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2022年10月

2022年10月31日 (月)

アンケートとモニターに関する定義告示運用基準の矛盾

定義告示運用基準1⑴では、

「(1) 提供者の主観的意図やその企画の名目のいかんを問わず、客観的に顧客誘引のための手段になっているかどうかによって判断する。

したがって、例えば、親ぼく、儀礼、謝恩等のため、自己の供給する商品の容器の回収促進のため又は自己の供給する商品に関する市場調査のアンケート用紙の回収促進のための金品の提供であっても、「顧客を誘引するための手段として」の提供と認められることがある。」

とされています。

これに対して、同5⑶では、

「(3) 取引の相手方に提供する経済上の利益であっても、仕事の報酬等と認められる金品の提供は、景品類の提供に当たらない(例 企業がその商品の購入者の中から応募したモニターに対して支払うその仕事に相応する報酬)。」

とされています。

でも、この2つは矛盾しているのではないでしょうか。

自己の供給する商品に関する「市場調査」と、自己の商品の「モニター」とは、区別できないと思います。

あえて言えば、

「自己の供給する商品に関する市場調査」のほうは、「市場調査」なので、専ら自己の商品についての調査だけではなく、競合品についての質問や、その他幅広く需要者の嗜好に関係する調査を含まれる

のに対して、

「モニター」は、専ら自己の商品の使い勝手を報告させるものに限られる、」

ということかもしれませんが、それでも、どっちともいえる調査はいくらでもあると思います。

あるいは、

「自己の供給する商品に関する市場調査」のほうは、「アンケート」なので、アンケート用紙に簡単に記入してすむものを想定している(ので、それに対する謝礼は謝礼に値せず景品類に該当する?)

のに対して、

「モニター」のほうは、一手間も二手間もかけて回答するものなので、報酬を支払うのに値する

ということなのかもしれませんが、やはり、区別をするのは困難だと思います。

それに、このような考え方をとると、少額のもの(アンケートの謝礼)は景品類に該当するのに対して、相応の額のもの(モニターの報酬)は景品類に該当しない、という、なんとも据わりの悪いものになってしまいます。

「モニターの場合、相当の仕事をしてもらっているのだから、相応の額の物を払ってよいのだ」といっても、やはり、「では、アンケートのような、ちょっとした作業に、ちょっとしたお礼を払うのもかまわないのでは?」という疑問がわきます。

ほかには、市場調査のほうは、アンケート用紙の「回収促進」のためであるのに対して、モニターのほうはあくまで「仕事の報酬」なのだ、という目的で区別するという説明もあるかもしれませんが、これなんかはもっとも区別するのが困難でしょう。

モニターの報酬だって、モニターをやってもらえる(モニターからの情報取得の促進)の対価でしょう。

ということで、厳密に考えると、両者は矛盾すると言わざるを得ません。

こういうときの解決の1つは、とことん厳密に考えることです。

そうすると、アンケートの方は、

「「顧客を誘引するための手段として」の提供と認められることがある。」

といっているだけなので、顧客誘引性だけの話でほかの要件は別途検討が必要、ということですし、「ことがある」なので認められないこともある、と読めるのだ、そうすると結局、「仕事の報酬等」に該当するもの(モニター等)は、すべて景品類には該当しないのだ、ということになります。

いわば、アンケートのほうは、モニターの規定により空振りになっている(ヒットしているのはそれ以外の「親ぼく、儀礼、謝恩等のため、自己の供給する商品の容器の回収促進のため」だけ)、と読むわけです。

もう1つの解決は、運用基準をドラフトした公取委の担当者の気持ちになって、ぼーっと考えてみる(あんまり厳密に考えない)という方法です。

これは実務上結構役に立ったりします。

少なくとも昔の景品規制は、あまり理屈を考えてできていたわけではなく、相談や実務の蓄積から得られた知見をつぎはぎしながら作っていたフシがあります。

実務を担当する人間は、細部の整合性にまでは気をつかわず、とにかく目の前の事案が常識的に解決できればよしとする傾向がありますので、そういう、公取委担当者の気持ちになって考える、ということです。

そうすると、先に述べたような、アンケートにもモニターにもあたるようなものがあるじゃないかとか、両者は厳密に区別できないじゃないかといった疑問は氷解し、目の前に出てきたものがアンケートっぽかったら、報酬に値する仕事ではないから景品類に該当し、それなりの作業が必要なら報酬であって景品類には該当しない、というように、両者はきれいに区別されます。

