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2022年6月 2日 (木)

テレビ番組の素材の作成委託と下請法に関する下請法テキストの説明について

下請法テキスト22頁に、

「Q15: 放送番組に使用する番組のタイトルCG,BGM等の音響データの作成を委託することは情報成果物作成委託に該当するとのことだが,

これらについては,

外注先プロダクションの担当者が放送局に出向いて,

放送局のディレクターの指示のままに作業をする場合には,

情報成果物作成委託には該当しないと考えてよいか。

A: 放送局がプロダクションに委託する業務の内容が,

放送局においてディレクターの指示のままに作業をすることというものであれば役務の取引に当たるが,

放送局が作成する最終的な情報成果物の作成に必要な自ら用いる役務の提供の委託であることから,役務提供委託に該当しない。」

というQ&Aがあります。

しかし、このQ&Aは、質問のケースが情報成果物に当たらない(と公取委が考える)複数の理由をごちゃまぜにして回答しているので、なぜこれが情報成果物作成委託にあたらないのかの本当の理由がよくわからないものになっています。

公取委が意図する基準の可能性としては、

①発注者のところに出向いて仕事をするだけなので(成果物の引渡しがないので?)、情報成果物作成委託にあたらない、

②発注者の指示のままに作業をするだけ(?)なので、情報成果物作成委託にあたらない、

③①と②の両方を満たすので、情報成果物作成委託に当たらない、

という3つの可能性がありそうです。

では、どれが下請法の解釈として正しいのでしょうか。

こういうときは、何はなくとも条文です。

「情報成果物作成委託」は、下請法2条3項で、

「事業者が業として行う提供若しくは業として請け負う作成の目的たる情報成果物の作成の行為の全部又は一部を他の事業者に委託すること及び

事業者がその使用する情報成果物の作成を業として行う場合にその情報成果物の作成の行為の全部又は一部を他の事業者に委託すること」

と定義されています。

そして、「情報成果物」は、2条6項で、

「 一 プログラム(電子計算機に対する指令であつて、一の結果を得ることができるように組み合わされたものをいう。)

二 映画、放送番組その他影像又は音声その他の音響により構成されるもの

三 文字、図形若しくは記号若しくはこれらの結合又はこれらと色彩との結合により構成されるもの

四 前三号に掲げるもののほか、これらに類するもので政令で定めるもの」

と定義されています(なお4号の政令の定めるものは、いまのところありません)。

そうすると、設問の、

「放送番組に使用する番組のタイトルCG」

の作成を委託することは、もろに、

「事業者〔=放送局〕が業として行う提供・・・の目的たる情報成果物〔=放送番組〕の作成の行為の・・・一部を他の事業者に委託すること」

に該当しそうですし、

「放送番組に使用する・・・BGM等の音響データ」

も、

「事業者〔=放送局〕が業として行う提供・・・の目的たる情報成果物〔=放送番組〕の作成の行為の・・・一部を他の事業者に委託すること」

に該当しそうです。

実際、上記設問も、

「放送番組に使用する番組のタイトルCG,BGM等の音響データの作成を委託することは情報成果物作成委託に該当する」

ことは、当然の前提にしていると言えます。

では、それにもかかわらず、設問の場合が情報成果物作成委託にあたらない条文上の根拠を考えると、・・・よくわかりません。

可能性としては、放送局において作業させていると、

「事業者〔=放送局〕が業として行う提供・・・の目的たる情報成果物〔=放送番組〕の作成の行為の・・・一部を他の事業者に委託すること」

にいうところの、「作成の行為」に該当しないのだ、という解釈があるかもしれませんが、「作成の行為」という文言からは作成場所が限定されていると読むのは無理でしょう。

ちなみに、下請法テキストp10では、

「「情報成果物の作成の行為の全部又は一部を他の事業者に委託すること」とは,

情報成果物の作成のうち,

①情報成果物それ自体の作成,

②当該情報成果物を構成することとなる情報成果物の作成

を,他の事業者に委託することをいう。」

と解説されています。

なので、やっぱり作成の場所が考慮される余地はないと言わざるを得ません。

そこであり得る解釈としては、情報成果物作成委託というのは、情報成果物が下請事業者から親事業者に引き渡される必要があるのだ、と解釈する、ということです。

感覚的にはわからないではないですが、そのような解釈は無理でしょう。

まず、成果物の引渡しが必要だという条文上の根拠がありませんし、下請法テキストでもあくまで「作成」を委託するといっているだけで、やはり、成果物の引渡しという概念が入り込む余地はありません。

さらに、製造委託については、下請法テキストp21で、

「Q11: 工場内における運送作業を外部に委託する取引は,「製造委託」と「役務提供委託」のどちらに該当するか。

A: 運送は役務の提供に該当する行為であるが,同一工場内における製造工程の一環としての運送(ライン間の仕掛品の移動等)を他の事業者に委託することは,製造委託に該当する。」

