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2022年8月 2日 (火)

インボイス制度導入に伴う免税事業者に対する代金引き下げと優越的地位の濫用

インボイス制度が導入されると、事業者が消費税の仕入税額控除を受けるためには仕入れ先からインボイス(適格請求書)を受け取らないといけなくなるため(経過規定あり)、当該事業者としては、インボイスを発行できない消費税免税事業者からの仕入については、仕入代金額を減額交渉したくなります。

(インボイスは、課税事業者が適格請求書発行事業者の登録を受けることで発行できるようになりますので、消費税免税事業者はインボイスを発行できません。)

たとえば、今まで消費税免税事業者A(売手)から1個1万1000円で商品(たとえばぬいぐるみ)を仕入れていた事業者B(買手)は、インボイス制度の導入前は1万1000円のうちの消費税相当額1000円をふつうに仕入税額控除(「仕入」の「税額」を納付する消費税額から「控除」すること)できていましたが、インボイス制度導入後は、インボイスがないと仕入税額控除ができないため、事業者B(買手)が納付する消費税額が1000円アップしてしまいます。

たとえば、事業者B(買手)がその商品を1万3000円(税別)で販売すると、現状(インボイス制度導入前)では、売上(1万3000円)に対する消費税額(1300円)(役所的な言葉で言えば「課税売上げに係る消費税額」、短くして「売上税額」)から、仕入(1万円)に対する消費税額(1000円)(役所的な言葉でいえば「課税仕入れ等に係る消費税額」、短くして「仕入税額」)を引いた、300円を、事業者B(買手)は消費税として納付することになります。

これが、インボイス制度導入後は、事業者B(買手)が仕入税額控除をするためにはインボイスが必要なため、免税事業者A(売手)が消費税免税事業者であるためにインボイスを発行できない場合、事業者B(買手)は、1000円の仕入税額控除ができず、課税売上げに係る消費税額1300円を、まるまる消費税として納めないといけなくなります。

つまり、インボイス制度導入後は、事業者B(買手)にとっては、免税事業者(インボイス非発行者)から仕入れると仕入額(本体額)の10%分のコストアップになってしまいます。

そこで、事業者B(買手)としては、免税事業者A(売手)に課税事業者になってもらうか、さもなくば、仕入価格を仕入税額工場相当額の1000円(10%)引き下げて欲しくなるわけです。

このように、インボイス制度導入に伴い、事業者B(買手)が、免税業者A(売手)に対して、課税事業者となることを求めたり、仕入代金の引き下げを求めたりすることが、優越的地位の濫用にならないか、という問題があります。

このうち、代金引き下げの問題に対する公取委の公式回答は、令和4(2022)年1月19日「免税事業者及びその取引先のインボイス制度への対応に関するQ&A」のQ7で、そこでは、

「Q7 仕入先である免税事業者との取引について、インボイス制度の実施を契機として取引条件を見直すことを検討していますが、独占禁止法などの上ではどのような行為が問題となりますか。」

という設問に対して、

「1 取引対価の引下げ

取引上優越した地位にある事業者(買手)が、インボイス制度の実施後の免税事業者との取引において、仕入税額控除ができないことを理由に、免税事業者に対して取引価格の引下げを要請し、取引価格の再交渉において、

仕入税額控除が制限される分〔※経過措置あり〕について、免税事業者の仕入れや諸経費の支払いに係る消費税の負担をも考慮した上で、双方納得の上で取引価格を設定すれば、結果的に取引価格が引き下げられたとしても、独占禁止法上問題となるものではありません。

しかし、再交渉が形式的なものにすぎず、仕入側の事業者(買手)の都合のみで著しく低い価格を設定し、免税事業者が負担していた消費税額も払えないような価格を設定した場合には、優越的地位の濫用として、独占禁止法上問題となります。

また、取引上優越した地位にある事業者(買手)からの要請に応じて仕入先が免税事業者から課税事業者となった場合であって、その際、仕入先が納税義務を負うこととる消費税分を勘案した取引価格の交渉が形式的なものにすぎず、著しく低い取引価格を設定した場合についても同様です。」

という回答がなされています。

(なお、「仕入先である免税事業者との取引について」という設問なので、仕入先(事業者A)は免税事業者でいつづけることが前提であることに注意しましょう。)

