網走管内コンクリート製品協同組合事件について(協同組合の行為と独禁法)
掲題の事件は、掲題の協同組合(網走協組)が、個々の需要者に対して特定の組合員等を1社ずつ割り当てたことが独禁法8条1号(一定の取引分野における競争を実質的に制限すること)に該当するとして排除措置命令と課徴金納付命令がなされたものです(2015年1月14日)。
この事件では、違反者が協同組合でしたが、独禁法22条による独禁法適用免除は認められませんでした。
注目されるのはその理由で、排除措置命令書では、
「前記事実によれば,網⾛協組は,中⼩企業等協同組合法に基づいて設⽴された事業協同組合であるものの,
前記第1の2の決定は,網⾛協組の実施する販売について定めたものではなく,
組合員等の需要者に対する特定コンクリート⼆次製品の販売について取引の相⼿⽅及び対価を制限することを定めたものであって,
網⾛協組の当該⾏為は,独占禁⽌法第22条に規定する組合の⾏為に該当しない。
したがって,網⾛協組の前記⾏為は独占禁⽌法の適⽤を受けるものである。」
とされています。
これを見ると、同命令は、網走協組の行為が独禁法22条の「組合の行為」に該当しないので22条を適用しない(8条1号を適用する)と述べていることがわかります。
つまり、22条柱書では、
「この法律の規定は、次の各号に掲げる要件を備え、かつ、法律の規定に基づいて設立された組合(組合の連合会を含む。)の行為には、これを適用しない。ただし、不公正な取引方法を用いる場合又は一定の取引分野における競争を実質的に制限することにより不当に対価を引き上げることとなる場合は、この限りでない。」
とされているところ、ここでの、「組合・・・の行為」に該当しない、ということですね。
この「組合の行為」というのが何を意味するのかは争いがありまして、公取委は、各組合設立準拠法(ここでは中⼩企業等協同組合法9条の2)に定める行為だけが「組合の行為」にあたるのだ、という解釈で、多数説もそうなのだそうです。
(私は、文言通り素直に「組合の行為」に当たるものは全部あたるといっても、ほかの要件で絞れるので問題ないと思うのですが、今回の本題ではないのでひとまず措きます。)
つまり、中小企業等協同組合法9条の2では、
「事業協同組合及び事業協同小組合は、次の事業の全部又は一部を行うことができる。
一 生産、加工、販売、購買、保管、運送、検査その他組合員の事業に関する共同事業
二 組合員に対する事業資金の貸付け(手形の割引を含む。)及び組合員のためにするその借入れ
三 組合員の福利厚生に関する事業
四 組合員の事業に関する経営及び技術の改善向上又は組合事業に関する知識の普及を図るための教育及び情報の提供に関する事業
五 組合員の新たな事業の分野への進出の円滑化を図るための新商品若しくは新技術の研究開発又は需要の開拓に関する事業
六 組合員の経済的地位の改善のためにする団体協約の締結
七 前各号の事業に附帯する事業」
と規定されていますが、この1号から7号のいずれかに当たらないと独禁法22条の「組合の行為」には該当しない、というのが公取委・多数説であるわけです。
ですが、本件排除措置命令は、これら1号から7号のいずれかに当たるかどうかを問題視しているのではありません。
そうではなくて、(1号から7号のいずれにあたるのかはさておき、あるいは、1号には当たることを前提にしても)「網⾛協組の実施する販売について定めたものではな」いことを、直接唯一の理由として、独禁法22条の適用を否定(8条1号の適用を肯定)しているのです。
逆に言えば、本件での決定が、「網走協組の実施する販売について定めたもの」であれば、独禁法22条が適用された(8条1号の適用が否定された)、ということになります。
たとえば、網走協組が主体となって、組合の共同販売事業として、組合員が製造する製品を販売する場合には、「組合の行為」なので、組合が受注した注文をどの組合員に割り振って製造させるかは、当然、組合が決めて良い、ということになります。
実際、担当官解説(公正取引776号65頁)では、
「独市禁止法第22条柱書に規定する「組合の行為」とは、各種組合の根拠法令に基づく組合本来の事業をいい、その範囲を逸脱した行為は独占禁止法の適用除外とはならないと解せられるところ、
本件においては、前記第1の5のとおり、法令の適用において、網走協組の行為は、「組合の行為」には該当せず、独占禁止法の適用を受けると判断されている。
これは、網走協組は、組合の共同受注事業としながらも、実際には、
組合内に受注窓口を置かず、また、
網走協組の名義で受注することもなく、
組合員等が自社名義で契約を行っており、
網走協組が組合員等と需要者との間の取引に関与することはなかったことによるものである。
このように、網走協組は、共同受注事業と称しているものの、実態は共同受注事業を行っておらず、
需要者ごとに契約予定者として組合員等のうち1社を割り当て、その販売価格に係る設計価格からの値引き率を決めていたにすぎず、
当該決定に基づく行為は、「組合の行為」とは認められないと判断されたものと考えられる。」
と説明されています。
つまり、本件で、
①組合内に受注窓口を置いて、
