の結論は、文言に頼った形式論に過ぎ、実質的な根拠を見いだすのは困難であったと言わざるを得ません。

それにしても、これくらい正反対に解釈が変更されるのは珍しいことだと思います。

でも、誤りを正すのに遅すぎるということはありません。

消費者庁の英断というべきでしょう。

今回のQ&Aの改正は、大変踏み込んだ内容のものが多く、痒いところに手が届く感じがしますが、それだけに、突っ込みどころも少なくありません(このブログでも今後ぼちぼち指摘していこうと思います)。

ですが、当たり障りのないQ&Aでは実務では役に立たないことが多いので(例えば、流通取引慣行ガイドラインの灰条項の「公正競争阻害性が認められる場合には違法となる」といった、どっちつかずの表現)、今回の新Q&Aくらい明快に違法かどうかを述べてくれると、たいへん助かります。

事業者としては、差し当たり、Q&Aに従っておけばよいのですから。

Q&Aを一通り読みましたが、グッジョブだと思いました。

2023年7月26日 (水)

紹介者を過去の商品購入者に限定する紹介キャンペーンに関する消費者庁景品Q&A31番の疑問

今年6月30日に大幅拡充された消費者庁景品Q&Aの31番では、

「Q31 いわゆる紹介者キャンペーンとして、新規顧客を紹介してくれた紹介者に提供する謝礼は、景品類に該当しますか。」

という設問に対して、

「A ⾃⼰の供給する商品⼜は役務の購⼊者を紹介してくれた⼈(紹介者)に対する謝礼は、取引に付随する提供に当たらず、景品類には該当しません。

ただし、紹介者を⾃⼰の供給する商品⼜は役務の購⼊者に限定する場合には、取引に付随する提供となり、景品類に該当し、通常、総付景品の規制の対象となります。

例えば、商品Aを購⼊した上で、誰かを紹介することが条件となっている場合であれば、商品Aの取引に付随することになりますので、取引の価額は、商品Aの価格になります(Q61参照)。

また、紹介者を過去に⾃⼰の供給する商品⼜は役務を購⼊してくれた者に限定する場合であれば、今後の取引に付随することになりますので、取引の価額は、この企画を告知した後に発⽣し得る通常の取引のうち最低のものになります(Q10参照)。」

と回答されています。

しかし、私はこの回答のうち、

「また、紹介者を過去に⾃⼰の供給する商品⼜は役務を購⼊してくれた者に限定する場合であれば、今後の取引に付随することになりますので、取引の価額は、この企画を告知した後に発⽣し得る通常の取引のうち最低のものになります(Q10参照)。」

の部分は疑問だと思います。

過去の商品購入者に資格を限定するのであれば、当該過去の商品購入取引に附随した経済上の利益(景品類)の提供ということにならざるをえないと思われます。

それがどうして、今後の取引に附随することになるのか、理由が不明です。

このQ&A集のほかの設問では、取引附随性に関して、商品役務の購入に「直ちにつながるもの」でなければ取引附随性は認められない、ということが繰り返し述べられています(Q18、19、20、21、22、23、24)。

そうなのであれば、このQ31でも、過去の商品購入は今後の取引に直ちにつながるものではないため(今後の取引との)取引附随性は認められない、となるはずです。

ここで注意点は、事象Xが取引に「直ちにつながるもの」かどうかを判定する際には、事象Xを満たすことで景品が提供されるかどうかは考慮してはならない、ということです。

つまり、景品による顧客誘引力を前提に、何らかの取引に「直ちにつながるもの」かどうかを判断するのではなく、事象Xそれ自体が、何らかの取引に「直ちにつながる」かどうかを判断しなければなりません。

例えば、上で引用したQ18は、

「SNSにおいて当社アカウントをフォローし、「いいね」を押すことで応募ができる懸賞企画を考えています。告知は当社ホームページとSNSで⾏い、景品は当選者に郵送します。