ここで、「免税事業者の仕入れや諸経費の支払いに係る消費税の負担をも考慮した上で」というのを説明するために、前述の例で、事業者A(売手)が、ぬいぐるみの原材料として、毛糸を7700円(うち700円が消費税分)を仕入いていたとします。

すると、ここでの「免税事業者の仕入れ・・・に係る消費税」というのは、700円を意味します。

そうすると次に問題になるのが、

免税事業者が負担していた消費税額も払えないような〔事業者Aから事業者Bへの〕価格」

とは、どのような価格なのか、です。

この意味について、上の例で考えてみると、免税事業者(売手A)が負担していた消費税額は700円ですから、700円すら払えない価格、という意味になります。

前述の例では、事業者A(売手)は事業者B(買手)に対して、1万1000円(税込)で販売しています。

事業者A(売手)の利益は、1万1000円ー7700円=3300円ですから、このままであれば、事業者A(売手)は700円を優に支払うことができるでしょう。

これが、インボイス制度導入後も事業者AB間で同じ売買金額(1万1000円)なら、何の問題もありません。

では、どういう場合に問題か、というと、前述のとおり、「免税事業者が負担していた消費税額も払えないような〔事業者Aから事業者Bへの〕価格」だと問題なので、事業者Aに最低700円(事業者Aが毛糸の仕入にあたって負担していた消費税額)のマージンさえ与えれば問題ないことになります。

つまり、7700円で原材料(毛糸)を仕入れた事業者Aに700円のマージンを乗せて、8400円で事業者Bは買ってあげればいい、ということになりそうです。

というのは、優越的地位の濫用ガイドライン第3の3⑸アでは、

「ア 取引の対価の一方的決定

(ア) 取引上の地位が相手方に優越している事業者が,取引の相手方に対し,一方的に,著しく低い対価又は著しく高い対価での取引を要請する場合であって,当該取引の相手方が,今後の取引に与える影響等を懸念して当該要請を受け入れざるを得ない場合には,正常な商慣習に照らして不当に不利益を与えることとなり,優越的地位の濫用として問題となる(注25)。

この判断に当たっては,対価の決定に当たり取引の相手方と十分な協議が行われたかどうか等の対価の決定方法のほか,他の取引の相手方の対価と比べて差別的であるかどうか,取引の相手方の仕入価格を下回るものであるかどうか,通常の購入価格又は販売価格との乖離の状況,取引の対象となる商品又は役務の需給関係等を勘案して総合的に判断する。」

と規定されており、十分な協議などのふわっとした手続の問題はさておくと、金額的なものでは、

「取引の相手方の仕入価格を下回るものであるかどうか」

を考慮すると明言しており、仕入価格を下回らなければいちおう大丈夫、といえなくもないからです。

なので、優越ガイドラインを直に適用すると「取引の相手方の仕入価格」(=7700円)を下回らなければいいのだけれど、それではインボイス制度導入にあたって変化が大きすぎることもあるかもしれないし(ただし経過措置があります)、芸がないので、よくわからないけれど、売手が負担した消費税分(700円)については上乗せしてあげようね、という(屁)理屈です。

まあ、免税事業者Aは、ほんらい、課税事業者になれば、(消費税を支払わなければならなくなるものの)仕入税額控除が受けられるので、仮に事業者Bが7700円でしか買ってくれなくても、

課税売上げに係る消費税額(売上税額)が(Bへの売上に対する消費税額相当額の)700円

で、

課税仕入れ等に係る消費税額(仕入税額)が700円

なので、差し引きゼロとなるので、消費税の持ち出しになることはありません。

しかし実は、免税事業者A(売手)が免税事業者のままでいても(それが設問の前提です)、免税事業者A(売手)は免税事業者なので、そもそも消費税を支払わなくていいわけですから、仕入税額相当額を補填してあげる必要もないはずです。