②網走協組の名義で受注
していれば、経済的には本件と似たり寄ったりの取引であっても、独禁法22条が適用された(8条1号は適用されなかった)ものと考えられます。
さらにいえば、網走協組自身が売買契約の当事者である必要も必ずしもないと思われます。
というのは、上記の担当官解説からは、要するに、「共同受注事業」の実態があるかどうかが決定的なのであり、組合に受注窓口を置いて、「共同受注事業」の実態を備えていればよい、と読めるからです。
なお、上記担当官解説では、「組合員等が自社名義で契約を行っており」という事情も挙げていますが、これは、共同受注事業の実態を備えていないことを示す一事情としてあげられているだけであり、組合委員が自社名義で契約していれば当然に共同受注事業の実態がなくなるというものではないでしょう。
なので、あくまで組合は注文を取るだけで、売買契約の当事者は組合員であってもかまわないことになります。
ちなみに、「そんなのはカルテルじゃないか?」「組合が組合員にカルテルをさせていいのか?」という疑問を持たれる方がいらっしゃるかもしれませんが、そもそも22条というのは、中小企業が協力して大企業に対抗できるようにそういうカルテルを容認するというのが本質であり、実質的にカルテル同様の効果が生じることは何の問題もありません。
この点、22条柱書ただし書によると、
「一定の取引分野における競争を実質的に制限することにより不当に対価を引き上げることとなる場合」
には22条は適用されませんが、これまでこれを理由に22条の適用が否定されたことはありませんし(担当官解説67頁注6)、今後もないでしょう。
というのは、前記のように、22条は中小企業にカルテルを許して大企業に対抗させることに本旨があるので、そもそも「一定の取引分野における競争を実質的に制限する」といえるのが難しい上に、「不当に対価を引き上げる」というのは、さらにハードルが高いと考えられるからです。
(まあ、中小企業がある事業分野では大企業に対抗しつつ、別の事業分野では消費者に販売していたり、同じ商品を大企業にも消費者にも販売しているといったケースでは、消費者に対しては「不当に対価を引き上げる」ということもあるかもしれませんが、実際には、あまりそのような手の込んだことは起こらないように思います。)
ともあれ、この事件からいえるのは、きちんと共同事業の実態を整えていれば、同じようなことをやっても適法だった可能性がある、ということです。
そして、このような結論を形式論だといいきれないところもあります。
というのは、正々堂々と組合の共同販売事業だといって行えば、需要者にもそういうものだということが分かりますが、実態としては個々の組合員との取引にしか見えないのに実は裏で顧客割り当てがなされていたとすると、それはそれで問題ではないか、という、いわば透明性・公正性の観点からの批判もありうるからです。
本件では、需要者は個々の組合員との取引だと思っていた可能性があります。
・・・と、ここまで考えて疑問に思うのは、本件で問題になった組合の決定、つまり、
「平成24年6⽉5⽇に開催した臨時総会において,
オホーツク地区におけるコンクリート⼆次製品の市況回復を図るため,
共同受注事業と称して,
あらかじめ,需要者ごとに契約予定者として組合員のうち1社を割り当て,
その販売価格に係る設計価格からの値引き率を10パーセント以内とすることを決定し,
その実施に当たっては,対象とする品目及び需要者ごとに契約予定者として割り当てる組合員を事前に運営委員会において決定することとした。」
という決定を、どうやって実行していたのでしょうね。
裏でコソコソ割り当てているだけでは実効性はありませんから、ある需要者がある組合員のところに引き合いに来たら、もしその組合員がその需要者の担当でなかったら、黙って断ったんですかね?
でもそれではあまりに不自然だから、担当でない需要者から引き合いがあったときには、とうてい受注できないような高額の見積もりを出したのですかね?
あるいは同じことですが、ある需要者が複数の組合員に相見積もりをとったときには、見積依頼を受けた組合員間で情報交換して、担当の組合員が受注できるように、他の組合員は担当組合員よりも高い見積を出したのですかね?
つまり、こういう細工でもしない限り、本件での組合の決定は実行できないと思うのです。
もし、網走協組が需要者に、大々的に、「これからは、あなたの担当はこの組合員です。ほかは受注しません」と堂々と伝えていたとしていたら、前記担当官解説の、
「組合員等と需要者との間の取引に関与すること」
には当たるようにも見え、22条が適用されたのではないか、あるいは、そこまで組合が表に出て堂々とやるなら、「共同受注事業」の実態があるといえるまであと一歩だったのではないか、という気がします。
というわけで、価格が安定すること自体は22条が当然想定していることからすると、本件は、共同受注事業の実態(むしろ形式というべきか)を備えなかったために違反となったに過ぎないものといえ、ある意味、ちょっと残念な事件だったといえると思います。
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