« 2022年7月 | トップページ | 2022年9月 »

2022年8月

2022年8月30日 (火)

値上げと優越的地位の濫用

値上げが優越的地位の濫用になる場合として、優越ガイドラインでは、

「ア 取引の対価の一方的決定

(ア) 取引上の地位が相手方に優越している事業者が,取引の相手方に対し,一方的に,・・・著しく高い対価での取引を要請する場合であって,

当該取引の相手方が,今後の取引に与える影響等を懸念して当該要請を受け入れざるを得ない場合には,

正常な商慣習に照らして不当に不利益を与えることとなり,優越的地位の濫用として問題となる(注25)。

この判断に当たっては,対価の決定に当たり取引の相手方と十分な協議が行われたかどうか等の対価の決定方法のほか,

他の取引の相手方の対価と比べて差別的であるかどうか,・・・

通常の・・・販売価格との乖離の状況,

取引の対象となる商品又は役務の需給関係等

を勘案して総合的に判断する。

(注25)取引の対価の一方的決定は,独占禁止法第2条第9項第5号ハの「取引の相手方に不利益となるように取引の条件を設定(中略)すること。」に該当する。」

と説明されています。

コンパクトにまとめると、濫用になるのは、

①一方的であること

②著しく高いこと

③受け入れざるを得ないこと

の3つをみたす場合です。

そして、その判断要素をコンパクトにまとめると、

⑴対価の決定に当たり取引の相手方と十分な協議が行われたかどうか等の対価の決定方法,

⑵他の取引の相手方の対価と比べて差別的であるかどうか,

⑶通常の販売価格との乖離の状況,

⑷取引の対象となる商品又は役務の需給関係

等を勘案して総合的に判断するとされています。

これらが、

①一方的であること

②著しく高いこと

③受け入れざるを得ないこと

の判断で総合衡量されるというのですが、⑴(十分な協議がないこと)は、①(一方的)そのものです。

ここで、「一方的に」というのは、優越での常套句で、十分に交渉をしないで、というくらいの意味です。

ちなみに、公取委の英訳では、「一方的に」は「unilaterally」という訳語が与えられていますが、unilateralというのは、Oxford Advanced Learner's Dictionaryでは、

「(of an action or decision) performed by or affecting only one person, group, or country involved in a situation.」

と説明されており、日本語の「一方的」のような、

「相手のことを考えずに、自分の方だけのことを考えてするさま。」(『広辞苑』)

とか、

「相手の言い分を聞かず、自分の都合だけで決める様子だ。」(『新明解国語辞典』)

といったニュアンスはありません。

(ちなみに新明解の説明は優越ガイドラインにぴったりですね。いつもながら感心します。)

次に、②(著しく高い)については、それ以上の具体的説明はありませんが、上記判断要素の中で言えば、⑶(通常価格との乖離)と⑷(需給関係)が、②(著しく高いこと)そのものであるといえます。

残る⑵(差別的)は、実務的にはまず問題にならないので無視して良いのですが、あえていえば、②(著しく高いこと)の間接事実でしょうか。

③(受け入れざるを得ないこと)は、優越的地位そのものなので、濫用行為の考慮要素としては何も書けなかったのも当然です。

なので、①②③を⑴⑵⑶⑷にブレークダウンをして意味があったと言えるのは、②(著しく高い)の判断を、⑶(通常価格との乖離)と⑷(需給関係)を考慮して判断するといっていることだけです。

しかも、⑷(需給関係)というのは、きっと、需要曲線と供給曲線とが交わる価格というイメージでしょうから、⑶の「通常価格」とほとんど同じことを言っています。

ですので、究極的には⑶(通常価格との乖離)が決定的であるといえます。

ですが、どれくらい通常価格から乖離していれば問題なのかの説明はありません。

木で鼻をくくったような言い方をすれば、「著しく高い」価格かどうかの明確な基準はない、ということなのですが、それでは何の指針にもならないので、大胆な提言(笑)として、きわめて感覚的なものですが、

①市場平均価格の2倍を超え、かつ、

②市場平均価格+標準偏差の2倍を超える

くらいの価格が「著しく高い」価格の目安としたいと思います。

①の平均価格の2倍超えは、2倍というのが、切りが良いからです。

衆議院議員の一票の格差訴訟ではありませんが、何だかんだ理由を付けても、しょせん、法律家の理屈なんてその程度のものです。

②の標準偏差の2倍超えは、2σが統計学ではよく使われるからです。

もうすこし理屈をこねれば、1σは平均的なばらつきなので、1σを超えただけで違反というのは、平均的なばらつきよりばらついてるのは違法ということになり、厳しすぎるからです。

その次の、「今後の取引に与える影響等を懸念して当該要請を受け入れざるを得ない場合」というのは、不当高価販売の場合には、意味がよくわかりません。

たとえば従業員派遣や協賛金なら、その条件を受け入れないと将来の取引を切られたり取引量を減らされたりすることを懸念してしぶしぶ受け入れる、というのもしっくりくるのですが、不当高価販売の場合に、そんなことを考える人はいないと思います。

あるいは、不当低価格購入(買いたたき)の場合であれば、優越者(甲)が1円での納入を指示してきた場合に、相手方(乙)としては、

「1円で納入するなんて嫌だけど、断ったら、将来取引減らされるかも・・・」

と懸念して、今回は1円での納入に応じる、ということがありえます。

もし、将来にわたって納入価格が1円だということがわかっていたら、どんな納入業者だって、取引はしないでしょう。

それでも取引するのは、将来は通常の価格で取引できるだろうと期待するからです。

これに対して、不当高価販売の場合に、甲がべらぼうな金額をふっかけてきたときに、乙が、

「そんな高い金額で買うのはいやだけど、断ったら、将来売ってくれなくなるかも・・・」

と懸念して今回は高額な取引に応じる、なんていう場面は、まずないでしょう。

(こういうふうに、不当高価販売と不当低価格購入はいろいろと違うのですが、ガイドラインはだいたい両者を同じように記述していて、おおざっぱだなぁと思います。)

