« 2023年5月 | トップページ | 2023年7月 »

2023年6月

2023年6月28日 (水)

ステマガイドライン目次

第1 「一般消費者が事業者の表示であることを判別することが困難である表示」の規制趣旨

第2 告示の「事業者が自己の供給する商品又は役務の取引について行う表示」についての考え方

1 事業者が表示内容の決定に関与したとされるものについて

⑴ 事業者が自ら行う表示について【なりすまし型】

 ア〔一体の従業員など〕

 イ〔事業者内の地位等を考慮〕

 (ア)〔該当例・販促必要者〕

 (イ)〔非該当例・必要ない者が公知情報使う場合〕★

⑵ 事業者が第三者をして行わせる表示について【利益提供秘匿形】 P3

 ア〔内容の決定に関与〕

 (ア)〔第三者のSNS・口コミサイト〕

 (イ)〔ブローカー、購入者〕

 (ウ)〔アフィリエイト〕

 (エ)〔競合低評価〕★

 イ〔明示的依頼なし。内容決定関係性(自主性否定関係性)〕★p2

 (ア)〔当該商品★無償提供〕p3 

 (イ)〔言外〕

2 事業者が表示内容の決定に関与したとされないものについて p3

〔第三者の自主的意思と客観的に認められる場合〕

⑴〔自らの嗜好/自主的な意思⇒①情報やり取り、②依頼・指示、③対価、④期間〕

 ア〔自主的SNS〕 p5

 イ〔★無償提供+自主的SNS〕p6

 ウ〔情報やり取り無いアフィリエイト〕

 エ〔自主的ECサイトレビュー〕

 オ〔ECサイトレビュー謝礼クーポン+情報やり取り無し+自主的〕

 (注)〔誤記〕

 カ〔懸賞応募+自主的〕

 キ〔サイト一部で第三者表示の引用=恣意無く+変更無し〕

 ク〔不特定第三者に試供品+自主的〕p7

 ケ〔会員に試供品+自主的〕

 コ〔内容決定関係性無し+表示目的無し+自主的〕

⑵〔媒体の自主企画〕

 ア〔記事、書評、番組含む〕p7

 イ〔取材協力費が過大だと、内容決定関与★〕p7

第3 告示の「一般消費者が当該表示であることを判別することが困難である」についての考え方

1 一般消費者にとって事業者の表示であることが明瞭となっていないものについて

⑴ 事業者の表示であることが記載されていないものについて

⑵ 事業者の表示であることが不明瞭な方法で記載されているものについて

2 一般消費者にとって事業者の表示であることが明瞭となっているものについて

 ア〔「広告」、「宣伝」、「プロモーション」、「PR」〕

 イ「A社から商品の提供を受けている」★

⑵〔社会通念上明らかな例〕

 ア〔CM〕

 イ〔エンドロール〕

 ウ〔新聞広告欄の「広告」〕

 エ〔商品紹介目的の雑誌〕★

 オ〔事業者自身のウェブサイト〕

 (ア)〔事業者サイト内の専門家意見〕

 (イ)〔「弊社から○○先生に依頼」〕

 カ〔事業者のSNS〕

 キ〔観光大使〕

第4 その他

2023年6月26日 (月)

商品無償提供とステマに関する運用基準の矛盾

ステマ運用基準第2の1⑵イ(ア)では、

「(ア) 事業者が第三者に対してSN Sを通じた表示を行うことを依頼しつつ、

自らの商品又は役務について表示してもらうことを目的に、

当該商品又は役務を無償で提供し、

その提供を受けた当該第三者が当該事業者の方針や内容に沿った表示を行うなど、

客観的な状況に基づき、当該表示内容が当該第三者の自主的な意思によるものとは認められない場合」

というのが、

「事業者が第三者に対しである内容の表示を行うよう明示的に依頼・指示していない場合であっても、事業者の表示とされる場合」

の例として挙げられています。

他方、第2の2⑴イでは、

「イ 事業者が第三者に対して自らの商品又は役務を無償で提供し、SNS等を通じた表示を行うことを依頼するものの、

当該第三者が自主的な意思に基づく内容として表示を行う場合」

というのが、

「『客観的な状況に基づき、第三者の自主的な意思による表示内容と認められる場合』、つまり、事業者の表示とならない場合」

の例として挙げられています。

何かの間違いではないかと思うくらい真正面から反対のことを言っていますが(笑)、どう理解すれば良いのでしょう?

これだと、商品を無償提供して表示させるのがステマかどうかは、結局、第三者の意思次第、ということになりそうです。。。

2023年6月25日 (日)

商品の無償提供とステマ(クリップ集)

インフルエンサーなどに商品を無償提供することがステマにあたるのではないかという問題について、ステマ運用基準とパブコメの記載を整理しておきます。

ステマ運用基準もパブコメ回答もなかなか歯切れが悪いのですが、一言で言えば、

①表示の内容について情報も希望も一切伝えず、かつ、

②「第三者の表示内容について、事業者と第三者との間に第三者の自主的な意思による表示内容とは認められない関係性」がない

ならOK(いちおう、「内容決定関係性基準」と呼んでおきます。ガイドライン第2の1⑵イ参照)、ということのようです。

ただ、商品の無償提供を含む利益の提供は内容決定関係性の存否(ひいては、「事業者の表示」性の存否。パブコメ88番※参照)を認定する一要素に過ぎないので、利益提供をしているだけで内容決定関係性が認められるわけではない、ということは論理的に言えそうです。

(※パブコメ88番では、

「【運用基準案第2の1(2)イについて】

日本弁護士連合会の「ステルスマーケティングの規制に関する意見書」では、「事業者が第三者に金銭の支払その他の経済的利益を提供して表示させているにもかかわらず,その事実を表示しないもの」(利益提供秘匿型)を不当景品類及ぴ不当表示防止法第5条第3号に基づく内閣総理大臣の指定に追加すベきとしています。これに対して、運用基準案は、事業者(広告主)による対価や経済上の利益の提供について、「当該事業者と当該第三者との聞に当該第三者の自主的な意思による表示とは客観的に認められない関係性がある』か否かを判断する際の考慮要素の1っとして挙げているものの(第2の1⑵イ)、利益提供秘匿型が常に規制対象となるとは明示していないように思われます。この点について、事業者から第三者に対価や経済上の利益の提供があったとしても、その事実のみを理由に「当該事業者と当該第三者との聞に当該第三者の自主的な意思による表示とは客観的に認められない関係性がある」と認定されるものではなく、その他の考慮要素も踏まえて総合的に判断される(つまり、利益提供秘匿型に相当する状況であっても「事業者の表示』に当たらない場合もあり得る)と理解してよいでしょうか。予見可能性を高めるために、運用基準で明示していただくべきと考えます。」

