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2022年6月14日 (火)

仲間取引の禁止について

流通取引慣行ガイドラインでは、仲間取引の禁止(事業者が流通業者に対して,商品の横流しをしないよう指示すること)について、

「仲間取引の禁止は,取引の基本となる取引先の選定に制限を課すものであるから,

その制限の形態に照らして販売段階での競争制限に結び付く可能性があり,

これによって価格維持効果が生じる場合には,

不公正な取引方法に該当し,違法となる(一般指定12項)。

なお,仲間取引の禁止が,下記(4)の安売り業者への販売禁止のために行われる場合には,

通常,価格競争を阻害するおそれがあり,

原則として不公正な取引方法に該当し,違法となる(一般指定12項)。」

とされています。

では、「安売り業者への販売禁止のために行われる場合」以外で、仲間取引の禁止に価格維持効果が生じるのは、どのような場合なのでしょうか。

この点について、佐久間編著『流通・取引慣行ガイドライン』(浅葱本)に手がかりがないか見ると、同書p133では、

「ガイドライン上、特に明記していないが、仲間取引の禁止が「価格維持効果が生じる場合」に当たるかどうかは、ガイドライン第1部の3⑴及び⑵イで述べられた考え方に従って判断されることとなる。」

とされています。

そこで、ガイドラインの該当箇所を見ると、第1部の3⑴では、

「(1) 垂直的制限行為に係る適法・違法性判断基準についての考え方

 垂直的制限行為は,上記2のとおり,競争に様々な影響を及ぼすものであるが,公正な競争を阻害するおそれがある場合に,不公正な取引方法として禁止されることとなる。

垂直的制限行為に公正な競争を阻害するおそれがあるかどうかの判断に当たっては,

具体的行為や取引の対象・地域・態様等に応じて,

当該行為に係る取引及び

それ〔=当該行為〕により影響を受ける範囲

を検討した上で,の事項を総合的に考慮して判断することとなる。

 なお,この判断に当たっては,垂直的制限行為によって生じ得るブランド間競争やブランド内競争の減少・消滅といった競争を阻害する効果に加え,

競争を促進する効果(下記(3)参照)も考慮する。

また,競争を阻害する効果及び競争を促進する効果を考慮する際は,各取引段階における潜在的競争者への影響も踏まえる必要がある。

[1] ブランド間競争の状況(市場集中度,商品特性,製品差別化の程度,流通経路,新規参入の難易性等)

[2] ブランド内競争の状況(価格のバラツキの状況,当該商品を取り扱っている流通業者等の業態等)

[3] 垂直的制限行為を行う事業者の市場における地位(市場シェア,順位,ブランド力等)

[4] 垂直的制限行為の対象となる取引先事業者の事業活動に及ぼす影響(制限の程度・態様等)

[5] 垂直的制限行為の対象となる取引先事業者の数及び市場における地位

 各事項の重要性は個別具体的な事例ごとに異なり,

垂直的制限行為を行う事業者の事業内容等に応じて,

各事項の内容も検討する必要がある。

例えば,プラットフォーム事業者が行う垂直的制限行為による競争への影響については,プラットフォーム事業者間の競争の状況や,ネットワーク効果(注3)等を踏まえたプラットフォーム事業者の市場における地位等を考慮する必要がある。」

とされ、⑵イでは、

「イ 価格維持効果が生じる場合

「価格維持効果が生じる場合」とは,非価格制限行為により,当該行為の相手方とその競争者間の競争が妨げられ

当該行為の相手方がその意思で価格をある程度自由に左右し,当該商品の価格を維持し又は引き上げることができるような状態をもたらすおそれが生じる場合をいう。

「価格維持効果が生じる場合」に当たるかどうかは,上記(1)の適法・違法性判断基準の考え方に従って判断することになる。

例えば,市場が寡占的であったり,ブランドごとの製品差別化が進んでいて,ブランド間競争が十分に機能しにくい状況の下で,市場における有力な事業者によって厳格な地域制限(後記第2の3(3)参照)が行われると,当該ブランドの商品を巡る価格競争が阻害され,価格維持効果が生じることとなる。

また,この判断に当たっては,他の事業者の行動も考慮の対象となる。例えば,複数の事業者がそれぞれ並行的にこのような制限を行う場合には,一事業者のみが行う場合と比べ市場全体として価格維持効果が生じる可能性が高くなる。