つまり、不当高価販売の場合には、将来の取引云々ではなく、まさに当該取引をしなければならない何らかの事情が取引相手方(乙)にあるからでしょう。

たとえば、ほかから買えない、という場合です。

これは、優越的地位の、取引先変更可能性そのものです。

もっといえば、「当該取引をしなければ困る」というだけではなく、「適正な価格で当該取引ができなければ困る」ということなのでしょう。

そのような場合として考えられるのは、たとえば、乙が、その顧客(丙)に対して、必ずしも法的義務ではない道義的な義務も含め安定供給する義務を負っている場合が挙げられます。

もう少し具体的に言えば、顧客(丙)に安定供給できないと、その顧客との将来の取引を切られてしまうような場合でしょう。

それで、乙の顧客が優越者(甲)の値上げ分の価格転嫁を受け入れてくれればいいのですが、受け入れてくれない場合、丙との将来の取引に与える影響を懸念して、乙は、赤字覚悟で丙に供給しなければいけないかもしれません。

もし乙が丙との将来の取引を懸念しなくてもいいなら、乙は、高すぎる価格では買わなければいいだけなので、利益はゼロであり、マイナスになることはありません。

しかも、「買わなければいいだけ」といえる場合には、そもそも甲は乙に対して優越的地位にない、といえます。

(その意味で、「取引先変更可能性」という言い方は、誰かとは取引しないといけないこと(取引必要性)を前提にしているという点で、若干不正確な言い方だと言えます。)

なので、不当高価販売の場合には、この「今後の取引に与える影響等を懸念して」の部分は、無視するしかないでしょう。

つまり、「そんな懸念はしていないので違反ではない」といっても始まらない、ということです。

なので、「当該要請を受け入れざるを得ない場合」であればいい、ということになります。

でも、少し考えると、「今後の取引に与える影響等を懸念して当該要請を受け入れざるを得ない場合」というのは、優越的地位の取引先変更可能性そのものなので、「正常な商慣習に照らして不当に不利益を与えることとなり」の理由ないし要件だとするのは理屈的にはかなり無理があるのですが、優越的地位の濫用は理屈を言っても始まらないところがあるので、そのあたりは大目に見ることにしましょう。

次に、実務的にはこちらのほうが重要ですが、ガイドラインではさらに続けて、

「(イ) 他方,

①要請のあった対価で取引を行おうとする同業者が他に存在すること等を理由として,・・・

高い対価で取引するように要請すること,対価に係る交渉の一環として行われるものであって,

その額が需給関係を反映したものであると認められる場合,・・・

など取引条件の違いを正当に反映したものであると認められる場合には,

正常な商慣習に照らして不当に不利益を与えることとならず,優越的地位の濫用の問題とはならない。」

と、セーフハーバー的なルールが説明されています。

これをコンパクトにまとめると、

ⅰ 他の購入者がいること

ⅱ 要請が交渉の一環であること

ⅲ 需給関係を反映していること

となります。

(なお、「同業者が他に存在する」というのは、厳密に言えばおかしいです。1つの商品にA,B,2つの用途があれば、B用途での購入者の中に高額での購入者がいなくて、B用途の需要者が「同業者は他に存在しない」と言っても、同業でないA用途の購入者で高額購入者がいれば、不当に高額とはいえないからです。)

そして、ⅰ(他の購入者)とⅲ(需給関係)は、同じことを言っていると思います。

あるいは、ⅰ(他の購入者)の存在が、ⅲ(需給関係)の間接事実、ということでしょうか。

いずれにせよ、ⅰ(他の購入者)とⅲ(需給関係)が、②(著しく高いこと)、を否定するのでしょう。

ⅱ(交渉の一環)は、①(一方的)を否定するのでしょう。

ここで注目すべきは、ⅱ(交渉の一環)であれば、考慮要素の⑴(十分な協議)は考慮しなくてもいい(交渉さえしていれば良い)と読めることです。

確かに、ⅰ(他の購入者)、ⅱ(交渉の一環)、ⅲ(需給関係)をみたせば、さらに十分な交渉を求めるのは行き過ぎであり、セーフハーバートしての意味もなくなってしまうので(実務上最も悩ましいのは、どれだけていねいに交渉すれば十分な交渉と言えるのか、です)、妥当なセーフハーバーだと思います。

さらに注目すべきは、③(受け入れざるを得ないこと)に対応する要素が、セーフハーバーの中にはないことです。

ということは、ⅰ(他の購入者)、ⅱ(交渉の一環)、ⅲ(需給関係)を満たせば、乙が受け入れざるを得なくても濫用にはならない、ということです。

次に、ガイドラインではたくさんの想定例が挙げられていますが、不当高価販売について参考になりそうなのは、

「④ 自己の予算単価のみを基準として,一方的に通常の価格より・・・著しく高い単価を定めること。」

だけです。

これだけでも、不当高価販売が不当廉価購入(買いたたき)に比べて違法になりにくいことが示されているといえますが、この想定例④も、極めて具体性に欠けます。

これまで議論した一般論的な部分を超えるのは、「自己の予算単価のみを基準として」という部分ですが、この「予算単価」というのが、具体的に何を意味するのかがよくわかりません。

この点、下請法運用基準第4の5⑵オでは、

「親事業者の予算単価のみを基準として,一方的に通常の対価より低い単価で下請代金の額を定めること。」

というのが買いたたきの例として挙げられていますが、買いたたきの例なら、「予算単価」はあらかじめコスト計算をする際に用いる仮置きの購入単価ということでしょうから、そういうのを死守しようとする場合がありそうだなあという意味で、理解はできます。

ですが、これが不当高価販売の場合だと、同じような意味での、死守すべき販売価格としての「予算単価」なんて、企業は定めるのですかね?