とのコメントに対して、

「御理解のとおりです。本告示において問題となるのは、事業者の表示であるか否かであり、対価や経済上の利益の提供はその判断に当たっての考慮要素となりますが、それ自体要件ではありません。この旨、既に本運用基準に記載しているところです。」

と回答されています。)

では見ていきましょう。

ステマ運用基準は、商品の無償提供について、

「事業者が第三者に対してSNSを通じた表示を行うことを依頼しつつ、

自らの商品又は役務について表示してもらうことを目的に、

当該商品又は役務を無償で提供し、

その提供を受けた当該第三者が当該事業者の方針や内容沿った表示を行うなど、

客観的な状況に基づき、当該表示内容が当該第三者の自主的な意思によるものとは認められない場合。」(第2の1⑵イ(ア))

「事業者が第三者に対してある内容の表示を行うよう明示的に依頼・指示していない場合であっても、事業者の表示とされる場合」

の例として挙げ、

「イ 事業者が第三者に対して自らの商品又は役務を無償で提供し、

SNS等を通じた表示を行うことを依頼するものの、

当該第三者が自主的な意思に基づく内容として表示を行う場合。」(第2の2⑴イ)

を、

「『客観的な状況に基づき、第三者の自主的な意思による表示内容と認められる場合』、つまり、事業者の表示とならない場合」

の例として挙げています。

第2の1 (2)イ(ア)については、パブコメ67番で、

「事業者がクリエイタ一等に対して表示を行うように明示的に依頼・指示せに、

当該クリエイタ一等に当該事業者の商品又は役務を無償で提供したにすぎない場合、

当該クリエイタ一等が自己のSNSアカウント等で情報発信を行うか否かは、あくまで当該クリエイタ一等の自主的な意思により判断がなされるものであることがほとんどである。

当該クリエイタ一等が自主的な意思により当該商品又は役務に関する情報発信を行う場合であっても、

結果的に当該事業者の目的に沿う表示となってしまうことは、当該事業者が、SNSやTV等で、消費者に対し、当該商品又は役務のイメージを広く浸透させている以上、しばしば発生することである。

そのため、

「事業者から第三者に対して、当該事業者の商品又は役務について表示してもらうことを目的に、当該商品又は当該役務を無償で提供するなどの結果として、当該第三者が当該事業者の目的に沿う表示を行う」

ことを、

「当該表示が当該第三者の自主的な意思による表示とは客観的に認められない場合」

の例示とすることは不適切である。

クリエイタ一等による投稿等の実態を踏まえて、事業者の表示となるかどうかを判断されたい。」

というコメントに対して、

「景晶表示法は、事業者の表示が不当表示に当たる場合を禁止するものであるところ、

第三者の表示が事業者の表示となるかの判断に当たっては、本運用基準にも記載のとおり、

事業者が第三者の表示内容決定に関与したと認められる場合であり、

お尋ねの

結果的に当該事業者の目的に沿う表示となってしまうこと」

自体をもって、事業者の表示となることはありませ

また、この考え方を本運用基準において明確にするために修正いたします。」

との回答がなされました。

どういう変更だったのかというと(新旧対照表8頁参照)、原案では、

「事業者が第三者に対して表示を行うよう明示的に依頼・指示していない場合であっても、事業者の表示とされる場合としては、例えば、以下のような場合が考えられる。

(ア) 事業者が第三者に対して、当該事業者の商品又は役務について表示してもらうことを目的に、当該商品又は当該役務を無償で提供するなどの結果として、当該第三者が当該事業者の目的に沿う表示を行うなど、当該表示が当該第三者の自主的な意思による表示とは客観的に認められない場合。」

というのだったのが、成案では、

「事業者が第三者に対してある内容の表示を行うよう明示的に依頼・指示していない場合であっても、事業者の表示とされる場合としては、例えば、以下のような場合が考えられる。

(ア) 事業者が第三者に対してSNSを通じた表示を行うことを依頼しつつ、自らの商品又は役務について表示してもらうことを目的に、当該商品又は役務を無償で提供し、その提供を受けた当該第三者が当該事業者の方針や内容に沿った表示を行うなど、客観的な状況に基づき、当該表示内容が当該第三者の自主的な意思によるものとは認められない場合。」

となりました。(下線は変更箇所の全部ではなく、私の注目ポイントです。)

これをみると、原案では、自主的な意思というのが、表示をすることについての自主的な意思だというニュアンスが強く出ていたのが、成案では、自主的な意思というのは、表示の内容についての自主的な意思だという点が強調されています。

次に、パブコメ83番では、

「《対象:第2の1⑵イ(ア)》

『事業者が第三者に対して、当該事業者の商品または役務について表示してもらうことを目的に、当該商品又は役務を無償で提供するなどの結果として』との記載について、

試供品や、本来の内容に比し短時間にとどめる役務など、通常の商品や役務とは言えないものを無償で提供したとしても、『当該第三者の自主的な意思による表示とは客観的に認められない場合』と言えないと解してよいか。

そうであれば、運用基準に具体例として追記されたい。」

というコメントがなされて、これに対して、

「お尋ねの試供品の配布については、既に運用基準に記載しているとおり、第三者の自主的な意思による表示と客観的に認められる場合は、事業者の表示とはなりません。」

と回答されています。

ここで、「既に運用基準に記載しているとおり」というのは、運用基準第2の2⑴クの、

「ク 事業者が不特定の第三者に対して試供品等の配布を行った結果、当該不特定の第三者が自主的な意思に基づく内容として表示を行う場合。」

と、同ケの、

「ケ 事業者が特定の第三者(例えば、事業者が供給する陪品又は役務について会員制(一定の登録者に対して一定の便益を付与する制度等)を設けている場合における会員に対して試供品等の配布を行った結果、当該特定の第三者が自主的な意思に基づく内容として表示を行う場合。」

を、

「『客観的な状況に基づき、第三者の自主的な意思による表示内容と認められる場合』、つまり、事業者の表示とならない場合」(p5)

の例として挙げていることを指しているものと考えられます。

「第三者の自主的な意思による表示内容と認められる場合」の具体例を「第三者が自主的な意思に基づく内容として表示を行う場合」というフレーズで締めくくるのが、何ともお役所的な不親切さに溢れていますが、せっかく具体例として挙げてくれているのだからそのような細かいことは詮索せず、具体例で挙げられたものはよほどのことがない限りOKなんだと読むのが大人の読み方というものでしょう(もちろん皮肉です)。

