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2022年6月11日 (土)

価格維持効果とは

流通取引慣行ガイドラインでは、「価格維持効果」とは、

「非価格制限行為により,

当該行為の相手方とその競争者間の競争が妨げられ,

当該行為の相手方がその意思で価格をある程度自由に左右し,当該商品の価格を維持し又は引き上げることができるような状態をもたらすおそれ」

を生じさせる効果

と定義されています。

ここで、

非価格制限行為をするメーカーを、M1

M1の取引先販売店を、R1、R2

M1の(非価格制限行為をしていない)競合メーカーを、M2

M2の取引先販売店を、R3、R4

と置くと、上記定義での、「当該行為の相手方」とは、R1とR2ということになります。

では、「その競争者」が何を指すのかというと、「当該行為の相手方」がR1の場合、「その競争者」なので、R2、R3、R4が該当することになります。

R2だけでなく、R3、R4も「その競争者」に該当することに、注意が必要です。

同様に、「当該行為の相手方」がR2の場合、「その競争者」は、R1、R3、R4となります。

以上は、「非価格制限行為」が具体的に何なのかを問わない一般論ですが、では、具体的な非価格制限行為ごとに、価格維持効果というのはどのように生じるのか見てみましょう。

流通取引ガイドラインで価格維持効果を問題にしている行為類型は、

厳格な地域制限

地域外顧客への受動的販売の制限

帳合取引の義務付け

仲間取引の禁止

帳合取引の義務付けとなるようなリベートを供与する場合

です。

まず、「厳格な地域制限」(事業者が流通業者に対して,一定の地域を割り当て,地域外での販売を制限すること)については、

R1に割り当てられる一定の地域をT1、

R2に割り当てられる一定の地域をT2、

と置くと、

M1がR1に対してT1を割り当て、T1外での販売を制限し、かつ、R2に対してT2を割り当て、T2外での販売を制限すること

と言い換えられます。

そして、地理的市場全体をTと置くと、通常は、

T1+T2=T

でしょう。

そうでないと、M1はみすみすビジネスチャンスを逃すことになるからです。

これを前提に、各小売店がどのテリトリーで販売するのかをみると、

M1がR1に対してT1を割り当て、T1外での販売を制限し、かつ、R2に対してT2を割り当て、T2外での販売を制限すること

は、

T1: R1+R3+R4

T2: R2+R3+R4

と言い換えられます。

これによれば、

「非価格制限行為により,

当該行為の相手方とその競争者間の競争が妨げられ,

当該行為の相手方がその意思で価格をある程度自由に左右し,当該商品の価格を維持し又は引き上げることができるような状態をもたらすおそれ」

を生じさせる効果

は、

厳格な地域制限により,

R1とR2、R3、R4間の(T1での)競争が妨げられ,

かつ、

R2とR1、R3、R4間の(T2での)競争が妨げられ、

R1およびR2がその意思で(Tでの)価格をある程度自由に左右し,M1の商品の価格を維持し又は引き上げることができるような状態をもたらすおそれを生じさせる効果

と言い換えられます。

しかし、厳格な地域制限により、

R1とR2、R3、R4間の競争が妨げられ,

ることは、現実にはなさそうです。

というのは、R3とR4は自由に競争している前提だからです。

とすると、

R1とR2、R3、R4間の(T1での)競争が妨げられ,

というのは、

R1とR2間の(T1での)競争が妨げられ, ・・・①

ということになり、

R2とR1、R3、R4間の(T2での)競争が妨げられ、

というのは、

R2とR1間の(T2での)競争が妨げられ、・・・②

ということになります。

そして、①と②は、まとめて、

R1とR2のTでの競争が妨げられ、

と整理してしまってもよいでしょう。

そして、Tは全地理的市場なので、

R1とR2の競争が妨げられ

となります。

ここで注意すべきは、R3とR4が存在するのに、M1による厳格な地域制限により、

R1とR2の競争が妨げられ

ることにより、

R1およびR2がその意思で(Tでの)価格をある程度自由に左右し,M1の商品の価格を維持し又は引き上げることができるような状態をもたらすおそれを生じさせる効果

が生じるためには、R1およびR2がR3およびR4からの競争圧力をあまり受けていないことが必要だということです。

そして、R1およびR2がR3およびR4からの競争圧力をあまり受けていないという前提であれば、R1とR2の競争が妨げられ、R1とR2ががその意思で(Tでの)価格をある程度自由に左右し,M1の商品の価格を維持し又は引き上げることができるような状態をもたらすおそれを生じさせる効果を生じさせることは、十分にあり得そうです。

では次に、帳合取引の義務付け(事業者が卸売業者に対して,その販売先である小売業者を特定させ,小売業者が特定の卸売業者としか取引できないようにすること)をみてみましょう。

