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2023年5月 5日 (金)

ステマ告示は景表法5条3号違反で無効です。

ステマ告示(「一般消費者が事業者の表示であることを判別することが困難である表示」)は、景表法5条3号で内閣総理大臣に授権された権限の範囲を超えており、無効であると言わざるを得ないと思います。

すなわち、景表法5条3号は、

「三 前二号に掲げるもののほか、商品又は役務の取引に関する事項について一般消費者に誤認されるおそれがある表示であつて、不当に顧客を誘引し、一般消費者による自主的かつ合理的な選択を阻害するおそれがあると認めて内閣総理大臣が指定するもの」

と規定しています。

つまり、一般消費者が誤認する対象は、「取引に関する事項」でなければなりません。

これに対して、ステマ告示は、

「事業者が自己の供給する商品又は役務の取引について行う表示であって、一般消費者が当該表示であることを判別することが困難であると認められるもの」

と規定しています。

ここでは、一般消費者が誤認する対象は、明らかに、

「事業者が自己の供給する商品又は役務の取引について行う表示」が当該「事業者が自己の供給する商品又は役務の取引について行う表示」であること、

です。

平たく言えば、

ある事業者の広告がその事業者の広告であること

が、誤認の対象です。

これは、景表法5条3号の「取引に関する事項」とは、何の関係もありません。

確かに、上述のとおり、ステマ告示の誤認の対象は、

「事業者が自己の供給する商品又は役務の取引について行う表示」が当該「事業者が自己の供給する商品又は役務の取引について行う表示」であること、

ということなので、表示は「取引について行う」ものでなければなりません。

しかし、表示が「取引について」行われるものであるからといって、誤認の対象が「取引に関する事項」であるなどということには、まったくならないことは明らかです。

ステマ告示においては、一般消費者が誤認するのは広告の主体のほうであって、取引に関する事項ではないのです。

どうして、誤認の対象が「取引に関する事項」でなければならないという、景表法5条3号に明確に規定されていることが見落とされてきたのかというと、検討会事務局による5条3号の要件の整理(それはつまり、緑本の整理であり、消費者庁の従前からの整理)の仕方にあると思われます。

つまり、ステマ検討会第6回事務局作成資料2の2頁では、

「景品表示法第5条第3号 告示指定の要件について」

というタイトルの下で、要件は、

「◆商品又は役務の取引に関する事項であること」

「◆一般消費者に誤認されるおそれがある表示であること」

「◆不当に顧客を誘引し、一般消費者による自主的かつ合理的な選択を阻害するおそれがあること」

の3つであると整理しています。

つまり、「◆商品又は役務の取引に関する事項であること」と「◆一般消費者に誤認されるおそれがある表示であること」を、2つの別々の要件であると整理してしまったのです。

そこでは、「◆商品又は役務の取引に関する事項」が「◆一般消費者に誤認されるおそれがある」の目的語(対象)であるという、条文上当然の視点が完全に抜け落ちています。

同じ資料の、「◆商品又は役務の取引に関する事項であること」の説明では、

「商品又は役務の「品質・規格その他の内容」(優良誤認表示)や、商品又は役務の「価格その他の取引条件」(有利誤認表示)に限定されておらず、景品表示法の趣旨・目的に沿う事項であれば、取引に関する事項が広く規制対象となり得る。」

と述べられていますが、これも景表法5条3号の説明として不正確です。

正確に説明するのであれば、

「商品又は役務の「品質・規格その他の内容」(優良誤認表示)や、商品又は役務の「価格その他の取引条件」(有利誤認表示)に限定されておらず、景品表示法の趣旨・目的に沿う事項であれば、取引に関する事項について誤認を生じさせる表示が広く規制対象となり得る。」

とすべきでしょう。

また、同じく「◆商品又は役務の取引に関する事項であること」の説明として、

「「商品又は役務」に関連しない表示(例えば、事業者の所在地の移転、従業員募集のお知らせ)は、対象にならない。」

と説明されていますが(ステマ報告p36にも、株主総会招集通知は対象にならないとの記載あり。)、これも、ステマ規制の観点から厳密に言えば、

「「商品又は役務の取引に関する事項」について誤認させることがあり得ない表示(例えば、事業者の所在地の移転従業員募集のお知らせに関する表示)は、対象にならない。」

とでもすべきだったでしょう。

この、

「「商品又は役務」に関連しない表示(例えば、事業者の所在地の移転、従業員募集のお知らせ)は、対象にならない。」

という説明は、表示の定義に関する景表法2条4項の、

 この法律で「表示」とは、顧客を誘引するための手段として、事業者が自己の供給する商品又は役務の内容又は取引条件その他これらの取引に関する事項について行う広告その他の表示であつて、内閣総理大臣が指定するものをいう。」

