「パートナーシップ構築宣言」のデメリット
内閣府と中小企業庁が2020年5月に「未来を拓くパートナーシップ構築推進会議」で導入した「パートナーシップ構築宣言」ですが、最大のデメリットは、下請振興基準を守らなければならなくなる、ということではないかと思われます。
というのは、パートナーシップ構築宣言には必ず入れなければならない(受理されない)規定(定型部分)があり、その1つに、
「親事業者と下請事業者との望ましい取引慣⾏(下請中⼩企業振興法に基づく「振興基準」)を遵守し、取引先とのパートナーシップ構築の妨げとなる取引慣⾏や商慣⾏の是正に積極的に取り組みます。」
というのがあるからです。
振興基準の中でも気になるのが、
「親事業者は、継続的な取引関係を有する下請事業者との取引を停止し、又は大幅に取引を減少しようとする場合には、下請事業者の経営に著しい影響を与えないよう最大限の配慮をする観点から、相当の猶予期間をもって予告するものとする。」(第2の8)
という規定です。
これは、継続的取引の解消の民事事件で契約を解除された側がわりと持ち出すことが多いポピュラーな規定ですが、これまでは、下請振興基準は法的拘束力はないという一言で済んでいたのが、パートナーシップ構築宣言をしていると、そうもいかなくなる(契約が解除しにくくなる)ように思われます。
ほかにも、
「⑷ 建設、大型機器の製造その他における見積り及び発注から納品までの期間が長期にわたる取引においては、親事業者は、前払い比率及び期中払い比率をできる限り高めるよう努めるものとする。また、これらの取引において、期中に労務費、原材料費、エネルギー価格等のコストが上昇した場合であって、下請事業者からの申出があったときは、親事業者は、期中の価格変更にできる限り柔軟に応じるものとする。」(第4の1⑷)
というのも、「できる限り」とは言うものの、守るにはそれなりの覚悟がいるように思います。
ほかには、
「⑵ 下請代金の支払いは、できる限り現金によるものとする。少なくとも賃金に相当する金額については、全額を現金で支払うものとする。」(第4の4⑵)
というのは、もともと全額現金なら問題ないのでしょうけれど、手形払いとかだと、一部は現金、一部は手形、とわけなければいけないし、そういう形式的なことはさておきそもそも実質的に下請代金のどの部分(割合)が下請事業者の従業員への賃金に相当するのかを、いちいち協議しないといけなくなるように思われます。
また、紛争解決については、
「⑵ 親事業者は、下請取引の紛争に関する協議において、下請事業者から、下請企業振興協会が行う紛争解決のあっせん等、裁判外紛争処理手続の利用の申出があった場合には、手続の活用について応諾するものとする。」(第7の1⑵)
とされており、基本契約書に東京地裁が一審管轄とか書いてあると、いったいどちらが優先するのか、という問題が出てきてしまいそうです。
きっと、契約書は契約書として、このような「申出」が下請事業者からあったら、親事業者は、振興基準を守れば、「応諾する」ことになるのでしょう(事実上、振興基準が優先する。)
共同研究の成果の帰属については、
「① 共同研究開発によって得られた成果の帰属は、技術及びアイデアの貢献度によって決められることが原則であり、親事業者が共同研究開発の費用の全額を支出した場合であっても、その成果が親事業者のみに当然に帰属するものではないことに留意するものとする。
親事業者は、下請事業者と十分に協議を行った上で、その貢献度に応じ、下請事業者の適正な利益に十分配慮して、その帰属を決定するものとする。」(第8の5⑷①)
というのも問題が多い規定です。
というのは、下請事業者のアイディアでできた成果は、仮に研究費用を親事業者が負担しても、さらに成果に対しても対価を支払わないと、帰属が下請事業者になってしまうように読めるからです。
それから、振興基準では、「~するものとする」は、中企庁ホームページによれば、
「規範性が⾼く、個別事案の問題性の⼤きさ等を踏まえ、場合によって下請中⼩企業振興法上の指導・助⾔の対象となる得る規定。」
という意味であり、「〜するよう努めるものとする」は、
「全ての事業者が必ず⾏う取組ではないが、ベストプラクティスとして事業者に目指してほしい取組(直接的に指導・助⾔の根拠とすることは想定していない)」
という意味ですが、「パートナーシップ構築宣言」で遵守すると宣言しているのは、あくまで宣言の解釈の問題ですが、「~するものとする」という規定だけではないと思われます。
つまり、「~するよう努めるものとする」という規定も、努力はしないといけないわけです。
しかも、振興基準は内容がしょっちゅう変わります。
そして、宣言を撤回せずにいるかぎり、そういう将来の振興基準も遵守すると宣言していることになるのではないかと思います。
このようなデメリットがあるのにけっこうな数の企業が宣言をしているのは驚きですが、検討中の企業の方は、くれぐれもご注意ください。
【2023年4月5日追記】
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