公取委のニュース配信プラットフォーム実態調査に関する報道について
本日(2022年11月17日)の新聞で、公取委が、Googleなどのニュース配信事業者が報道機関に支払っている利用料が不当に安いかなどを調べる実態調査を行うと報道されました。
朝日新聞の記事では、
「前回の報告書〔2021年2月のデジタル広告に関する調査報告書〕では、競争政策上の視点からの指摘にとどまった。
今回は独占禁止法上の優越的地位の乱用にあたると指摘することも検討する。公取委の担当者は「法律上の問題と指摘できれば、より踏み込んだ提言となる」と説明する。」
と報道されています。
私は、今回のニュースプラットフォームによる不当廉価購入(買いたたき)に対して優越的地位の濫用を適用するのに反対です。
1つめの理由は、優越的地位の濫用は、公取委のさじ加減1つで何でも違法にできる、非常に不透明な規制だからです。
どうしても独禁法違反だというなら、私的独占で行くべきでしょう。
(でも、買いたたきは排除型にも支配型にも当たりそうにないので、難しいでしょうけれど。)
2つめの理由は、本件のようなケースを買いたたきで優越的地位の濫用とするのは、公取委自身が定めている優越的地位の濫用ガイドラインに違反するからです。
優越的地位の濫用ガイドライン第4の3⑸ア(取引の対価の一方的決定)では、買いたたきについて、
「ア 取引の対価の一方的決定
(ア) 取引上の地位が相手方に優越している事業者が,取引の相手方に対し,一方的に,著しく低い対価・・・での取引を要請する場合であって,
当該取引の相手方が,今後の取引に与える影響等を懸念して当該要請を受け入れざるを得ない場合には,
正常な商慣習に照らして不当に不利益を与えることとなり,優越的地位の濫用として問題となる」
とされており、「今後の取引に与える影響等を懸念」すること(以下「懸念要件」といいます。)が必要であると明記されているからです。
これは、例えば、コンビニがセールをするので納入業者に1円での納品を要請し、納入業者は断りたかったけどもし断ったら今後の取引量を減らされるのではないかと懸念してしぶしぶ応じた、というような場面を想定しています。
しかし、今回のニュース配信のケースでは、例えば、朝日新聞が、不当に安い利用料に不満だったけれど、もしその利用料を拒否したら将来取引上不利に扱われるかもしれないことを懸念してしぶしぶ応じた、というような場面は想定されていないと思われます。
想定されているのは、まさに、その正規の利用料が安すぎること自体が不当だ、ということでしょう。
もちろん、朝日新聞が安い利用料を拒否したら、Googleは、朝日新聞のニュースを配信しないかもしれません。
しかし、それはまともな、正規料金についての価格交渉であって、優越的地位の濫用で対応するような問題ではありません。
懸念要件が要求されているのは、まさに、そういうまともな価格交渉を違法にしてしまわないためでしょう。
コンビニの納入業者だって、ずっと1円で納入しろと言われたら、応じるはずはありません。
それでも、セールの時の一時的なものなら応じるのは、まさに、この要請に応じておけば将来はまともな価格で取引できるはずだ、という弱みがあるからであり、コンビニ側がその弱みにつけ込むところに公正競争阻害性が認められるのでしょう。
このように、買いたたきにおける懸念要件は、濫用の本質的な要件です。
(要件には、本質的と非本質的の区別は本来なく、論理的には全て等価ですので、ここでの「本質的」というのは、あくまで気分的なものですが。)
もし、懸念要件を無視して、まともな、正規の価格交渉にまで公取委が優越的地位の濫用で介入するとしたら、優越的地位の濫用の濫用というべきです。
もし、今後出てくる報告書で公取委が違法だと指摘するなら、この懸念要件についても、きちんと説明すべきでしょう。
公取が、自身のガイドラインを無視するとしたら、一体何のためのガイドラインなのでしょう?
たかが実態調査ですが、この点は疎かにしては決していけないと思います。
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