この企画は景品規制の対象になるのでしょうか。」

という設問ですが、該当箇所では、

「取引を条件として経済上の利益を提供する場合だけではなく、取引を条件としない場合であっても、経済上の利益の提供が取引の相⼿⽅を主たる対象として⾏われるときには「取引に付随」する提供に当たります。

〔中略〕

本件のように、SNSのアカウントのフォローや「いいね」を押すことは、通常、商品・サービスを購⼊することに直ちにつながるものではありません。〔中略〕

したがって、本件は、他に取引につながる蓋然性が⾼いと認められる事情がない限り、告知から景品提供まで⼀切取引に付随せず、景品規制の対象にはなりません。」

と回答されています。

つまり、ここでは、「SNSのアカウントのフォローや「いいね」を押すこと」自体(=事象X)が、商品役務の購入につながるかどうかを問うているわけで、SNSのアカウントのフォローや「いいね」を押したら経済上の利益がもらえることで商品役務の購入につながるかどうかを問うているのではありません。

そうすると、Q31でも、過去に取引をした事実(=事象X)があれば将来の商品購入に直ちにつながるかどうかを問題にすべきであり、答えはもちろん、直ちにつながらない、でしょう。

というわけで、理屈の上ではこのQ31は、私は間違いだと思います。

ではこのQ31は全く無視してよいのかというと、「消費者庁がそう言っているのだから守るべき」という点を措くとしても、なかなか微妙なところだと思います。

というのは、このQ31の結論は妙に収まりがよいので、これはこれで、こういうルールにすると決めたのならそれもありかな、と思えてくるのです。

逆に言うと、これ以外の結論は、ちょっと収まりが悪い気がします。

1つの割り切りは、過去の取引なのだから紹介の謝礼は一切景品類に該当しない、とすることです。

しかし、こう考えたときにすぐに浮かぶ疑問は、過去の購入者と、これから購入する人に、紹介者を限定したときに、対象者に過去の購入者という取引附随性が認められないグループがいる以上、全体として、取引附随性なしになると考えざるを得ず、これは結論として妥当ではないのではない(収まりが悪い)のではないか、ということです。

Q31の結論を擁護したくなるもう1つの理由は、Q31は1回限りの過去の商品購入を想定しているように見えるものの、世の中でこの手の紹介キャンペーンが行われるのは、フィットネスクラブなど、継続的な取引の場合が多く、そういう場合に、

「取引の価額は、この企画を告知した後に発⽣し得る通常の取引のうち最低のものになります。」

という結論は、何とも良い塩梅で妙な納得感があるからです。

それでもやはり、個人的には、Q31は間違いであり、将来の取引との取引附随性はない、と考えるべきだと思います。

上述の、紹介者を過去の購入者(会員)と現在の購入者(会員)に限るケースは、全体として取引附随性無しと割り切るべきでしょう。

そうすると、企画の告知を見て紹介の謝礼に惹かれて取引に入る消費者も出てくるでしょうが、どうしてもそれを景品規制で縛らないといけないというほどの実害もないと思われます。

2023年7月21日 (金)

ビッグモーターによる下請への車検強要について

NHKのニュースサイトによると、保険金の不正請求が報じられいているビッグモーターが、下請業者に対して、自社で車検を受けるように強要していたとのことです。

下請け業者 “車検など強要された”と証言」(2023年7月20日 19時25分)

もしこの「下請け業者」というのが、下請法上の下請事業者の定義に該当するのであれば、車検を受けることを強要するこのような行為は、下請法4条1項6号の購入・利用強制の禁止に該当し、下請法違反です。

同号では、

 下請事業者の給付の内容を均質にし又はその改善を図るため必要がある場合その他正当な理由がある場合を除き、自己の指定する物を強制して購入させ、又は役務を強制して利用させること。」

