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2022年9月 6日 (火)

ラルズ審決の「例外事由」について

ラルズ審決(2019(平成31)年3月25日)では、濫用行為が違反にならない「例外事由」として、以下のようなものが定義されています(優越ガイドラインから変わっている部分を強調しておきます)。

■「従業員等派遣例外事由①」

従業員等の業務内容,労働時間及び派遣期間等の派遣の条件について,あらかじめ相⼿⽅と合意し,

かつ,

派遣される従業員等の⼈件費,交通費及び宿泊費等の派遣のために通常必要な費⽤を買主が負担する場合

優越ガイドラインの相当する記述は以下のとおりです。

「従業員等の派遣の条件についてあらかじめ当該取引の相手方と合意(注14)し,かつ,派遣のために通常必要な費用を自己が負担する場合も,これと同様である。」

この「従業員等派遣例外事由①」のガイドラインからの変更は、派遣条件などの具体例を加えただけで、実質的には同じなのでしょう。

■「従業員等派遣例外事由②」

従業員等が⾃社の納⼊商品のみの販売業務に従事するものなどであって,従業員等の派遣による相⼿⽅の負担が従業員等の派遣を通じて相⼿⽅が得ることとなる直接の利益等を勘案して合理的な範囲内のものであり,

相⼿⽅の同意の上で⾏われる場合

優越ガイドラインの相当する記述は以下のとおりです。

「従業員等の派遣が,それによって得ることとなる直接の利益の範囲内であるものとして,取引の相手方の自由な意思により行われる場合には,正常な商慣習に照らして不当に不利益を与えることとならず,優越的地位の濫用の問題とはならない」

この「従業員等派遣例外事由②」については、ガイドラインでは、

「従業員等の派遣が,それによって得ることとなる直接の利益の範囲内であるものとして

というように、「として」という、よくわからない助詞がはいっているために、直接の利益の範囲内であることが自由な意思の内容でなければならない(直接の利益の範囲内であると認識していなければならない)かのように読めたのですが、ラルズ審決では、

「従業員等が⾃社の納⼊商品のみの販売業務に従事するものなどであって,従業員等の派遣による相⼿⽅の負担が従業員等の派遣を通じて相⼿⽅が得ることとなる直接の利益等を勘案して合理的な範囲内のものであり

相⼿⽅の同意の上で⾏われる場合」

となっており、直接の利益と同意が切り離され、別々の要件であることが明確になっています。

これは、ラルズ審決のほうが論理的でしょう。

「として」(as)というのは、なんとなく言葉をつなげてしまえる便利な言葉なので、ついつい意味もよく考えず語呂を合わせるために使われてしまう言葉ですが、こういう細かいことから解釈上の疑義が生じるので(たとえば、上記のような、直接の利益であることは同意の内容なのか否か等)、安易に使わない方がいいと思います。

また、ガイドラインでは、「自由な意思」となっているのが、ラルズでは「同意」になっています。

ラルズの「同意」は、自由な意思による同意を意味するのでしょうから、いずれでも意味は変わらないと思うのですが、たんなる「同意」だと、詐欺や強迫にあたらない、意思表示上の瑕疵があるとはいえないレベルでも「自由な意思=同意」ではないことがありうる、というニュアンスが抜けてしまうので、法律用語としては同意のほうが一般的だとしても、ちょっと不親切かも知れません。

また、ガイドラインで「直接の利益の範囲内」といっているのが、ラルズでは、「直接の利益等を勘案して合理的な範囲内」となっています。

ガイドラインでは、負担が「直接の利益」を超えたら即アウトと読めますが、ラルズではそこまで杓子定規にはいわず、「等」でお茶を濁した上に、「合理的」かどうかという評価も交えて良いことにして、「直接の利益」を超えたら即アウトとはしない言い振りになっています。

まあ実質的には大きな違いはなさそうですが、ラルズ審決のほうが妥当でしょう。

■「⾦銭提供例外事由」

協賛⾦等の名目で売主が提供する⾦銭について,その負担額,算出根拠及び使途等について,あらかじめ買主が売主に対して明らかにし,

かつ,

当該⾦銭の提供による売主の負担が,その提供を通じて売主が得ることとなる直接の利益等を勘案して合理的な範囲内のものであり,

売主の同意の上で⾏われる場合

優越ガイドラインの相当する記述は以下のとおりです。

「協賛金等が,それを負担することによって得ることとなる直接の利益の範囲内であるものとして,取引の相手方の自由な意思により提供される場合には・・・優越的地位の濫用の問題とはならない。」

「取引上の地位が相手方に優越している事業者が,取引の相手方に対し,協賛金等の名目による金銭の負担を要請する場合であって,当該協賛金等の負担額及びその算出根拠,使途等について,当該取引の相手方との間で明確になっておらず,当該取引の相手方にあらかじめ計算できない不利益を与えることとなる場合や,当該取引の相手方が得る直接の利益(注9)等を勘案して合理的であると認められる範囲を超えた負担となり,当該取引の相手方に不利益を与えることとなる場合(注10)には,正常な商慣習に照らして不当に不利益を与えることとなり,優越的地位の濫用として問題となる。」

ここで、ガイドラインでは、「協賛金等の負担額及びその算出根拠,使途等」について明確になっていないことが不利益行為の要件であるような記載であるのに対して、ラルズ審決では、「負担額,算出根拠及び使途等について,あらかじめ買主が売主に対して明らかにし」ていることが、例外事由という違法性阻却事由のような位置付けになっており、ラルズ審決では立証責任が公取から違反者に転換されているようにみえることが、やや気になるところです。

ですが、ほんらい公取委が正当化事由の不存在について立証責任を負うのであり、その意味では、審決はガイドラインの立証責任を転換したわけではないと考えられます。

■「商品購⼊要請例外事由」

相⼿⽅に対し特定の仕様を指⽰して商品の製造⼜は役務の提供を発注する際に,当該商品⼜は役務の内容を均質にするため⼜はその改善を図るため必要があるなど合理的な必要性から,

当該相⼿⽅に対して当該商品の製造に必要な原材料や当該役務の提供に必要な設備を購⼊させる場合

優越ガイドラインの相当する記述は以下のとおりです。

「取引の相手方に対し,特定の仕様を指示して商品の製造又は役務の提供を発注する際に,当該商品若しくは役務の内容を均質にするため又はその改善を図るため必要があるなど合理的な必要性から,当該取引の相手方に対して当該商品の製造に必要な原材料や当該役務の提供に必要な設備を購入させる場合」

商品購入要請例外事由は、ガイドラインから変更ありません。

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