せいぜい、「目標販売価格」くらいでしょうか。

そうすると、「予算単価」という言葉にはとくに意味はなく、要は、「一方的に」定めた価格という部分に言い尽くされているように思われます。

まとめると、ガイドラインが言っているのは、不当高価販売が濫用になるのは、

①一方的であること

②著しく高いこと

③受け入れざるを得ないこと

を満たすときであり、その判断には、

⑴対価の決定に当たり取引の相手方と十分な協議が行われたかどうか等の対価の決定方法,

⑵他の取引の相手方の対価と比べて差別的であるかどうか,

⑶通常の販売価格との乖離の状況,

⑷取引の対象となる商品又は役務の需給関係

等を考慮し、

ⅰ 他の購入者がいること

ⅱ 要請が交渉の一環であること

ⅲ 需給関係を反映していること

を満たす場合には、③(受け入れざるを得ない)の場合でも、違法にならなし、交渉のていねいさも問題にならない、ということです。

2022年8月 6日 (土)

原産国表示と優良誤認の違い

たまに勘違いされることがあるようですので(公正取引861号50頁など)、原産国告示と優良誤認の違いについて説明しておきます。

原産国を偽っているように見えるのに原産国告示違反ではなく優良誤認とされている事件は、対象商品自体の原産国を偽ったのではなくて、対象商品の原材料を偽った事件です。

ブランド力の差で著しく優良と誤認させるほどのものが優良誤認でそれに至らないものが原産国告示、というわけではありません。

(原産国告示違反には課徴金がかからないので、そういう解釈もあって良いと思いますが、実務の運用はそうなっていません。)

原産国表示は、対象商品自体の原産国を偽った場合に限られます。

原産国告示のうち比較的使われることの多い2項(外国産商品の不当表示)では、

「2 外国で生産された商品についての次の各号の一に掲げる表示であつて、その商品がその原産国で生産されたものであることを一般消費者が判別することが困難であると認められるもの

一 その商品の原産国以外の国の国名、地名、国旗、紋章その他これらに類するものの表示

二 その商品の原産国以外の国の事業者又はデザイナーの氏名、名称又は商標の表示

三 文字による表示の全部又は主要部分が和文で示されている表示」

が原産国告示違反の表示と定められています。

つまり、あくまで「商品」自体の原産国を偽るのが原産国告示違反であって、商品の原材料の原産国を偽っても、原産国告示違反にはならず、優良誤認表示にしかなりません。

また、原産国告示違反に該当する表示をあえて優良誤認とすることも、理屈の上では可能ですが、そのような運用はされていません。

たとえば、家庭用塩の製造販売業者9社に対する警告(優良誤認)についての公取委報道発表文(平成16年7月21日)では、

「前記1の9社は,家庭用塩について,別紙1のとおり,原料原産地について,あたかも沖縄等で採取された海水を用いたものであるかのように表示していたが,実際には,外国産の天日塩を沖縄等で採取した海水に溶解するなどして再生加工したもの等であり,一般消費者に誤認される疑いがある。」

と認定されています。

つまり、商品である家庭用塩の原産地を偽ったのではなく、その原材料である海水の原産地を偽ったので、原産地告示違反にはならない、ということです。

平成21年11月10日のファミリーマートに対する措置命令(優良誤認)でも、

「ファミリーマートは、平成21年6月11日ころから同月16日ころまでの間、カリーチキン南蛮おにぎりの包装袋に貼付したシール(別添写し)において、「国産鶏肉使用」と記載することにより、あたかも、当該商品の原材料に我が国で肥育された鶏の肉を用いているかのように示す表示をしていたが、実際には、当該商品の原材料にブラジル連邦共和国で肥育されたものを用いていた。」

と認定されており、商品のおにぎり自体ではなくその原材料の産地を偽ったので、原産国表示違反にはなりませんでした。

おにぎりの原産国は、たぶん、おにぎりを作った国でしょう。

なので、おにぎりの工場が国内にあれば、そのおにぎりを国産といっても、間違いではないと思います。

でも、材料の鶏肉の原産国を偽れば、これは、優良誤認表示でしょう。

プラスワンに対する令和元年10月16日措置命令(優良誤認)でも、同社が販売する「本件商品」は、

「貴社が運営する「からあげ専門店こがね」と称する店舗のうち別表1「店舗」欄記載の店舗において供給する鶏の「もも」と称する部位(以下「鶏もも肉」という。)を使用した唐揚げ及び当該唐揚げを含む商品の各商品(以下これらを併せて「本件商品」という。)」

と定義され、違反対象商品は唐揚げおよび唐揚げを含む商品でしたが、違反の表示は、

「(4)ア プラスワンは、本件商品を一般消費者に販売するに当たり、例えば、塚本店の看板において、平成28年2月1日以降、「からあげ専門店 こがね」及び「国産若鶏使用 絶品あげたて」と表示するなど、別表1「店舗」欄記載の店舗の看板又は軒先テントにおいて、同表「表示期間」欄記載の期間に、同表「表示内容」欄記載のとおり表示することにより、あたかも、本件商品には、国産の鶏もも肉を使用しているかのように示す表示をしている又は表示をしていた。」

というものであり、唐揚げ自体の原産国(揚げた国ですかね)を偽ったのではなく、その商品に使用された原材料である鶏もも肉の原産地を偽ったわけです。

なので、この事件も優良誤認となりました。

ちなみに、消費者庁ホームページが、

国産有名ブランド牛の肉であるかのように表示して販売していたが、実はブランド牛ではない国産牛肉だった。」

というのを優良誤認の例として挙げていますが、これは、実際も表示も原産地は日本(国産)なので、原産国表示違反にはなりようがなく、優良誤認になるのは当然です。(違反は、「ブランド」牛か、ノーブランド牛か、という点にあり、原産国の点にはありません。)

以上は優良誤認の例でしたが、今度は原産国告示の事件をみてみると、たとえばビック酒販に対する令和3年9月3日措置命令では、

「⑶ ビック酒販は、本件25商品〔お酒〕を一般消費者に販売するに当たり、自社ウェブサイトにおいて、別表「商品名」欄記載の商品について、同表「表示期間」欄記載の期間に、同表「表示内容」欄記載のとおり表示することにより、同欄記載の国名又は地名を表示していた。

