自他共通同額割引券が総付の適用除外である理由から考える総付適用除外の範囲
総付告示2項3号では、
「2 次に掲げる経済上の利益については、景品類に該当する場合であつても、前項〔総付は取引価額の原則2割まで〕の規定を適用しない。
(1号、2号省略)
三 自己の供給する商品又は役務の取引において用いられる割引券その他割引を約する証票であつて、正常な商慣習に照らして適当と認められるもの」
と規定されており、これを受けて総付運用基準4⑵では、
「(2) 「証票」には、
金額を示して取引の対価の支払いに充当される金額証
(特定の商品又は役務と引き換えることにしか用いることのできないものを除く。)
並びに
自己の供給する商品又は役務の取引及び他の事業者の供給する商品又は役務の取引において共通して用いられるものであって、同額の割引を約する証票
を含む。」
と規定されています。
この点に関して、1996(平成8)年2月の告示運用基準の改正に関する解説論文である、
片桐一幸「景品規制に関する告示等の改正について」(公正取引公正取引546号45頁)
では、自他共通割引券を総付規制の対象外とする運用基準の改正について、
「総付景品規制の適用除外となる割引を約する証票について,自他共通割引券・金額証を含めるよう拡大したものである。」
とされています。
では、改正前の総付告示運用基準(5⑶)はどうなっていたのかというと、
「⑶ 他の事業者の供給する商品又は役務についての割引券等
並びに
自己の供給する商品又は役務及び他の事業者の供給する商品又は役務について共通して用いられる割引券等は、
一般の景品類と向様に取り扱う。」
となっており、自他共通割引券は総付規制の対象でした。
上記論文ではさらに続けて、
「これまでの取扱いでは,自己の供給する商品のみに用いられる割引券その他割引を約する証票だけを総付景品告示の適用除外としてきた。
今回の見誼しでは,総付告示の適用除外となる範囲を広げ,
①自己及び他の事業者の両方に使用できるもので同額の割引を約する割引券(自他共通割引券),
②金額を示して対価の支払いに充当される金額証及び自他共通の金額証(特定の商品引換えにしか用いられないものは除く。)
を除外対象とするものである。」
と解説しています。
このうち、
「①自己及び他の事業者の両方に使用できるもので同額の割引を約する割引券(自他共通割引券)」
の部分は、運用基準4⑵の、「並びに」より後の、
「自己の供給する商品又は役務の取引及び他の事業者の供給する商品又は役務の取引において共通して用いられるものであって、同額の割引を約する証票」
を指しています。
次の、
「②金額を示して対価の支払いに充当される金額証及び自他共通の金額証(特定の商品引換えにしか用いられないものは除く。)」
の部分は、運用基準4⑵の「並びに」より前の、
「金額を示して取引の対価の支払いに充当される金額証(特定の商品又は役務と引き換えることにしか用いることのできないものを除く。)」
を指しています。
厳密に言えば、運用基準4⑵の「並びに」より前は、
「金額を示して取引の対価の支払いに充当される金額証(特定の商品又は役務と引き換えることにしか用いることのできないものを除く。)」
といっているだけで、
「自他共通の金額証」
が含まれるのかは文言上定かではないのですが、含まれると読む、ということのようです。
さて、上記論文ではさらに続けて、
「今回の見直しは,自他共通の割引券及び〔自他共通の〕金額証であっても,
特定の商品と引き換えられるものでなければ,
自己の供給する商品の値引きとしての効果が認められるという点に着目して,
一般の景品類の提供と同様の規制はしないという考え方から,除外対象とするものである。」
とされています。
このことから分かるのは、総付運用基準4⑵では、
「(特定の商品又は役務と引き換えることにしか用いることのできないものを除く。)」
の部分が、「並びに」より前の、
「金額を示して取引の対価の支払いに充当される金額証」
の部分にだけかかるように読めるのですがそうではなくて、「並びに」より後の、
「自己の供給する商品又は役務の取引及び他の事業者の供給する商品又は役務の取引において共通して用いられるものであって、同額の割引を約する証票」
の部分にもかかるのだな、ということがわかります。
さて、ここからが今回の本題ですが、上記論文の上記引用部分では、自他共通割引券・自他共通金額証が総付規制の適用除外となる理由として、
「自己の供給する商品の値引きとしての効果が認められるという点に着目」
したのだ、と述べています。
わかったようなわからないような理由ですが、素直に読むならば、
自他共通割引券・自他共通金額証であっても、自己の供給する商品から値引きをするのには違いはないのだから、値引きと扱ってよいだろう。他人の供給する商品から値引きをするからといって、自己の供給する商品から値引きするという効果が否定されるわけではないのだから。
という意味であろうと理解できます。
しかし、これだけではなぜ、「同額」の自他共通割引券でなければならないのか、説明ができません。
(ちなみに、金額証は、自己金額証であれ、自他共通金額証であれ、「同額」であるのは定義上当然です。)
このヒントは、上記論文の次の部分にあります。
すなわち、上記論文では続けて、
「なお,自他共通の割引券及び金額証については,
このような考え方から〔総付規制の適用〕除外対象とするものであるので,
専ら他の事業者の供給する商品の取引においてしか用いられないものを除外するものではない。
自他共通割引券に同額の割引を約するものという要件が付されているのは,このような趣旨からである。」
とされています。
これだけではまだなぜ「同額」に限るのかはわからないのですが、同論文では続けて、
「割引券には,例えば15%引券や20%引券といった率による割引券があるが,
これを他の事業者の取引にも使えるものとした場合には,
他の事業者の商品を購入する場合により大きな割引額が実現できるものがあるわけであり,