つまり、試供品の提供は基本的にOK、ということです(「広告」の明示もしなくて良い)。

次に、パブコメ84番では、

「いわゆるインフルエンザ一等の第三者に対して無償で商品や役務を提供する場合、

『感想をSNS等に投稿するかしないかは自由』

『投稿する場合には自身の自主的な意思に基づいて投稿内容を決定してほしい 』

『今後の商品や役務の提供に今回のSNS投稿行動が直ちに影響するものではない』

等の文言を示し、それ以外に当該第三者の投稿(表示)肉容について指示等がされない場合は、事業者が『表示内容の決定に関与した』とは言えないと解してよいか。

そうであれば、運用基準に具体例として追記されたい。」

という、きわめて実務的な質問に対して、消費者庁は、

「お尋ねの点は、事業者が『表示内容の決定に関与した』か否かで判断されるところ、景品表示法第5条の不当表示をした事業者といえるかどうかについての判断であり、個別具体的な事案ごとに判断されるものであることから、これ以上記載することは困難と考えます。

事業者が表示内容の決定に関与していない場合は、事業者の表示に当たらず、本告示の対象とならないことは本運用基準に記載のとおりです。」

という、これも木で鼻を括ったような回答をしています。

まあ、明示的に依頼もしなくても、内容決定関係性(運用基準第2の1⑵イ )があれば駄目だというのがガイドラインの立場なので、質問のようなディスクレイマーをしても、それだけならだめなのでしょう。

でも、内容決定関係性基準でも、広告主と表示主とのやりとりが考慮されるとされていますので、意味が無いことはないのでしょう。

というより、大いに意味はあると考えるべきでしょう。

だいたい、ステマの典型例として、毛の生えない毛生え薬とか、インチキ商品ばかりを念頭に置いていると、インチキ商品に高評価を求める悪徳業者みたいな刷り込みが生じてしまいますが、まともな広告主(つまり世の中の大半の広告主)は、自分の商品には自信を持っているのが通常です。

なので、表示主の表示内容を自分に有利にしてやろうなんて姑息なことを考えず、「どうぞありのままを書いて下さい!」と自信満々で依頼することの方が多いと思います。

次に、パブコメ92番では、

「企業からインコルエンサーに対して、自社の商品を無償提供する場合です。

無償提供には、試供品レベルのものもあれば、数万円?数十万円レベルのものもあります。

企業からインフルエンサーに対して『ぜひ使ってみてください』という文言だけとともに提供する場合(現場的には非常に多々あります)、

これはSNSへの投稿の指示・依頼も無ければ、表示内容についての具体的な指示・依頼もない、ということになるかと思います。

しかしながら、いくらSNSへの投稿依頼も内容への指示も無くとも、(試供品程度の度の提供ならばともかく)

高額な物品提供を受けたという事実があれば、もらったインフルエンサーは明らかに何らかの付度が働くかとおもいます。

また一般消費者も、インフルエンサーが自分で購入したものか、企業からもらったものかがわかるかわからないかで、その投稿を見たときの判断が変わってくるかと思います。

これは『事業者の表示」となりえると思うのですが、企業から表示することの依頼もしていないので『表示内容に関与していない」、すなわち『事業者の表示ではない」と判断してよいのでしょうか?

2/2のJAROセミナーでのQA(4)では表示対策課の南課長は「事業者の表示ではない」と明言されていたかと思います。

また2/3の日弁連のセミナーでも質問はしましたが、消費者庁からの見解は伺えませんでした。消費者庁の見解を伺いたいです。」

という本質的な質問(いくら役人とは言えコメント内の個人名をそのまま公表するのはどうかと思います。南さん、ご苦労様です。)に対して、

「お尋ねの点については、第三者の表示が事業者の表示とされるかどうかは、事業者が表示内容の決定に関与したかどうかで判断されますが、

本運用基準第2の1 (2)イ(2頁)に

『事業者が第三者に対して表示を行うよう明示的に依頼・指示していない場合であっても、

当該事業者と当該第三者との聞に当該事業者が当該第三者の表示内容を決定できる程度の関係性があり、

当該第三者の表示について、当該事業者と当該第三者との間に当該第三者の自主的な意思による表示とは客観的に認められない関係性がある場合には、

当該事業者が表示内容の決定に関与した表示とされ、当該事業者の表示となる。』

と記載のとおり、広告主が第三者に明示的に依頼・指示していない場合であっても、御指摘のような、

高額な物品提供を受けたという事実』

も事業者の表示か否かの考慮要素の一つになります。」

と回答されています。

この、第2の1 (2)イ(2頁)の基準(内容決定関係性基準)は、何回読んでも意味が分からないのですが、ステマを表示内容の決定の有無で限界付ける一般論を採る以上、内容決定関係性基準が採用されてしまうのはやむをえないところでしょう(また、規範が間違っている以上、具体例が間違っているのは必然でしょう)。

それに、いくら高額な物品(商品かもしれないし、試供品かもしれないし、そのほかの物品かもしれない)を提供したからといって、それだけで内容決定関係性があるというのは、私は無理だと思います。

もし、「高額な物品」が、SNSでの投稿を条件に提供されたなら、多少は内容決定関係性もあるかもしれませんが(ないかもしれませんが)、質問の前提は、「ぜひ使ってみて下さい」というだけで、何の依頼もない場合です。

これで内容決定関係性があるというのは、ほとんど無理だと思います。

つまり、「事業者の表示か否かの考慮要素の一つになります。」というのは、ほとんど空振り、あるいは、重みとしては天女の羽衣くらいも無い、というところかと思います。

次に、パブコメ93番では、

「有名人やインフルエンサーなどに商品を送って、その有名人などが個人のSNSに記事や商品画像を投稿するのは、自主的なものであれば問題ないということだったと思いますが、

以前に在籍していたメー力ーでは、社長の奥様が有名女優であることもあり、芸能界に顔が利くため、SNSなどで紹介してもらうことを目的として、複数の有名人に新商品を送るということを行っていました。

あくまでも新商品の紹介として贈っていて、具体的な指示一切していませんが、

一部の有名人は目的が分かつていて、毎回のように個人のSNSで商品を紹介してくれるということがありました。

これは問題ないでしょうか?」

という、非常に具体的な質問に対して、

「第三者の表示について、事業者が「表示内容の決定に関与した」か否かは、景品表示法第5条の不当表示をした事業者といえるかどうかについての判断であり、個別具体的な事案ごとに判断されるものであることから、お尋ねの点に回答することは困難と考えます。

なお、事業者が第三者に対して表示を行うよう明示的に依頼・指示していない場合であっても、

例えば、事業者が第三者に対して、当該事業者の商品又は役務について表示してもらうことを目的に、当該商品又は当該役務を無償で提供するなどの結果として

当該第三者が当該事業者の目的に沿う表示を行うなど、

当該表示が当該第三者の自主的な意思による表示とは客観的に認められない場合や、

事業者が第三者に対して、当該事業者の商品又は役務を表示することが、当該第三者に経済上の利益をもたらすことを言外から感じさせたり、言動から推認させたりする(例えぱ、SN Sへの投稿を明示的に依頼しないものの、投稿すれば今後の取引の実現可能性に言及する)などの結果として、