⑷ 実際には、本件25商品は、別表「実際の原産国(地)」欄記載の原産国(地)で生産されたものであった。」

と認定されており、商品自体の原産地を偽ったので、原産国告示違反になりました。

令和元年6月13日の高島屋に対する措置命令(原産国表示)でも、

「⑶ 髙島屋は、本件147商品〔化粧品や雑貨〕を一般消費者に販売するに当たり、自社ウェブサイトにおいて、別表「商品名」欄記載の商品について、同表「表示期間」欄記載の期間に、「原産国・生産国」又は「原産国」と記載の上、同表「表示された国名」欄記載の国名を記載していた。

⑷ 実際には、本件147商品は、別表「実際の原産国(地)」欄記載の原産国(地)で生産されたものであった。」

と、「本件147商品」自体の原産地を偽ったので、原産国告示違反になりました。

という具合に、原産国告示は商品自体の原産国、優良誤認は商品の原材料の原産国の偽り、ということです。

それから、原産国告示は商品だけが対象なので、役務の場合には、必ず優良誤認になります。

たとえば、レストランは役務と考えられているので、国産牛ステーキというメニューで料理を出したのが外国産牛肉だったりすると、優良誤認にはなりますが、原産国告示違反にはなりません。

というわけで、みなさん勘違いしないように気をつけましょう。

2022年8月 5日 (金)

晋遊舎に対する措置命令の疑問

晋遊舎がパズル雑誌の懸賞の賞品を送っていなかったとして、2021年3月24日、消費者庁から措置命令を受けました

応募締切から短いもので8カ⽉弱、長いのだと3年10カ⽉後まで賞品が発送されていなかったということです。

本件でも、他の事件と同様、不当表示があったことの公示などとともに、

「貴社は、今後、本件商品又はこれらと同種の商品の取引に関し・・・前記○○の表示と同様の表示を行うことにより、当該商品の取引条件について、実際のものよりも取引の相手方に著しく有利であると一般消費者に誤認される表示をしてはならない。」

という、将来同様の表示をすることを禁じる命令がされています。

この手の事件をみて常々思うのですが、措置命令でたんに将来の表示を禁じるだけではなくて、命令の対象になった表示どおりに賞品を送るように命令することはできないものでしょうか。

西川編著『景品表示法〔第6版〕』p305でも、実際の商品役務の内容を表示に合わせることを命じた例として、石川ライフクリエートに対する2003(平成15)年4月16日排除命令が紹介されています。

この石川ライフクリエートの事件は老人ホームの事件だったので、入居している老人の方々にとっては、「不当表示がありました。将来同様の表示はしません」といわれてもあまり意味がなく、施設の内容を改善して表示に合わせる必要性がとくに高かったといえるかもしれません。

でも、雑誌の懸賞だって、「あれはうそでした。将来同様の表示はしません。賞品は表示どおりちゃんと送ります。」といわれても、現に懸賞に応募した人たちにとっては意味がないわけで、ちゃんと懸賞を実施して賞品を送らせるべきだったのではないでしょうか。

不当表示の内容が、「コロナウィルスを寄せ付けません」といった内容だと、表示どおりの商品を提供することはおそらく技術的に不可能ですから、表示をやめさせるほかないわけですが、雑誌の懸賞なら、不可能なことは全然ないと思います。

ひょっとしたら、応募ハガキを捨てちゃったので抽選の実施が不可能だった、ということもあるかもしれませんが、それでも、抽選ハガキが残っている分については実施させることはできるのではないでしょうか。

そのほうが、応募者も喜ぶし、同種事案の抑止にもなると思います。

こういうことが消費者庁内で議論されたのかどうかはわかりませんが、たぶん議論されていないと思うので、問題提起させていただきました。

2022年8月 4日 (木)

インボイス制度導入に伴う非登録事業者に対する値下げ要求に関する長島大野常松法律事務所ニューズレターの気になる記述

消費税のインボイス制度導入に伴いインボイスの登録をしないサプライヤーに対して値下げを要求したら独禁法や下請法に反するのではないか、というご質問を受けることがあります。

これに対して、長島大野法律事務所のニューズレター「消費税インボイス制度導入に伴うサプライヤーとの取引設計と独占禁止法遵守の課題」では、

「(1) 優越的地位濫用のおそれ

発注者側としては、インボイス制度の導入後はサプライヤーに対し、適格請求書発行事業者として登録してもらい、従前通りの仕入税額控除を得られるようにするのが最も望ましい。

このため、発注者としては、サプライヤーに対し、適格請求書発行事業者としての登録を要請したいところであろう。

他方、サプライヤー側としては、既に課税事業者となっている場合には適格請求書発行事業者の登録をしても適格請求書発行に伴う各種の作業負担はあれインボイス制度の導入前と税負担の面において変わるところはないが、サプライヤーが免税事業者である場合には、課税事業者となることに伴う「益税」の喪失又は減少といった大きな税務上の悪影響が発生する。

こうした状況のもとで、発注者側が免税事業者であるサプライヤーに対して、適格請求書発行事業者としての登録を要求し、登録に応じないサプライヤーに対して、

直ちに契約解除や契約単価の引き下げを示唆したり、

実際に契約解除や契約単価の引き下げを行ったりする場合には、

発注者側の行為は、優越的地位にある者による相手方への一方的な取引条件の設定として、独占禁止法上の優越的地位濫用に該当するおそれが高い

また、発注者が、免税事業者である多数のサプライヤーに対して拙速かつ一律にこうした要求をすることは、行為の広がりやサプライヤー側の不利益の程度も大きく、公取委が優越的地位濫用の違反被疑事件として大々的に取り上げる可能性も否定できないであろう。」

と説明されています。

しかし、私はこれはいくらなんでも厳しすぎると思います。

とくに、直ちに契約解除や契約単価の引き下げを「示唆」するだけで濫用に該当する「おそれが高い」というのは、誤記ではないかとすら思ってしまいます。

実際に価格を下げるにしても、最初は経過措置があって2%ですから、たった2%の値下げの「示唆」で濫用の「おそれが高い」ということになり、そんなのでは怖くて値下げ交渉なんてできなくなってしまいます。

