« 2022年5月 | トップページ | 2022年7月 »

2022年6月

2022年6月17日 (金)

食べログ判決について

アルゴリズムの変更が優越的地位の濫用にあたるとして食べログが敗訴した判決が6月16日、東京地裁ででたそうです。

まだ報道ベースで知り得る限りですが、チェーン店の点数を一律に下げる変更だった(それだけだったかはわかりませんが)ようです。

なぜそのような変更をしたのか、想像することも困難であり、このような不合理な変更をしたら、それは駄目だろうと思いました。

毎日新聞の記事によると、「ただ、営業秘密とするカカクコムの主張から、なぜチェーン店に不利なアルゴリズムの変更が行われたのか、判決は明示しなかった。」ということだそうで、やっぱりよくわかりません。)

原告が優越的地位の濫用だと主張したので判決もそれに沿って判断したということだと思いますが、これってそもそも、独禁法違反云々(「でんでん」ではなく「うんぬん」と読みます)を言う前に、たんなる債務不履行なのではないでしょうか。

少なくとも有料会員レストランとの関係では、公正な評価を表示するというのは、グルメサイトのようなプラットフォームとして当然の契約上の義務だと思います。

ですが、原告韓流村としても、何も議論の蓄積のない、プラットフォームによる不当評価と債務不履行という主張を掲げるより、公取委の実態調査などもあって、ある程度議論の蓄積のある優越的地位の濫用を使った、ということなのかもしれません。

たしかに、単に債務不履行というのと、優越的地位の濫用というのとでは、迫力が違いますし、本件では原告の戦略が成功したということでしょう。

しかも、独禁法違反(不公正な取引方法)では、差止も認められる、というメリットも見逃せません(なお本判決は、差止は認めていませんが、私はこれは大きな問題だと思っています。)。

ですが、本件はグルメサイトトップの食べログだから優越的地位が認められやすかったかも知れませんが、2位以下が同じことをしたらどうなるのでしょうか。

あるいは、日本で同規模のグルメサイトが5つあったら、どうでしょうか?

私は、そんな場合でも検索アルゴリズムやレビューは公正であるべきだ(競争を歪めるべきではない)と考えるので、独禁法違反に問えるべきでしょう。

あるいは、差別的取扱いなら、比較的小さなプラットフォームに対しても適用しやすいかもしれません。

ともあれ、この判決はアルゴリズムの変更と独禁法違反という論点について極めて重要な判決であることはまちがいありません。

しかも、チェーン店の点数を一律に下げるという、合理的な説明が困難なアルゴリズム変更であり、ある意味でとてもわかりやすい事件であったことは、将来の独禁法実務にとって、たいへん喜ばしいことだったと思います。

というのは、最初の事件で躓くと、どうしても、その後の判決でも原告の主張が認められにくくなるからです。

そういう意味で本件がイージーケースであったことは日本の独禁法にとって好ましいことでしたが、この判決をきっかけに、まちがいなく、より幅広い検索サービスのアルゴリズムの公正性が独禁法の俎上に上ることになるでしょう。

それから、この事件で私が言いたいのは、公取委は何をしていたのか、ということです。

(水面下で調査しているかもしれませんが。)

最近の公取委は、実態調査や、せいぜい確約ばかりで、正式な排除措置命令が極端に少ないですが(令和3年度の排除措置命令は歴代断トツの最下位のわずか3件!)、よっぽど暇なはずなのにこういう事件を取り上げないというのは、いったいどういうことでしょうか?

850人を超える職員を抱えているのに、このていたらくでは、公正取引委員会の存在意義が問われると思います。

公取委のみなさん、がんばってください。

2022年6月14日 (火)

仲間取引の禁止について

流通取引慣行ガイドラインでは、仲間取引の禁止(事業者が流通業者に対して,商品の横流しをしないよう指示すること)について、

「仲間取引の禁止は,取引の基本となる取引先の選定に制限を課すものであるから,

その制限の形態に照らして販売段階での競争制限に結び付く可能性があり,

これによって価格維持効果が生じる場合には,

不公正な取引方法に該当し,違法となる(一般指定12項)。

なお,仲間取引の禁止が,下記(4)の安売り業者への販売禁止のために行われる場合には,

通常,価格競争を阻害するおそれがあり,

原則として不公正な取引方法に該当し,違法となる(一般指定12項)。」

とされています。

では、「安売り業者への販売禁止のために行われる場合」以外で、仲間取引の禁止に価格維持効果が生じるのは、どのような場合なのでしょうか。

この点について、佐久間編著『流通・取引慣行ガイドライン』(浅葱本)に手がかりがないか見ると、同書p133では、

「ガイドライン上、特に明記していないが、仲間取引の禁止が「価格維持効果が生じる場合」に当たるかどうかは、ガイドライン第1部の3⑴及び⑵イで述べられた考え方に従って判断されることとなる。」

