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2022年5月27日 (金)

オンラインモールの商品供給主体性についての緑本第6版の解説について

西川編『景品表示法〔第6版〕』(2021年)48頁では、オンライン・ショッピングモールの運営事業者の供給主体性(自己の商品役務を供給しているか)について、

「オンライン・ショッピングモールの出店者(以下「出店者」という)が販売する商品に関し、出店者が供給主体性を有することについては議論の余地はないが、

当該オンライン・ショッピングモールの運営事業者(以下「運営事業者」という)も供給主体性を有しているといえるかについては、

当該商品の販売について運営事業者がどのように関与しているかといった、当該商品の提供・流通の実態を見て実質的に判断することになる。

したがって、当該オンライン・ショッピングモールの事業形態や

システム

(例えば、出店者と購入希望者とのマッチング、受注、決済等に関するシステム)

の態様、

当該商品に関する販売キャンペーン企画・実施状況

(例えば、運営事業者が出店者と共同して当該販売キャンペーンを企画し実施しているか)

等に鑑みて

実質的に判断した結果、

運営事業者が出店者と共同して供給主体性を有するとみられる場合があると考えられる。」

と解説されています。

この解説は第5版までにはなく、第6版で新たに加わったものです。

(なお、これは、不当表示規制に関する解説ですが、景品規制における表示主体性も条文上同じ文言(自己の供給する商品又は役務)を用いているため、同様に考えてよいと思われます。)

しかしながら、この解説を見ても、緑本がいったいどのような場合にオンラインモールの運営事業者に供給主体性が認められると考えているのか、さっぱりわかりません。

まず前提として、2017年12月27日のアマゾンジャパンに対する措置命令書2⑵では、

「アマゾンジャパンは、本件5商品を、本件ウェブサイトを通じて一般消費者に販売している。」

とされており、アマゾンジャパン自体が販売者であるもののみが命令の対象になっていることがわかります。

そこで上記緑本の解説も、アマゾンマーケットプレイスで販売されるものまでアマゾン(モール運営者)を供給主体とするものではないと理解できます。

上記の緑本のエッセンスを取り出すと、オンラインモールの運営者が供給主体となるかは、

商品の販売について関与態様を含む、商品の提供・流通の実態から実質的に判断する

といっているようです。

これだけでは、供給主体性は「実質的に判断する」といっているだけで、結局何が言いたいのかわかりません。

次に、

「オンライン・ショッピングモールの事業形態」

を考慮する、とされています。

しかし、「事業形態」を考慮すると言っても、やはり、具体的に何が言いたいのかわからない、といわざるを得ません。

少なくとも、店子に単に場所(サイト上のスペース)をかすだけの典型的なオンラインモールの「事業形態」であれば、運営者に供給主体性が認められないことは明らかでしょう。

そこで、緑本では、

「出店者と購入希望者とのマッチング、受注、決済等に関するシステム」

の態様が考慮される、とするのですが、まず、

「マッチング・・・に関するシステム」

については、商品名などを入力する通常の検索エンジンで検索結果が表示されるだけのものは、「マッチング・・・に関するシステム」といえますが、このようなものでは、運営事業者に供給主体性は認められないでしょう。

こんなものが供給主体となったら、すべてのオンラインモールの運営事業者が供給主体になってしまいます。

少なくとも、もっと手の込んだマッチングのシステムである必要があるでしょう。

たとえば、エクスペディアなどの旅行サイトでフライトを予約しようとして、出発地と目的地と出発日を入力すると、各航空会社のフライトが出てきて、直行便から乗り継ぎ便までいろいろ選択肢を提示してくれて、ただの検索に比べると手が込んでいて利便性も高いですが、この程度の「マッチング」でエクスペディアがフライトの供給主体になるかといえば、無理でしょう。

さらに、フライトに見合ったホテルやレンタカーまで提案してくれますが、これでも、エクスペディアが宿泊サービスやレンタカーの供給主体になるのかといえば、やはり無理だと思います。

では、エクスペディアで提案されるフライトとホテルとレンタカーのセット商品だと考えて、そのようなセット商品を提案(マッチング)するエクスペディアがセット商品の供給主体といえるかというと、やはり無理な気がします。

