セット販売であることが「明らかな場合」とは(定義告示運用基準4⑸ア)
セット販売が景品類の提供にあたらない場合について、定義告示運用基準4⑸では、
「(5) ある取引において二つ以上の商品又は役務が提供される場合であっても、次のアからウまでのいずれかに該当するときは、原則として、「取引に附随」する提供に当たらない。
ただし、懸賞により提供する場合(例 「○○が当たる」)及び取引の相手方に景品類であると認識されるような仕方で提供するような場合(例 「○○プレゼント」、「××を買えば○○が付いてくる」、「○○無料」)は、「取引に附随」する提供に当たる。
ア 商品又は役務を二つ以上組み合わせて販売していることが明らかな場合
(例 「ハンバーガーとドリンクをセットで○○円」、「ゴルフのクラブ、バッグ等の用品一式で○○円」、美容院の「カット(シャンプー、ブロー付き)○○円」、しょう油とサラダ油の詰め合わせ)
イ 商品又は役務を二つ以上組み合わせて販売することが商慣習となっている場合(例 乗用車とスペアタイヤ)
ウ 商品又は役務が二つ以上組み合わされたことにより独自の機能、効用を持つ一つの商品又は役務になっている場合(例 玩菓、パック旅行)」
と規定されています。
ここで、イとウが問題になることはあまりないのですが、アの限界は、よく問題になります。
では、
「ア 商品又は役務を二つ以上組み合わせて販売していることが明らかな場合」
とは、どういう意味でしょうか。
およそ「明らか」という言葉ほど意味が明らかでない言葉もないと思いますが(笑)、具体例として挙げられている、
「ハンバーガーとドリンクをセットで○○円」
「ゴルフのクラブ、バッグ等の用品一式で○○円」
「美容院の「カット(シャンプー、ブロー付き)○○円」」
「しょう油とサラダ油の詰め合わせ」
というものをみると、「セット」と謳えばおよそ何でもセット販売(「商品又は役務を二つ以上組み合わせて販売」)になる(=景品類にならない)わけではなさそうです。
もし「セット」と表示すれば何でもセット販売になるなら、4⑸のイとウをアとは別に規定する必要もないでしょう。
なので、アの「明らか」というのは、セットと表示すれば常にセット販売であることが明らかとなるというわけではなく、組み合わされる2つ以上の商品役務に何らかの関連性があることを要すると考えるべきでしょう。
ただ、そういう観点からみたときに、運用基準の具体例はいかにも狭すぎると思います。
これらの具体例は、いずれも、世の中でセット販売をすることが常識となっている、セットと言われて違和感のないものばかりです。
(そういう意味では、アとイの区別は明確ではありませんし、もっといえば、アとウの区別も明確ではありません。)
でも、そういうものだけがセット販売として許されるということになると、ちょっと風変わりなセット販売をやろうとした途端、景品類とみなされることになってしまいます。
これでは、クリエイティブなセット販売を考えようとする事業者の販売活動の自由を制限してしまうことになり、妥当ではありません。
たとえば、ジャガイモとにんじんとタマネギのセット(カレーセット)は、スーパーによくありますので、問題なくセット販売(景品類ではない)ですが、あまりセットで売られることがなさそうな、「ジャガイモと牛乳のセット」というのも、きちんとセット販売であることを表示していれば、セット販売であると言ってよいように思います。
「ジャガイモと牛乳のセット」が売られていたときに、「牛乳はジャガイモの景品類だ」とか、逆に、「ジャガイモが牛乳の景品類だ」とかいう必要はなく、セット販売と考えればよい、ということです。
あるいは、この「明らか」というのを、ハンバーガーとドリンクのセットのような、誰が見てもセットといえるものに限定すると、たとえば、インターネットと電気のセット販売(セット割)ですら、セット販売であることが「明らか」とは言えなくなって、インターネットの値引相当額が電気の景品類だ、などという結論になりかねません。
こういうふうにいろいろな例を頭の中で考えると、どうも、セット販売になるかどうかには、4つくらいの基準があるように思われます。
(なお、定義告示運用基準4⑸ただし書では、
「ただし、・・・取引の相手方に景品類であると認識されるような仕方で提供するような場合(例 「○○プレゼント」、「××を買えば○○が付いてくる」、「○○無料」)は、「取引に附随」する提供に当たる。」
とされているので、「おまけ」であるかのような表示をしないことは大前提です。)
1つめの基準は、景品類にあたる物品が市販品かどうか、です。
市販品なら、セット販売といいやすい方向に傾きそうですが、非売品の場合には、セット販売とはなかなか言いにくそうです。
2つめの基準は、組み合わされる商品相互の機能的関係性です。
この、商品相互の機能的関係性には、
①物品の性質上、明らかにセット販売と言えるもの(例、カレーセット)
②物品の性質上、景品類(おまけ)という印象を受けるもの
という両極端があり、①ならセット販売、②なら景品類となりやすく、その間にいろいろなバリエーションがある、ということかと思います。
3つめの基準は、セットの価格設定です。
もし、セットの価格が、単品を買ったときの合計額から多少減額した程度の価格なら、セット販売と言いやすいでしょう。
これに対して、商品Aと商品Bのセット販売価格が、商品A単体の販売価格と同じ(つまり商品Bがただで付いているように見える)場合には、商品Bは商品Aの景品類であるとみられる可能性が高いように思われます。
4つめの基準は、セットを構成する物品の価格比です。
たとえば、物品Aと物品Bのセットにおいて、物品Aと物品Bの市場価格が同じくらい(1:1くらい)の場合、両に主従の関係がないので、セット販売と認められやすそうです。
逆に、物品Bの市場価格が物品Aの市場価格の3割未満程度だと、両者に主従の関係があり、いかにも物品Bは物品Aの景品類っぽく見えます。
(前提として、総付です。懸賞なら、常に景品類になります。定義告示運用基準4⑸ただし書前段。)
景品類の何が問題なのかと言えば、ほんらいの取引内容でない利益で消費者の選択をゆがめるのが問題なわけです。
そして、構成物品間の価値の比に明確な主従関係がない場合には、消費者は、構成物品それぞれがほんらいの取引の対象であると認識しやすく、選択がゆがめられるおそれは小さいといえると思われます。
これら4つの基準と、表示の仕方で、
「ア 商品又は役務を二つ以上組み合わせて販売していることが明らかな場合」
にあたるかどうかを考えていけばよいと思います。