とされています。

そこで、ガイドラインの該当箇所を見ると、第1部の3⑴では、

「(1) 垂直的制限行為に係る適法・違法性判断基準についての考え方

 垂直的制限行為は,上記2のとおり,競争に様々な影響を及ぼすものであるが,公正な競争を阻害するおそれがある場合に,不公正な取引方法として禁止されることとなる。

垂直的制限行為に公正な競争を阻害するおそれがあるかどうかの判断に当たっては,

具体的行為や取引の対象・地域・態様等に応じて,

当該行為に係る取引及び

それ〔=当該行為〕により影響を受ける範囲

を検討した上で,の事項を総合的に考慮して判断することとなる。

 なお,この判断に当たっては,垂直的制限行為によって生じ得るブランド間競争やブランド内競争の減少・消滅といった競争を阻害する効果に加え,

競争を促進する効果(下記(3)参照)も考慮する。

また,競争を阻害する効果及び競争を促進する効果を考慮する際は,各取引段階における潜在的競争者への影響も踏まえる必要がある。

[1] ブランド間競争の状況(市場集中度,商品特性,製品差別化の程度,流通経路,新規参入の難易性等)

[2] ブランド内競争の状況(価格のバラツキの状況,当該商品を取り扱っている流通業者等の業態等)

[3] 垂直的制限行為を行う事業者の市場における地位(市場シェア,順位,ブランド力等)

[4] 垂直的制限行為の対象となる取引先事業者の事業活動に及ぼす影響(制限の程度・態様等)

[5] 垂直的制限行為の対象となる取引先事業者の数及び市場における地位

 各事項の重要性は個別具体的な事例ごとに異なり,

垂直的制限行為を行う事業者の事業内容等に応じて,

各事項の内容も検討する必要がある。

例えば,プラットフォーム事業者が行う垂直的制限行為による競争への影響については,プラットフォーム事業者間の競争の状況や,ネットワーク効果(注3)等を踏まえたプラットフォーム事業者の市場における地位等を考慮する必要がある。」

とされ、⑵イでは、

「イ 価格維持効果が生じる場合

「価格維持効果が生じる場合」とは,非価格制限行為により,当該行為の相手方とその競争者間の競争が妨げられ

当該行為の相手方がその意思で価格をある程度自由に左右し,当該商品の価格を維持し又は引き上げることができるような状態をもたらすおそれが生じる場合をいう。

「価格維持効果が生じる場合」に当たるかどうかは,上記(1)の適法・違法性判断基準の考え方に従って判断することになる。

例えば,市場が寡占的であったり,ブランドごとの製品差別化が進んでいて,ブランド間競争が十分に機能しにくい状況の下で,市場における有力な事業者によって厳格な地域制限(後記第2の3(3)参照)が行われると,当該ブランドの商品を巡る価格競争が阻害され,価格維持効果が生じることとなる。

また,この判断に当たっては,他の事業者の行動も考慮の対象となる。例えば,複数の事業者がそれぞれ並行的にこのような制限を行う場合には,一事業者のみが行う場合と比べ市場全体として価格維持効果が生じる可能性が高くなる。

なお,「価格維持効果が生じる場合」に当たるかどうかの判断において,非価格制限行為により,具体的に上記のような状態が発生することを要するものではない。」

とされています。

つまり、安売り業者への販売制限ではない仲間取引の禁止が違法となるためには、まず、

当該行為の相手方とその競争者間の競争が妨げられ

ることが必要であることがわかります。

では、仲間取引の禁止によって、「当該行為〔=仲間取引の禁止〕の相手方とその競争者間の競争が妨げられ」る場合というのは、どのような場合でしょうか。

まずここで、仲間取引の禁止は、主体を市場における有力な事業者に限っていないので、20%のセーフハーバーが厳密には適用されませんが、安売り業者への販売制限の場合を除き、シェアの低い事業者が行う仲間取引の禁止が価格維持効果を持つとはちょっと考えにくいので、事実上、20%以下の市場シェアで仲間取引の禁止が違法になる可能性は低いと考えて良いでしょう。

ガイドラインではセーフハーバーの適用範囲を第1部「第2の2(自己の競争者との取引等の制限)の各行為類型,同3(3)(厳格な地域制限)及び同7(抱き合わせ販売)」に限っていますが、杓子定規に過ぎます。

そして、ある程度シェアが高い場合を念頭に考えてみても、仲間取引の禁止だけによって「当該行為〔=仲間取引の禁止〕の相手方とその競争者間の競争が妨げられ」る場合というのは、安売り業者への販売を制限する場合を除いては、ちょっと考えにくいと思います。

(「だけ」と強調しているのは、再販拘束の実効性確保手段として行われる場合はあるからです。でも、再販の実効性確保手段として行われる取引拒絶が再販として判断されるのと同様に、再販の実効性確保手段として行われる仲間取引の禁止は再販として判断されるべきでしょう。)

このことを、

仲間取引の禁止をするメーカーを、M1

M1が取引する小売店を、R1

M1が取引していない小売店を、R2

M1の(仲間取引を禁止しない)競合メーカーを、M2

と置いて、考えてみましょう。

ここで、仲間取引の禁止とは、

「事業者が流通業者に対して,商品の横流しをしないよう指示すること」

ですので、上記の記号を使うと、仲間取引の禁止は、

「M1が、

R1に対して、M1の商品をR2に販売しないように指示すること」

と表せます。

さらに、価格維持効果とは、

非価格制限行為により,当該行為の相手方とその競争者間の競争が妨げられ,

当該行為の相手方がその意思で価格をある程度自由に左右し,当該商品の価格を維持し又は引き上げることができるような状態をもたらすおそれを生じさせる効果

と言い表すことができ、さらに前記の記号を使うと、

M1が、

R1に対して、M1の商品をR2に販売しないように指示することにより

R1とR2との間の競争が妨げられ

R1およびR2がその意思で価格をある程度自由に左右し,M1の商品の価格を維持し又は引き上げることができるような状態をもたらすおそれを生じさせる効果

と表現できます。

しかし、本当にこのようなことが起こるのかというと、あまり起こらないように思います。

ここでは、

R1とR2との間の競争が妨げられ

ることが、価格維持効果の前提ですが、R1とR2間の競争が、

「M1が、

R1に対して、M1の商品をR2に販売しないように指示することにより

妨げられる、というようなことが起こるようには思えないのです。

なぜなら、R1がR2に販売することにより(仲間取引をすることにより)「R1とR2との間の競争」が促進される関係にあるのであれば、そもそもM1が仲間取引を許しても、R1がR2に販売することはないと考えられるからです。