もし免税事業者がインボイスの登録をすれば、消費税を払わないといけなくなるので(ほんらい、益税としてはらわないですんでいたのがおかしいのですが、それはさておき)、確かに免税業者の影響はありますが、たとえば7000円(税別)の毛糸を仕入れてぬいぐるみを作って1万円(税別)で雑貨店に販売している個人事業者の例では、消費税額は売上税額1000円から仕入税額700円を引いた300円なので、売上に対する割合は3%であり、そんなに大したことはない(2%の値下げよりは大きいですが)、と思います。

それに、上記解説では、違法になる理由が「一方的な取引条件の設定として」というくらいしか説明がなく、理由がよくわかりません。

ちなみに、「一方的な対価の決定」については、優越的地位の濫用ガイドライン第4の3⑸アに、

「ア 取引の対価の一方的決定

(ア) 取引上の地位が相手方に優越している事業者が,取引の相手方に対し,一方的に,著しく低い対価又は著しく高い対価での取引を要請する場合であって,

当該取引の相手方が,今後の取引に与える影響等を懸念して当該要請を受け入れざるを得ない場合には,

正常な商慣習に照らして不当に不利益を与えることとなり,優越的地位の濫用として問題となる(注25)。

この判断に当たっては,対価の決定に当たり取引の相手方と十分な協議が行われたかどうか等の対価の決定方法のほか,

他の取引の相手方の対価と比べて差別的であるかどうか,

取引の相手方の仕入価格を下回るものであるかどうか,

通常の購入価格又は販売価格との乖離の状況,

取引の対象となる商品又は役務の需給関係

等を勘案して総合的に判断する。」

と説明されています。

つまり、そもそもの前提が、「著しく低い対価」であることなのです。

確かに、現状の対価が著しく低い対価に限りなく近いくらい低ければ、2%の値下げ要求が、いわばfinal strawとなって、「著しく低い対価」になってしまうことはあるかもしれませんが、めったに起こらないことだと思います。

現状がまともな対価なら、2%下げただけで「著しく低い対価」になることなんて、まず考えられません。

(卸とか、利幅の薄いビジネスなら2%の値下げで赤字ということもあるかもしれませんが、そういう事業形態は通常ある程度の規模があるはずなので、免税事業者であることはまれだと思います。)

このように「著しく低い対価」であることが前提である上に、ていねいに交渉するなどの手続的な問題ではなく絶対的な金額の高低の基準としては、ガイドラインでは、仕入価格を下回るかどうかが基準になっているのです。

もう廃止になった消費税転嫁法では、増税前後を比べて対価を下げることが違法とされましたが、あれは特別法があって、しかもガイドラインもあったから言えたことです。

今回のインボイス制度には転嫁法に相当するような特別法はありませんし、むしろ買手からしたら突然制度が変わって事故に遭ったようなもの(営業努力ではどうしようもない)なのですから、転嫁法みたいに従前と比べてどれだけ下げるというのは、基本的には問題にすべきではありません。

インボイス制度にともない従前から値下げしたら濫用になるという発想には、転嫁法に引きずられたのではないか、と勘ぐってしまいます。

さらに、同ニューズレターの出た後に出た公取委の公式見解である「免税事業者及びその取引先のインボイス制度への対応に関するQ&A」のQ7では、「1 取引対価の引下げ」では、

「取引上優越した地位にある事業者(買手)が、インボイス制度の実施後の免税事業者との取引において、仕入税額控除ができないことを理由に、免税事業者に対して取引価格の引下げを要請し、取引価格の再交渉において、仕入税額控除が制限される分(注3)について、免税事業者の仕入れや諸経費の支払いに係る消費税の負担をも考慮した上で、双方納得の上で取引価格を設定すれば、結果的に取引価格が引き下げられたとしても、独占禁止法上問題となるものではありません。

しかし、再交渉が形式的なものにすぎず、仕入側の事業者(買手)の都合のみで著しく低い価格を設定し、免税事業者が負担していた消費税額も払えないような価格を設定した場合には、優越的地位の濫用として、独占禁止法上問題となります。

また、取引上優越した地位にある事業者(買手)からの要請に応じて仕入先が免税事業者から課税事業者となった場合であって、その際、仕入先が納税義務を負うこととなる消費税分を勘案した取引価格の交渉が形式的なものにすぎず、著しく低い取引価格を設定した場合についても同様です。」

と説明されています。

免税事業者が負担していた消費税額も払えないような価格」というのはよく意味が分からないところではありますが(素直に読めば仕入税額、上記毛糸の例なら700円を払えない、と読めますが、ぬいぐるみが7700円で売れれば仕入税額分は回収できているので、問題ないようにも読め、そうすると要は仕入価格を下回らなければいい、ということになります)、ともかくここでも「著しく低い」かが一般的な基準になっています。

従前の取引価格と比べて大幅か小幅かは、問題にしていません。

次にQ7の「6 登録事業者となるような慫慂等」では、

「課税事業者が、インボイスに対応するために、取引先の免税事業者に対し、課税事業者になるよう要請することがあります。

このような要請を行うこと自体は、独占禁止法上問題となるものではありません。

しかし、課税事業者になるよう要請することにとどまらず、

課税事業者にならなければ、取引価格を引き下げるとか、

それにも応じなければ取引を打ち切ることにするなどと一方的に通告することは、

独占禁止法上又は下請法上、問題となるおそれがあります。」

と説明されています。

ここだけみると、インボイスの登録をしない場合に取引停止を一方的に通告することは独禁法違反になるかのようにみえるのですが、これには続きがあって、

「例えば、免税事業者が取引価格の維持を求めたにもかかわらず、

取引価格を引き下げる理由を書面、電子メール等で免税事業者に回答することなく、取引価格を引き下げる場合は、これに該当します。」

とされています。

つまり、理由を書面等で回答すれば(インボイスの登録をしないから、という以外にないとおもうのですが・・・)、「一方的」な通告ではない、ということです。

なお、前記ニューズレターの注12では、

「なお、下請法については、サプライヤー側との取引が下請法上の下請取引に該当する場合であっても、

上述のような発注者側の行為〔注・直ちに契約解除や契約単価の引き下げを示唆したり、実際に契約解除や契約単価の引き下げを行ったりする行為〕は必ずしも「買いたたき」や「購入強制」といった下請法上の親事業者の禁止行為に当てはまらない。