と規定されており、「自己の指定する・・・役務を強制して利用させること」に該当するわけです。

ビッグモーターの資本金は4億5000万円ということなので、少なくとも資本金額の点では、同社は親事業者に該当しそうです。

実際に購入・利用強制で勧告がされた事例としては、株式会社日本セレモニーに対する勧告(平成28年6月14日)があり、

「株式会社日本セレモニーは,業として消費者から請け負う結婚式の施行に係るビデオの制作及び冠婚葬祭式の施行に係る司会進行,美容着付け,音響操作等の実施を下請事業者(個人又は法人)に委託しているところ,

平成26年5月から平成27年11月までの間,

下請事業者の給付の内容と直接関係ないにもかかわらず,

下請事業者に対し,上記下請取引に係る交渉等を行っている冠婚葬祭式場の支配人又は発注担当者から,

おせち料理,ディナーショーチケット等の物品(以下「おせち料理等」という。)の購入を要請し,

あらかじめ従業員又は冠婚葬祭式場等ごとに定めていた販売目標数量に達していない場合には再度要請するなどして,購入要請を行っていた。」

と認定されています。

仮に下請けが下請法の資本金要件を満たさなくても、優越的地位の濫用の疑いがあります。

公正取引委員会による徹底的な調査を期待します。

2023年7月17日 (月)

プラットフォーム提供者による景品企画に関する改訂版消費者庁景品類Q&A13番に対する疑問

今年の6月30日に消費者庁ウェブサイトの景品類に関するQ&Aが大幅に拡充されましたが、そのQ13の内容は、私は疑問だと思います。

Q13では、

「当社はあるサービスについて、事業者と消費者をマッチングするプラットフォームを提供しています。

消費者は無料の会員登録のみでこのプラットフォームを利⽤することができます。

このたび、このプラットフォームに掲載されている事業者とのマッチングが成功し成約に⾄った消費者に対し、もれなく当社から景品を提供したいと考えています。

当社のプラットフォームの利⽤に当たり、消費者は料⾦を⽀払っていませんし、取引につながる要素はありませんので、当社が提供する景品は取引に付随する提供には該当せず、景品規制の対象にはなりませんか。」

という質問に対して、

「⼩売業者⼜はサービス業者が、⾃⼰の店舗への⼊店者に対し景品を提供する場合、経済上の利益の提供が、取引の相⼿⽅を主たる対象として⾏われていることから、「取引に付随」する提供に当たりますが、

⼩売業者⼜はサービス業者の店舗への⼊店者に対し他の事業者景品提供を⾏う場合であっても、

のような場合は⼩売業者⼜はサービス業者「取引に付随」する提供に当たるとされています。

⼩売業者⼜はサービス業者

〇他の事業者に対して協賛、後援等の特定の協⼒関係にあって共同して経済上の利益提供していると認められる場合

〇他の事業者をして経済上の利益を提供させていると認められる場合

本件は、消費者が無料の会員登録のみでこのプラットフォームを利⽤することができるとのことですので、

景品を提供する相談者と消費者との間には取引関係がないことを前提とすれば

相談者景品の提供を⾏うに当たり取引を条件としておらず、また、取引の相⼿⽅を主たる対象ともしていませんので、

相談者提供する景品とみれば景品規制の対象とはなりませ

しかしながら、本件企画については、プラットフォームに掲載されている事業者(以下「掲載事業者」といいます。)との成約件数増加につながるものであることから、

上記の考え⽅を基にすれば、

相談者と掲載事業者が特定の協⼒関係にあり、共同して経済上の利益を提供していると認められる可能性が⾼いと考えられます。

したがって、本件を掲載事業者提供する景品とみれば

掲載事業者は、景品の提供を⾏うに当たり⾃⾝の供給するサービスの契約を条件としていますから、

本件は、掲載事業者の取引に付随する提供として、総付景品の規制の対象となります。

この場合の取引価額は掲載事業者が供給するサービスのうち最も安いものとなり、提供できる景品類の最⾼額はその10 分の2までとなります。(Q63、Q64、Q110参照)。」