当該第三者が当該事業者の当該商品又は当該役務についての表示を行うなど、

当該表示が当該第三者の自主的な意思による表示とは客観的に認められない場合については、

事業者の表示とされると本運用基準に記載しているところです。」

と回答されています。

この回答は大いに問題です。

というのは、回答が引用している、

「例えば、事業者が第三者に対して、当該事業者の商品又は役務について表示してもらうことを目的に、当該商品又は当該役務を無償で提供するなどの結果として、当該第三者が当該事業者の目的に沿う表示を行うなど」

という部分(第2の1⑵イ(ア) )は、前述の修正前の原案を引用してしまっており、成案では、前述のとおり、

「(ア) 事業者が第三者に対してSNSを通じた表示を行うことを依頼しつつ、自らの商品又は役務について表示してもらうことを目的に、当該商品又は役務を無償で提供し、

その提供を受けた当該第三者が当該事業者の方針や内容に沿った表示を行うなど、

客観的な状況に基づき、当該表示内容が当該第三者の自主的な意思によるものとは認められない場合。」

となっているからです。

こんな形式的なミスをしてはいけません!

とくに、原案にあった「結果として」という文言が、おそらく結果論を問題にするように読めるのでわざと削ったと思われるのに、その部分が復活しているのは、いかんともしがたいです。

というわけで、表示内容の指示がないのに事業者の広告に当たる場合については、ガイドラインの第2の1⑵イ (内容決定関係性基準)をよく読みましょう、ということです。

次に、パブコメ126番では、

「《対象;第2の2(1)ア(キ)・(ク)》

事業者が第三者(特定、不特定を問わない)に対し商品を供与する際に、事業者が

『感想をSNS等に投稿するかしないかは自由』

『投稿する場合には自身の自主的な意思に基づいて投稿内容を決定してほしい』

等の文言を示し、それ以上に当該購入者の投稿(表示)肉容について情報のやり取りがされない場合は、

事業者が「表示内容の決定に関与した」と言えないと解してよいか。

そうであれば、運用基準に具体例として追記されたい。」

との質問に対し(当然、「商品を供与」というのは、無償供与が前提でしょう)、消費者庁は、

「御指摘の点は既に本運用基準第2の2 (1)ア(キ)、(ク)において記載しております。」

と回答しています。

そして、「第2の2 (1)ア(キ)、(ク)」というのは、

「(キ) 事業者が不特定の第三者に対して、試供品等の配布を行った結果、これらを受けた当該不特定の第三者が自主的な意思に基づき表示を行う場合。」

と、

「(ク) 事業者が特定の第三者(例えば、事業者が供給する商品又は役務について会員制(一定の登録者に対し、一定の便益を付与する制度等)を設けている場合における会員)に対して、試供品等の配布を行った結呆、これらを受けた当該特定の第三者が自主的な意思に基づき表示を行う場合。」

で、いずれも、「第三者の自主的な意思による表示と客観的に認められる場合」の例です。

商品の無償提供に関するパブコメ質問に対して、試供品の記載で回答していることがわかります。

このことから、

①消費者庁にとっては商品の無償提供と試供品の無償提供との間には大きな違いは無い、

②「感想をSNS等に投稿するかしないかは自由」などのディスクレイマーがあればよいというものではない、

③要は「第三者の自主的な意思」かどうかが決定的、

といった当たりが読み取れます。

次に、パブコメ127番では、

「《対象;第2の2(2)》

(1) 『新聞・雑誌発行、放送等を業とする媒体事業者が」との記載について、ここで例示されている伝統的なマスメディアだけでなく、インターネット上の商品比較サイト等の媒体であっても、自主的な意思で企画、編集、制作し表示を行うことがある。

このような場合は、事業者が「表示肉容の決定に関与した』と言えないと解してよいか。

そうであれば、伝統的なマスメディア以外の媒体における表示行為への萎縮効果を緩和するため、当該箇所を『新聞・雑誌発行、放送、インターネット上の報道や批評を業とする媒体事業者などが』に変更されたい。

⑵ インターネット上の商品比較サイト等の媒体が事業者等に取材し、自己が運営するサイトにおいて商品の紹介を行う場合につき、媒体事業者が事業者等から謝礼や取材協力費等の名目で商品や役務を受領したとしても、

それが試供品や、本来の内容に比し短時間にとどめる役務など、通常の商品や役務とは言えないものを無償で提供された場合には、

媒体事業者が自主的な意思で記事を書くのであれば、事業者が『表示内容の決定に関与した』と言えないと解してよいか。

そうであれば、運用基準に具体例として追記されたい。」

とのコメントに対して、消費者庁は、

「御指摘の点は既に新聞・雑誌発行、放送等の『等」に含まれておりますが、文意の明確化のために修正します。」

と回答し、第2の2⑴は、原案の、

「⑵ 新聞・雑誌発行、放送等を業とする媒体事業者が事業者の指示に左右されず、自主的な意思で企画、編集、制作した表示については、通常、事業者が表示内容の決定に関与したといえないことから、事業者の表示とはならない。」

から、成案の、

「⑵ 新聞・雑誌発行、放送等を業とする媒体事業者(インターネット上で営む者も含む。)が自主的な意思で企画、編集、制作した表示については、通常、事業者が表示内容の決定に関与したといえないことから、事業者の表示とはならない。」

に変更されました。

次に、パブコメ185番では、

「運用基準を確認して疑問がいくつか出てきましたので、運用前には、Q&Aなどで明確にしていただきたいです。

運用基準を読むと、例えば、ECサイトなどのレビューを投稿してくれたらプレゼントという施策においては、

内容には関与していないので問題ないという判断になるかと思いますが、

では、投稿いただいた内容を審査して、商品の実欲〈ママ。実力?〉がより伝わるような良いコメントの方にプレゼントとした場合、

具体的な指示や決定はしていませんが、

投稿者は、選んでもらえるよう、コメントを誇張する傾向があります。

実際に、普通では考えられないような効果実感を投稿してきたり、

品質、効果、安全性をベた褒めする投稿になっています。

このように、具体的な指示はしていないが、景品などで、優良で誇大な書き込みを誘導するようなキャンペーンによるコメントはどのように判断されますでしょうか?」

とのコメントに対して、消費者庁は、

「本告示の制定後においては、効果的な周知・広報活動の観点から、Q&Aなどを作成することとしています。

第三者の表示について、事業者が『表示内容の決定に関与した』か否かは、景品表示法5条の不当表示をした事業者といえるかどうかについての判断であり、個別具体的な事案ごとに判断されるものであることから、お尋ねの点に回答することは困難と考えます。

