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2022年9月19日 (月)

下請に対する損害賠償請求の制限に関する下請振興基準第4の2⑶の規定について

2022年7月に改正された下請振興基準の第4の2⑶では、

「親事業者、自ら納品された物品等の検査を行い、又は書面等により委任して下請事業者に物品等の検査を行わせ、当該検査を合格とした場合であって、

その後、親事業者の納入先等からの指摘により当該物品等の引取り、やり直し又は損害賠償を行うこととなったときは、

当該物品等の不具合の有無及びその原因を明らかにし、

その引取り、やり直し又は損害賠償に必要となる人員の手当、金銭の支払い等について、親事業者がすべてを負担せず下請事業者にも負担を求めることの必要性及び合理性の有無を、

十分に確認するものとする。

親事業者は、下請事業者にも当該負担を求めることとなる場合には、

親事業者、下請事業者それぞれが当該物品等に係る納品により得た取引対価を勘案しつつ、

下請事業者と十分に協議を行い、

親事業者及び下請事業者双方が合理的な割合で負担するものとし、

一方的に下請事業者に引取り、やり直し又は損害賠償を負担させないものとする。」

という規定が追加されています。

もともと振興基準には法的拘束力はありませんので、無視しても構わないのですが、パートナーシップ構築宣言をしていたりするとこの規定も守らなければならず、そういう意味では、実務上のインパクトはけっこう大きいのではないかという気がします。

というのは、下請の商品に瑕疵があった場合に損害賠償請求しても下請法に違反しないのか、というご質問はしょっちゅう受けるからです(結論としては、違反しません)。

要するにこの規定が言っているのは、仮に納品物に瑕疵(隠れた瑕疵を含む。)があっても、いったん合格して引き取った以上、親事業者は下請事業者に全額の損害賠償をできず、双方の取引対価を勘案して負担を分担しなければならない、ということです。

これは、いくつかの点で驚きです。

まず、隠れた瑕疵(検査で発見できない瑕疵)であっても、親事業者は下請事業者に全額の損害賠償をできない、ということです。

この結論は、上記引用部分で、隠れた瑕疵かどうかを区別していないことからあきらかです。

むしろ、検査に合格したということは、発見できなかった可能性の方が高く、むしろそちらを念頭に置いているとさえ言えます。

次に驚きは、やり直しだけでなく、損害賠償請求もできないとしていることです。

下請法では、やり直しも一定の条件で認められており、損害賠償請求については一切制限がありません。

それに比べて、振興基準は親事業者にとても厳しいものになっています。

ポイントは、

「それぞれが当該物品等に係る納品により得た取引対価を勘案」

しつつ、

「双方が合理的な割合で負担する」

としている点です。

もしこれが、「合理的な割合」だけなら、下請事業者が100%負担することが「合理的」な場合なんて世の中にはいくらでもありますから(むしろ私の経験ではそのようなケースが大半です)、100%下請事業者に負担させることも問題ないことになりますが、「それぞれが当該物品等に係る納品により得た取引対価」を勘案するとしているので、そうもいかなさそうです。

では、「それぞれが当該物品等に係る納品により得た取引対価」とは何でしょう。

まず、下請事業者にとっての「当該物品等に係る納品により得た取引対価」は、親事業者に納品した物品の対価として受け取る下請代金の額のことでしょう。

問題は、親事業者にとって「当該物品等に係る納品により得た取引対価」とは何か、です。

ここでは、

「当該物品等に係る納品により得た取引対価」

というように、「係る」というあえてあいまいな言葉を用いていることがポイントです。

これは、親事業者にとっては、下請事業者から納品を受けた物品等を使って作った製品を顧客に販売して得た対価という意味に解するほかないと思われます。

たとえば、ある自動車部品メーカー(下請事業者)が、ある部品を1個1万円で自動車メーカー(親事業者)に販売し、親事業者は、その部品を使って自動車を完成させ、顧客(ディーラーは単純化のために無視して、消費者をイメージします)に200万円で販売したとします。

このとき、下請事業者にとっての「当該物品等に係る納品により得た取引対価」は、「当該物品等納品により得た取引対価」の意味であり、部品代1万円です。

これに対して、親事業者にとっての「当該物品等に係る納品により得た取引対価」は、「当該物品等〔部品〕に関連して行われた納品により得た取引対価」という意味であり、完成車の代金200万円です。