と回答されています。

問題なのは、

「本件企画については、・・・掲載事業者・・・との成約件数増加につながる」

ことから直ちに、

「相談者と掲載事業者が特定の協⼒関係にあり、共同して経済上の利益提供していると認められる可能性が⾼い」

という結論を導いていることです。

まず、私の経験として、プラットフォーム事業者が、掲載事業者(出店者)の関与しないところで企画を立案し、景品の内容も決定し、景品の原資も負担し、掲載事業者(出店者)に対しては、企画に参加するかどうかを問い合わせるだけ(場合によっては、問い合わせすらせず実施する)、ということは、それなりにあります。

むしろ、微妙なケースでは、

「出店者に企画に関与させると出店者の景品類になるので、できるだけ関与させないようにして下さいね。」

というアドバイスを普通にします。

次に、そもそも、

「掲載事業者・・・との成約件数増加につながる」

からといって、

「相談者と掲載事業者が特定の協⼒関係にあ(る)」

と認定するのは、論理の飛躍があります。

少なくとも、「成約件数の増加につながる」という程度の緩い因果関係で認められてしまうような「特定の協力関係」の存在だけを根拠に、「共同して経済上の利益〔=景品類〕を提供している」として掲載事業者の景品類提供主体性を認めてしまうのは、極めて乱暴です。

単純化して言えば、Q&Aの立場は、

掲載事業者の成約件数の増加→掲載事業者の景品類提供主体性肯定

あるいは、

財Xの提供→事業者Aの売上増加→AがXを提供

という認定をしているわけですが、こういう認定が許されてしまうなら、例えば、

浜松祭りのパレードに松潤(=財X)を呼んだら、沿道の商店Aの売上が増えたので、松潤を呼んだのは商店Aだ

という、無茶苦茶な理屈になりかねません。

社会的な事実としては、松潤を呼んだのは浜松祭りの実施主体(浜松祭り実行委員会?)だというべきでしょう。

浜松祭り実行委員会(≒プラットフォーム運営事業者)と、商店A(≒掲載事業者)との間には、何らかの協賛関係(=「協賛、後援等の特定の協⼒関係」)があるかもしれませんが、いずれにせよ、それだけで、商店Aが松潤を呼んだことにならないのは明らかでしょう。

というわけで、

掲載事業者の成約件数の増加→掲載事業者の景品類提供主体性肯定

あるいは、

財Xの提供→事業者Aの売上増加→AがXを提供

という認定は、一般論としては成り立たないし、景品規制のあり方としても妥当ではないと考えます。

次に、もしこのQ&Aのような考え方をすると、掲載事業者が景品類の提供に積極的に同意していなくても掲載事業者が景品類の提供主体になってしまい、妥当ではありません。

そのあたりが、Q&Aの考え方ではまったく考慮されていません。

次に、Q&Aの回答では、

上記の考え⽅を基にすれば」

と言いますが、そこでの、「上記の考え方」というのは、

「⼩売業者⼜はサービス業者〔≒掲載事業者〕

〇他の事業者〔≒プラットフォーム運営事業者〕に対して協賛、後援等の特定の協⼒関係にあって共同して経済上の利益提供していると認められる場合

〇他の事業者〔≒プラットフォーム運営事業者〕をして経済上の利益を提供させていると認められる場合」

には、

「⼩売業者⼜はサービス業者〔≒掲載事業者〕「取引に付随」する提供に当たる」

という考え方であるところ、この「考え方」とQ&Aの説明が噛み合っていません。

まず、Q&Aでは、「特定の協力関係」と述べていることから、1つめの、

「〇他の事業者〔≒プラットフォーム運営事業者〕に対して協賛、後援等の特定の協⼒関係にあって共同して経済上の利益提供していると認められる場合」

であることが根拠になっていることが明らかであるところ、Q&Aのような事例では、普通、掲載事業者がプラットフォーム運営事業者に対して「協賛、後援等」をするということは考えられません。