これは専ら他の事業者の供給する蕗品の取引においてしか用いられないものと考えられる。」
とされています。
(ちなみに、
「他の事業者の商品を購入する場合により大きな割引額が実現できるものがあるわけであり,
これは専ら他の事業者の供給する蕗品の取引においてしか用いられないものと考えられる。」
という部分は論理的に誤りです。
他の事業者の供給する商品を購入する場合により大きな割引額が実現できたとしても、自己の供給する商品の取引に用いられることはいくらでもありえます。
例えば、八百屋さんが発行したお肉屋さんとの自他共通の2割引券は、確かにトマトが500円でお肉が5000円なら、トマトを買うと100円、お肉を買うと1000円の割引が受けられるわけですが、大きい値引きが受けられるからといってみんながみんなお肉を買うわけではなく、100円の割引でもトマトを買う消費者はいくらでもいると考えられるからです。
この部分の上記論文の解説は、消費者は大きな割引額を受けられるほうを常に選択するはずだという、まったく根拠のない理屈に基づいています。)
しかし、これだけでもなぜ「同額」に限られるのか、定かではありません。
というのは、
「他の事業者の商品を購入する場合により大きな割引額が実現できるものがある」
という点を問題視するのであれば、
他の事業者の商品を購入する場合により大きな割引額が実現できるものが(絶対に)なければよい
はずであり、何も「同額」に限る必然性は何もないからです。
例えば、自己の供給する商品を購入する場合には1000円の値引きが受けられ、他者の供給する商品を購入する場合には500円の値引きが受けられる割引券は、
他の事業者の商品を購入する場合により大きな割引額が実現できるものが(絶対に)ない
はずだからです。
上記論文ではさらに続けて、
「一方,例えば1000円引券や2000円引券といった額による割引券であれば,
総付景品告示の適用除外となる自他共通割引券として,問題なく提供できるということになる。」
と解説されていますが、これもなぜ前記のような割引券(自己の供給する商品を購入する場合には1000円の値引きが受けられ、他者の供給する商品を購入する場合には500円の値引きが受けられる割引券)が許されないのかの説明になっていません。
というわけで、どうも上記論文は、
割引券には一定額を割り引くものと一定率を割り引くものしかない(自他で異なる価格や割合を値引くものは、世の中には存在しない)
消費者は自他のうち値引き額が大きい方の商品を買うはずだ
という、かなり独善的な事実認識に基づいているのではないかと疑われます。
そして、前述のように、
他の事業者の商品を購入する場合により大きな割引額が実現できるものが(絶対に)なければよい
(結果的に消費者が自他どちらから購入するかは問わない)
のだ、という考え方に立つのであれば、上述のような、
自己の供給する商品を購入する場合には1000円の値引きが受けられ、他者の供給する商品を購入する場合には500円の値引きが受けられる割引券
であっても、総付規制の適用除外としてよいと思われます。
これは確かに「同額」という運用基準4⑵の文言には反するのですが、上記のような、なぜ同額でなければならないのか(というか、なぜ同率ではいけないのか)という理由の上記論文の解説や、その論理的矛盾(破綻)からすれば、「同額」でなければならない理由は何もなく、(同解説の誤った事実認識に基づくものではありますが)常に他者との取引に用いられる性質のものでさえなければ足りる、と考えるのが合理的だと思います。
上記論文自体が運用基準の文言からはかなりかけ離れた解釈をしているので、当時の公取委自体が運用基準は文言どおりに解釈する必要はないと認めているようなものであり、「同額」という文言にこだわる必要はない(せいぜい、「同率ではない」というくらいのいみしかない)と考えて差し支えないと思います。
さらにいえば、
自己の供給する商品を購入する場合には1000円の値引きが受けられ、他者の供給する商品を購入する場合には500円の値引きが受けられる割引券
というのの傾斜をもっと極端につければ、
自己の供給する商品を購入する場合には1000円の値引きが受けられ、他者の供給する商品を購入する場合には0円の値引きが受けられる割引券
というものになり、これは自社割引券にほかなりませんから、明らかに総付規制の対象外です。
というより、そもそも定義告示1項ただし書の
「正常な商慣習に照らして値引・・・と認められる経済上の利益」
に該当し、景品類の定義に該当しない純粋な値引きである、というべきです。
そのようなものが、総付規制の適用除外の対象にすらならないはずがありません。
というわけで、結論として言えることは、
自他共通割引券は同額でなくても、自己との取引における値引きが他者との取引における値引きよりも大きければ、総付規制の適用除外となる
ということでよいと考えます。
景品規制は論理的には矛盾だらけなので、正しく理解するには、矛盾した公取の頭の中を自分の頭の中で再現するというかなりアクロバティックなことをしなければならないことが多いのですが、今回のケースはまさにそうです。
最後におまけですが、上記論文では、さらに続けて、
「また,金額証については,金額が示されているもので特定の商品と引き換えられるものでないものとされているので,
例えば,金額が明記された百貨店の蕗品券はこれに該当すると考えられるが,ビール券やテレホン・カードは金額証には該当しないと考えられる。」
と解説されています。
どれくらい特定されていれば「特定の商品」といえるのかは案外難しいのですが、「ビールだけ」とか「公衆電話サービスだけ」というのは、「特定の商品」だということなのでしょう。
この発想でいけば、かつて存在した図書券や文具券も、おそらく「特定の商品」を対象とした割引券なのでしょう。
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