もちろん、R1がR2に販売するかどうかは、

R2に対する売上増というプラス面と、

R2との競争による売上減というマイナス面の

両方を天秤にかけて判断することになるわけですが、通常の小売店で、前者のプラス面が大きいということは、考えにくいと思われます。

このように、仲間取引の禁止があってもなくてもR1はR2に売らないのであれば、仲間取引の禁止「により」R1とR2の競争が妨げられるということもないはずです。

もちろん理屈の上では、例えばR1とR2が異なる地理的市場に属せば、R1はR2に対する売上だけを享受できて、競争によるマイナスはない、ということもあり得ますが、現実の世の中では、R2が別の地理的市場でだけ売ってくれる保証はありません。

とはいえ、上述のように図式的に考えるクセを付けると、どういう場合に価格維持効果が生じやすいのかということが見えてくると思います。

そう考えると、仲間取引の禁止は、再販売価格拘束とセットでないと価格維持効果が生じないのが通常であり、仮に再販売価格拘束とセットであっても仲間取引の禁止だけから価格維持効果が生じるのは、メーカーが独占に近いような、かなり限定的な場合に限られるのではないかと思われます。

次に、

R1とR2との間の競争が妨げられ

るという場合に妨げられる競争というのがどのようなものなのかをもう少し具体的に考えてみましょう。

小売店間の競争はさまざまな側面で行われます。

典型的には、価格競争です。

ですが、ここでは、安売り業者(=価格競争力に優れた小売業者)への販売を制限するための仲間取引の禁止は考慮していませんので(考慮するまでもなく、原則違法とガイドラインに明記されているため)、無視します。

次に、立地競争です。

ですが、立地競争は、通常、すでにM1と取引のある小売店間で行われる競争でしょうから、仲間取引を禁止しなくても、小売店はM1から仕入れれば良いだけなので、逆に言えば、仲間取引を禁止したからといって小売店間の立地競争が制限されるということは、あまりなさそうです。

次に、サービス競争です。

これも、同じ理由で、仲間取引の禁止により制限される場面というのが想定しにくいです。

メーカーの立場からすれば、「あの小売店はサービス競争に優れているから、あの小売店にはこの商品は扱わせたくないな」と考える、ということが想定しにくい、ということです。

これが、価格競争と、非価格競争の大きな違いです。

メーカーは、価格競争を制限するインセンティブがあります。

(ただし、理論的には、メーカーにとって小売店のマージンはコストなので小売店による価格競争を禁止する(=コスト削減を禁止する)インセンティブがメーカーにはない、という経済学的な議論は可能なので、そのような議論があてはまるかは常にウォッチしないといけません。)

というのは、価格競争が激化すると、小売店からメーカーに対して、必ず、値下げ要求がなされるからです。

これに対して、小売店間の非価格競争(たとえば、「スマイル0円」みたいなサービス競争。)に対して、非価格競争に劣る小売店が、メーカーに対して、「あの店の『スマイル0円』はやめさせろ」といったクレームをいうということは、ちょっと想定しにくいと思います。

立地競争(地理的競争)にしても、あらかじめメーカーが小売店に対して排他的テリトリーを保証しているケースなら話は別ですが、そのような保証がないケースにおいて、既存の小売店が新規参入に直面して、メーカーに対して、「どうしてうちのテリトリーに出店させたのだ。やめさせろ」なんてクレームをいうことは、少なくとも安売りについてのクレームと比べれば、ずっと考えにくいと思います。

非価格競争でも行き過ぎればメーカーにとってダメージとなることはあり得て、極端に言えば、小売店がどんどん競争で淘汰されて、小売店が1社だけになってしまう場合です。

このように小売店が1社になってしまうことのメーカーにとってのデメリットは2つあって、1つは、小売店の価格競争力が増す、ということです。

もう1つは、嗜好の異なる(需要の差別化された)需要者に対してまんべんなくカバーすることができないことです。

このようなメーカーにとってのデメリットを考慮しても、メーカーは、すべての小売店が十分以上の利益を上げることに利益を感じることはなく(それはたんなるコストアップです)、でも、小売店がなくなってしまうと困るので、小売間の競争はあるけれど市場からは退出しない、いわば「生かさず殺さず」というくらいが一番塩梅が良い、というのが現実的ではないかと思われます。

そう考えると、価格競争は、それが激烈化しやすいために、「生かさず殺さず」ということが実現しにくいのに対して、非価格競争はあまりその点は心配しなくて良いと言えます。