むしろ、プラットフォーム運営事業者が掲載事業者に対して「協賛、後援等」をすることなら、あるかもしれません。

しかし、その場合、どこまで行っても景品類の提供主体はプラットフォーム運営事業者ということになってしまいます。

それにもかかわらず、掲載事業者の売上が増えるというだけで、掲載事業者がプラットフォーム運営事業者に対して「協賛、後援等の特定の協力関係」にあるというのがQ&Aの立場ということになりますが、そのような結論は、

「〇他の事業者〔≒プラットフォーム運営事業者〕に対して協賛、後援等の特定の協⼒関係にあって共同して経済上の利益提供していると認められる場合」

という規範からは決して出てこないでしょう。

これを、Q&Aは、

「本件企画については、・・・掲載事業者・・・との成約件数増加につながる」

ことから、

「相談者と掲載事業者が特定の協⼒関係にあり、共同して経済上の利益を提供していると認められる可能性が⾼い」

と認定しているわけですが、そのようなことを、「上記の考え方」は、まったく述べていません。

つまり、「上記の考え方」が述べているのは、「⼩売業者⼜はサービス業者」が、

「〇他の事業者〔≒プラットフォーム運営事業者〕に対して協賛、後援等の特定の協⼒関係にあって共同して経済上の利益提供していると認められる場合」

には、小売業者は景品類の提供主体となるとは言っていますが、小売業者(≒掲載事業者)の「成約件数の増加につながる」場合にはそのような「特定の協力関係」が認められるなどとは、一言も言っていません。

日本語の問題としても、

「事業者P〔≒プラットフォーム運営事業者〕の行為が事業者Q〔≒掲載事業者〕の売上を増やす関係」

というのは、客観的事実としてそのような因果関係があるというだけのことであり、そのような関係を「協力関係」という日本語に読み込むのは到底無理です。

いわば、「成約件数の増加につながる」という関係を、「協賛、後援等」の「等」に読み込むことはできません。

では、何らの「協力関係」もないのに、事業者P〔≒プラットフォーム運営事業者〕が、事業者Q〔≒掲載事業者〕のために景品を付けてあげる理由やインセンティブがあるのかといえば、十分にあります。

というのは、プラットフォーム運営事業者は、自己のプラットフォームでの成約件数が増えれば、需要者(事業者サイドと消費者サイドの両方)にとっての自己のプラットフォームの魅力が増すからです。

つまり、プラットフォーム運営事業者は、完全に利己的であっても、このような景品提供をする理由とインセンティブがあるのです。

もっとよく考えると、このようなことは通常のメーカーと小売店との間にも成り立ちます。

つまり、メーカーが、自社の製品に景品類を付けて販売すれば、その製品の小売店を通じた売上は伸びるでしょう。

でも、このような場合に、小売店の売上げが伸びるというだけで、メーカーと小売店との間に「特定の協力関係」があって、小売店が当該景品類の提供主体になるなどとは、誰も考えないでしょう。

現に、緑本第6版p219では、

「メーカーが出荷段階において商品の包装箱に景品類を封入しておく場合」

は、

「小売業者がメーカーの企画に全く参画せず、単に仕入れた包装箱の状態でそのまま販売している場合には、小売業者は、景品提供の主体であるとはいえない」

として、小売業者の景品提供主体性が認められない典型例として例示しています。

この緑本の例では、景品類が物理的に小売業者の手を通って消費者にわたるのにもかかわらず小売業者が景品類の提供主体とはならないとしているのですから、Q&Aのように、景品類がプラットフォーム運営事業者から消費者に直接渡ることが想定されている場合には、なおさら掲載事業者の関与は少ない、ということも十分考えられます。

実際、Q&Aの設問のケースでも、掲載事業者が、プラットフォーム運営事業者の「企画に全く参画せず」ということは、十分にありうることだと思われます。

(「参画」というのも、評価が混じる表現なのでさまざまに解せますが、少なくとも、掲載事業者が、企画の内容の決定に全く関与せず、費用も負担せず、ただ参加不参加の返事だけをする、あるいはそのような返事もなしにプラットフォーム事業者が景品類を提供する、ということは、世の中にいくらでもあると思われ、そのような場合でも「参画」したというのは、「参画」の意味として広すぎると思われます。)