の説明としても不完全で、もし景表法2条4項の説明としてするにしても、

「「商品又は役務」の取引に関する事項に関連しない表示(例えば、事業者の所在地の移転従業員募集のお知らせに関する表示)は、対象にならない。」

あるいは、

「「商品又は役務」の取引に関する事項に関連しない表示(例えば、事業者の所在地の移転従業員募集のお知らせに関する表示)は、景表法上の「表示」に該当しない。」

とすべきだったでしょう。

次に、同じく事務局資料の

「◆一般消費者に誤認されるおそれがある表示であること」

の補足説明としては、

「一般消費者の自主的な商品選択の機会の確保を阻害させるような誤認の程度の表示であればよく、「「著しく」優良であると示す表示」や「「著しく」有利であると一般消費者に誤認される表示」の程度までは求められていない。

「一般消費者に誤認される」ことまでは必要なく、「一般消費者に誤認されるおそれがある」程度であれば十分であると考えられている。」

とされているだけで、誤認の程度や「おそれ」の観点だけからの説明であり、やはり、「誤認されるおそれ」の対象が「取引に関する事項」であるという点が抜け落ちています。

ステマ検討会議事録を見ても、この、誤認の対象が取引に関する事項であること(表示に関すること全てではないこと)については、議論された形跡がありません。

検討会議事録から関連しそうな部分を拾うと、第1回の事務局説明で、

「三つ目の行為類型が、これら優良誤認、有利誤認以外の表示であって、商品、役務の取引に関する事項について一般消費者に誤認されるおそれがある表示であって内閣総理大臣が指定するもの。これが5条3号の不当表示でございまして、ここでいう内閣総理大臣というのは景品表示法を所管する大臣ということでございまして、要は必要に応じて行政が不当表示を告示でもって定めることができるという規定になっております。」(第1回議事録p4)

という説明がなされています。

これを読むと、必要があれば行政が定められる、という、非常に大雑把な前提で議論がスタートしていることがわかります。

そのほかにも、第5回検討会の事務局作成資料3に、

「消費者保護の観点からは、現在生じているステルスマーケティングに対して迅速に対応することが重要であり、制度整備に時間をかけるべきではない。そのため、2017年の日本弁護士連合会の意見書で提案された景品表示法5条3号の指定告示に追加することが、早期に実現可能な方法ではないか。」(第5回資料3事務局検討資料11枚目)

という記述があり、とにかく急ぐんだ、ということが強調されています。

同じ事務局資料には、

「考え方②:優良誤認、有利誤認規制の補完・予防的で足りるとすれば、景品表示法5条3号の告示に新たに広告であるにもかかわらず広告であることを隠すことを指定するということが考えられる。」(第5回資料3事務局検討資料11枚目)

という考え方が紹介されており、第5回検討会では事務局から、

「考え方の2です。これは、さっき申し上げました、3の告示につながる話ですけど、結局は、その優良誤認・有利誤認に該当しないものであって、その他、一般消費者に誤認されるおそれがあるものを機動的に行政が対応できる。機動的って申し上げたのは、立法ということになりますと、これは国会、国権の最高機関たる国会が作成することになります。他方で、行政ですと告示で迅速に対応できると。逆に言うと、この3の告示は、法律で禁止されている優良誤認・有利誤認の補完、予防的規定だというふうな位置付けも可能かと思います。そういった対応も考えられるのではないかということでございます。以上のような二つ、どっちがあるのだろうかという話でございます。」(第5回議事録22頁事務局説明)

と説明されており、ここでも、誤認の対象が「取引に関する事項」でなければならないという視点はなく、もっぱら「機動的に行政が対応できる」ことが強調されています。

いったい、これだけ盛大に検討会まで開いて議論しながら、誰もこの問題に付かなかったのでしょうか?