別途、発注後の「減額」などの禁止行為がない限り、サプライヤー側が発注者の下請法違反を主張するごとは難しいと思われる。」

と述べられているのですが、「契約解除や契約単価の引き下げを示唆」する行為や「実際に契約解除」をする行為は禁止行為のどれにもあたらないので下請法違反にならないというのはわかるのですが、「契約単価の引き下げ」は、同ニューズレターの立場では買いたたきに当たりうるのではないですかね。

私は、そもそも2%くらいでは下請法の買いたたきにもふつうは当たらないだろうと思いますが、優越的地位の濫用の買いたたき(取引の対価の一方的決定)と下請法の買いたたきを比べたら、明文の規定があったり形式解釈が幅をきかせる下請法のほうが、違反になるリスクは高いのではないかと思います。

それが、優越的地位の濫用の可能性は高いのに下請法には違反しないというのがおかしいのではないか、と考える理由です。

インボイス制度と独禁法については、登録期限が近づくにつれてますます相談が増えそうですし、あまりまとまった文献もない(公取委の公式見解が出たのは喜ばしいことです)なか、ネットを調べると(明らかに間違っているものを含め)ずいぶん厳しいことをいっているものが多く、上記ニューズレターはそのなかでは一番ちゃんと書けているのですがそれでも明らかに厳しすぎで、これを真に受ける企業があってはいかんと思い、(長島大野には個人的に知ってる弁護士さんもたくさんいるので心苦しくもありますが)指摘をさせていただいた次第です。

2022年8月 2日 (火)

インボイス制度導入に伴う免税事業者に対する代金引き下げと優越的地位の濫用

インボイス制度が導入されると、事業者が消費税の仕入税額控除を受けるためには仕入れ先からインボイス(適格請求書)を受け取らないといけなくなるため(経過規定あり)、当該事業者としては、インボイスを発行できない消費税免税事業者からの仕入については、仕入代金額を減額交渉したくなります。

(インボイスは、課税事業者が適格請求書発行事業者の登録を受けることで発行できるようになりますので、消費税免税事業者はインボイスを発行できません。)

たとえば、今まで消費税免税事業者A(売手)から1個1万1000円で商品(たとえばぬいぐるみ)を仕入れていた事業者B(買手)は、インボイス制度の導入前は1万1000円のうちの消費税相当額1000円をふつうに仕入税額控除(「仕入」の「税額」を納付する消費税額から「控除」すること)できていましたが、インボイス制度導入後は、インボイスがないと仕入税額控除ができないため、事業者B(買手)が納付する消費税額が1000円アップしてしまいます。

たとえば、事業者B(買手)がその商品を1万3000円(税別)で販売すると、現状(インボイス制度導入前)では、売上(1万3000円)に対する消費税額(1300円)(役所的な言葉で言えば「課税売上げに係る消費税額」、短くして「売上税額」)から、仕入(1万円)に対する消費税額(1000円)(役所的な言葉でいえば「課税仕入れ等に係る消費税額」、短くして「仕入税額」)を引いた、300円を、事業者B(買手)は消費税として納付することになります。

これが、インボイス制度導入後は、事業者B(買手)が仕入税額控除をするためにはインボイスが必要なため、免税事業者A(売手)が消費税免税事業者であるためにインボイスを発行できない場合、事業者B(買手)は、1000円の仕入税額控除ができず、課税売上げに係る消費税額1300円を、まるまる消費税として納めないといけなくなります。

つまり、インボイス制度導入後は、事業者B(買手)にとっては、免税事業者(インボイス非発行者)から仕入れると仕入額(本体額)の10%分のコストアップになってしまいます。

そこで、事業者B(買手)としては、免税事業者A(売手)に課税事業者になってもらうか、さもなくば、仕入価格を仕入税額工場相当額の1000円(10%)引き下げて欲しくなるわけです。

このように、インボイス制度導入に伴い、事業者B(買手)が、免税業者A(売手)に対して、課税事業者となることを求めたり、仕入代金の引き下げを求めたりすることが、優越的地位の濫用にならないか、という問題があります。

このうち、代金引き下げの問題に対する公取委の公式回答は、令和4(2022)年1月19日「免税事業者及びその取引先のインボイス制度への対応に関するQ&A」のQ7で、そこでは、

「Q7 仕入先である免税事業者との取引について、インボイス制度の実施を契機として取引条件を見直すことを検討していますが、独占禁止法などの上ではどのような行為が問題となりますか。」

という設問に対して、

「1 取引対価の引下げ

取引上優越した地位にある事業者(買手)が、インボイス制度の実施後の免税事業者との取引において、仕入税額控除ができないことを理由に、免税事業者に対して取引価格の引下げを要請し、取引価格の再交渉において、

仕入税額控除が制限される分〔※経過措置あり〕について、免税事業者の仕入れや諸経費の支払いに係る消費税の負担をも考慮した上で、双方納得の上で取引価格を設定すれば、結果的に取引価格が引き下げられたとしても、独占禁止法上問題となるものではありません。

しかし、再交渉が形式的なものにすぎず、仕入側の事業者(買手)の都合のみで著しく低い価格を設定し、免税事業者が負担していた消費税額も払えないような価格を設定した場合には、優越的地位の濫用として、独占禁止法上問題となります。

また、取引上優越した地位にある事業者(買手)からの要請に応じて仕入先が免税事業者から課税事業者となった場合であって、その際、仕入先が納税義務を負うこととる消費税分を勘案した取引価格の交渉が形式的なものにすぎず、著しく低い取引価格を設定した場合についても同様です。」

という回答がなされています。

(なお、「仕入先である免税事業者との取引について」という設問なので、仕入先(事業者A)は免税事業者でいつづけることが前提であることに注意しましょう。)

ここで、「免税事業者の仕入れや諸経費の支払いに係る消費税の負担をも考慮した上で」というのを説明するために、前述の例で、事業者A(売手)が、ぬいぐるみの原材料として、毛糸を7700円(うち700円が消費税分)を仕入いていたとします。