少なくとも、Q13の設例は、緑本p219で小売業者の景品類提供主体性を認める典型例とされている、

「②メーカーが小売業者にスピードくじを渡しておき、当該商品の購入者に対し小売業者の店舗で抽選して、当選者に小売業者の供給するその他の商品を景品類として提供する場合」

というのには、掲載事業者の関与は程遠いと思われます。

まとめると、Q13は、小売店でのある商品の売上げが伸びれば当該商品のメーカーの売上も伸びるという、通常の取引関係がある当事者であれば当然に認められるに過ぎない関係をもって、「特定の協力関係」とみなすという誤謬を犯している、ということです。

どうしてQ&Aが(私の目から見るとかなり明白な)誤りを犯してしまったのかを想像すると、たぶん、消費者庁の担当者の頭の中に、プラットフォーム事業者が掲載事業者のために提供する景品類というもののイメージがあり、そのイメージに強く引きずられてしまったために、Q&Aに書いた文書を自分で客観的に分析できなかったのではないか、と想像されます。

でも、それではルール・メーカーとして失格でしょう。

以上がQ13に対する評価ですが、そのほか同Q&Aを読む際の注意点をいくつか挙げておきます。

まず、Q13は、掲載事業者とプラットフォーム運営事業者との間に「特定の協力関係」が認められる場合であっても、景品類の提供主体はあくまで商品役務を提供する掲載事業者だけであり、プラットフォーム運営事業者は景品規制の対象にはならない、という立場を貫いています。

これは、

「⼩売業者⼜はサービス業者の店舗への⼊店者に対し他の事業者景品提供を⾏う場合であっても、

次のような場合は⼩売業者⼜はサービス業者「取引に付随」する提供に当たるとされています。

⼩売業者⼜はサービス業者

〇他の事業者に対して協賛、後援等の特定の協⼒関係にあって共同して経済上の利益を提供していると認められる場合

〇他の事業者をして経済上の利益を提供させていると認められる場合」

というように、「取引に附随」するところの商品役務はあくまで、「⼩売業者⼜はサービス業者」商品役務だとされていることや、

「〇他の事業者に対して協賛、後援等の特定の協⼒関係にあって共同して経済上の利益を提供していると認められる場合

〇他の事業者をして経済上の利益を提供させていると認められる場合」

の主語が「⼩売業者⼜はサービス業者、」であることからもわかりますし、さらに結論部分で、

「したがって、本件を掲載事業者が提供する景品とみれば、掲載事業者は、景品の提供を⾏うに当たり⾃⾝の供給するサービスの契約を条件としていますから、本件は、掲載事業者の取引に付随する提供として、総付景品の規制の対象となります。」

と、本件が総付規制の対象になるのはあくまで上記のような特定の協力関係に基づき「本件を掲載事業者が提供する景品とみ」ることができる場合であることを明言していることからも、わかります。

逆に言うと、Q13は、仮に商品役務を提供しない事業者Aと、商品役務を提供する事業者Bの間に「特定の協力関係」が認められて、事業者Aと事業者Bが共同で景品類を提供する関係にある場合であっても、当然に当該商品役務を事業者AとBが共同で供給しているとみなされることはなく、景品規制に違反するのは商品役務を提供している事業者Bだけである(事業者Aはお咎め無し)、という理解を当然の前提にしています。

これは、これまでの消費者庁の見解と異ならず、妥当なものと考えられます。

景品類を共同で提供しており、商品役務も共同で供給している、という例も世の中にはなくはないのかもしれませんが、決して多くはないと思います。

(この点については、以前、「景表法における共同販売(商品共同供給)の意味」という記事を書きましたので、合わせてご覧下さい。)

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