みなさん、条文を読みましょう。

もし私が検討会のメンバーだったら、今回のステマ告示は吹き飛んでいたでしょう。💦

さて、以上の説明は景表法5条3号の文言を読めば明らかなのですが、そのようなことを書いた文献を見たことがありません。

そこで、こういうときにいつも頼りになる白石先生のNBLの解説(白石忠志「景品表示法の構造と要点第11回」1057号59頁)を読むと、

「⑵ 商品又は役務の取引に関する事項について

『取引に関する事項』は、5条1号が対象とする『内容』と5条2号が対象とする『取引条件』のいずれも含み、されにそれ以外の事項も含み得る。

したがって、たとえば、商品役務の販売可能数量も含むこととなり、おとり広告告示の指定が可能となっている(後記4⑷)。」

と、指定される表示の誤認対象が「取引に関する事項」であることが、きちんと解説されています。

さすがというほかありません。

論理的思考とは、こういうものではないでしょうか。

消費者庁のウェブサイトや緑本をコピペするだけで自分の頭を使わずに本や論文を書いている人たちは、白石先生を見習って欲しいです。

さて、それでもステマ告示が景表法5条3号の要件を満たすのだと言うのであれば、ステマは商品役務の品質という「取引に関する事項」を誤認させるのだ、とでも説明するほかないでしょう。

でも、もしステマが商品役務の品質を誤認させるものなのだとしたら、優良誤認表示で完全にカバーできてしまいます。

実際、学説では、以前から、ステマは優良誤認表示で規制できるという説が有力でした(早川雄一郎「第三者を装ってした表示と景表法上の問題、また、 No.1表示等と不実証広告規制」(ジュリスト1543号(2020年)108頁)、小畑徳彦「米国におけるステルス・マーケティングの規制」流通科学大学論集・流通・経営編30巻1号52頁)。

それをかたくなに消費者庁は、ステマは優良誤認では規制できないという立場を取り続けてきたのです。

ステマ検討会でも、

「本検討会の主な目的は、ステルスマーケティングに対する景品表示法による規制の必要性を検討することであるが、広告であることが明示されていなくても表示に優良誤認表示・有利誤認表示がある場合は、景品表示法上の措置が既に可能である。そのため、検討すべき事項は広告であるにもかかわらず、広告であることを隠すこと自体を景品表示法で規制すべきか否かである。」(第1回事務局資料3・1頁)

とされ、優良誤認に該当しないもの(現在は規制できないもの)を検討対象にする、という前提で議論が出発しています。

別の言い方をすれば、ステマは、「品質」(景表法5条1号)の誤認とは関係ない、と明言してしまっています。

これは、原産国告示とか、ほかの告示と決定的に違うところです。

それをいまさら、「ステマ告示も他の告示と同じで、優良誤認にもなりうるけど念のため広げただけ」などと言うことは、さすがにできないでしょう。

ちなみに、原産国告示の制定趣旨については、ステマ検討会第6回で、事務局から、

「そして、〔注・資料2の2頁目の〕この上のほうのそのダイヤでございますが、なぜこの指定告示〔注・原産国告示〕が必要なのかでございます。

優良誤認・有利誤認。優良誤認は、まさに商品の内容についての不当表示、有利誤認、これは価格等取引条件についての不当表示です。

通常その事業者と消費者との取引は、良いものをより安くということで、商品の品質、価格でもって取引がなされるのは通常かと思います。

したがいまして、基本的には優良誤認・有利誤認を規制すれば対応できるのですが、でも、世の中には、いろんな表示がございます。

必ずしも商品の優良性とか有利性に結び付かないのだけど、一般消費者の商品選択に結び付くものがございます。

例えば、原産国、そのイタリア製とフランス製どっちがいいのかなんてことは直ちに分からないわけですが、一般消費者の中には、原産国にこだわる方もいらっしゃいます

その原産国について一般消費者の誤認を招くような表示、これは、放っておけない、そういったものを救うために、この告示があるということでございます。」(第6回議事録3頁)

と説明されています。

これはこれでなるほどと思うのですが、ステマで同じ説明をするのは無理でしょう。

ステマを規制するのは、

「広告であることを明示した広告と、明示しない広告で、どっちが良い商品だと一般消費者が感じるかなんてことは直ちに分からないわけですが、一般消費者の中には、広告であることを明示しない広告のほうが良い商品だと感じる方もいらっしゃいます。」

なんて言えるわけがありません。

広告であることを隠した方が、良い商品にみんなが見える、というのは動かしがたい事実であり、そのことは、検討会の議事録や資料や検討会報告書にも何度も出てきます。

ほかには、西川他編著『景品表示法〔第6版〕』(緑本)160頁では、無果汁飲料告示について、

「リンゴ果汁が入っていない清涼飲料水について、容器に単にリンゴの絵が描いてあったり、リンゴをイメージさせる色が使われているだけでは、その清涼飲料水にリンゴ果汁が含まれていると認識する消費者もいるであろうし、たかだかリンゴの味や風味がするだけの商品であろうと認識する消費者もいるかもしれない。