なお,「価格維持効果が生じる場合」に当たるかどうかの判断において,非価格制限行為により,具体的に上記のような状態が発生することを要するものではない。」

とされています。

つまり、安売り業者への販売制限ではない仲間取引の禁止が違法となるためには、まず、

当該行為の相手方とその競争者間の競争が妨げられ

ることが必要であることがわかります。

では、仲間取引の禁止によって、「当該行為〔=仲間取引の禁止〕の相手方とその競争者間の競争が妨げられ」る場合というのは、どのような場合でしょうか。

まずここで、仲間取引の禁止は、主体を市場における有力な事業者に限っていないので、20%のセーフハーバーが厳密には適用されませんが、安売り業者への販売制限の場合を除き、シェアの低い事業者が行う仲間取引の禁止が価格維持効果を持つとはちょっと考えにくいので、事実上、20%以下の市場シェアで仲間取引の禁止が違法になる可能性は低いと考えて良いでしょう。

ガイドラインではセーフハーバーの適用範囲を第1部「第2の2(自己の競争者との取引等の制限)の各行為類型,同3(3)(厳格な地域制限)及び同7(抱き合わせ販売)」に限っていますが、杓子定規に過ぎます。

そして、ある程度シェアが高い場合を念頭に考えてみても、仲間取引の禁止だけによって「当該行為〔=仲間取引の禁止〕の相手方とその競争者間の競争が妨げられ」る場合というのは、安売り業者への販売を制限する場合を除いては、ちょっと考えにくいと思います。

(「だけ」と強調しているのは、再販拘束の実効性確保手段として行われる場合はあるからです。でも、再販の実効性確保手段として行われる取引拒絶が再販として判断されるのと同様に、再販の実効性確保手段として行われる仲間取引の禁止は再販として判断されるべきでしょう。)

このことを、

仲間取引の禁止をするメーカーを、M1

M1が取引する小売店を、R1

M1が取引していない小売店を、R2

M1の(仲間取引を禁止しない)競合メーカーを、M2

と置いて、考えてみましょう。

ここで、仲間取引の禁止とは、

「事業者が流通業者に対して,商品の横流しをしないよう指示すること」

ですので、上記の記号を使うと、仲間取引の禁止は、

「M1が、

R1に対して、M1の商品をR2に販売しないように指示すること」

と表せます。

さらに、価格維持効果とは、

非価格制限行為により,当該行為の相手方とその競争者間の競争が妨げられ,

当該行為の相手方がその意思で価格をある程度自由に左右し,当該商品の価格を維持し又は引き上げることができるような状態をもたらすおそれを生じさせる効果

と言い表すことができ、さらに前記の記号を使うと、

M1が、

R1に対して、M1の商品をR2に販売しないように指示することにより

R1とR2との間の競争が妨げられ

R1およびR2がその意思で価格をある程度自由に左右し,M1の商品の価格を維持し又は引き上げることができるような状態をもたらすおそれを生じさせる効果

と表現できます。

しかし、本当にこのようなことが起こるのかというと、あまり起こらないように思います。

ここでは、

R1とR2との間の競争が妨げられ

ることが、価格維持効果の前提ですが、R1とR2間の競争が、

「M1が、

R1に対して、M1の商品をR2に販売しないように指示することにより

妨げられる、というようなことが起こるようには思えないのです。

なぜなら、R1がR2に販売することにより(仲間取引をすることにより)「R1とR2との間の競争」が促進される関係にあるのであれば、そもそもM1が仲間取引を許しても、R1がR2に販売することはないと考えられるからです。

もちろん、R1がR2に販売するかどうかは、

R2に対する売上増というプラス面と、

R2との競争による売上減というマイナス面の

両方を天秤にかけて判断することになるわけですが、通常の小売店で、前者のプラス面が大きいということは、考えにくいと思われます。

このように、仲間取引の禁止があってもなくてもR1はR2に売らないのであれば、仲間取引の禁止「により」R1とR2の競争が妨げられるということもないはずです。

もちろん理屈の上では、例えばR1とR2が異なる地理的市場に属せば、R1はR2に対する売上だけを享受できて、競争によるマイナスはない、ということもあり得ますが、現実の世の中では、R2が別の地理的市場でだけ売ってくれる保証はありません。

とはいえ、上述のように図式的に考えるクセを付けると、どういう場合に価格維持効果が生じやすいのかということが見えてくると思います。

そう考えると、仲間取引の禁止は、再販売価格拘束とセットでないと価格維持効果が生じないのが通常であり、仮に再販売価格拘束とセットであっても仲間取引の禁止だけから価格維持効果が生じるのは、メーカーが独占に近いような、かなり限定的な場合に限られるのではないかと思われます。