もし、免税事業者A(売手)が仕入税額相当額の補填を受けられるなら、その補填を受けた分を消費税として納めるのが筋でしょう。

それを、消費税として納めずに済むのは、まさに免税事業者Aが免税事業者だからです。

なので、実質的に仕入税額相当額を補填してあげなさいよという上記Q&Aは、独禁法を梃子にして、益税を温存させているのにほかならない、ということです。

これが独禁法の解釈として正しいのかというと、私は間違っていると思いますし、優越ガイドライン(仕入価格基準)と別異の扱いをする実質的な理由もないと思います。

でも、上記Q&Aはいちおう公取委の公式回答ですから、これを守ろうという買手は、売手に、「おたくの仕入税額はいくらですか」と聞いて、交渉することになるのでしょう。

なお、上記Q&Aの最後に、事業者B(買手)の求めに応じて免税事業者A(売手)が課税事業者になった場合について、

「また、取引上優越した地位にある事業者(買手)からの要請に応じて仕入先が免税事業者から課税事業者となった場合であって、

その際、仕入先が納税義務を負うこととる消費税分を勘案した取引価格の交渉が形式的なものにすぎず、

著しく低い取引価格を設定した場合についても

同様です。」

と規定されています。

ここで、「取引価格の交渉が形式的なものにすぎず」という手続面と、「著しく低い取引価格を設定した」という取引内容面が、または、なのか、かつ、なのかはあいまいですが、きっと両方のバランスなので、実務的には「著しく低い取引価格」とは何なのかがやはり気になるところですが、ともあれ、「同様です」ということなので、この場合も結論としては、

「免税事業者が負担していた消費税額も払えないような価格を設定した場合には、優越的地位の濫用として、独占禁止法上問題となります。」

ということなのでしょう。

ただし、この最後の部分では、免税事業者A(売手)は課税事業者になっていますので、仕入税額(700円)の控除が受けられますから、事業者B(買手)への販売価格が7700円(売上税額は700円)であれば、消費税額は差し引きゼロとなり、事業者A(売手)が「負担していた消費税額も払えない」ということは起こりません。

したがって、免税事業者A(売手)が課税事業者になった場合には、事業者B(買手)は、Aの仕入税額相当額を補填する必要はない、ということになります。

(さすがにマージンゼロは商売としてまずいので、適切な利益は乗せてあげるべきと思いますが、適切な利益を考慮しない優越ガイドラインの考えに従った場合のQ&Aの理屈はこういうことになると思います。)

次に、事業者B(買手)が免税事業者A(売手)に、課税事業者になってインボイスの登録事業者にもなってくれ、とお願いすることについては、Q&Aの続き(Q&Aの最後)に、

「6 登録事業者となるような慫慂等

課税事業者が、インボイスに対応するために、取引先の免税事業者に対し、課税事業者になるよう要請することがあります。このような要請を行うこと自体は、独占禁止法上問題となるものではありません。

しかし、課税事業者になるよう要請することにとどまらず、課税事業者にならなければ、取引価格を引き下げるとか、

それにも応じなければ取引を打ち切ることにする

などと一方的に通告することは、独占禁止法上又は下請法上、問題となるおそれがあります。

例えば、免税事業者が取引価格の維持を求めたにもかかわらず、

取引価格を引き下げる理由を書面、電子メール等で免税事業者に回答することなく、取引価格を引き下げる場合は、これに該当します。

また、免税事業者が、当該要請に応じて課税事業者となるに際し、例えば、消費税の適正な転嫁分の取引価格への反映の必要性について、価格の交渉の場において明示的に協議することなく、従来どおりに取引価格を据え置く場合についても同様です(上記1、5等参照)。

したがって、取引先の免税事業者との間で、取引価格等について再交渉する場合には、免税事業者と十分に協議を行っていただき、仕入側の事業者の都合のみで低い価格を設定する等しないよう、注意する必要があります。」

と規定されています。

ここで言っているのは、要は、

「取引価格を引き下げる理由を書面、電子メール等で免税事業者に回答することなく、取引価格を引き下げる場合」

は優越的地位の濫用に該当する、ということです。

このように理由を書面で説明しろというのは、2022(令和4)年1月26日に改正された下請法運用基準第4の5(2)で、

「⑵ 次のような方法で下請代金の額を定めることは,買いたたきに該当するおそれがある。

エ 労務費,原材料価格,エネルギーコスト等のコストが上昇したため,下請事業者が取引価格の引上げを求めたにもかかわらず,価格転嫁をしない理由を書面,電子メール等で下請事業者に回答することなく,従来どおりに取引価格を据え置くこと。」

