ステマ告示の影響を予測する。
昨日書いたとおり、ステマ告示は違法無効ですが、実務ではそうとばかりいっていられないので、この告示が実務にどのような影響を持つのかを予想してみます。
まず、ステマの中でも、表示の内容自体に虚偽があるもの(優良誤認表示にも該当するもの)から、表示の内容自体には虚偽があるとまではいえないものまで、幅広いものがあります。
その中で、優先的に執行されるのは、表示の内容自体に虚偽があるものでしょう。
ということは、消費者庁が措置命令を出す事件では、優良誤認表示とステマ告示違反の両方が適用されることになると予想されます。
また、両方使える事件には、両方使うことが予想されます。
というのは、もしステマ告示違反だけだと、課徴金がかからないからです。
また、課徴金の問題を措くとしても、優良誤認にも問えるのにステマ告示違反にしか問わないというのは問題です。
これがもし、原産国告示違反とかだったら、原産国告示違反に問うておきながら、さらに優良誤認にも問う、ということにはあまり必要性がないように思われます。
というのは、原産国告示を適用すれば、それだけで、「この会社は原産国を偽っていたのね」ということが、消費者には十分伝わるからです。
老人ホーム告示や無果汁清涼飲料告示なども、同じでしょう。
これに対して、ステマ告示は、それだけでは、商品の内容に問題があったことがまったく伝わりません。
それにもかかわらず、優良誤認を適用せず、ステマ告示だけを適用するというのは、さらなる不当表示から消費者を保護する観点からは、許されないことだと思われます。
以上が優良誤認にも該当する場合ですが、その反面、優良誤認表示には問えないような、内容自体には虚偽があるとまではいえない表示に対しては、措置命令まで出されるのかというと、たぶん措置命令までは出ないのだと予想します。
なぜなら、確かにステマはよくないですが、内容自体に嘘がなければ、命令を出すほどのこともない、ということが多そうだからです。
次に、ステマ告示の影響としては、優良誤認や有利誤認においても広告主の表示主体性が幅広く認められるだろうと予想されます。
表示主体性は表示の内容とは関係ないので、優良誤認だろうがステマだろうが同じ基準で判断されるのは当然です。
実際、ステマ告示パブコメ46番では、
「「業者が自己の供給する商品又は役務の取引について行う表示」についての考え方は、本件告示の運用についてだけでなく、優良誤認表示、有利誤認表示及び他の5条3号告示による不当表示についても適用されると理解していますが、それでよろしいでしょうか。」
という質問に対して、
「御理解のとおりです。」
と明快に回答されています。
では、優良誤認や有利誤認の表示主体がこれまでより広く認められるようになるのかというと、そんなことはないでしょう。
アフィリエイト広告なども既に優良誤認での摘発実績があり、悪質なものは同じ運用で対応できるでしょう。
ステマ告示の影響で一番大きいのは、広告主に幅広い対応が必要になることでしょうね。
上述のように、内容に虚偽のない純粋な(?)ステマには措置命令は出されないだろうと予想されますが、措置命令が出ないからといって、対応しないわけにはいきません。
しかも、優良誤認や有利誤認なら、事業者は、ギリギリを狙ったきわどい表示をしなければいいでしょうし、表示に根拠があることをしっかり確認しておけばいいでしょう。
根拠が確認できないなら、最悪、表示の内容を変えてしまえばいいだけです。
景表法は、一般的に、積極的な表示を義務付けているものではないからです。
ところが、ステマ告示は、ステマには、ステマと分かるような表示を積極的にすることを義務付けています。
これは、原産国告示と似ていますが、それよりはるかに対応がたいへんです。
というのは、原産国告示の場合、たとえば2項(外国産品)は、
「2 外国で生産された商品についての次の各号の一に掲げる表示であつて、その商品がその原産国で生産されたものであることを一般消費者が判別することが困難であると認められるもの
一 その商品の原産国以外の国の国名、地名、国旗、紋章その他これらに類するものの表示
二 その商品の原産国以外の国の事業者又はデザイナーの氏名、名称又は商標の表示