次に、

R1とR2との間の競争が妨げられ

るという場合に妨げられる競争というのがどのようなものなのかをもう少し具体的に考えてみましょう。

小売店間の競争はさまざまな側面で行われます。

典型的には、価格競争です。

ですが、ここでは、安売り業者(=価格競争力に優れた小売業者)への販売を制限するための仲間取引の禁止は考慮していませんので(考慮するまでもなく、原則違法とガイドラインに明記されているため)、無視します。

次に、立地競争です。

ですが、立地競争は、通常、すでにM1と取引のある小売店間で行われる競争でしょうから、仲間取引を禁止しなくても、小売店はM1から仕入れれば良いだけなので、逆に言えば、仲間取引を禁止したからといって小売店間の立地競争が制限されるということは、あまりなさそうです。

次に、サービス競争です。

これも、同じ理由で、仲間取引の禁止により制限される場面というのが想定しにくいです。

メーカーの立場からすれば、「あの小売店はサービス競争に優れているから、あの小売店にはこの商品は扱わせたくないな」と考える、ということが想定しにくい、ということです。

これが、価格競争と、非価格競争の大きな違いです。

メーカーは、価格競争を制限するインセンティブがあります。

(ただし、理論的には、メーカーにとって小売店のマージンはコストなので小売店による価格競争を禁止する(=コスト削減を禁止する)インセンティブがメーカーにはない、という経済学的な議論は可能なので、そのような議論があてはまるかは常にウォッチしないといけません。)

というのは、価格競争が激化すると、小売店からメーカーに対して、必ず、値下げ要求がなされるからです。

これに対して、小売店間の非価格競争(たとえば、「スマイル0円」みたいなサービス競争。)に対して、非価格競争に劣る小売店が、メーカーに対して、「あの店の『スマイル0円』はやめさせろ」といったクレームをいうということは、ちょっと想定しにくいと思います。

立地競争(地理的競争)にしても、あらかじめメーカーが小売店に対して排他的テリトリーを保証しているケースなら話は別ですが、そのような保証がないケースにおいて、既存の小売店が新規参入に直面して、メーカーに対して、「どうしてうちのテリトリーに出店させたのだ。やめさせろ」なんてクレームをいうことは、少なくとも安売りについてのクレームと比べれば、ずっと考えにくいと思います。

非価格競争でも行き過ぎればメーカーにとってダメージとなることはあり得て、極端に言えば、小売店がどんどん競争で淘汰されて、小売店が1社だけになってしまう場合です。

このように小売店が1社になってしまうことのメーカーにとってのデメリットは2つあって、1つは、小売店の価格競争力が増す、ということです。

もう1つは、嗜好の異なる(需要の差別化された)需要者に対してまんべんなくカバーすることができないことです。

このようなメーカーにとってのデメリットを考慮しても、メーカーは、すべての小売店が十分以上の利益を上げることに利益を感じることはなく(それはたんなるコストアップです)、でも、小売店がなくなってしまうと困るので、小売間の競争はあるけれど市場からは退出しない、いわば「生かさず殺さず」というくらいが一番塩梅が良い、というのが現実的ではないかと思われます。

そう考えると、価格競争は、それが激烈化しやすいために、「生かさず殺さず」ということが実現しにくいのに対して、非価格競争はあまりその点は心配しなくて良いと言えます。

さらに、より現実的に多いと思われるのは、ブランドイメージへの影響です。

つまり、価格競争は激化すればするほどブランドイメージが毀損されますが、サービス競争などの非価格競争はむしろブランドイメージを高めることが多いと思われます。

と言うように考えると、非価格競争を制限するために仲間取引を禁止する反競争的なインセンティブをメーカーが持つということはあまり考えられません。

ありうるとすれば、どこの馬の骨か分からない小売店もどきに扱われると品質管理が不安だとか、転売が横行すると流通過程での品質管理不備や流通在庫期間の長期化が心配だ、というまっとうなビジネス上の動機であり、これは、むしろ競争促進的な動機です。

このような競争促進的な制限が違法になるとすれば、競争制限的効果がよほど大きい場合、典型的には、メーカーが独占に近い場合でしょう。

というわけで、仲間取引の禁止がそれだけで(価格制限を伴わないで)違法になるというのは、メーカーが独占に近い場合に限られ、そうでない限り、安売り業者への販売制限を除いて仲間取引の禁止が違法になる場合というのはあまりない、というのが私の結論です。

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