なお、事業者が第三者に対して表示を行うよう明示的に依頼・指示していない場合であっても、

例えば、事業者が第三者に対して、当該事業者の商品又は役務について表示してもらうことを目的に、

当該商品又は当該役務を無償で提供するなどの結果として

当該第三者が当該事業者の目的に沿う表示を行うなど、

当該表示が当該第三者の自主的な意思による表示とは客観的に認められない場合や、

事業者が第三者に対して、当該事業者の商品又は役務を表示することが、当該第三者に経済上の利益をもたらすことを言外から感じさせたり、

言動から推認させたりする(例えぱ、SN Sへの投稿を明示的に依頼しないものの、投稿すれば今後の取引の実現可能性に言及するか)などの結果として

当該第三者が当該事業者の当該商品又は当該役務についての表示を行うなど、

当該表示が当該第三者の自主的な意思による表示とは客観的に認められない場合

については、

事業者の表示とされると運用基準に記載しているところです。」

と回答されています。

ここでも、一部、原案の表現が残っていますね(1個目の「「結果として、・・・」)。

2023年6月24日 (土)

広告ではないアフィリエイト?(ステマ運用基準第2の2⑴ウ)

ステマ運用基準第2の2⑴ウでは、

「ウ アフィリエイターの表示であっても、

事業者と当該アフィリエイターとの聞で当該表示に係る情報のやり取りが直接又は間接的に一切行われていないなど、

アフィリエイトプログラムを利用した広告主による広告とは認められない実態にある表示を行う場合」

が、

「「客観的な状況に基づき、第三者の自主的な意思による表示内容と認められる場合」、つまり、事業者の表示とならない場合」

の例として挙げられています。

これに対しては、パブコメ80番で、情報のやり取りが一切無くてもアフィリエイトの仕組みの下で報酬も支払われているのだから広告ではないか、という至極まっとうなコメントが出ています。

私もまったく同感です。

消費者庁回答をみても、

「通常、アフィリエイト広告は、事業者がアフィリエイターに自らの商品等の表示を委託するものですので、事業者の表示と考えられるところですが、広告主とアフィリエイターの間に一切の情報のやり取りが行われていない実態がある場合には、広告主が表示内容の決定に関与したとはいえないと考えております。」

ということで、ガイドラインを繰り返すだけで、何も付け加えるところがありません。

実質論は、パブコメ80番のコメントに加えるものはありません。

形式論上の問題点としては、上記ウの具体例と規範が噛み合っていません。

まず前提を整理すると、ガイドラインでは、

「当該表示に係る情報のやり取りが直接又は間接的に一切行われていない」

と言っていおり、「間接的」なものもないと明記しているので、広告主がアフィリエイトサービスプロバイダ(ASP)を通じてアフィリエイターに情報提供するのも駄目です。

次に、ガイドラインでは、

当該表示に係る情報のやり取りが直接又は間接的に一切行われていない」

と言っており、「当該商品役務に係る」ではないのをどのように考えるのかが問題となりえます。

1つの読み方としては、「当該表示」といっているからには、それぞれの表示の内容に関する(係る)情報のやり取りを意味しているのであって、「当該表示」(そのアフィリエイターに、どのように表示して欲しいかということ)とは関係のない、もっぱら商品自体に関する客観的情報は、ここでの「当該表示に係る情報」にはあたらない、と読むことが考えられます。

しかし、当該商品に係る情報と当該表示に係る情報を区別するのは無理でしょう。

というわけで、ここでは、「当該表示に係る情報」という部分にはあまり重きを置かず、とにかく、広告主とアフィリエイターとの間で、商品にまつわる一切の情報のやりとりをしない、という意味だと解すべきでしょう。

そして、広告主とアフィリエイターがつながる(接点)としたら、広告主の広告対象商品を通じてでしか通常はありえませんから、実質的には、広告主とアフィリエイターとの間では何も情報のやり取りをしてはいけない、ということになります。

さらに、間接的な(ASPを通じた)情報のやりとりも禁止されるので、広告対象商品に関する情報をASPにすら提供してはいけない、ということになります。

これはさらに考えると、そもそも広告主からASPに広告依頼をかけない、というのに等しいことがわかります。

というのは、具体的な商品について広告依頼をかけると、当然、その商品の情報をASPに提供することになり、ひいては、アフィリエイターにも間接的にに提供していることになるからです。

「ASPに広告の依頼もしてないのにアフィリエイターが記事を書く(しかも売れたら報酬を払う)ことなんてあるのか?」と疑問に思われる方もいらっしゃるかもしれませんが、実際、そういう仕組みは世の中にあります。

私が知っているだけでも2つあります。

まあ、こういうふうに、ステマ運用基準第2の2⑴ウは、かなり特殊な仕組みを想定しているのですが、だからこそ、アフィリエイト広告の実態がないといえるわけです(私は結論には反対ですが)。

そのことが、ガイドラインの記述だけからはまったく分からないところが、難点といえば難点です。

そういうアフィリエイトを実際に使っている(使わされている)人には、「あ、あれのことね。」とわかるのかもしれません。

ここでようやく、上述の、規範と具体例が噛み合っていない、という問題点ですが、規範(一般論)というのは、第2の2⑴冒頭の、

「客観的な状況に基づき、第三者の自主的な意思による表示内容と認められる場合」

です。

「客観的な状況に基づき」というのはほとんど飾り(客観的な状況に基づかず当事者の主観を基準にしてよいという規範はおよそありえない)なので、もっと簡単にすると、

「第三者の自主的な意思による表示内容」

が、規範(一般論)です。

(なお、ここでも、「自主的な意思」は、「表示内容」に関するものであり、表示をするかどうか(記事を書くかどうか)に関する自主性ではないことに、注意が必要です。)

ところが、これと、具体例の

「当該表示に係る情報のやり取りが直接又は間接的に一切行われていない」

というのが、噛み合っていないのです。

というのは、広告主との「情報のやり取り」があっても、第三者の「自主的な意思」による表示だということは、いくらでもありそうです。

「情報のやり取り」があったら、「自主的な意思」による広告でなくなるというのは、情報をもらった以上は広告主に恩義を感じて悪口をかけないと感じるようなアフィリエイターを想定しないと、ちょっと成り立たないと思います。

反対に、「情報のやり取り」がなくても、少なくともこの商品が売れれば報酬が手に入るということさえ分かっていれば、アフィリエイターは悪口は書かないでしょう(つまり、「自主的な意思」でない)。

つまり、「情報のやり取り」と「自主的な意思」を結びつけるのは、どう考えてもはじめから無理があるのです。

そもそもベイクルーズ判決の基準をステマに使っていることに端的に表れていますが、この運用基準は、実態に合わない基準を採用してそれに具体例をむりやりあてはめている(でも実はあてはまっていない)、という例が散見されるように思います。