ですが、私はこの論点に関しては、やはり、アンケートに対する謝礼も「仕事の報酬」に該当するとしてかまわないと考えています。

つまり、アンケートの謝礼に関する記述は純粋に取引誘引性だけの話であり、そのためアンケートについては仕事の報酬に該当するので結果的に空振りである、ということです。



から良いのだ、

2022年10月14日 (金)

知財の帰属は契約書に書くのでは足りないのか?(公取委下請法Q&A19番について)

公取委ウェブサイトの下請法Q&Aの19番に、

「(知的財産権の譲渡)

Q19 情報成果物作成委託において,知的財産権が親事業者又は下請事業者に発生する場合,いずれの場合においても,契約において知的財産権は親事業者に帰属することとしている。

この場合も3条書面にその旨記載する必要があるか。」

という設問に対して、

「A. 下請事業者に知的財産権が発生する場合,「給付の内容」に含めて当該知的財産権を親事業者に譲渡させるのであれば,給付の内容の一部として3条書面に記載する必要がある

また,その場合には,当該知的財産権の譲渡・許諾に係る対価を下請代金に加える必要がある。」

と回答されています。

私は、これは間違いだと思います。


複数の発注に共通する事項(共通事項)を3条書面とは別途通知する方法については、下請法3条1項の委任を受けた3条書面規則(「下請代金支払遅延等防止法第3条の書面の記載事項等に関する規則」)4条で、

「第1条第1項各号に掲げる事項〔注・3条書面記載事項〕が一定期間における製造委託等について共通であるものとしてこれを明確に記載した書面によりあらかじめ下請事業者に通知されたときは,

当該事項については,その期間内における製造委託等に係る法第3条の書面への記載は,その通知したところによる旨を明らかにすることをもって足りる。」

と規定されています。

下請法運用基準第3の1(1)でも、

「(1) 3条書面に記載すべき事項は,「下請代金支払遅延等防止法第3条の書面の記載事項等に関する規則」(以下「3条規則」という。)第1条第1項に定められており,親事業者は,これらの事項について明確に記載しなければならない。

親事業者は,製造委託等をした都度,3条規則第1条第1項に定められた事項(以下「必要記載事項」という。)を3条書面に記載し,交付する必要があるが,

必要記載事項のうち,一定期間共通である事項(例:支払方法,検査期間等)について,

あらかじめこれらの事項を明確に記載した書面により下請事業者に通知している場合には,

これらの事項を製造委託等をする都度交付する書面に記載することは要しない。

この場合,当該書面には,「下請代金の支払方法等については○年○月○日付けで通知した文書によるものである」等を記載することにより,当該書面と共通事項を記載した書面との関連性を明らかにする必要がある。」

と、同様の記載があります。

つまり、共通事項を別途通知する方法は、法律上も運用基準でも明確に認められているのです。

なのに、知的財産の帰属だけ別に扱う理由はありません。

令和3年11月版下請法講習テキストをみても、

「Q29: 継続的に運送を依頼している役務提供委託の取引において,契約書を3条書面とすることは問題ないか。それとも,契約書を取り交わしていても,別途,個々の運送を委託するたびに3条書面を交付する必要があるか。

A: 契約書の内容が,3条書面の具体的な必要記載事項(下請代金の額については算定方法を記載することも可)を全て網羅していれば,個別の役務提供のたびに3条書面を交付する必要はない。」(p30)

「Q32: 長期継続的な役務取引の場合には,年間契約を締結し,その後1年ごとの自動更新としている場合があるが,

この契約書が3条書面の必要記載事項を網羅している場合,1年ごとに契約書を改めて交付する必要はあるか

A: 契約書中の3条書面に記載すべき必要記載事項に変更がなければ,改めて交付する必要はない

なお,このような場合には,委託代金(下請代金の額)などについて,別途の書面で定めている場合もあると考えられ,別途の書面がある場合は当該書面を代金改定時などに随時交付するとともに,相互の関連付けが明らかになるようにする必要がある。」

というように、共通事項を通知する書面は契約書でもいいことが明らかにされていますし、同テキスト93頁の、

「下請代金支払遅延等防止法第 3 条に規定する書面に係る参考例」

の冒頭では、

「親事業者と下請事業者の間で取り交わされる契約書等の内容が,3条規則で定める事項を全て網羅している場合には,当該契約書等を3条書面とすることが可能であるので,別に書面を作成する必要はない。」

