既存顧客に対する物品提供は景品類の提供か。
よく聞かれる質問に、過去に自社の商品を購入してくれた顧客(既存顧客)に対して、たとえば「日頃のご愛顧に感謝して」などと銘打って、粗品や景品を贈呈したりするのは景表法上の景品類に該当するのか、という質問があります。
結論としては、基本的には取引付随性がなく、景品類には該当しません。
この点について、消費者庁ウェブサイトの景品類に関するQ&Aの13番では、
「Q13 昨年1年間に、当店で10万円分以上の商品を購入してくれたお客様を対象として、今後の取引を期待して「お客様感謝デー」を実施し、来店してくれたお客様にもれなく景品を提供する旨をダイレクトメールで告知しようと考えています。この場合、取引の価額を10万円とみてよいでしょうか。」
という設問に対して、
「A 既存の顧客に対して景品類を提供する場合の取引の価額については、原則として、当該企画が、同企画を告知した後の取引を期待して行われるものであると認められることから、
取引の価額は、当該企画を告知した後に発生する通常の取引のうち最低のものということになり、
過去の購入額を取引の価額とすることはできません。
御質問のケースは、来店を条件として景品類を提供するものと認められますので、取引の価額は100円又は当該店舗において通常行われる取引の価額のうち最低のものとなり、提供できる景品類の価額は取引の価額に応じたものとなります。」
と回答されています。
もし、この「景品」が、過去の取引と付随していると考えるなら、当然、取引の価額は過去の取引の価額である10万円となりますが、取引の価額を10万円とすることはできないといっているわけですから、過去の取引に附随する提供だとみることはできない(よって過去の取引との取引付随性はない)、ということになります。
ポイントは、問題の取引(取引付随性の有無が問題になる取引)が、企画を告知する前か後かです。
告知後に成立した取引との関係では、当該企画により提供される物品は当該告知後取引との取引付随性は認められますが、告知前に既に成立済みの取引との関係では、当該物品は取引付随性は認められません。
たしかに、条文の文言を形式的に読めば、定義告示の取引付随性の要件は、
「景品類とは・・・事業者が自己の供給する商品又は役務の取引に附随して相手方に提供する物品、金銭その他の経済上の利益」
と書かれているだけで、企画告知前の「取引に附随」するということも文言的にはありえないわけではないのでしょうけれど、そういう読み方はしない、ということです。
このような考え方は、定義告示運用基準4⑴の、
「(1) 取引を条件として他の経済上の利益を提供する場合は、「取引に附随」する提供に当たる。」
というのにも表れているといえます。
というのは、「取引を条件として」提供したといえるためには、取引をするかどうかを決定する時点で、取引が条件だということが当然消費者に告知されているべきだ、物品が「取引を条件として」提供されるのかどうか消費者にわからないときには、「取引を条件とし」た提供とはいえないのだ、と考えるのが自然(当然)だからです。
取引を条件としない、定義告示運用基準4⑵の場合を見ても、やはり、包装に告知されているとか、入店者に限るとか、取引をする前に企画の存在が消費者にわかるケースばかりです。
というわけで、取引付随性が認められるためには、取引の(意思決定の)前に企画が消費者に告知されている必要があります。
ちなみに、定義告示運用基準1⑵では、顧客誘引性について、
「(2) 新たな顧客の誘引に限らず、取引の継続又は取引量の増大を誘引するための手段も、「顧客を誘引するための手段」に含まれる。」
とされており、既に顧客である人の取引の継続や増大を誘引する場合も顧客誘引性が認められることになっているのですが、取引付随性は顧客誘引性とは別の要件なので、以上で取引付随性について述べたことは影響を受けません。
ただし、単発の企画であれば以上のとおりでいいのですが、同じ企画を繰り返し行って常態化していると、消費者の間では、この商品を購入すればこのような景品がもらえるのだということが知れ渡ることになり、そうすると、企画告知後の取引との間に取引付随性が認められることがあるかもしれません。
このように、単発の企画であれば企画告知前との取引との間には取引付随性は認められない、ということに尽きるのですが、同じ企画を繰り返し行っている場合には問題となる可能性が否定できないので、やや注意が必要です。
ただし、既存顧客の取引との付随性が認められるためには、企画内容の告知がなくてもあたかもあったかのように認識されるというくらいの常態化が必要と考えられるので、そこまでの常態化があるとされることは、かなり稀なことではないかという気もします。
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