ここでもし、下請事業者の部品に欠陥があって、リコールが必要になり、リコール代に1台10万円かかったとしましょう。

この10万円のリコール代を両者でどのように分担すべきかというと、親:下=200:1で分担せよ、よって、親=10万×(200÷201)≒9万9500円、下=10万×(1÷201)≒500円、ということになりそうです。

これはあまりにも親事業者に酷な結論に思われますが、振興基準を素直に読むとこう解せざるを得ません。

このように解しない方法としては、

「親事業者、下請事業者それぞれが当該物品等に係る納品により得た取引対価を勘案しつつ」

というのは、あくまで「勘案」するだけなので、取引対価の割合で按分することまでは常に求められていない、と考えることです。

まあそれが「合理的」だとは思いますが、ではいったいなぜ「当該物品等に係る納品により得た取引対価 」という、意味のよく分からない表現が用いられたのか、ますますよくわかりません。

この点について、パブコメ44番では、

「・下記を削除いただきたい。

「親事業者は、下請事業者にも当該負担を求めることとなる場合には、親事業者、下請事業者それぞれが当該物品等に係る納品により得た取引対価を勘案しつつ、下請事業者と十分に協議を行い、親事業者及び下請事業者双方が合理的な割合で負担するものとし、一方的に下請事業者に引取り、やり直し又は損害賠償を負担させないものとする。」

・全体が長過ぎるため、規定内容がより明確になるよう、箇条書きに変更いただきたい。

・理由

改正案では、下請事業者に帰責性があると認められる隠れたる瑕疵等を原因とした、やり直しや損害賠償を求める場合においても、責任を一部免除されるような内容になっている。責任の範囲は、事案の内容に応じて都度協議すべきものであるが、常時、取引対価の大小に応じた双方負担を前提とすべきと解釈されるような表記は適切ではない。」

という質問に対して、

「改定案第4 2 (3)の前段では、

「当該物品等の不具合の有無及びその原因を明らかにし」、「親事業者がすべてを負担せず下請事業者にも負担を求めることの必要性及び合理性の有無を、十分に確認するものとする」と規定しているに過ぎず、

ご意見の理由にあるところの下請事業者の「責任を一部免除されるような内容」となっているものではありません

また、下請事業者にも負担を求めることとなった場合について、

「下請事業者と十分に協議を行い、親事業者及び下請事業者双方が合理的な割合で負担するものとし」と規定しており、

ご意見の理由に書かれている「事案の内容に応じて都度協議すべきもの」という考え方と共通するものとなっています。

また、規定案は、「親事業者、下請事業者それぞれが当該物品等に係る納品により得た取引対価を勘案しつつ、下請事業者と十分に協議を行い、親事業者及び下請事業者双方が合理的な割合で負担するものとし」と規定しており、

ご意見の理由にあるような「常時、取引対価の大小に応じた双方負担を前提とすべき」と解釈されるような表記となっているものではございません

このため、削除する理由がないと考えます。

また、たとえば、幾つかの事例が文章中に存在しているのであれば、当該事例を箇条書きとすることもありえますが、本規定については、箇条書きとすることによって規定内容が必ずしもより明確となるわけではないと考えます。

このため、原案のとおりといたします。」

と回答されています。

端的に言えば、隠れた瑕疵で親事業者にまったく責任がない場合も下請の責任が一部免除されるのは不当ではないかとの質問に対して、そのような場合は責任の一部免除はされないし、常時取引対価で按分するわけでもない、と回答されているわけです。

(ただし、私には、質問の意味はよくわかりますが、回答の意味はまったくわかりません。)

ということは結局、100%下請事業者に負担させてもいいということになります。

それだったらいったいなぜ改正案のような規定ぶりにしたのかますます意味不明ですし、パブコメ回答まで辿らないとほんとうの意味がわからないというのでは、いったい何のための振興基準なのか、という気がしますが、中小企業庁にしてみればたぶん、「法律の条文じゃないんだからこまかいこと言いなさんな」というくらいの感覚なのでしょう。

というわけで、この規定は実務的には無視してかまわないと思います。

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