ここでは、

帳合取引の義務付けをするメーカーをM1、

M1と取引をする卸売業者をW1とW2、

W1の販売先である小売業者をR1、

W2の販売先である小売業者をW2、

M1の(帳合取引に義務付けをしていない)競合メーカーをM2、

とします。

(M2は、W1やW2と取引しているかもしれませんし、していないかもしれません。)

そうすると、帳合取引の義務づけは、

M1がW1に対して,その販売先である小売業者をR1と特定させ,R1がW1としか取引できないようにし、かつ、W2に対して,その販売先である小売業者をR2と特定させ,R2がW2としか取引できないようにすること

と言い換えられ、さらに短くすると、

M1が、W1に対して,その販売先である小売業者をR1と特定させ,かつ、W2に対して,その販売先である小売業者をR2と特定させること

となります。

では、これにより、価格維持効果がどのように生じるのか見てみましょう。

価格維持効果とは、

非価格制限行為により,

当該行為の相手方とその競争者間の競争が妨げられ,

当該行為の相手方がその意思で価格をある程度自由に左右し,当該商品の価格を維持し又は引き上げることができるような状態をもたらすおそれを生じさせる効果

でした。

これを、前記の帳合取引の義務付けに適用すると、

M1が、W1に対して,その販売先である小売業者をR1と特定させ,かつ、W2に対して,その販売先である小売業者をR2と特定させることにより,

W1とW2間の競争が妨げられ,

W1がその意思で価格をある程度自由に左右し,当該商品の価格を維持し又は引き上げることができるような状態をもたらすおそれを生じさせる効果

となります。

ここで注意を要するのは、メーカーが帳合取引の義務付けをするときには、通常、自分の商品についてしか、義務付けできないことです。

他メーカーの商品についての取引先まで口を出されていうことをきく卸はいないでしょう。

なので、上記の価格維持効果に関する記述を補足すると、

M1が、W1に対して,M1の商品の販売先である小売業者をR1と特定させ,かつ、W2に対して,M1の商品の販売先である小売業者をR2と特定させることにより,

W1とW2間のM1の商品に関する競争が妨げられ,

W1がその意思でM1の商品の価格をある程度自由に左右し,M1の商品の価格を維持し又は引き上げることができるような状態をもたらすおそれを生じさせる効果

ということになります。

ここでも、M1の商品に関する価格維持効果が生じるためには、M2の商品からの競争圧力が不十分であることが必要です。

もう少し細かく言うと、

M1が、W1に対して,M1の商品の販売先である小売業者をR1と特定させ,かつ、W2に対して,M1の商品の販売先である小売業者をR2と特定させることにより

W1とW2間のM1の商品に関する競争が妨げられた

といえるためには(つまり、帳合取引の義務付けと競争阻害の因果関係が認められるためには)、M2の商品からの競争圧力が不十分であることが必要だ、ということです。

逆に言えば、M2の商品からの競争圧力が十分なら、帳合取引の義務付けと競争阻害との間には因果関係は認められない、ということです。

さて、ここで、帳合取引の義務付け「により」妨げられるところの、

W1とW2間のM1の商品に関する競争

とは何でしょう。

これは、W1とW2で、R1とR2を奪い合うという競争です。

本来であればこのような競争がが起きるはずなのに、帳合取引の義務付けによってそのような顧客の奪い合いが起きなくなる、ということでしょう。

しかし、理屈はそうなのですが、これは伝統的な卸の機能を考慮していません。

卸というのは、全国にまんべんなく、タイムリーに商品を行き渡らせるのが、その機能でしょう。

メーカーにとっては、全国津々浦々にある小売店といちいち取引なんてやってられません。

小売店にとっても、多数のブランドを一括して取引するには、個々のメーカーと交渉していたのでは大変です。

いわば、卸の取引費用削減機能です。

もしこれらの機能がなくて、商品を右から左に流すだけなら、メーカーが小売店に直接売った方が、流通マージンが削減されて好ましいはずです。

それでもあえて卸を使うということは、そのような配送機能、流通機能、取引費用削減機能があるからでしょう。

しかも、卸というのは小売やメーカーに比べて利幅が少ないのが一般的です。

それは、リスクをあまり負っていないからです。

このように、もともと利幅が少ないとすると、帳合取引の義務づけがなくなって卸間の競争が促進されても、その結果起きる価格の低下というのは微々たるものかもしれません。

しかも、卸は地理的に西日本と東日本とか分けておくことが合理的なこともあり、もし東日本の卸に西日本の小売店に配送させたらコストばかりかさんでしまう、ということもあるかもしれません。

なので、帳合取引の義務付けにより失われる競争というのはわずかで、逆に、帳合取引を義務付けないことで失われる効率性(裏返せば、帳合取引の義務づけにより実現される効率性)が大きい、ということもありえます。

もちろん取引の実態により結論は変わりうるのですが、それだけに、価格維持効果の有無を判定するには、このような取引の実態を考慮することが不可欠だと思います。

ガイドラインは、その文字面だけを追っていたのでは本質は見えない、という好例です。

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