三 文字による表示の全部又は主要部分が和文で示されている表示」
が不当表示だということなので、1号から3号の表示をしなければ、「その商品がその原産国で生産されたものであること」一般消費者が容易に判別できるような表示(「中国産」など)をしなくていいわけです。
つまり、原産国告示の場合は、あえてフランス国旗を付けたりするから「中国産」という表示をする必要が出てくるのであって、そもそもフランス国旗を使わなければ、「中国産」と表示しなくてもかまいません。
ところが、ステマ告示は、
「事業者が自己の供給する商品又は役務の取引について行う表示であって、一般消費者が当該表示であることを判別することが困難であると認められるもの」
がすべからく不当表示であるということなので、広告主が、何か積極的に表示内容を決定している場合でなくても違反になります。
しかも、インフルエンサーとか、プロダクトプレイスメントとか、従来あまり広告として認識されてこなかった表示にまで適用されるので大変です。
まずは、ステマ運用基準を熟読して、どこまで対応が必要なのかを見定めるところから始めないといけません。
というわけで、ステマ告示対応で「広告」などの表示をしなければならない範囲は、原産国告示の比ではありません。
これが、実務的には一番大きな影響だろうと予想されます。
では、ステマ告示のおかげで世の中からステマがなくなるのかというと、正直、何とも言えません。
ステマがなくなる、といっても、大きく分けると、
①ステマという広告手法(例、インフルエンサーによる宣伝)自体が使われなくなる
②ステマをしながら、きちんと「広告」と表示する
の2パターンが考えられます。
原産国告示の場合には、告示があるからといって原産国の表示自体がなくなったり減ったりということはあまり考えられません。
原産国を正しく表示すること自体に、情報提供という積極的な意味があるからです。
ですので、原産国告示の場合には、告示があるからといって、原産国表示自体がなくなる(上記①)ということはあまり考えにくいですし、原産国表示をする以上、通常は、内容を正しく表示するでしょうから、上記②は当たり前すぎてそもそも問題になりません。
これに対して、ステマの場合、ステマという広告手法自体が減ることは、十分に考えられます。
というのは、ステマをする以上、きちんと「広告」と表示しなければいけないので、「そんな表示したら広告効果が減るので意味がない。」と考える広告主がいても不思議ではないからです。
これに対して、ちゃんと「広告」と表示しても広告効果があるという表示なら、広告主は使い続けるでしょう。
たとえば、フォロワーから厚く信頼されているインフルエンサーです。
そんなインフルエンサーなら、「広告」と書いたくらいでは、フォロワーの信頼は失われないでしょう。
これに対して、ECサイトの匿名のレビューのような場合、消費者はレビューワー個人を信じているわけではないので、「広告」なんて書いたら、まったく信頼されなくなりそうです。
それに、ECサイトのレビューには、広告主からの依頼のない普通のレビューと、広告主から依頼を受けたレビューが混在することになりますが、後者にだけ「広告」と表示されるような場面を想像すると、格好悪いことこの上ないと思います。
そんな広告手法を、誰が使いたいと思うでしょうか?
というわけで、ステマ的な広告手法が減るかどうかは、まず、具体的な広告手法(広告チャンネル)次第でしょう。
いずれにせよ、ステマ的広告手法が増えることはないでしょう。
では、世の中からステマ(広告であることを隠した広告)がなくなるのか、というと、消費者庁の執行次第でしょう。
もし、表示の内容自体には明確な虚偽はないのに、ステマに当たるというだけで措置命令が出たら、威嚇効果は絶大だと思います。
反対に、措置命令がなければ、きっと野放しになるでしょう。
たとえば、以前このブログでも書いた、「ステマの動かぬ証拠?」(2020年1月28日)のような例を摘発したら、効果抜群だと思います。
というわけで、消費者庁のみなさん、頑張ってください。
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