さらに、より現実的に多いと思われるのは、ブランドイメージへの影響です。

つまり、価格競争は激化すればするほどブランドイメージが毀損されますが、サービス競争などの非価格競争はむしろブランドイメージを高めることが多いと思われます。

と言うように考えると、非価格競争を制限するために仲間取引を禁止する反競争的なインセンティブをメーカーが持つということはあまり考えられません。

ありうるとすれば、どこの馬の骨か分からない小売店もどきに扱われると品質管理が不安だとか、転売が横行すると流通過程での品質管理不備や流通在庫期間の長期化が心配だ、というまっとうなビジネス上の動機であり、これは、むしろ競争促進的な動機です。

このような競争促進的な制限が違法になるとすれば、競争制限的効果がよほど大きい場合、典型的には、メーカーが独占に近い場合でしょう。

というわけで、仲間取引の禁止がそれだけで(価格制限を伴わないで)違法になるというのは、メーカーが独占に近い場合に限られ、そうでない限り、安売り業者への販売制限を除いて仲間取引の禁止が違法になる場合というのはあまりない、というのが私の結論です。

2022年6月11日 (土)

価格維持効果とは

流通取引慣行ガイドラインでは、「価格維持効果」とは、

「非価格制限行為により,

当該行為の相手方とその競争者間の競争が妨げられ,

当該行為の相手方がその意思で価格をある程度自由に左右し,当該商品の価格を維持し又は引き上げることができるような状態をもたらすおそれ」

を生じさせる効果

と定義されています。

ここで、

非価格制限行為をするメーカーを、M1

M1の取引先販売店を、R1、R2

M1の(非価格制限行為をしていない)競合メーカーを、M2

M2の取引先販売店を、R3、R4

と置くと、上記定義での、「当該行為の相手方」とは、R1とR2ということになります。

では、「その競争者」が何を指すのかというと、「当該行為の相手方」がR1の場合、「その競争者」なので、R2、R3、R4が該当することになります。

R2だけでなく、R3、R4も「その競争者」に該当することに、注意が必要です。

同様に、「当該行為の相手方」がR2の場合、「その競争者」は、R1、R3、R4となります。

以上は、「非価格制限行為」が具体的に何なのかを問わない一般論ですが、では、具体的な非価格制限行為ごとに、価格維持効果というのはどのように生じるのか見てみましょう。

流通取引ガイドラインで価格維持効果を問題にしている行為類型は、

厳格な地域制限

地域外顧客への受動的販売の制限

帳合取引の義務付け

仲間取引の禁止

帳合取引の義務付けとなるようなリベートを供与する場合

です。

まず、「厳格な地域制限」(事業者が流通業者に対して,一定の地域を割り当て,地域外での販売を制限すること)については、

R1に割り当てられる一定の地域をT1、

R2に割り当てられる一定の地域をT2、

と置くと、

M1がR1に対してT1を割り当て、T1外での販売を制限し、かつ、R2に対してT2を割り当て、T2外での販売を制限すること

と言い換えられます。

そして、地理的市場全体をTと置くと、通常は、

T1+T2=T

でしょう。

そうでないと、M1はみすみすビジネスチャンスを逃すことになるからです。

これを前提に、各小売店がどのテリトリーで販売するのかをみると、

M1がR1に対してT1を割り当て、T1外での販売を制限し、かつ、R2に対してT2を割り当て、T2外での販売を制限すること

は、

T1: R1+R3+R4

T2: R2+R3+R4

と言い換えられます。

これによれば、

「非価格制限行為により,

当該行為の相手方とその競争者間の競争が妨げられ,

当該行為の相手方がその意思で価格をある程度自由に左右し,当該商品の価格を維持し又は引き上げることができるような状態をもたらすおそれ」

を生じさせる効果

は、

厳格な地域制限により,

R1とR2、R3、R4間の(T1での)競争が妨げられ,

かつ、

R2とR1、R3、R4間の(T2での)競争が妨げられ、

R1およびR2がその意思で(Tでの)価格をある程度自由に左右し,M1の商品の価格を維持し又は引き上げることができるような状態をもたらすおそれを生じさせる効果

と言い換えられます。

しかし、厳格な地域制限により、

R1とR2、R3、R4間の競争が妨げられ,

ることは、現実にはなさそうです。

というのは、R3とR4は自由に競争している前提だからです。

とすると、

R1とR2、R3、R4間の(T1での)競争が妨げられ,

というのは、

R1とR2間の(T1での)競争が妨げられ, ・・・①

ということになり、

R2とR1、R3、R4間の(T2での)競争が妨げられ、

というのは、

R2とR1間の(T2での)競争が妨げられ、・・・②

ということになります。

そして、①と②は、まとめて、

R1とR2のTでの競争が妨げられ、

と整理してしまってもよいでしょう。

そして、Tは全地理的市場なので、

R1とR2の競争が妨げられ

となります。

ここで注意すべきは、R3とR4が存在するのに、M1による厳格な地域制限により、

R1とR2の競争が妨げられ

ることにより、

R1およびR2がその意思で(Tでの)価格をある程度自由に左右し,M1の商品の価格を維持し又は引き上げることができるような状態をもたらすおそれを生じさせる効果

が生じるためには、R1およびR2がR3およびR4からの競争圧力をあまり受けていないことが必要だということです。

そして、R1およびR2がR3およびR4からの競争圧力をあまり受けていないという前提であれば、R1とR2の競争が妨げられ、R1とR2ががその意思で(Tでの)価格をある程度自由に左右し,M1の商品の価格を維持し又は引き上げることができるような状態をもたらすおそれを生じさせる効果を生じさせることは、十分にあり得そうです。