と、契約書に必要な記載がなされていればわざわざ別の書面を作って通知する必要はないことが明らかにされています。

というわけで、Q19は無視してかまいません。

ただ、当局のウェブサイトに書いてあるのに一弁護士が反対のことを言っているからと言って、正面切って逆らいにくい、という場合には、Q19の質問に、

3条書面に記載する必要がある。」

とあるのは、3条書面に直接記載する場合だけでなく、3条書面では契約書に言及する文言を記載(紐付け)しつつ、実際の文言は契約書に書かれている場合でも「3条書面に記載」しているのだ、という解釈をすれば辻褄は合うと思います(文言解釈的には相当無理がありますが)。

いずれにせよ、こういう明らかな間違いは、早く訂正してほしいものです。

2022年10月 5日 (水)

インテル事件欧州委決定(2009年)の必要シェアの公式について(その2)

昨日の続きですが、掲題決定にはもう1つ、HP向けのrequired share(競争者が最低限獲得しなければならない需要者の購入量に占めるシェア)の公式として、

S=R/{(ASP-AAC)・V} ・・・①

というのも載っています(¶1196)。

記号の意味は、

S: required share

R:リベートの金額

ASP:average sales price, (独占者の)平均価格(リベート支払い前の)

AAC:average avoidable cost, (競争者の)平均回避可能費用

V:リベートを獲得するために需要者が購入しなければならない数量(個)

です。

これも証明してみましょう。

需要者がV個全部を独占者から買うときの支払額は、

ASP×VーR ・・・②

です。

需要者は、独占者から全部購入すればこの②の価格ですむわけですから、一部を競争者から購入するとしても、総額は、②の価格に抑えたいはずです。

ということは、

ASP・V(1-S)+AAC・VS≦ASP・VーR ・・・③

となります。

左辺の第1項が独占企業への支払額、第2項が競争者への支払額、右辺は全部独占企業から購入したときの支払額です。

③を変形すると、

AAC・VSーASP・V・S≦ーR ・・・④

となり、左右に-1/Vをかけて右辺をSでくくると、

S・(ASPーAAC)≧R/V ・・・⑤

となり、両辺をASPーAACで割ると、

S≧R/{(ASPーAAC)・V} ・・・⑥

となり、①(S=R/{(ASP-AAC)・V})が証明できました。

2022年10月 4日 (火)

インテル事件欧州委決定(2009年)の必要シェアの公式について

インテル事件欧州委決定¶1157では、同等に効率的な競争者が獲得する必要のあるシェア(必要シェア, required share)の算定式として、

S=rα/{1-r(1-α)-AAC/ASP} ・・・①

という公式が示されています。

ここで、

S:必要シェア

r:リベート率(売上100万円で20万のリベートならr=0.2)

α:条件を満たさない場合に失われるリベートの割合(全部失われるならα=1)

AAC:average avoidable cost.ここでは同等に効率的な競争者の販売価格

ASP:average sales price.独占企業の(リベートを引く前の)平均価格

です。

この式の導き方を簡単にメモしておきます。

まず簡単にするために、前述の式で、α=1とすると、

S=r/{1-AAC/ASP} ・・・②

となります。

これを導いてみましょう。

まず、需要者の需要量をV(個)と仮置きします。

このV(個)全部を独占企業から購入した場合の代金は、

ASP×V×(1-r) ・・・③

となります。

需要者は、全部を独占企業から購入してもこの金額で足りるので、競争者から一部を購入するとしても、トータルの支出額は③以下に抑えたいはずです。

そして、一部(Sとします。0≦S≦1)競争者から買う場合の代金総額は、

独占企業への支払額+競争者への支払額=ASP×V×(1-S)+AAC×V×S ・・・④

となります。

ここで、③≧④でなければならないので、

ASP×V×(1-r)≧ASP×V×(1-S)+AAC×V×S ・・・⑤

となります。

両辺をVで割ると、

ASP×(1-r)≧ASP(1-S)+AAC×S=ASP-ASP×S+AAC×S ・・・⑥

となり、変形すると、

S(ASPーAAC)≧ASPーASP(1-r)=ASP×r ・・・⑦

となり、さらに変形すると、

S≧(ASP×r)/(ASP-AAC)=r/(1-AAC/ASP)・・・⑧

となり、②(S=r/{1-AAC/ASP})が証明できました。

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