« 日本証券業協会の「広告等に関する指針」の将来の取引見込の考え方の射程 | トップページ | ステマ告示は景表法5条3号違反で無効です。 »

2023年5月 4日 (木)

消費者庁ステマ報告書のEU不公正取引方法指令の翻訳について

消費者庁のステマ検討会報告書にEUの指令のブラックリストが一部引用されているのですが、その翻訳がちょっとよろしくないです。

まず、

「①商品を販売促進するためにメディアの編集コンテンツを使用し、かつ、その販売促進のために事業者が代金を支払ったにもかかわらず、そのことをコンテンツの中で又は消費者が明確に見分けることができる映像若しくは音声によって明確にしないこと(記事広告)(項目11)」

とありますが、原文は、

「Using editorial content in the media to promote a product where a trader has paid for the promotion without making
that clear in the content or by images or sounds clearly identifiable by the consumer (advertorial). This is without prejudice to Council Directive 89/552/EEC (1).」

です。

つまり、「advertorial」を「記事広告」と訳しています。

しかし、日本で「記事広告」といえば、タイアップ記事(メディアと広告主がタイアップして作成した記事風の広告)などのことであり、少なくともまともなメディアでは、「広告」とか「PR」とか明示されています。

これに対してEU指令の「advertorial」は、上記引用のとおり、広告主がお金を払っていることを明示しないものだけを指しています。

なので、日本語の「記事広告」が禁止されているみたいに読めるので、この翻訳はいかがなものかと思います。

ちなみに、OALDでは、「advertorial」は、

「a newspaper or magazine advertizement giving information about a product in the style of an editorial or objective journalistic article」

と説明されており、広告主がお金を払っていると明示しているかどうかを問いません。

なので、EU指令の「advertorial」の使い方はちょっと狭い(お金を払っていると明示しないものに限っている)のが悪いと言えば悪いのですが、そんな微妙な用語までむやみに訳出しないほうがよいと思います。

次に、報告書では、

「②検索結果内の商品のランキング上位を達成するための有料広告であること又は特別な支払をしていることを明確に開示することなく、消費者のオンライン検索クエリ(消費者が実際に検索サイトに入力する語句や文章)に検索結果を提供すること(項目11a)」

とされていますが、「検索結果内の商品のランキング上位を達成するための有料広告」ってなんだろう?とか、いろいろ疑問がわいてきたので原文を見たら、

「Providing search results in response to a consumer’s online search query

without clearly disclosing any paid advertisement

or payment specifically for achieving higher ranking of products

within the search results.」

でした。

つまり、「specifically for achieving higher ranking of products」は「payment」にかかっています。

また、有料広告は、高いランクを目指したものかどうかにかかわらず広告だと明示すべきですから、内容的にも、このほうが妥当です。

なので、翻訳し直すと、

「②有料広告であること又は検索結果内の商品のランキング上位を達成するための特別な支払をしていることを明確に開示することなく、消費者のオンライン検索クエリ(消費者が実際に検索サイトに入力する語句や文章)に検索結果を提供すること(項目11a)」

というのが妥当でしょう。

次の、

「③事業者が、自己の商業、事業、手工業若しくは職業に関係する目的で行為しないとの虚偽の主張をし、若しくはそのような印象を与えること又は自己が消費者であるとの虚偽の表示をすること(項目22)」

というのも、何だかピンとこないなあと思って原文を見たら、

「Falsely claiming or creating the impression that the trader is not acting for purposes relating to his trade, business, craft
or profession, or falsely representing oneself as a consumer.」

でした。

この日本語も、「falsely claiming」という英語独特の副詞の使い方を頭の中に思い浮かべながら和訳を読めば理解できるのかもしれませんが、日本語らしく誤解のないように訳すなら、

「③事業者が、自己の商業、事業、手工業若しくは職業に関係する目的で行為しているにもかかわらず、そうではないとの虚偽の主張をし、若しくはそのような印象を与えること又は自己が消費者ではないのに消費者であるとの虚偽の表示をすること(項目22)」

でしょうか。

訳文の「行為しないとの・・・主張」というのもよろしくなくて、これでは、行為しないという将来の約束ないしは普遍的な一般則を述べているように読めてしまいます。

ここは、原文が「is not acting」と現在進行形なのですから、和訳も「行為していない」とすべきでしょう。

次の、

「④実際に商品を使用し、又は購入した消費者からのものであることを確認するための合理的かつ比例的な措置を講じることなく、商品のレビューがそのような消費者によって提供されたことを示すこと(項目23b)」

というのも、なんかピンとこないなあと思って原文を見たら、

Stating that reviews of a product are submitted by consumers who have actually used or purchased the product

without taking reasonable and proportionate steps to check that they originate from such consumers.」

でした。

これも私が訳すなら、

「④実際に商品を使用し、又は購入した消費者が投稿したレビューであると述べながら、そのレビューがそのような消費者によって作出されたレビューであることを確認するための合理的かつ比例的な措置を講じないこと(項目23b)」

でしょうか。

とくに、報告書の訳文では、「stating」が「示すこと」と訳されているので、意味が曖昧です。これはきちんと「述べること」とすべきでしょう。

最後に、

「⑤商品を宣伝する目的で、虚偽の消費者レビュー若しくは推奨又は不実の消費者レビュー若しくは社会的推奨を投稿し、又は別の法人若しくは自然人に投稿させること(項目23c)」

というのも、なんだかごちゃごちゃして意味がよく分からないなぁ???と思って原文を見てみたら、

「Submitting or commissioning another legal or natural person to submit false consumer reviews or endorsements, or misrepresenting consumer reviews or social endorsements, in order to promote products.」

でした。

「misrepresenting」を「不実の・・・投稿し」と訳しているのですね。

確かに日本語に訳しにくいところではありますが、「misrepresent」を「不実」と訳してしまうと、その前の「虚偽」(false)との違いがわかりません。

なのでここは、ちょっと意味を汲み取って、

「⑤商品を宣伝する目的で、虚偽の消費者レビュー若しくは推奨を投稿し若しくは別の法人若しくは自然人に投稿させ、

又は消費者レビュー若しくは社会的推奨であると装う投稿をし、又は別の法人若しくは自然人に投稿させること(項目23c)」

とでもしたらいいんじゃないかと思います。

EUの法令は多国語に翻訳されることを前提に極度に切り詰められてドラフトされていますし、英語としてちょっと不自然なことも少なくないので、単純に和訳すると意味がよくわからないことが多々ありますので、ちょっと工夫したらいいんじゃないかと思います。

« 日本証券業協会の「広告等に関する指針」の将来の取引見込の考え方の射程 | トップページ | ステマ告示は景表法5条3号違反で無効です。 »

景表法」カテゴリの記事

コメント

コメントを書く

(ウェブ上には掲載しません)

« 日本証券業協会の「広告等に関する指針」の将来の取引見込の考え方の射程 | トップページ | ステマ告示は景表法5条3号違反で無効です。 »

フォト
無料ブログはココログ