では次に、帳合取引の義務付け(事業者が卸売業者に対して,その販売先である小売業者を特定させ,小売業者が特定の卸売業者としか取引できないようにすること)をみてみましょう。

ここでは、

帳合取引の義務付けをするメーカーをM1、

M1と取引をする卸売業者をW1とW2、

W1の販売先である小売業者をR1、

W2の販売先である小売業者をW2、

M1の(帳合取引に義務付けをしていない)競合メーカーをM2、

とします。

(M2は、W1やW2と取引しているかもしれませんし、していないかもしれません。)

そうすると、帳合取引の義務づけは、

M1がW1に対して,その販売先である小売業者をR1と特定させ,R1がW1としか取引できないようにし、かつ、W2に対して,その販売先である小売業者をR2と特定させ,R2がW2としか取引できないようにすること

と言い換えられ、さらに短くすると、

M1が、W1に対して,その販売先である小売業者をR1と特定させ,かつ、W2に対して,その販売先である小売業者をR2と特定させること

となります。

では、これにより、価格維持効果がどのように生じるのか見てみましょう。

価格維持効果とは、

非価格制限行為により,

当該行為の相手方とその競争者間の競争が妨げられ,

当該行為の相手方がその意思で価格をある程度自由に左右し,当該商品の価格を維持し又は引き上げることができるような状態をもたらすおそれを生じさせる効果

でした。

これを、前記の帳合取引の義務付けに適用すると、

M1が、W1に対して,その販売先である小売業者をR1と特定させ,かつ、W2に対して,その販売先である小売業者をR2と特定させることにより,

W1とW2間の競争が妨げられ,

W1がその意思で価格をある程度自由に左右し,当該商品の価格を維持し又は引き上げることができるような状態をもたらすおそれを生じさせる効果

となります。

ここで注意を要するのは、メーカーが帳合取引の義務付けをするときには、通常、自分の商品についてしか、義務付けできないことです。

他メーカーの商品についての取引先まで口を出されていうことをきく卸はいないでしょう。

なので、上記の価格維持効果に関する記述を補足すると、

M1が、W1に対して,M1の商品の販売先である小売業者をR1と特定させ,かつ、W2に対して,M1の商品の販売先である小売業者をR2と特定させることにより,

W1とW2間のM1の商品に関する競争が妨げられ,

W1がその意思でM1の商品の価格をある程度自由に左右し,M1の商品の価格を維持し又は引き上げることができるような状態をもたらすおそれを生じさせる効果

ということになります。

ここでも、M1の商品に関する価格維持効果が生じるためには、M2の商品からの競争圧力が不十分であることが必要です。

もう少し細かく言うと、

M1が、W1に対して,M1の商品の販売先である小売業者をR1と特定させ,かつ、W2に対して,M1の商品の販売先である小売業者をR2と特定させることにより

W1とW2間のM1の商品に関する競争が妨げられた

といえるためには(つまり、帳合取引の義務付けと競争阻害の因果関係が認められるためには)、M2の商品からの競争圧力が不十分であることが必要だ、ということです。

逆に言えば、M2の商品からの競争圧力が十分なら、帳合取引の義務付けと競争阻害との間には因果関係は認められない、ということです。

さて、ここで、帳合取引の義務付け「により」妨げられるところの、

W1とW2間のM1の商品に関する競争

とは何でしょう。

これは、W1とW2で、R1とR2を奪い合うという競争です。

本来であればこのような競争がが起きるはずなのに、帳合取引の義務付けによってそのような顧客の奪い合いが起きなくなる、ということでしょう。

しかし、理屈はそうなのですが、これは伝統的な卸の機能を考慮していません。

卸というのは、全国にまんべんなく、タイムリーに商品を行き渡らせるのが、その機能でしょう。

メーカーにとっては、全国津々浦々にある小売店といちいち取引なんてやってられません。

小売店にとっても、多数のブランドを一括して取引するには、個々のメーカーと交渉していたのでは大変です。

いわば、卸の取引費用削減機能です。

もしこれらの機能がなくて、商品を右から左に流すだけなら、メーカーが小売店に直接売った方が、流通マージンが削減されて好ましいはずです。

それでもあえて卸を使うということは、そのような配送機能、流通機能、取引費用削減機能があるからでしょう。

しかも、卸というのは小売やメーカーに比べて利幅が少ないのが一般的です。

それは、リスクをあまり負っていないからです。

このように、もともと利幅が少ないとすると、帳合取引の義務づけがなくなって卸間の競争が促進されても、その結果起きる価格の低下というのは微々たるものかもしれません。

しかも、卸は地理的に西日本と東日本とか分けておくことが合理的なこともあり、もし東日本の卸に西日本の小売店に配送させたらコストばかりかさんでしまう、ということもあるかもしれません。

なので、帳合取引の義務付けにより失われる競争というのはわずかで、逆に、帳合取引を義務付けないことで失われる効率性(裏返せば、帳合取引の義務づけにより実現される効率性)が大きい、ということもありえます。