というわけで、ステマ運用基準は、「自主的な意思」などの一般論にはあまり重きを置かず、具体例だけ読むのが吉だと思います。

しかも、具体例もあまり分析的に読むと上記のアフィリエイトのようなちぐはぐなことになっていしまうので、あまり考えず(分析せず)、さらっと読んでなんとなく分かった気になる、というくらいがちょうど良いと思います。(もちろん、皮肉です。)

2023年6月21日 (水)

不実証広告規制の主張立証構造

景表法7条1項では、

「 第七条 内閣総理大臣は、第四条の規定による制限若しくは禁止又は第五条の規定に違反する行為があるときは、当該事業者に対し、その行為の差止め若しくはその行為が再び行われることを防止するために必要な事項又はこれらの実施に関連する公示その他必要な事項を命ずることができる。〔以下省略〕」

と規定され、同条2項では、

「2 内閣総理大臣は、前項の規定による命令に関し、事業者がした表示が第五条第一号に該当するか否かを判断するため必要があると認めるときは、

当該表示をした事業者に対し、

期間を定めて、当該表示の裏付けとなる合理的な根拠を示す資料の提出を求めることができる。

この場合において、当該事業者が当該資料を提出しないときは、同項〔7条1項〕の規定の適用については、当該表示は同号に該当する表示とみなす。」

と規定されています。

2項がいわゆる不実証広告規制の規定です。

ここでは、優良誤認表示であることの主張立証責任が事業者に転換されているわけではありません。

本来、消費者庁が、優良誤認表示であることを主張立証しなければならないところ、優良誤認表示であることを主張立証しなくても、事業者が期限までに合理的根拠を示す資料(合理的根拠資料)を提出しなかったことを主張立証すればよい、ということです。

主張立証の対象が、

優良誤認表示であること

から、

提出資料が合理的根拠資料でないこと

に変更になるわけです。

この点を商法509条の諾否の通知義務を例に説明すると、商法509(条契約の申込みを受けた者の諾否通知義務)1項では、

「商人が平常取引をする者からその営業の部類に属する契約の申込みを受けたときは、遅滞なく、契約の申込みに対する諾否の通知を発しなければならない。」

と規定されており、同条2項では、

「2 商人が前項の通知を発することを怠ったときは、その商人は、同項の契約の申込みを承諾したものとみなす。」

と規定されています。

ですので、申込者が契約の成立を主張立証するためには、

①実際に商人が承諾の意思表示をしたことを主張立証してもよいし(現実の承諾)、

②当該商人が遅滞なく契約の申込に対する諾否の通知を発しなかったことを主張立証してもよい(みなし承諾)、

ということになります。

同様に、措置命令を出す消費者庁は、

①表示が優良誤認表示であることを主張立証してもよいし、

②合理的根拠資料の提出がなかったことを主張立証してもよい、

ということになります。

ただし、理論的には、みなしの効力が生じるということと、みなしの原因事実(合理的根拠資料でないこと)の主張立証責任をどちらが負うのかは別の話です。

この点、諾否の通知義務の場合には、みなしの原因事実が、商人が承諾の通知を発するのを怠ったことであり(発信主義。『コンメンタール商行為法』97頁)、発した事実の有無を申込者に主張立証させるのは無理な話なので、承諾の通知を発したことの主張立証責任を商人(ここでは、みなしにより不利益を受ける側)のほうが負うべきでしょう。

これに対して、不実証広告規制の場合には、合理的根拠資料でないことの主張立証責任を消費者庁が負うと解すべきでしょう。

なぜなら、不利益処分をする場合の主張立証責任を行政が負うのは当然のことだからです。

主張立証の対象が、みなし規定により、優良誤認表示該当性から、合理的根拠資料該当性に移ったからといって、不利益処分を受ける側が主張立証責任を負わなければならない理由はありません。

また、このように解しても、もし不実証広告規制がなければ消費者庁が自ら実験等をして表示と実際の不一致を立証しなければならなかったところ、同規制があるために、提出された資料が合理的根拠資料でないことだけを立証すればいいのですから、十分に的は絞られており、消費者庁側の負担の軽減により簡易迅速に措置命令を出すという不実証広告規制の趣旨は十分に保たれているというべきでしょう。

その上さらに、合理的根拠資料であることの主張立証責任まで事業者に負わせるのは、いくらなんでも行き過ぎでしょう。

景表法7条2項の規定振りをみても、

「この場合において、当該事業者が当該資料を提出しないときは、同項の規定の適用については、当該表示は同号に該当する表示とみなす。」

と、合理的根拠資料の提出の不存在をみなしの根拠事実としており、不存在を消費者庁が主張立証すべきと解するのが自然です。

なお、以上の主張立証責任の点については、加藤公司他編著『景品表示法の法律相談〔改訂版〕』(2018年・青林書院)196頁〔籔内俊輔執筆部分〕が、結論において同旨を述べています。

2023年6月20日 (火)

朝日新聞2023年6月9日「公取委から突然の電話 「海猿」作者がインボイス制度に今思うこと」という記事を読んで

掲題の記事を読みました。

https://digital.asahi.com/articles/ASR684S2TR67OXIE017.html

朝日新聞の取材を受けた漫画家の佐藤秀峰さんが運営する佐藤漫画製作所は、漫画家と電子書籍配信業者との取次を行っているのですが、インボイス制度が始まっても消費税課税事業者に切り替えない漫画家に支払うロイヤルティを消費税分の10%分引き下げる(消費税額を上乗せしない)ことを通知したら、公取委から優越的地位の濫用だと注意を受けたというのです。

今の公取はだいたいこんな感じなので驚きはないですが、まったくひどいと思います。

記事にも指摘されていますが、

同業他社はたくさんいる。漫画家はいつでも自社との契約をやめ、他社に移ることができる

そもそも作品を独占するような契約は結んでいない。「他の業者を使えばいいじゃないか」というのが、正直なところだ。」

というのは、まったくそのとおりであり、このケースは濫用以前の問題として、そもそも優越的地位が成立しないというべきでしょう。

公取委自身の優越的地位濫用ガイドライン第2の2では、

「この〔優越的地位の〕判断に当たっては,乙の甲に対する取引依存度,甲の市場における地位,乙にとっての取引先変更の可能性,その他甲と取引することの必要性を示す具体的事実を総合的に考慮する」

とされ、同2⑶には、

「(3) 乙にとっての取引先変更の可能性

乙にとっての取引先変更の可能性としては,他の事業者との取引開始や取引拡大の可能性,甲との取引に関連して行った投資等が考慮される。

他の事業者との取引を開始若しくは拡大することが困難である場合又は甲との取引に関連して多額の投資を行っている場合には,乙は甲と取引を行う必要性が高くなるため,乙にとって甲との取引の継続が困難になることが事業経営上大きな支障を来すことになりやすい。」