すると、ここでの「免税事業者の仕入れ・・・に係る消費税」というのは、700円を意味します。

そうすると次に問題になるのが、

免税事業者が負担していた消費税額も払えないような〔事業者Aから事業者Bへの〕価格」

とは、どのような価格なのか、です。

この意味について、上の例で考えてみると、免税事業者(売手A)が負担していた消費税額は700円ですから、700円すら払えない価格、という意味になります。

前述の例では、事業者A(売手)は事業者B(買手)に対して、1万1000円(税込)で販売しています。

事業者A(売手)の利益は、1万1000円ー7700円=3300円ですから、このままであれば、事業者A(売手)は700円を優に支払うことができるでしょう。

これが、インボイス制度導入後も事業者AB間で同じ売買金額(1万1000円)なら、何の問題もありません。

では、どういう場合に問題か、というと、前述のとおり、「免税事業者が負担していた消費税額も払えないような〔事業者Aから事業者Bへの〕価格」だと問題なので、事業者Aに最低700円(事業者Aが毛糸の仕入にあたって負担していた消費税額)のマージンさえ与えれば問題ないことになります。

つまり、7700円で原材料(毛糸)を仕入れた事業者Aに700円のマージンを乗せて、8400円で事業者Bは買ってあげればいい、ということになりそうです。

というのは、優越的地位の濫用ガイドライン第3の3⑸アでは、

「ア 取引の対価の一方的決定

(ア) 取引上の地位が相手方に優越している事業者が,取引の相手方に対し,一方的に,著しく低い対価又は著しく高い対価での取引を要請する場合であって,当該取引の相手方が,今後の取引に与える影響等を懸念して当該要請を受け入れざるを得ない場合には,正常な商慣習に照らして不当に不利益を与えることとなり,優越的地位の濫用として問題となる(注25)。

この判断に当たっては,対価の決定に当たり取引の相手方と十分な協議が行われたかどうか等の対価の決定方法のほか,他の取引の相手方の対価と比べて差別的であるかどうか,取引の相手方の仕入価格を下回るものであるかどうか,通常の購入価格又は販売価格との乖離の状況,取引の対象となる商品又は役務の需給関係等を勘案して総合的に判断する。」

と規定されており、十分な協議などのふわっとした手続の問題はさておくと、金額的なものでは、

「取引の相手方の仕入価格を下回るものであるかどうか」

を考慮すると明言しており、仕入価格を下回らなければいちおう大丈夫、といえなくもないからです。

なので、優越ガイドラインを直に適用すると「取引の相手方の仕入価格」(=7700円)を下回らなければいいのだけれど、それではインボイス制度導入にあたって変化が大きすぎることもあるかもしれないし(ただし経過措置があります)、芸がないので、よくわからないけれど、売手が負担した消費税分(700円)については上乗せしてあげようね、という(屁)理屈です。

まあ、免税事業者Aは、ほんらい、課税事業者になれば、(消費税を支払わなければならなくなるものの)仕入税額控除が受けられるので、仮に事業者Bが7700円でしか買ってくれなくても、

課税売上げに係る消費税額(売上税額)が(Bへの売上に対する消費税額相当額の)700円

で、

課税仕入れ等に係る消費税額(仕入税額)が700円

なので、差し引きゼロとなるので、消費税の持ち出しになることはありません。

しかし実は、免税事業者A(売手)が免税事業者のままでいても(それが設問の前提です)、免税事業者A(売手)は免税事業者なので、そもそも消費税を支払わなくていいわけですから、仕入税額相当額を補填してあげる必要もないはずです。

もし、免税事業者A(売手)が仕入税額相当額の補填を受けられるなら、その補填を受けた分を消費税として納めるのが筋でしょう。

それを、消費税として納めずに済むのは、まさに免税事業者Aが免税事業者だからです。

なので、実質的に仕入税額相当額を補填してあげなさいよという上記Q&Aは、独禁法を梃子にして、益税を温存させているのにほかならない、ということです。

これが独禁法の解釈として正しいのかというと、私は間違っていると思いますし、優越ガイドライン(仕入価格基準)と別異の扱いをする実質的な理由もないと思います。

でも、上記Q&Aはいちおう公取委の公式回答ですから、これを守ろうという買手は、売手に、「おたくの仕入税額はいくらですか」と聞いて、交渉することになるのでしょう。

なお、上記Q&Aの最後に、事業者B(買手)の求めに応じて免税事業者A(売手)が課税事業者になった場合について、

「また、取引上優越した地位にある事業者(買手)からの要請に応じて仕入先が免税事業者から課税事業者となった場合であって、

その際、仕入先が納税義務を負うこととる消費税分を勘案した取引価格の交渉が形式的なものにすぎず、

著しく低い取引価格を設定した場合についても

同様です。」

と規定されています。

ここで、「取引価格の交渉が形式的なものにすぎず」という手続面と、「著しく低い取引価格を設定した」という取引内容面が、または、なのか、かつ、なのかはあいまいですが、きっと両方のバランスなので、実務的には「著しく低い取引価格」とは何なのかがやはり気になるところですが、ともあれ、「同様です」ということなので、この場合も結論としては、

「免税事業者が負担していた消費税額も払えないような価格を設定した場合には、優越的地位の濫用として、独占禁止法上問題となります。」

ということなのでしょう。

ただし、この最後の部分では、免税事業者A(売手)は課税事業者になっていますので、仕入税額(700円)の控除が受けられますから、事業者B(買手)への販売価格が7700円(売上税額は700円)であれば、消費税額は差し引きゼロとなり、事業者A(売手)が「負担していた消費税額も払えない」ということは起こりません。

したがって、免税事業者A(売手)が課税事業者になった場合には、事業者B(買手)は、Aの仕入税額相当額を補填する必要はない、ということになります。

(さすがにマージンゼロは商売としてまずいので、適切な利益は乗せてあげるべきと思いますが、適切な利益を考慮しない優越ガイドラインの考えに従った場合のQ&Aの理屈はこういうことになると思います。)

次に、事業者B(買手)が免税事業者A(売手)に、課税事業者になってインボイスの登録事業者にもなってくれ、とお願いすることについては、Q&Aの続き(Q&Aの最後)に、