もちろん取引の実態により結論は変わりうるのですが、それだけに、価格維持効果の有無を判定するには、このような取引の実態を考慮することが不可欠だと思います。

ガイドラインは、その文字面だけを追っていたのでは本質は見えない、という好例です。

2022年6月 3日 (金)

最高生産数量の制限に関する知財ガイドラインの規定の疑問

前にも少し書いたことがあるのですが、知的財産ガイドライン第4の3⑵では、

「イ 製造数量の制限又は製造における技術の使用回数の制限

ライセンサーがライセンシーに対し、当該技術を利用して製造する製品の最低製造数量又は技術の最低使用回数を制限することは、他の技術の利用を排除することにならない限り、原則として不公正な取引方法に該当しない。

他方、製造数量又は使用回数の上限を定めることは、市場全体の供給量を制限する効果がある場合には権利の行使とは認められず、公正競争阻害性を有する場合には、不公正な取引方法に該当する(一般指定第12項)。」

と規定されていますが、この後半部分の製造数量の上限の規制に関する記述には、疑問があります。

というのは、この部分は「3 技術の利用範囲を制限する行為」の一部なのですが、そもそも利用範囲の制限が基本的に白条項とされているのは、特許権者は特許製品を他人にまったく作らせない権利もあるのだから、一部だけ作らせるのも、自由に作らせるのも、自由であるべきだからと考えられるからです。

大は小を兼ねると言うことです。

もちろん、特許製品以外の製品を買うことを義務付けるとか、競合他社からは購入しないことを義務付けると、大は小を兼ねるの範囲を超えているので、白だとは言えないのですが、最高数量制限はまさに「大は小を兼ねる」だと思います。

しかもこのガイドラインの、

「市場全体の供給量を制限する効果がある場合には権利の行使とは認められず」

という理屈も、意味がわかりません。

もし、市場シェアの高い商品(たとえば独占)であればその最高数量制限が必然的に市場全体の供給量を制限するのだという意味であるとすると、そのような場合に「権利の行使とは認められず」というのは、特許権の否定にほかなりません。

特許権は技術を独占させるもので市場を独占させるものではない、というのはよく言われることですが、もし特許権が市場を独占できるくらい強力なら、特許権の行使の結果市場を独占できるのは特許権の権利の行使そのものであり、それを否定することはできません。

とすると、最高数量制限が「市場全体の供給量を制限する効果がある場合」というのが、どういう場合を意味しているのか、まったくわからないことになります。

しかも、知財ガイドラインのあとにできた平成28年改正流通取引慣行ガイドラインでは、公正競争阻害性は価格維持効果と市場閉鎖効果の2つであることがはっきり述べられています。

そのうち、最高数量制限は、市場閉鎖効果でないことは明らかでしょう。

そうすると価格維持効果が問題になりますが、価格維持効果というのは、

「非価格制限行為により,当該行為の相手方とその競争者間の競争が妨げられ,当該行為の相手方がその意思で価格をある程度自由に左右し,当該商品の価格を維持し又は引き上げることができるような状態をもたらすおそれが生じる」効果

ですから、確かに各ライセンシーに割り当てられる最高数量が制限されればライセンシー間の競争は(自由に好きなだけ作れる場合に比べれば)制限される、とはいえそうです。

しかし、やはりそのような効果は、特許権の(一部)行使に必然的に伴う効果に過ぎないというべきでしょう。

なにより、特許権者が自分の特許権を利用した商品の数量を制限することが、いきなり「市場全体の供給量を制限する効果」を生じさせるという事態は、流通取引慣行ガイドラインの価格維持効果では説明できません。

知財ガイドラインでは、権利の部分的ライセンスは白という立場に基本的に立っているのに、どうして最高数量だけ白ではないのかと想像すると、きっと知財ガイドラインを作った人は経済学を少しかじっていて、数量制限を一部許諾と割り切ることに心理的な抵抗があったのではないかと想像されます。

というのは、経済学では価格と数量は一対一対応で決まるので、最高数量制限は最低価格制限と同じ効果を持つことになり、これを白とすることには、他の制限と比べて大きな心理的抵抗があったのであろう、ということです。

つまり、理屈ではなく気分の問題です。

でも、少し考えてみればわかりますが、一対一対応になるのは価格と数量だけではありません。

少なくとも理論的には、コストも、差別化の程度も、テリトリー制も、顧客分割も、すべて、これらが変化すれば一対一対応で価格も変化するはずです。

つまり、最高数量だけを特別に扱う理由はありません。

ところが、価格と数量が一対一対応であることは経済学で叩き込まれますから、そこに心理的葛藤が生まれ、どっちにでも取れる灰条項にした、というわけです。

所詮この程度のものですから、知財ガイドラインの最高数量制限に関する規定は無視して差し支えないと思います。(つまり白)

唯一の事例として日之出水道事件知財高裁平成18年7月20日判決がありますが、数量制限をした日之出水道が勝ってますし、白石先生の独禁法事例集p248でも、

「最高数量制限という行為は、制限された最高数量を超える部分はライセンス拒絶をするというのと同等なのであって「権利の行使とみられる行為」に該当する、というのは縷々論ずるまでもない通常の感覚であろうと思われる。」

と明解に述べられています。

2022年6月 2日 (木)