と、取引先変更可能性がなければ優越的地位が認められやすいという方向で書かれていますが、取引先変更が容易なら優越的地位が認められないことは当然です。

本件はまさにそういったケースでしょう。

なお、記事に、

「自社が漫画家に対して「優越的地位」なのか。

税理士からは「取引価格を決定できる立場なので、(公取委の判断も)理解できないことはない」と説明された。」

ともありますが、この税理士さんの意見は間違いですね。

価格を一方が決定して、他方は伸るか反るかしか選択肢がない取引なんて世の中にいくらでもありますが(百貨店と消費者の取引とか)、それで一方が優越的地位になるわけではありません。

優越ガイドラインにも、価格決定権があるというような要素は書いてありませんし、訴訟で公取から主張されたこともありません。

さらに、記事にある公取委とのやりとりの、

「「会場を押さえて説明会などを開いたか」の問いに、佐藤さんが「開いていない」と答えると、公取委からは「それでは双方納得できるよう議論を尽くしたとは言えない」と告げられた。

「数百人が入る会場を押さえて説明会を開くのは現実的ではない」と食い下がったが、「議論を尽くせ」との公取委の主張は変わらなかった。」

というのは噴飯物です。

こんな指導をしているのですね。

貸し会議室屋さんは、儲かってよいですね💦

現在の公取委の優越的地位の濫用の運用は、歴史的に見ても異常です。

このように、声を上げられる市井の方々が一人でも増えることを望みます。

佐藤さんのブログも参考になります。公取との詳細なやり取りが記載されています。

「インボイス制度に関する僕の結論」https://note.com/shuho_sato/n/n6e969d2b6daa

2023年6月 9日 (金)

ラピーヌの高島屋提訴について

婦人服ブランドのラピーヌが高島屋を優越的地位の濫用で東京地裁に提訴したと報じられています。

ラピーヌの6月2日付プレスリリースでは、

「当社は、2021年12月16日以降、出店店舗に関する契約条件変更通知を同社から受領するなどしていたことから、当社が同社に対し、優越的地位の濫用にあたると判断して取引条件の是正を求めたことに対し、同社はこれに応じるどころか、更なる優越的地位の濫用が疑われる対応を続けたため、本年5月31日をもって交渉を打ち切り、同社を公正取引委員会へ申告、東京地方裁判所へ提訴することを決定いたしました。従って今後の同社との取引は6月1日より一旦停止せざるを得ないこととなりました。」

とされています。

これを読むと、ラピーヌの側から取引停止をしたことになっていますが、そうすると、優越的地位の濫用が認められにくくなるので注意が必要です。

というのは、優越的地位濫用ガイドライン第2、1では、

「甲が取引先である乙に対して優越した地位にあるとは,

乙にとって甲との取引の継続が困難になることが事業経営上大きな支障を来すため,甲が乙にとって著しく不利益な要請等を行っても,乙がこれを受け入れざるを得ないような場合である。」

とされているからです。

ですので、ラピーヌが高島屋からの著しく不利益な要請を断って自ら取引停止をしたとすると、不利益な要請を「受け入れざるを得ない」わけではなかったのではないか、と推認されてしまいます。

なので、こういう場合は、なんとか踏ん張って、高島屋から取引停止を申し入れさせるか、アリバイ作りのために不利な条件で取引に応じるのが、優越的地位の濫用の訴訟戦略上は妥当です。

まあ、よっぽど高島屋の申し入れがえげつなくて、どうしてもやめざるを得なかったのだ、ということもありえなくはないですが、高島屋から契約を解除されたり、高島屋の条件を泣く泣く受け入れた場合に比べれば、優越的地位の立証のハードルはずっと上がってしまったことは間違いないと思います。

また、高島屋の契約を停止した代わりに、がんばって別の取引先を見つけてきたりすると、取引先変更可能性があったということで、ますます優越的地位が認められにくくなり、一生懸命販路開拓をすると裁判に負けてしまうというジレンマに陥ることもあるかもしれません。

個々の事案にはそれぞれ表に出ない深い事情があるのでしょうけれど、一般論として、以上の点は心にとどめておいたほうがよいと思います。

2023年6月 2日 (金)

不実証広告ガイドラインの専門家等の見解に関する記述(第3、2⑵ア)の矛盾について

不実証広告ガイドライン第3、2⑵アでは、

「ア 当該商品・サービス又は表示された効果、性能に関連する分野を専門として実務、研究、調査等を行う専門家、専門家団体又は専門機関(以下「専門家等」という。)による見解又は学術文献を

表示の裏付けとなる根拠として提出する場合、

その見解又は学術文献は、のいずれかであれば、客観的に実証されたものと認められる。

① 専門家等が、専門的知見に基づいて当該商品・サービスの表示された効果、性能について客観的に評価した見解又は学術文献であって、当該専門分野において一般的に認められているもの

② 専門家等が、当該商品・サービスとは関わりなく、表示された効果、性能について客観的に評価した見解又は学術文献であって、当該専門分野において一般的に認められているもの」

と説明されています。

このうち、①はよいのですが、よくわからないのが②です。

②では、

「当該商品・サービスとは関わりなく

とされています。

しかし、

「表示された効果、性能について」

評価するのに、

「当該商品・サービスとは関わりなく

評価する、なんていうことは、論理的に不可能ではないかと思われます。

つまり、②は、

「② 専門家等が、当該商品・サービスとは関わりなく、表示された効果、性能について客観的に評価した見解又は学術文献であって、当該専門分野において一般的に認められているもの」

としていますが、これは、論理的には、

「② 専門家等が、当該商品・サービスとは関わりなく、〔当該商品・サービスについて〕表示された効果、性能について客観的に評価した見解又は学術文献であって、当該専門分野において一般的に認められているもの」

という意味であるはずです。

「表示」は、当該商品役務に関する表示であるはずで、それ以外には考えられないからです。

そうすると、

〔当該商品・サービスについて〕表示された効果、性能」

について、

「当該商品・サービスとは関わりなく・・・客観的に評価」

する、ということで、まったくわけが分からないことになります。

この点について、立案担当者の解説書である、南部利之編著『改正景品表示法と運用指針』p67では、

「②の例としては、例えば、特定の成分を含有するという健康食品の表示について、当該特定の成分が、人体の構造又は機能に及ぼす影響について評価した見解や、

台所洗剤の表示について、当該洗剤に含まれる特定の成分が、河川の水質の汚染を防止する効果について評価した学術文献が挙げられる。」

と説明されています。

つまり、②は、

「② 専門家等が、当該商品・サービスとは関わりなく、当該商品に含まれた成分の効果、性能について客観的に評価した見解又は学術文献であって、当該専門分野において一般的に認められているもの」

