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2022年6月 3日 (金)

最高生産数量の制限に関する知財ガイドラインの規定の疑問

前にも少し書いたことがあるのですが、知的財産ガイドライン第4の3⑵では、

「イ 製造数量の制限又は製造における技術の使用回数の制限

ライセンサーがライセンシーに対し、当該技術を利用して製造する製品の最低製造数量又は技術の最低使用回数を制限することは、他の技術の利用を排除することにならない限り、原則として不公正な取引方法に該当しない。

他方、製造数量又は使用回数の上限を定めることは、市場全体の供給量を制限する効果がある場合には権利の行使とは認められず、公正競争阻害性を有する場合には、不公正な取引方法に該当する(一般指定第12項)。」

と規定されていますが、この後半部分の製造数量の上限の規制に関する記述には、疑問があります。

というのは、この部分は「3 技術の利用範囲を制限する行為」の一部なのですが、そもそも利用範囲の制限が基本的に白条項とされているのは、特許権者は特許製品を他人にまったく作らせない権利もあるのだから、一部だけ作らせるのも、自由に作らせるのも、自由であるべきだからと考えられるからです。

大は小を兼ねると言うことです。

もちろん、特許製品以外の製品を買うことを義務付けるとか、競合他社からは購入しないことを義務付けると、大は小を兼ねるの範囲を超えているので、白だとは言えないのですが、最高数量制限はまさに「大は小を兼ねる」だと思います。

しかもこのガイドラインの、

「市場全体の供給量を制限する効果がある場合には権利の行使とは認められず」

という理屈も、意味がわかりません。

もし、市場シェアの高い商品(たとえば独占)であればその最高数量制限が必然的に市場全体の供給量を制限するのだという意味であるとすると、そのような場合に「権利の行使とは認められず」というのは、特許権の否定にほかなりません。

特許権は技術を独占させるもので市場を独占させるものではない、というのはよく言われることですが、もし特許権が市場を独占できるくらい強力なら、特許権の行使の結果市場を独占できるのは特許権の権利の行使そのものであり、それを否定することはできません。

とすると、最高数量制限が「市場全体の供給量を制限する効果がある場合」というのが、どういう場合を意味しているのか、まったくわからないことになります。

しかも、知財ガイドラインのあとにできた平成28年改正流通取引慣行ガイドラインでは、公正競争阻害性は価格維持効果と市場閉鎖効果の2つであることがはっきり述べられています。

そのうち、最高数量制限は、市場閉鎖効果でないことは明らかでしょう。

そうすると価格維持効果が問題になりますが、価格維持効果というのは、

「非価格制限行為により,当該行為の相手方とその競争者間の競争が妨げられ,当該行為の相手方がその意思で価格をある程度自由に左右し,当該商品の価格を維持し又は引き上げることができるような状態をもたらすおそれが生じる」効果

ですから、確かに各ライセンシーに割り当てられる最高数量が制限されればライセンシー間の競争は(自由に好きなだけ作れる場合に比べれば)制限される、とはいえそうです。

しかし、やはりそのような効果は、特許権の(一部)行使に必然的に伴う効果に過ぎないというべきでしょう。

なにより、特許権者が自分の特許権を利用した商品の数量を制限することが、いきなり「市場全体の供給量を制限する効果」を生じさせるという事態は、流通取引慣行ガイドラインの価格維持効果では説明できません。

知財ガイドラインでは、権利の部分的ライセンスは白という立場に基本的に立っているのに、どうして最高数量だけ白ではないのかと想像すると、きっと知財ガイドラインを作った人は経済学を少しかじっていて、数量制限を一部許諾と割り切ることに心理的な抵抗があったのではないかと想像されます。

というのは、経済学では価格と数量は一対一対応で決まるので、最高数量制限は最低価格制限と同じ効果を持つことになり、これを白とすることには、他の制限と比べて大きな心理的抵抗があったのであろう、ということです。

つまり、理屈ではなく気分の問題です。

でも、少し考えてみればわかりますが、一対一対応になるのは価格と数量だけではありません。

少なくとも理論的には、コストも、差別化の程度も、テリトリー制も、顧客分割も、すべて、これらが変化すれば一対一対応で価格も変化するはずです。

つまり、最高数量だけを特別に扱う理由はありません。

ところが、価格と数量が一対一対応であることは経済学で叩き込まれますから、そこに心理的葛藤が生まれ、どっちにでも取れる灰条項にした、というわけです。

所詮この程度のものですから、知財ガイドラインの最高数量制限に関する規定は無視して差し支えないと思います。(つまり白)

唯一の事例として日之出水道事件知財高裁平成18年7月20日判決がありますが、数量制限をした日之出水道が勝ってますし、白石先生の独禁法事例集p248でも、

「最高数量制限という行為は、制限された最高数量を超える部分はライセンス拒絶をするというのと同等なのであって「権利の行使とみられる行為」に該当する、というのは縷々論ずるまでもない通常の感覚であろうと思われる。」

と明解に述べられています。

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