と解説されていることがネックになります。

つまり、製造委託の場合には、発注者の工場において下請事業者に作業させることが、製造委託に該当すると明示されているのです。

下請法テキストの本文(p5)でも、

「「製造」とは,原材料たる物品に一定の工作を加えて新たな物品を作り出すことをいう。

製造には,製品組立,部品製造,金型製造,製造工程中の検査・運搬等がある。」

と、製造工程での運搬が「製造」に含まれると明記されています。

情報成果物作成委託における「作成」を、これと別異に解する理由はないでしょう。

というわけで、情報成果物作成委託に該当するためには情報成果物という成果物の引渡しが必要だという解釈には、根拠がありません。

よって、上記設問の「放送局において」という部分は、情報成果物作成委託該当性を否定する根拠にはなりえないと考えられます。

そうすると、

「②発注者の指示のままに作業をするだけ(?)なので、情報成果物作成委託にあたらない」

という、もう1つの解釈の可能性が出てきます。

しかし、発注者の指示のままの作業であれば情報成果物作成委託にあたらないというのは、やはり条文上の根拠がないと言わざるを得ません。

ありうる解釈としては、

「事業者〔=放送局〕が業として行う提供・・・の目的たる情報成果物〔=放送番組〕の作成の行為の・・・一部を他の事業者に委託すること」

にいうところの、「情報成果物〔=放送番組〕の作成の行為」は、たんに機械的な、他人の手足となって行うようなものは含まれない、という解釈でしょう。

もう少し細かくいうと、親事業者による「情報成果物の作成の行為」は、親事業者の創造性が発揮された行為でなければなく、そのような「作成の行為・・・の一部」といえるためにも、やはり当該「一部」は、当該「一部」を実際に行う者(下請事業者)の創造性が発揮された行為でなければならない、ということです。

あるいは、「情報成果物」の定義の方に読み込む、つまり、情報成果物の定義には何ら創造性のような要件はないけれども、解釈で、創造性の発揮されたものだけが「情報成果物」に該当するのだ、と解釈してしまうことによって、同じ結論を導くことが可能であるように思われます。

実際、長澤先生の優越本の第4版の49頁には、情報成果物の作成には「知的な作業が必要」と解説されています。

ですが、そこで引用されている文献をみても、知的作業が必要だという根拠ははっきりしません。

たとえば、

上原伸一「テレビ関係における情報成果物作成委託を中心とした下請法対応」公正取引689号14頁, 17頁

では、

「〔公取委との〕話し合いの結果、単に手足として機械を操作してテロップを作る場合は情報成果物とはせず、作成する側で特段に工夫や創作的な仕事をした場合は下請法対象として扱うこととなった。」

という、協議の結果の説明があるだけで、理由の説明がありません。

鎌田編著『下請法の実務〔第4版〕』48頁では、

「なお、受託者において文字や図形が記載されているもの(第3号の情報成果物)の作成が求められているからといって、直ちに情報成果物作成委託に当たるわけではない。

例えば、「清掃」という役務の提供を依頼した事業者は、受託者に対して「清掃終了報告書」の作成・提出を求めることがあるが、委託しているのはあくまでも「清掃」という役務の提供であるので、情報成果物作成委託ではなく役務提供委託として取り扱われることになる。」

と説明されていますが、これは、

①委託しているのは役務である

②役務の委託は情報成果物作成委託ではありえない

という、ほとんど結論に直結するような2つのことを前提にしてしまった理屈であり(なぜ①②(とくに②)を前提にできるのか、よくわかりません)、清掃報告書に知的作業が不要だから情報成果物にあたらないとは言っていないように見えます。

個人的には、清掃報告書の場合には、報告書の作成に知的作業が不要だから情報成果物にあたらないのではなく、当事者が本来意図している清掃役務に必然的かつ付随的に伴うものだから、委託しているのはあくまで役務であって、情報成果物の作成を「委託」しているのではない、と考えるのが据わりが良いと考えています。

本来の業務の一部を無理矢理切り出して製造委託だ情報成果物だと言い出すときりがないし、非常識な結論になりがちだと思います。

ちなみに、鎌田編著の続きの部分では、

「他方、例えば、親事業者の認識としては「撮影」という役務の提供を依頼したつもりでも、

親事業者の管理の下で撮影作業をさせるのではなく

下請事業者が主体的に撮影したテープ等のデータを納めさせる場合には、

取引の実態としては映像(第2号の情報成果物)の作成を委託しているのであり、情報成果物作成委託に該当する。」

と述べられており、ここでも、

①親事業者の管理下にないから(≒下請事業者の主体性があるから)、情報成果物作成委託にあたるのか、それとも、

②データを納めさせるから、情報成果物にあたるのか、

③①②の両方を満たして初めて情報成果物になるのか、

よくわかりません。

というわけで、どこまでいってもこの論点はすっきりしません。

ともあれ、下請法テキストやその他の文献を見ると、公取委実務は、

・情報成果物には知的作業が必要

・成果物(データ等)が引き渡されないと情報成果物作成委託には当たらない

というあたりで動いているのではないかと思われます。

ですが、情報成果物の定義は前述のとおりであって、知的作業が必要だというのをその定義に読み込むにはかなり無理があります。

そうすると、知的作業が必要だと限定解釈する論者の見解は、情報成果物の定義ではなく、「情報成果物」という何となく高級感のある名前からの連想で知的作業が必要だと考えているのではないか、と疑われます。

しかし、キラキラネームの子供が中身までキラキラしているとは限らないのと同様、高級な名前がついているからといって内容まで高級なもの(知的作業が必要なもの)に限定することはできないと思います。

「私的独占」を、そのネーミングから、私的な独占のことだ、と解釈する(ないしは、無意識にそういうバイアスを持ってしまう)のと、少し似ています。

まあ、下請法の解釈が、論理(=条文解釈)ではなく、直観に頼っていることがよくわかる事例として、興味深いと言えば興味深いものがあります。

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