という意味だ、ということのようです。

でも、これを②と比べると、「当該商品に含まれた成分の」という部分が追加されるのはまだ文言解釈として許されると思いますが、

「② 専門家等が、当該商品・サービスとは関わりなく、表示された効果、性能について客観的に評価した見解又は学術文献であって、当該専門分野において一般的に認められているもの」

の「表示された」という部分がなくなってしまっています。

これは、文言解釈として許されないでしょう。

無い文言を解釈で補ったり具体化することは許されますが、存在する文言を存在しないかのように解釈する(無視する)というのは、文字どおりの文言無視であり、許されるはずがありません。

そうすると、この「表示された」という部分を生かしつつ、立案担当者の意図を忖度すると、②は、

「② 専門家等が、当該商品・サービスとは関わりなく、当該商品に含まれた成分が有する〔当該商品・サービスについて〕表示された効果、性能について客観的に評価した見解又は学術文献であって、当該専門分野において一般的に認められているもの」

ということになりそうです。

しかし、これを正面から「客観的に実証されたもの」と認めるのは、別の意味で問題があります。

そのことは立案担当者の前掲解説書も認めていて、同じくp67では、

「ところで、②の場合について、提出された見解又は学術文献自体は、当該専門分野において一般的に認められているものであるとしても、

例えば、当該見解又は学術文献において客観的な評価の対象となった特定成分が、当該商品に含まれる成分とは同一ではないというケースや、

当該商品に含まれる程度の分量や当該商品を通じた摂取方法では、評価の対象となった当該特定成分の効果、性能は期待できないというようなケース

が想定される。

この場合には、当該見解又は学術論文は、当該商品・サービスの表示された効果、性能について客観的に実証された内容のものとは認められない。」

と解説されています。

これは、結論としては当然こうあるべきだとは思いますが、では、このような解釈が②から出てくるのか、というと、出てこないと言わざるを得ないのです。

このうち、「成分とは同一ではない」(いわば弾違い)については、②に該当しないということは、成分が同一であることは②の当然の前提であるとして、いわば「勿論解釈」として、認められてもいいと思います。

ですが、「分量」や「摂取方法」については、これを言い出すと、結局、対象商品に含まれる分量や、対象商品を用いた摂取方法で、表示どおりの効果があるということを言わなければならないことに限りなく近くなり、上記②の「当該商品・サービスとは関わりなく」という部分と矛盾せざるを得ないからです。

あるいは、少なくとも事業者としては②の証拠があったとしても、別途、その商品で摂取した場合に表示どおりの効果があることを示す資料を持っていないといけないことになります。

これでは、上記②はほとんど空文化したといわざるをえません。

さらにダメ押しですが、不実証広告ガイドライン第3、3では、

「3 表示された効果、性能と提出資料によって実証された内容が適切に対応していること

提出資料が表示の裏付けとなる合理的な根拠を示すものであると認められるためには、前記のように、提出資料が、それ自体として客観的に実証された内容のものであることに加え、表示された効果、性能が提出資料によって実証された内容と適切に対応していなければならない。

したがって、次の例のとおり、提出資料自体は客観的に実証された内容のものであっても、表示された効果、性能が提出資料によって実証された内容と適切に対応していなければ、当該資料は、当該表示の裏付けとなる合理的な根拠を示すものとは認められない。」

とされており、「成分の効果は実証されていても、当該商品に効果があるとまで実証されているとはいえないので、(商品について)表示された効果と提出資料によって実証された内容が対応していない」と言われる可能性がありますし、実際、言われると思われます。

というわけで、上記②は完全に無視するほかありません。

というより、成分が入っていることだけでなくその分量や摂取方法が大事だという一番大切なことがガイドラインに書かれて無くて解説書だけに書かれているのは、控えめに言って不親切、もっといえば、ガイドラインとして失格だと思います。(南さんには申し訳ないですが。)

以下、余談ですが、以上のような解釈論は、景表法のことを知らなくても、文章を論理的に読む力があれば、誰にでもできますし、誰がやっても同じ結論になると思います。

そのときに私が心がけている(拠り所にしている)のは、ウィトゲンシュタインが『論理哲学論考』で示した「意味の対象説」です。

これは、言葉(名、あるいは名辞)の意味とは、その言葉が指す対象のことである、という説です。

さらに、文章は、そのような名辞の配列により事態を表現するとされます。

いわゆる写像理論です。

(この写像理論のヒントは、フランスの法廷で交通事故を再現したミニチュアが使われたことにあったそうです。)

このような、「意味の対象説」と「写像理論」を頭に置きながら文章を読むと、文章を、読後感とか、文章の勢いとかいった、捉えどころの無い要素によって読むことがなくなり、ましてや直感で理解するなどということもなくなり、厳密な解釈が可能になると思われます。

法律は内閣法制局を通るので、国会で修正された部分を除けば、この「意味の対象説」と「写像理論」に基づいて読んでも破綻が見つかることはまず無いですが、公取委のガイドラインや告示には、まだまだこのレベルに達していないものが少なくありません。

例えば最近の消費者庁のステマガイドラインなんて、ひどいです(パブコメを経て若干ましになりましたが、特に原案はひどかったです)。

ウィトゲンシュタインは法学にも多大な影響を与えたようで、ハートの『法の概念』なんかもそうらしいですが、そこで参考にされているのは『哲学探究』以降の、いわゆる後期ウィトゲンシュタインです。

でも、私は、法律にかかわるすべての人は、まず、『論理哲学論考』の前期ウィトゲンシュタインに追いつくことをめざすべきなのではないかと思います。

私は専門にしているのは独禁法ですのでそれ以外の分野のことはよくわかりませんが、独禁法の分野だけでも、「この文章のこの言葉はいったい何(対象)を指しているのか」と問うだけて゛、その文章がナンセンスであることがわかることが多々あります。

論考(岩波文庫訳)では、

「語りうること以外は何も語らぬこと。

自然科学の命題以外は ーそれゆえ哲学とは関係のないこと以外はー 何も語らぬこと。

そして誰か形而上学的なことを語ろうとするひとがいれば、そのたびに、あなたはその 命題のこれこれの記号にいかなる意味も与え与えていないと指摘する。

これが、本来の正しい哲学の方法にほかならない。

この方法はそのひとを満足させないだろう。

彼は哲学を教えられている気がしないだろ う。

しかし、これこそが、唯一厳格に正しい方法なのである。」(6.53)

とされています。

これは哲学の方法について述べたものですが、形而上学的な議論がなされる哲学ですらそうなのですから、実用法学ではなおさらです。

論考もいうように、

「語り得ぬものについては、沈黙せねばならない。」(岩波訳7)

のです。

« 2023年5月 | トップページ | 2023年7月 »

フォト
無料ブログはココログ