割引券の取引附随性(消費者庁景品類Q&A23・フリーペーパー)
消費者庁ウェブサイトの景品類に関するQ&Aの23番に、
「Q23 当社では、飲食店などの情報を広告形式で掲載し、また、一部の飲食店の広告面に「飲食代金から500円引き」、「飲食代金から○○%引き」、「飲食してくれたお客様にドリンク1杯サービス」等のクーポン券が印刷してあるいわゆる「フリーペーパー」を発行しています。
このフリーペーパーを駅の改札口や繁華街の街頭で配布したいのですが、このフリーペーパーは景品表示法上の景品類に該当するのでしょうか。
A このようないわゆるフリーペーパーの発行元が景品規制を受けることはありません。
ただし、フリーペーパーに掲載されている店舗が、
フリーペーパーに印刷されているクーポン券を持参した顧客に対して物品などを提供する場合は、
これら店舗と顧客との個々の取引において景品類が提供されるものと認められ、
これら店舗が行う景品提供企画に対し、個別に総付景品規制が適用されます
(クーポン券が、当該店舗で使用できる割引券である場合は、値引に類する経済上の利益に該当し、景品規制は適用されません。)。」
という設問があります。
この設問を根拠にしたのかどうかは定かではありませんが、
フリーペーパーや、より一般的な、新聞チラシに印刷されたクーポン券は、クーポン発行者(飲食店等)との取引をしてはじめて便益を受けられるものなので、クーポン発行者との取引との取引附随性が認められるのだ、
という説明がされるのを耳にしたことがあります。
しかし、このような説明は間違っていると思います。
(Q&A自体は正しいですが、後述のようにやや補足をしたほうが良いと思います。)
例えば、ある通信会社が、自社との契約でのみ使える携帯電話端末を街頭で無料で配ったとします。
(ただし、定義告示運用基準4⑶の「取引の勧誘」はしないという前提です。)
このような街頭での端末の無料配布は、取引を条件とするものではありませんし、その他ガイドライン上の取引附随性が認められるどの例にもあてはまらないので、携帯電話の回線契約との取引附随性は認められないと考えられます。
もし、クーポン発行者と契約してはじめて便益が受けられるという理由で取引附随性を認めてしまうと、このような、街頭で端末を無料で配った場合にまで取引附随性が認められてしまいます。
取引附随性は、あくまで、景品類を提供する条件や、提供の態様の観点から認定されるものであって、いったん提供を受けた景品類の便益を実現するのに提供者と取引したり提供者の店舗に行ったりする必要があるかどうかとは関係ありません。
ここで、特定の通信会社でのみ使用できる携帯電話は物それ自体に価値があるのに対してクーポン券それ自体には価値がないので同列には論じられないのだといってみても、説得力はありません。
クーポン券もメルカリで転売できますので、それ自体に価値がある点では携帯電話とあまり違いません。
ですので、もしその割引券が店舗で利用するものではなく、そこに印刷されているQRコードを読み込んでインターネット通販で用いるようなものだと、その割引券の提供にはそもそも取引附随性が認められません。
割引券自体は街頭で配られており、利用するときにも店舗を訪れていないので、取引附随性が認められないことは当然です。
ここで、発行者との取引に利用して初めて便益を受けられるという理由で取引附随性を認めると、上述の携帯電話の例からもわかるように、わけのわからないことになってしまいます。
ですので、Q&A23の
「クーポン券が、当該店舗で使用できる割引券である場合は、値引に類する経済上の利益に該当し、景品規制は適用されません。」
という回答は、やや言葉足らず(上記のような、便益を受けるために取引が必須であると取引附随性があると誤解されてしまう可能性がある。)であり、誤解を招かないようにするためには、その前の、
「フリーペーパーに印刷されているクーポン券を持参した顧客に対して物品などを提供する場合は、」
という部分と平仄を合わせて、
「クーポン券が、当該店舗にクーポン券を持参した顧客に対して割引するものである場合は、」
とした上で(論理的には、そういう趣旨でしょう)、全体としては、
「クーポン券が、当該店舗にクーポン券を持参した顧客に対して割引するものである場合は、(取引附随性は認められるものの)値引に類する経済上の利益に該当し、景品規制は適用されません。)。」
という回答になるべきでしょう。
もし、QRコードでオンラインで使うようなクーポン券なら、
「クーポン券が、当該店舗にクーポン券を顧客が持参することなく割引するものである場合は、取引附随性は認められないため、景品規制は適用されません。)。」
となるべきでしょう。
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