このような場合に優良誤認表示といえるかどうかを判断することは容易ではないが、他方で、果汁が含まれているかいないかということが,消費者の商品選択上重要な要素であるならば、この点についてあいまいな表示を放任するのではなく、リンゴ果汁が入っていないのであれば、その旨を明示しなければ、一般消費者が、清涼飲料水における果汁使用の有無について誤認するおそれがあるとして規制することができるようにすることは、、消費者が誤認するような不当表示を排除するという景品表示法の趣旨に沿うものである。」

と説明されています。

これもなるほどと思うのですが、ではステマの場合に、

「広告であることを明示しないだけでは、広告だと知らないために品質を誤認する消費者もいるであろうし、広告の内容だけに着目するために品質を誤認しない消費者もいるかも知れない。」

と言えるかというと、そんなことは絶対に言えなさそうです。

というわけで、ステマ告示が景表法5条3号に違反するという結論は動かしがたいように思われます。

少なくとも、ステマ告示が典型的に想定している、広告であることを隠すだけの広告(優良誤認にはかすりもしない広告)については、完全に5条3号の範囲外です。

(余談ですが、ステマ検討会報告書26頁では、ステマは何を誤認させるのかという点について、

「以上から、広告であるにもかかわらず、広告であることを隠す行為は、事業者の表示であるにもかかわらず、実際は、事業者の表示であるという点に、一般消費者の誤認が生じており、その誤認そのものが、一般消費者の商品選択における自主的かつ合理的な選択を阻害しているといえる。」

と述べられていますが、おそらく誤字で、何を言っているのか分かりません。

これは、きっと、

「以上から、広告であるにもかかわらず、広告であることを隠す行為は、実際は事業者の表示であるにもかかわらず、あたかも、事業者の表示ではないかのように示すという点に、一般消費者の誤認が生じており、その誤認そのものが、一般消費者の商品選択における自主的かつ合理的な選択を阻害しているといえる。」

といいたいのでしょう。

こんな肝心なところで誤字はいただけません。

パブコメを見るとステマガイドライン案には主語と目的語の不一致のような、文法レベルの間違いが多々あり、役所の仕事としてお粗末です。

よっぽど突貫工事だったのかもしれませんが、消費者庁の職員の方々は、気を引き締めて仕事をしてもらいたいものです。)

そして、ステマ告示が、広告であることを隠す行為全般を禁止しているために、商品役務の品質を誤認させるかどうかにかかわらずステマは禁止される、という構成に(少なくとも建前上は)なっています。

でも、これを突き詰めると、商品役務の「品質」の誤認が一切生じなくても違反になるということですから、規制範囲はかなり広くなっています。

たとえば、パブコメ165番では、映画などのいわゆるプロダクトプレイスメントについての、

「(第3の2 (2)アについて)『映画等におけるエンドロール等の表示」に関連して質問があるのですが、いわゆる、プロダクトプレイスメント(映画やドラマのシーン肉で、自社の製品・サーピスを積極的に利用・表示してもらうために、自社の製品・サーピスを撮影のために無料で提供したり、または、広告費用を支払うこと)についても、今回の規制の対象になり、「映画等におけるエンドロール等」に表示が必要になるでしょうか。

また、プロダクトプレイスメントが、今回の規制の対象になる場合、エンドロールに、当該事業者の名称を、例えば「撮影協力」「スペシャルサンクス」と記載するだけでは不十分で、エンドロールにおいて、事業者の名称とともに、「広告』、「宣伝」、「プロモーション」、「PR」といった文言まで必要になると考えるベきでしょうか。」

という質問に対して、

「景晶表示法でいう『表示』には、景晶表示法第2条第3項及び第4項の規定に基づく「不当景品類及び不当表示防止法第2条の規定により景品類及び表示を指定する件」(昭和37年公正取引委員会告示第3号)第2項に規定されている「表示」であり、商品、容器又は包装等による広告(同項第1号)、見本、チラシ、パンフレット、ダイレクトメール、口頭による広告(同項第2号)、ポスタ一、看板(同項第3号)、新聞紙、雑誌等による広告(同項第4号)、インターネット等による広告(同項第5号)等の表示が対象となるところ、映画やドラマのシーンにおける表示も同法の「表示」に該当すると考えられます。

ただし、仮に、「映画等』が『事業者の表示』と判断される場合であっても、映画等のエンドロールにおいて事業者名が記載されている場合については、一般消費者にとって、映画やドラマ内に当該事業者の表示が行われていることが明瞭となっているものと整理しております。そのため、「広告」、「宣伝」、「プロモーション」、「PR」といった文言までは必要ないと整理しております。」

というように、エンドロールで事業者名を表示することが必要だとされています。

こういう解釈を「表示」の定義だけから導いてしまうのが恐ろしいところですが、それはまた別の機会に書くとして、この回答から読み取れるのは、まさに、商品の「品質」に誤認がなくても違反になる、ということです。

たとえば、私が20年以上前にニューヨークに留学していたころ、アメリカのHBOで「Sex and the City」が放映されていましたが、その当時、主人公のキャリーが身につけていた靴はその週末売上がグンと伸びる、ということがありました。

(最近公開された続編でサマンサが出ていないのは、返す返すも残念です...)