テレビ番組の素材の作成委託と下請法に関する下請法テキストの説明について

下請法テキスト22頁に、

「Q15: 放送番組に使用する番組のタイトルCG,BGM等の音響データの作成を委託することは情報成果物作成委託に該当するとのことだが,

これらについては,

外注先プロダクションの担当者が放送局に出向いて,

放送局のディレクターの指示のままに作業をする場合には,

情報成果物作成委託には該当しないと考えてよいか。

A: 放送局がプロダクションに委託する業務の内容が,

放送局においてディレクターの指示のままに作業をすることというものであれば役務の取引に当たるが,

放送局が作成する最終的な情報成果物の作成に必要な自ら用いる役務の提供の委託であることから,役務提供委託に該当しない。」

というQ&Aがあります。

しかし、このQ&Aは、質問のケースが情報成果物に当たらない(と公取委が考える)複数の理由をごちゃまぜにして回答しているので、なぜこれが情報成果物作成委託にあたらないのかの本当の理由がよくわからないものになっています。

公取委が意図する基準の可能性としては、

①発注者のところに出向いて仕事をするだけなので(成果物の引渡しがないので?)、情報成果物作成委託にあたらない、

②発注者の指示のままに作業をするだけ(?)なので、情報成果物作成委託にあたらない、

③①と②の両方を満たすので、情報成果物作成委託に当たらない、

という3つの可能性がありそうです。

では、どれが下請法の解釈として正しいのでしょうか。

こういうときは、何はなくとも条文です。

「情報成果物作成委託」は、下請法2条3項で、

「事業者が業として行う提供若しくは業として請け負う作成の目的たる情報成果物の作成の行為の全部又は一部を他の事業者に委託すること及び

事業者がその使用する情報成果物の作成を業として行う場合にその情報成果物の作成の行為の全部又は一部を他の事業者に委託すること」

と定義されています。

そして、「情報成果物」は、2条6項で、

「 一 プログラム(電子計算機に対する指令であつて、一の結果を得ることができるように組み合わされたものをいう。)

二 映画、放送番組その他影像又は音声その他の音響により構成されるもの

三 文字、図形若しくは記号若しくはこれらの結合又はこれらと色彩との結合により構成されるもの

四 前三号に掲げるもののほか、これらに類するもので政令で定めるもの」

と定義されています(なお4号の政令の定めるものは、いまのところありません)。

そうすると、設問の、

「放送番組に使用する番組のタイトルCG」

の作成を委託することは、もろに、

「事業者〔=放送局〕が業として行う提供・・・の目的たる情報成果物〔=放送番組〕の作成の行為の・・・一部を他の事業者に委託すること」

に該当しそうですし、

「放送番組に使用する・・・BGM等の音響データ」

も、

「事業者〔=放送局〕が業として行う提供・・・の目的たる情報成果物〔=放送番組〕の作成の行為の・・・一部を他の事業者に委託すること」

に該当しそうです。

実際、上記設問も、

「放送番組に使用する番組のタイトルCG,BGM等の音響データの作成を委託することは情報成果物作成委託に該当する」

ことは、当然の前提にしていると言えます。

では、それにもかかわらず、設問の場合が情報成果物作成委託にあたらない条文上の根拠を考えると、・・・よくわかりません。

可能性としては、放送局において作業させていると、

「事業者〔=放送局〕が業として行う提供・・・の目的たる情報成果物〔=放送番組〕の作成の行為の・・・一部を他の事業者に委託すること」

にいうところの、「作成の行為」に該当しないのだ、という解釈があるかもしれませんが、「作成の行為」という文言からは作成場所が限定されていると読むのは無理でしょう。

ちなみに、下請法テキストp10では、

「「情報成果物の作成の行為の全部又は一部を他の事業者に委託すること」とは,

情報成果物の作成のうち,

①情報成果物それ自体の作成,

②当該情報成果物を構成することとなる情報成果物の作成

を,他の事業者に委託することをいう。」

と解説されています。

なので、やっぱり作成の場所が考慮される余地はないと言わざるを得ません。

そこであり得る解釈としては、情報成果物作成委託というのは、情報成果物が下請事業者から親事業者に引き渡される必要があるのだ、と解釈する、ということです。

感覚的にはわからないではないですが、そのような解釈は無理でしょう。

まず、成果物の引渡しが必要だという条文上の根拠がありませんし、下請法テキストでもあくまで「作成」を委託するといっているだけで、やはり、成果物の引渡しという概念が入り込む余地はありません。

さらに、製造委託については、下請法テキストp21で、

「Q11: 工場内における運送作業を外部に委託する取引は,「製造委託」と「役務提供委託」のどちらに該当するか。

A: 運送は役務の提供に該当する行為であるが,同一工場内における製造工程の一環としての運送(ライン間の仕掛品の移動等)を他の事業者に委託することは,製造委託に該当する。」

