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2023年4月29日 (土)

日本証券業協会の「広告等に関する指針」の将来の取引見込の考え方の射程

継続的取引に対して景品類を提供する場合(例えば、クレジットカードの入会キャンペーンや、最近流行りの様々なサブスクサービスに関するキャンペーン)にいくらまで景品類を提供できるかを特定するために、取引の価額を特定する必要がありますが、掲題の指針62~63頁では、以下のように説明されているのが参考になります。

「② 将来の取引見込の考え方

例えば、口座開設後取引が⾧期にわたって継続して行われる場合は、累計の取引量は多くなる。

そこで、口座開設等一定の取引条件のもと、将来の取引が相当程度現実的に見込めるものである場合には、将来の特定の期間に行われると見込まれる取引を考慮して「通常行われる取引」を算定することができる。

ここで、将来のどの程度の取引期間を見込むかについては、自社の過去の顧客取引データ等や、取引の特性( NISA 制度、累積投資等の制度や商品性)を踏まえて検証し、将来の取引見込の期間が現実的に見込めると判断できる期間を設定する必要がある。

ただし、「最低のもの」を計測するのであるから、過去の実績において多数の顧客が想定期間よりも早く離脱(取引の停止、解約等)しているのであれば、それらの顧客が離脱し始める時期までを「将来取引見込の期間」とする必要がある。

一般的には設定できる期間は 1 年間程度以内が適当であると考えられる。

なお、一定期間の取引の継続を景品提供の条件とする場合は当該期間をもって「将来取引見込の期間」とすることを妨げないが、⾧期の拘束が顧客にとって望ましいかということについても留意する必要がある。

なお、将来の特定の期間に行われる取引を見込んで顧客へ景品類の提供を行っている場合に、想定している当該期間及び取引を対象として、当該顧客に対し、他のキャンペーン等によって総付景品を提供すると、同一の取引に付随して二以上の景品類提供を行うことになると考えられる。

このため、既に提供した景品金額と新たなキャンペーン等により提供する景品金額の合計額が、既に算定した提供できる景品類の価額の上限を超えてはならないことに留意する必要がある。

したがって、キャンペーン等を行うにあたっては、取引種別や期間による「取引の価額」に基づき算定した景品類の提供額を管理し、同一の取引に付随する景品類の提供となるようなキャンペーンを行わないか、

あるいは、そのようなキャンペーンを行う場合には景品類の提供額の上限を超えないように管理する必要があると考えられる。

例えば、新規口座開設を条件に、将来の取引見込みを1年間として計算して新規口座開設キャンペーンを行った場合には、当該開設された口座を対象としたキャンペーンを1年間行わないか、

あるいは1年間のうちに当該開設された口座を対象としたキャンペーンを行う場合には、当該複数のキャンペーンの景品類の提供額の合計が新規口座開設キャンペーン 時に算定した提供できる景品類の価額の上限を超えないように管理(対象口座、取引種別、取引期間、景品類の提供額などの記録に基づく精査)する必要がある。」

ざっくりまとめると、例えば月1万円積み立てる投資信託を契約したら景品類を提供する場合、多くの契約者が1年以上契約を継続する場合、1年間の取引価額の12万円を取引の価額とし、総付ならその2割の2万4000円までの景品類を提供できる、ということです。

さらに、その1年間に別のキャンペーンをその契約者に対して行う場合、2万4000円の枠内で行わなければならない、ということです。

そこで、例えば入会時に1万円の景品類を提供している場合には、残った枠の1万4000円を超えないようにしないといけない、ということです。

さて、なかなか緻密に考えられていて、私もこの考え方は概ね妥当だとは思うのですが、証券業協会が想定しているような金融商品以外にまでこの考え方を適用するのが妥当なのか、あるいは、金融商品全部をこの考え方に従って運用しないといけないのかは、議論のありうるところだと思います。

というのは、上述の月1万円の投資信託の場合、今後1年間の取引の価額がかなり確実に予測できます(12万円)。

ですが、世の中のさまざまな継続的取引の場合、どの程度の取引価額が予想できるかは、まさに、商品によってさまざまです。

たとえば、クレジットカードについては、1年間の通常の取引価額の最低のものは、1万円であるということで運用されています(西川編著『景品表示法』225頁)。

ですが、クレジットカードの会員が実際いくらの取引をするかは、会員ごとに千差万別です。

それを、入会後1年間は、入会時に予想した1万円の取引の価額を基準に2000円までしか総付で景品を提供できないとすることは、実態に合いませんし、硬直的すぎると思います。

私はむしろ、クレジットカードの場合には、入会キャンペーン時に使った取引の価額(1万円)はあくまで将来の予測であって、将来現実に取引を行った場合の取引とは観念上別の取引だと考えて、別枠で景品類を提供してもよいと考えています。

たとえば、クレジットカードの会員に対して、「今月10万円以上カードで買物をした人に景品プレゼント」というキャンペーンの場合、入会時に予想した1万円ではなく、キャンペーン対象の10万円を基準に2万円まで景品類を提供してよいと考えます。

あるいは、月1万円の純金積立のコースを契約した人の1年間の取引の価額は12万円ですが、この1年の間に、「今月、金を3万円以上追加購入した人には、特別に景品プレゼント」というキャンペーンを行う場合には、当初の枠の12万円×0.2=2万4000円とは別枠で、3万円×0.2=6000円の枠内で提供できる、というべきでしょう。

おそらく、証券業協会のガイドラインでもこの場合の考え方は同じでしょう。

というのは、ガイドラインの上記引用部分に、前提として、

「想定している当該期間及び取引を対象として、当該顧客に対し、他のキャンペーン等によって総付景品を提供すると、」

とされているので、追加購入はおそらく「想定している・・・取引」ではない、と整理するのだと思われるからです。

ですが、クレジットカードの場合には、この理屈が使いにくいと思われます。

というのは、特定の金額を使うことを条件にするキャンペーンや、特定の商品を購入することを条件にするキャンペーンについては、カード加入時にはそこまで具体的な取引は想定していなかったという理屈で「想定している・・・取引」ではない、よって別枠だ、と整理することも不可能ではないように思われますが、そうでない場合には、あらゆるカード決済が抽象的には入会時に「想定」されていたというのがむしろ自然だからです。

ともあれ、日本証券業協会のガイドラインは大筋で合理的なものであり、金融商品以外にも広く参考になります。

ただ、参考にする場合には、それぞれの商品の特性に応じて微修正していくことが必要だろうと思います。

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