「6 登録事業者となるような慫慂等

課税事業者が、インボイスに対応するために、取引先の免税事業者に対し、課税事業者になるよう要請することがあります。このような要請を行うこと自体は、独占禁止法上問題となるものではありません。

しかし、課税事業者になるよう要請することにとどまらず、課税事業者にならなければ、取引価格を引き下げるとか、

それにも応じなければ取引を打ち切ることにする

などと一方的に通告することは、独占禁止法上又は下請法上、問題となるおそれがあります。

例えば、免税事業者が取引価格の維持を求めたにもかかわらず、

取引価格を引き下げる理由を書面、電子メール等で免税事業者に回答することなく、取引価格を引き下げる場合は、これに該当します。

また、免税事業者が、当該要請に応じて課税事業者となるに際し、例えば、消費税の適正な転嫁分の取引価格への反映の必要性について、価格の交渉の場において明示的に協議することなく、従来どおりに取引価格を据え置く場合についても同様です(上記1、5等参照)。

したがって、取引先の免税事業者との間で、取引価格等について再交渉する場合には、免税事業者と十分に協議を行っていただき、仕入側の事業者の都合のみで低い価格を設定する等しないよう、注意する必要があります。」

と規定されています。

ここで言っているのは、要は、

「取引価格を引き下げる理由を書面、電子メール等で免税事業者に回答することなく、取引価格を引き下げる場合」

は優越的地位の濫用に該当する、ということです。

このように理由を書面で説明しろというのは、2022(令和4)年1月26日に改正された下請法運用基準第4の5(2)で、

「⑵ 次のような方法で下請代金の額を定めることは,買いたたきに該当するおそれがある。

エ 労務費,原材料価格,エネルギーコスト等のコストが上昇したため,下請事業者が取引価格の引上げを求めたにもかかわらず,価格転嫁をしない理由を書面,電子メール等で下請事業者に回答することなく,従来どおりに取引価格を据え置くこと。」

とされたのを彷彿とさせます。

(順番としては本Q&Aのほうが先みたいですが。)

この下請法運用基準は下請法の解釈を誤っていることは以前書いたとおり(下請法の条文をどう読んでもそんな要件は出てこない)ですが、同様の批判が上記Q&Aにもあてはまります。

ただ、優越は下請法としがってもやっとしてる(公取委のやりたい放題)なので、そういう意味では、ていねいな手続の一環と言うことで、こういう解釈もあるのかもしれません。

でも、下請法の場合の原材料高騰についてはていねいに理由を説明することにもそれなりに意味はあると思いますが、インボイス制度導入に伴い価格を引き下げる理由なんて、事業者B(買手)にしてみたら、仕入税額控除ができないからに決まっているわけで、書面で説明することにどれだけの意味があるのか、よくわかりません。

こういう、よくわからない要件を義務付けると、企業が、形だけ整えておけば良いのね、と思ってしまい、むしろ逆効果ではないかという気がします。

ともあれ、公取委が公式回答で、

「取引価格を引き下げる理由を書面、電子メール等で免税事業者に回答

すれば良いと言っている(とまでは断定できませんが、言っているのも同然でしょう)ので、理由を書面等で説明されたらよいかと思います。

続いて、

「また、免税事業者が、当該要請に応じて課税事業者となるに際し、

例えば、消費税の適正な転嫁分の取引価格への反映の必要性について、

価格の交渉の場において明示的に協議することなく、

従来どおりに取引価格を据え置く場合についても同様です(上記1、5等参照)。」

という部分ですが、これは、免税事業者A(売手)が、自分は免税事業者なのでいままで消費税分をもらっていなかった、と思っている、という場合ですね。

例えば、ぬいぐるみを、税込なら1万1000円で販売するところ、「自分(事業者A)は免税事業者なので、1万円で販売しよう(消費税を取るなんてとんでもない)」と考えて1万円で販売していた場合です。

こういう、正直に益税を放棄する(?)免税事業者が世の中にどれだけいるのか(また法的にそもそもそんな「放棄」は論理的に不可能ではないか)などいろいろ考え出すときりがないのですが、言っていることはそういうことでしょう。

そういう正直な免税事業者は、事業者B(買手)の要請に応じて課税事業者となるなら当然消費税分は上乗せしたいと考えるわけで、そういう事業者B(買手)が、「課税事業者になりますけど、そうしたら、消費税分価格を上げて下さいね」と言ってきたら、事業者B(買手)としては、「消費税の適正な転嫁分の取引価格への反映の必要性について、価格の交渉の場において明示的に協議」しましょう、ということです。

ですが、これも考えてみるとおかしな話で、主観的に免税事業者A(売手)がどう考えようと、法的には、事業者Aは益税を獲得していたわけです。(それがいやなら課税事業者になればよかった。)

なので、ほんらいは、課税事業者になったあとに価格を据え置いても、それは単に(課税事業者になることにより)益税を吐き出させるだけなので、何も不当ではないと思います。

とはいえ、世の中には、「自分は免税事業者なので消費税分安く売ろう」という免税事業者や、取引先に「免税事業者なので消費税分安くしときます」(←消費税転嫁法上がまだ生きていたら問題になりそうですね)という営業トークを使っていた免税事業者もいるかもしれず、そういう免税事業者の主観的期待も保護してあげないと酷だ、という判断なのでしょう(私は酷でもなんでもないと思いますが)。

なお、以上のQ&Aはそのタイトルが示すように、免税事業者との取引で問題になる独禁法や下請法の問題をあつかっていますが、取引先である事業者A(売手)が課税事業者である場合には、そもそも益税の保護の問題も生じませんし、適格請求書発行事業者の登録なんてe-Taxでささっとできますから(あとは請求書の発行が少し面倒になるという事務負担くらい)、もし仕入先の事業者A(売手)が課税事業者であるにもかかわらず適格請求書発行事業者の登録を拒む場合には、それを理由に事業者B(買手)が取引を打ち切っても、独禁法上は問題ないと考えます。

« 2022年7月 | トップページ | 2022年9月 »

フォト
無料ブログはココログ