とされたのを彷彿とさせます。

(順番としては本Q&Aのほうが先みたいですが。)

この下請法運用基準は下請法の解釈を誤っていることは以前書いたとおり(下請法の条文をどう読んでもそんな要件は出てこない)ですが、同様の批判が上記Q&Aにもあてはまります。

ただ、優越は下請法としがってもやっとしてる(公取委のやりたい放題)なので、そういう意味では、ていねいな手続の一環と言うことで、こういう解釈もあるのかもしれません。

でも、下請法の場合の原材料高騰についてはていねいに理由を説明することにもそれなりに意味はあると思いますが、インボイス制度導入に伴い価格を引き下げる理由なんて、事業者B(買手)にしてみたら、仕入税額控除ができないからに決まっているわけで、書面で説明することにどれだけの意味があるのか、よくわかりません。

こういう、よくわからない要件を義務付けると、企業が、形だけ整えておけば良いのね、と思ってしまい、むしろ逆効果ではないかという気がします。

ともあれ、公取委が公式回答で、

「取引価格を引き下げる理由を書面、電子メール等で免税事業者に回答

すれば良いと言っている(とまでは断定できませんが、言っているのも同然でしょう)ので、理由を書面等で説明されたらよいかと思います。

続いて、

「また、免税事業者が、当該要請に応じて課税事業者となるに際し、

例えば、消費税の適正な転嫁分の取引価格への反映の必要性について、

価格の交渉の場において明示的に協議することなく、

従来どおりに取引価格を据え置く場合についても同様です(上記1、5等参照)。」

という部分ですが、これは、免税事業者A(売手)が、自分は免税事業者なのでいままで消費税分をもらっていなかった、と思っている、という場合ですね。

例えば、ぬいぐるみを、税込なら1万1000円で販売するところ、「自分(事業者A)は免税事業者なので、1万円で販売しよう(消費税を取るなんてとんでもない)」と考えて1万円で販売していた場合です。

こういう、正直に益税を放棄する(?)免税事業者が世の中にどれだけいるのか(また法的にそもそもそんな「放棄」は論理的に不可能ではないか)などいろいろ考え出すときりがないのですが、言っていることはそういうことでしょう。

そういう正直な免税事業者は、事業者B(買手)の要請に応じて課税事業者となるなら当然消費税分は上乗せしたいと考えるわけで、そういう事業者B(買手)が、「課税事業者になりますけど、そうしたら、消費税分価格を上げて下さいね」と言ってきたら、事業者B(買手)としては、「消費税の適正な転嫁分の取引価格への反映の必要性について、価格の交渉の場において明示的に協議」しましょう、ということです。

ですが、これも考えてみるとおかしな話で、主観的に免税事業者A(売手)がどう考えようと、法的には、事業者Aは益税を獲得していたわけです。(それがいやなら課税事業者になればよかった。)

なので、ほんらいは、課税事業者になったあとに価格を据え置いても、それは単に(課税事業者になることにより)益税を吐き出させるだけなので、何も不当ではないと思います。

とはいえ、世の中には、「自分は免税事業者なので消費税分安く売ろう」という免税事業者や、取引先に「免税事業者なので消費税分安くしときます」(←消費税転嫁法上がまだ生きていたら問題になりそうですね)という営業トークを使っていた免税事業者もいるかもしれず、そういう免税事業者の主観的期待も保護してあげないと酷だ、という判断なのでしょう(私は酷でもなんでもないと思いますが)。

なお、以上のQ&Aはそのタイトルが示すように、免税事業者との取引で問題になる独禁法や下請法の問題をあつかっていますが、取引先である事業者A(売手)が課税事業者である場合には、そもそも益税の保護の問題も生じませんし、適格請求書発行事業者の登録なんてe-Taxでささっとできますから(あとは請求書の発行が少し面倒になるという事務負担くらい)、もし仕入先の事業者A(売手)が課税事業者であるにもかかわらず適格請求書発行事業者の登録を拒む場合には、それを理由に事業者B(買手)が取引を打ち切っても、独禁法上は問題ないと考えます。

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