と解説されていることがネックになります。

つまり、製造委託の場合には、発注者の工場において下請事業者に作業させることが、製造委託に該当すると明示されているのです。

下請法テキストの本文(p5)でも、

「「製造」とは,原材料たる物品に一定の工作を加えて新たな物品を作り出すことをいう。

製造には,製品組立,部品製造,金型製造,製造工程中の検査・運搬等がある。」

と、製造工程での運搬が「製造」に含まれると明記されています。

情報成果物作成委託における「作成」を、これと別異に解する理由はないでしょう。

というわけで、情報成果物作成委託に該当するためには情報成果物という成果物の引渡しが必要だという解釈には、根拠がありません。

よって、上記設問の「放送局において」という部分は、情報成果物作成委託該当性を否定する根拠にはなりえないと考えられます。

そうすると、

「②発注者の指示のままに作業をするだけ(?)なので、情報成果物作成委託にあたらない」

という、もう1つの解釈の可能性が出てきます。

しかし、発注者の指示のままの作業であれば情報成果物作成委託にあたらないというのは、やはり条文上の根拠がないと言わざるを得ません。

ありうる解釈としては、

「事業者〔=放送局〕が業として行う提供・・・の目的たる情報成果物〔=放送番組〕の作成の行為の・・・一部を他の事業者に委託すること」

にいうところの、「情報成果物〔=放送番組〕の作成の行為」は、たんに機械的な、他人の手足となって行うようなものは含まれない、という解釈でしょう。

もう少し細かくいうと、親事業者による「情報成果物の作成の行為」は、親事業者の創造性が発揮された行為でなければなく、そのような「作成の行為・・・の一部」といえるためにも、やはり当該「一部」は、当該「一部」を実際に行う者(下請事業者)の創造性が発揮された行為でなければならない、ということです。

あるいは、「情報成果物」の定義の方に読み込む、つまり、情報成果物の定義には何ら創造性のような要件はないけれども、解釈で、創造性の発揮されたものだけが「情報成果物」に該当するのだ、と解釈してしまうことによって、同じ結論を導くことが可能であるように思われます。

実際、長澤先生の優越本の第4版の49頁には、情報成果物の作成には「知的な作業が必要」と解説されています。

ですが、そこで引用されている文献をみても、知的作業が必要だという根拠ははっきりしません。

たとえば、

上原伸一「テレビ関係における情報成果物作成委託を中心とした下請法対応」公正取引689号14頁, 17頁

では、

「〔公取委との〕話し合いの結果、単に手足として機械を操作してテロップを作る場合は情報成果物とはせず、作成する側で特段に工夫や創作的な仕事をした場合は下請法対象として扱うこととなった。」

という、協議の結果の説明があるだけで、理由の説明がありません。

鎌田編著『下請法の実務〔第4版〕』48頁では、

「なお、受託者において文字や図形が記載されているもの(第3号の情報成果物)の作成が求められているからといって、直ちに情報成果物作成委託に当たるわけではない。

例えば、「清掃」という役務の提供を依頼した事業者は、受託者に対して「清掃終了報告書」の作成・提出を求めることがあるが、委託しているのはあくまでも「清掃」という役務の提供であるので、情報成果物作成委託ではなく役務提供委託として取り扱われることになる。」

と説明されていますが、これは、

①委託しているのは役務である

②役務の委託は情報成果物作成委託ではありえない

という、ほとんど結論に直結するような2つのことを前提にしてしまった理屈であり(なぜ①②(とくに②)を前提にできるのか、よくわかりません)、清掃報告書に知的作業が不要だから情報成果物にあたらないとは言っていないように見えます。

個人的には、清掃報告書の場合には、報告書の作成に知的作業が不要だから情報成果物にあたらないのではなく、当事者が本来意図している清掃役務に必然的かつ付随的に伴うものだから、委託しているのはあくまで役務であって、情報成果物の作成を「委託」しているのではない、と考えるのが据わりが良いと考えています。

本来の業務の一部を無理矢理切り出して製造委託だ情報成果物だと言い出すときりがないし、非常識な結論になりがちだと思います。

ちなみに、鎌田編著の続きの部分では、

「他方、例えば、親事業者の認識としては「撮影」という役務の提供を依頼したつもりでも、

親事業者の管理の下で撮影作業をさせるのではなく

下請事業者が主体的に撮影したテープ等のデータを納めさせる場合には、

取引の実態としては映像(第2号の情報成果物)の作成を委託しているのであり、情報成果物作成委託に該当する。」

と述べられており、ここでも、

①親事業者の管理下にないから(≒下請事業者の主体性があるから)、情報成果物作成委託にあたるのか、それとも、

②データを納めさせるから、情報成果物にあたるのか、

③①②の両方を満たして初めて情報成果物になるのか、

よくわかりません。

というわけで、どこまでいってもこの論点はすっきりしません。

ともあれ、下請法テキストやその他の文献を見ると、公取委実務は、

・情報成果物には知的作業が必要

・成果物(データ等)が引き渡されないと情報成果物作成委託には当たらない

というあたりで動いているのではないかと思われます。

ですが、情報成果物の定義は前述のとおりであって、知的作業が必要だというのをその定義に読み込むにはかなり無理があります。

そうすると、知的作業が必要だと限定解釈する論者の見解は、情報成果物の定義ではなく、「情報成果物」という何となく高級感のある名前からの連想で知的作業が必要だと考えているのではないか、と疑われます。

しかし、キラキラネームの子供が中身までキラキラしているとは限らないのと同様、高級な名前がついているからといって内容まで高級なもの(知的作業が必要なもの)に限定することはできないと思います。

「私的独占」を、そのネーミングから、私的な独占のことだ、と解釈する(ないしは、無意識にそういうバイアスを持ってしまう)のと、少し似ています。

まあ、下請法の解釈が、論理(=条文解釈)ではなく、直観に頼っていることがよくわかる事例として、興味深いと言えば興味深いものがあります。

« 2022年5月 | トップページ | 2022年7月 »

フォト
無料ブログはココログ