商品名も表示です(愛媛麦みそ騒動に関する毎日新聞記事について)
新聞でも大きく取り上げられた愛媛県麦みそ騒動ですが、愛媛県の判断は本当にひどいと思いました。
愛媛県の当初の指導の理由は、麦みそには大豆を使わないといけないのに、指導の対象になった井伊商店の麦みそには大豆が使われていないから、「麦みそ」と呼んではいけない、ということだったようです。
しかし、大豆を使わずに作る麦みそが昔からちゃんとした「麦みそ」として流通しているのに、それを「麦みそ」と呼んではいけないというのは無茶だと思います。
確かに、食品表示基準別表3では、「麦みそ」を、
「この表の中欄に掲げるみそのうち、
⼤⾖を蒸煮したものに、
⼤⻨⼜ははだか⻨を蒸煮してこうじ菌を培養したもの
(以下みその項において「⻨こうじ」という。)
を加えたものに⾷塩を混合したものをいう。」
と定義されているので、「大豆を蒸煮したもの」がベースになっていないといけないようです。
(ちなみに、「この表の中欄に掲げるみそ」というのは、広義の「みそ」の定義で、同別表3では、
「次に掲げるものであって、半固体状のものをいう。
⼀ 〔①〕⼤⾖若しくは⼤⾖及び⽶、⻨等の穀類を蒸煮したものに、⽶、⻨等の穀類を蒸煮してこうじ菌を培養したものを加えたもの
⼜は
〔②〕⼤⾖を蒸煮してこうじ菌を培養したもの若しくは〔③〕これに⽶、⻨等の穀類を蒸煮したものを加えたもの
に⾷塩を混合し、
これを発酵させ、及び熟成させたもの
⼆ ⼀に砂糖類(砂糖、糖蜜及び糖類をいう。)、風味原料(かつおぶし、煮⼲⿂類、こんぶ等の粉末⼜は抽出濃縮物、⿂醤じょう油、たんぱく加⽔分解物、酵⺟エキスその他これらに類する⾷品をいう。以下別表第四のみその項において同じ。)等を加えたもの」
と定義されています。)
でも、景表法の表示が食品表示基準に従わなければいけないなんていうことは、まったくありません。
両者は別の法律なので、あたりまえです。
食品表示基準どおりの認識を一般消費者が持つことが一般化しているのであれば、食品表示基準に従って景表法が解釈されるということもあるかもしれませんが、それは、そのような認識が消費者の中で一般化しているからであって、当然に食品表示基準どおりに景表法が解釈されるわけではありません。
(この点で、メニュー表示ガイドライン注4で、成型肉を焼いた料理を「ステーキ」と呼んではいけない根拠として
「食品表示法では、牛の生肉、脂身、内臓に酵素添加物や植物たん白等を加えるなどして肉質を変化させ、人工的に結着し、形状を整えたような成形肉については、牛の生肉の切り身と区別されています。また、その処理により病原微生物による汚染が内部に拡大するおそれがあることから、中心部まで加熱する必要があり、成形された生肉が容器包装されている場合は、その全体について十分な加熱を要する旨などを表示することとしており、牛の生肉の切り身とは、その取扱いを異にしています。」
と、食品表示基準に言及しているのは、私は大きな問題だと思っています。)
この件は、食品表示基準を参照して解決するような問題ではなく、もっと常識的に、消費者の認識を基準に判断すべき問題です。
麦みそはあくまで麦みそなのであって、味噌とは違う、というのが消費者の認識でしょう。
もし麦みそに麦を使っていなかったら不当表示でしょうが、麦みそに大豆を使ってなくても、何も問題ないと思います。
これが問題だというなら、かに味噌を「かに味噌」と呼べなくなってしまうでしょう。
消費者は、かに味噌に「味噌」という言葉が入っていても、かに味噌が味噌でないことくらい、わかっています。
というわけで、愛媛麦みそ騒動の愛媛県の指導は明らかに間違いです。
さて、2022年11月12日の毎日新聞の記事に、気になる記述がありました。
同記事では、
「消費者庁「商品名は制限せず」」
という小見出しのもとに、
「⼆つの法律〔注・食品表示法と景表法〕を所管する消費者庁はどう考えるのか。
⾷品表⽰法の担当者によると、品名や原材料名などの記載基準は、商品パッケージの⼀括表⽰欄にのみ適⽤されるという。
つまり、欄外に商品名として⻨みそと表記することは妨げない。
また、景品表⽰法の担当者は「商品名に制限を加える法律ではない」と説く。
例えば「健康に良いみそで、⾎圧が抑えられる」とうたっているのに、その効能が認められないなど、実態より明らかに優良だと⽰さない限り、違反には当たらないという。」
と記載されています。
この、景品表示法の担当者の「商品名に制限を加える法律ではない」というコメントは、まちがいです。
担当者が言い間違えたのか、記者さんがまとめ間違えたのかはわかりませんが(たぶん、前者でしょう)、とにかく間違いです。
商品名も、景表法の規制対象になる「表示」であることに、争いはありません。
西川編著『景品表示法〔第6版〕』43頁にも、
「商品名や企業名それ自体も①~⑤〔注・定義告示2項〕のような形で表示する場合、景品表示法の対象となり得る」
と明記されています。
もし商品名が景表法の対象にならないなら、「麦みそ」に麦を使っていなくても、不当表示にはならないことになってしまいますし、麦みそには大豆が使われていると一般消費者が認識していたとしても、商品名を景表法違反とした愛媛県の指導は間違いだったことになってしまいます。
実際にも、メニュー偽装事件では、「芝海老とイカの炒め物」というメニューにバナメイエビを使っていたのが優良誤認表示とされました(厳密には、レストランのメニューは役務の表示ということらしいですが、ここでの問題での例としては充分でしょう。)
商品名も不当表示になりえますので、みなさん、くれぐれもご注意下さい。
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