リアルの旅行代理店との対比で考えると、旅行代理店にフライトやホテルの予約も全部任せると、旅行代理店がフライトやホテルの供給主体になるのかといえば、やっぱりならないように思うので、オンラインモールの運営者はならなおさら供給主体にはならなさそうです。

(ちなみに、旅行代理店の場合には、旅行業法12条の8で虚偽誇大広告の責任を負うので、景表法の表示主体性のを議論する実益があまりなさそうです。)

と、いろいろ考えてみても、やはりどんな「マッチング・・・に関するシステム」なら問題なのか、思いつきません。

次に、「受注・・・に関するシステム」については、たとえば注文がモールのシステムを通過するというだけでは、モールの運営主体は供給主体にはならないでしょう。

それを言い出すと全てのモールで運営者が供給主体となってしまうし、かといって各店子が受注システムを自前で準備しないと運営者が供給主体になってしまうとしたのでは、オンラインモールがあまりに非効率的なものとなってしまいます。

というわけで、どのような「受注・・・に関するシステム」であればモール運営者が供給主体になるのか、やはりわかりません。

次に、「決済・・・に関するシステム」についても、たんに店子がモールの決済システムを利用しているだけでは、モール運営者に供給主体性は認められないでしょう。

では、モールの決済システムがどのようなものであればモール運営者の供給主体性が認められるのかと言えば・・・やはり想像もできません。

次に、

当該商品に関する販売キャンペーン企画・実施状況」

が考慮されるとされ、具体的には、

「(例えば、運営事業者が出店者と共同して当該販売キャンペーンを企画し実施しているか)」

を考慮するとされていますが、まず、ここでいう「販売キャンペーン」というのは、文章を素直に読む限り、当該販売キャンペーンの内容について不当表示があった場合に限られないという趣旨でしょう。

たとえば、当該販売キャンペーン期間中に販売したキャンペーン対象商品に、キャンペーンの内容・表示とは関係のない(よってモール運営者がその作成に関与しない)原産国表示について違反があった場合でも、供給主体性は認められ得る、ということでしょう。

その前提であっても、さすがに、キャンペーン期間外に当該商品に不当表示があった場合には、モール運営者の供給主体性は否定されるのでしょう。

というのは、販売キャンペーンの企画・実施状況を供給主体性の根拠とするためには、当該販売キャンペーンにおいて店子とモール運営者が共同で当該商品を販売していたと認定するほかないはずで、キャンペーン期間外の販売はどう考えても共同販売にはなりそうにないからです。

でも、モール運営者が店子と共同で供給しているといえるほどモール運営者が深く関与するようなキャンペーンというのは、あまり考えられないのではないかと思います。

たとえば、モール運営者がその原資でポイント2倍キャンペーンをした、というくらいでは、到底、モール運営者が、店子と共同で商品を供給した、とはいえないでしょう。

そのようなキャンペーンはモール運営者が基本的には一方的に決めてやるものでしょうから、

「運営事業者が出店者と共同して当該販売キャンペーンを企画し実施している」

とはいえないでしょうし、そのようなものが全部共同供給になるなら、モール運営者は怖くてキャンペーンなんてできなくなります。

モール運営者が参加者を募って、参加する店子だけが対象になるキャンペーンも、やはり運営者が一方的に企画しているものですから、モール運営者が共同供給主体にはならないでしょう。

とすると、モール運営者が特定の店子に企画を提案するなり、店子が運営者に提案するなりすることをきっかけに、本当の意味で共同して行ったキャンペーン、という場合くらいしかないのではないでしょうか。

もしそういう一本釣り的なキャンペーンであれば、確かに共同供給主体ということもあり得るのかも知れませんが(また逆に、そのような結果を避けるための方策も色々ありそうですが)、そういうことはオンラインモール以外ではいくらでもあることであり、あえてオンラインモール運営者だから気をつけなければいけないと言うことでもないように思います。

逆に言えば、通常のオンラインモールの運営をしている限りは、やはり、モール運営者が共同供給主体となることは、まず考えられないだろうと思います。

これが、前記緑本解説についての私の理解です。

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