不実証広告規制の主張立証構造
景表法7条1項では、
「 第七条 内閣総理大臣は、第四条の規定による制限若しくは禁止又は第五条の規定に違反する行為があるときは、当該事業者に対し、その行為の差止め若しくはその行為が再び行われることを防止するために必要な事項又はこれらの実施に関連する公示その他必要な事項を命ずることができる。〔以下省略〕」
と規定され、同条2項では、
「2 内閣総理大臣は、前項の規定による命令に関し、事業者がした表示が第五条第一号に該当するか否かを判断するため必要があると認めるときは、
当該表示をした事業者に対し、
期間を定めて、当該表示の裏付けとなる合理的な根拠を示す資料の提出を求めることができる。
この場合において、当該事業者が当該資料を提出しないときは、同項〔7条1項〕の規定の適用については、当該表示は同号に該当する表示とみなす。」
と規定されています。
2項がいわゆる不実証広告規制の規定です。
ここでは、優良誤認表示であることの主張立証責任が事業者に転換されているわけではありません。
本来、消費者庁が、優良誤認表示であることを主張立証しなければならないところ、優良誤認表示であることを主張立証しなくても、事業者が期限までに合理的根拠を示す資料(合理的根拠資料)を提出しなかったことを主張立証すればよい、ということです。
主張立証の対象が、
優良誤認表示であること
から、
提出資料が合理的根拠資料でないこと
に変更になるわけです。
この点を商法509条の諾否の通知義務を例に説明すると、商法509(条契約の申込みを受けた者の諾否通知義務)1項では、
「商人が平常取引をする者からその営業の部類に属する契約の申込みを受けたときは、遅滞なく、契約の申込みに対する諾否の通知を発しなければならない。」
と規定されており、同条2項では、
「2 商人が前項の通知を発することを怠ったときは、その商人は、同項の契約の申込みを承諾したものとみなす。」
と規定されています。
ですので、申込者が契約の成立を主張立証するためには、
①実際に商人が承諾の意思表示をしたことを主張立証してもよいし(現実の承諾)、
②当該商人が遅滞なく契約の申込に対する諾否の通知を発しなかったことを主張立証してもよい(みなし承諾)、
ということになります。
同様に、措置命令を出す消費者庁は、
①表示が優良誤認表示であることを主張立証してもよいし、
②合理的根拠資料の提出がなかったことを主張立証してもよい、
ということになります。
ただし、理論的には、みなしの効力が生じるということと、みなしの原因事実(合理的根拠資料でないこと)の主張立証責任をどちらが負うのかは別の話です。
この点、諾否の通知義務の場合には、みなしの原因事実が、商人が承諾の通知を発するのを怠ったことであり(発信主義。『コンメンタール商行為法』97頁)、発した事実の有無を申込者に主張立証させるのは無理な話なので、承諾の通知を発したことの主張立証責任を商人(ここでは、みなしにより不利益を受ける側)のほうが負うべきでしょう。
これに対して、不実証広告規制の場合には、合理的根拠資料でないことの主張立証責任を消費者庁が負うと解すべきでしょう。
なぜなら、不利益処分をする場合の主張立証責任を行政が負うのは当然のことだからです。
主張立証の対象が、みなし規定により、優良誤認表示該当性から、合理的根拠資料該当性に移ったからといって、不利益処分を受ける側が主張立証責任を負わなければならない理由はありません。
また、このように解しても、もし不実証広告規制がなければ消費者庁が自ら実験等をして表示と実際の不一致を立証しなければならなかったところ、同規制があるために、提出された資料が合理的根拠資料でないことだけを立証すればいいのですから、十分に的は絞られており、消費者庁側の負担の軽減により簡易迅速に措置命令を出すという不実証広告規制の趣旨は十分に保たれているというべきでしょう。
その上さらに、合理的根拠資料であることの主張立証責任まで事業者に負わせるのは、いくらなんでも行き過ぎでしょう。
景表法7条2項の規定振りをみても、
「この場合において、当該事業者が当該資料を提出しないときは、同項の規定の適用については、当該表示は同号に該当する表示とみなす。」
と、合理的根拠資料の提出の不存在をみなしの根拠事実としており、不存在を消費者庁が主張立証すべきと解するのが自然です。
なお、以上の主張立証責任の点については、加藤公司他編著『景品表示法の法律相談〔改訂版〕』(2018年・青林書院)196頁〔籔内俊輔執筆部分〕が、結論において同旨を述べています。
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