でもこれは、視聴者が、

「ドラマで使われていた靴だから、品質がいいはずだ。」

と誤認してお店に殺到したわけではもちろんありません。

さらにいえば、

「キャリーが、『自主的な意思』で選んだ靴だから、品質が良いはずだ。」

と誤認したわけでも、もちろんありません。

さらにいえば、

「キャリーが、『自主的な意思』で選んだ靴だから、おしゃれなはずだ。」

と「誤認」したわけでもありません。

単純に、Sex and the Cityの中でキャリーが履いたから、つまりはおしゃれだから、買いに行ったわけです。

つまり、キャリーが履いた靴だということは、ファンにとっては、すなわち、おしゃれな靴なのです。

そこには、何の誤認もありません。

Sex and the Cityのファンなら、あのファッションや、台詞のひとつひとつのおしゃれさは、理解できると思います。

その靴がメーカーからHBOに無償で提供されていようがどうしようが、消費者には関係ありません。

品質に一切誤認がなくても違反になるという立場を貫くと、当然、こういう結論になります。

(ところで、おそらくは事実と異なる全く仮定の頭の体操ですが、

もし、オリンピックに出場したカーリング女子チームが「もぐもぐタイム」に食べていた「赤いサイロ」が、メーカーから無償提供されたものだったとしたら、

あるいは、

もし、女子プロゴルファーの渋野日向子がプレー中に食べていた「たらたらしてんじゃね~よ」が、メーカーから無償提供されたものだったとしたら、

どうやって広告であると明示したらいいのでしょうね?)

というわけで、理詰めで考えるとこれくらい規制対象は広がるということであり、けっこう恐ろしいことです。

今の告示は品質の誤認についてはまったく無限定ですし、それをガイドラインでは「自主的な意思」というよくわからない(しかも日本語の意味と噛み合っていない)要件で絞り込もうとしている姿勢が伺えますが、いかんせん、根本的なところで理屈の詰めが甘いので、どこまでいってもボロが出てきます。

さて、法律違反の告示を放置することもできませんので、ではどうすればいいのかというと、ステマだけを法律で定めるのもおおげさな感じがしますし、ダークパターンとか、今後いろいろと指定したいものも出てくるかも知れないので、景表法5条3号を改正して、そのあとで告示を定めるのがよいと思います。

具体的には、現在の5条3号の、

 前二号に掲げるもののほか、商品又は役務の取引に関する事項について一般消費者に誤認されるおそれがある表示であつて、不当に顧客を誘引し、一般消費者による自主的かつ合理的な選択を阻害するおそれがあると認めて内閣総理大臣が指定するもの」

というのを、

 前二号に掲げるもののほか、不当に顧客を誘引し、一般消費者による自主的かつ合理的な商品又は役務の選択を阻害するおそれがあると認めて内閣総理大臣が指定するもの」

とするのがよいと思います。

以上のような議論は、決して、形式論だとか、重箱の隅をつつくような議論だとかいって、切り捨ててよいものではありません。

消費者庁が不当表示に対して措置命令を出すということは、表現の自由や営業の自由といった国民の基本的人権を侵害する側面を有することは否定しがたいところであり、あくまで法律の授権の範囲内でしなければならないのは当然です。

というわけで、ステマ告示は大騒ぎして作ったのに違法無効という、たいへん残念な結果になってしまいました。

もしステマ告示で措置命令を受けた事業者は、いちど裁判所で争ってみたらいいと思います。

でも現在でも、一般人が眉をひそめるような悪質なステマは優良誤認表示で摘発されていますし、そのほうが課徴金も取れますから、案外、ステマ告示はアナウンス効果だけで、措置命令は使われないということになりそうな予感がします。

むしろ、一般人が眉をひそめるような悪質な(=品質について著しく誤認させる)ステマがステマ告示違反だけで課徴金もかからないとなったら、そちらのほうが非難を浴びそうな気がします。

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