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2022年5月18日 (水)

下請中小企業振興法の振興基準の法的効力

下請中小企業振興法3条に基づき経済産業大臣が定める「振興基準」には、どのような法的効力があるのでしょうか。

最も問題になるのは、振興基準第2の8)の、

「8) 取引停止の予告

親事業者は,継続的な取引関係を有する下請事業者との取引を停止し,又は大幅に取引を減少しようとする場合には,下請事業者の経営に著しい影響を与えないよう最大限の配慮を行い,相当の猶予期間をもって予告するものとする。」

でしょう。

では、振興基準の適用対象になる親事業者(資本金の額が自己より小さい法人たる中小企業者(≒資本金3億円以下の会社)又は常時使用する従業員の数が自己より小さい個人たる中小企業者に対し製造委託等をする発注者)がこの規定を守らず「相当の猶予期間をもって予告」をしないと、解除は無効になるのでしょうか。

そのようなことは、まったくありません。

これを根拠に契約解除は無効だという主張が訴訟でなされるのも時々見かけますが、認められたことはありません。

そもそも下請中小企業振興法は公法の中でも、取締法規ではなく、振興法であり、私法上の効力があるわけがありません。

この点については、中小企業庁のホームページのQ&Aの9番で、

「Q9.振興基準の内容について、違反した場合に行政処分や罰則はありますか。

下請中小企業振興法に基づく振興基準は、下請中小企業の振興を図るため下請事業者及び親事業者のよるべき一般的な基準を定めたものであり、

振興基準に定める事項について、主務大臣は、下請事業者又は親事業者に対し指導・助言を行うことがあります。

ただし、指導・助言は行政指導であって、振興基準に違反した場合の行政処分や罰則はありません。」

と明記されています。

中小企業庁の作成した「下請中小企業振興法について」という資料の6枚目でも、

「(1).振興基準の性格

①振興基準は、下請中小企業振興を目的として、経済産業大臣が定めることとしている(第3条第1項)。

②下請事業者の自助努力、親事業者による協力、相互協議に基づく適切な取引関係の構築等を規定しているが、これらは、親事業者と下請事業者との間のよるべき一般的な基準であり、望ましい取引関係を奨励しているもの。

③このため、主務大臣が事業者に対して指導・助言を行う際の根拠となっている(遵守しない事業者に対して行政処分を行うような性格は有していない。)。」

と、行政処分の対象にすらならないことが明記されています。

上記③で、「指導・助言を行う際の根拠となっている」とされていますが、これは、下請振興法4条に、

「(指導及び助言)

第四条 主務大臣は、下請中小企業の振興を図るため必要があると認めるときは、下請事業者又は親事業者に対し、振興基準に定める事項について指導及び助言を行なうものとする。」

と規定されているもののことを言っています。

これは行政指導ですから、指導を受けたり、指導に従わなかったからといって、公表されることはありません。

以上が振興基準の私法上の効力ですが、下請振興法上の効力としては、振興事業計画(5条)の承認の要件の1つが「振興基準に照らして適切なもの」であることであったり(6条1項1号)、特定下請連携事業計画(8条)の認定の基準の1つが「振興基準に照らして適切なものであること」(9条1号)であったりしますが、それだけのことです。

普通の企業はこれらの制度に関心はないでしょうから、多くの企業にとっては、振興基準は無意味、ということになります。

ところが、全国中小企業振興機関協会の「下請中小企業振興法に関するQ&A」では、

「Q3 継続的な取引関係を有している下請事業者との取引を停止する場合は、取引停止のどのくらい以前に予告通知をしなければならいか。

という、あたかも予告通知をしなければならないことを前提とするかのような設問に対して、

「A

継続的な取引が行なわれているとき、止むを得ない事情で取引を停止せざるを得ないときは、親事業者は相当の猶予期間をもって下請事業者に通知することを下請中小企業振興法の振興基準で指導している

相当の猶予期間については、下請事業者の親事業者への依存度や製品の他への転用の可否、製品製造のための設備投資の状況など相手方の経営上の問題等を勘定し、ケースバイケースで判断することとなるものであり、下請事業者の経営に著しい影響を与えないように配慮することが必要である

なお、判例では、親事業者の取引停止による損害として6ヵ月間の損害賠償を認めたものもあるが、このことが直ちに一般論として「相当猶予期間」が6ヵ月と即断できるわけではないことに留意が必要である。」

と回答されています。

「配慮することが必要」であるとか、「6ヵ月間の損害賠償を認めたものもある」とか、あたかも振興基準に違反すると民事的効力があるかのような雰囲気をプンプンにおわせていますが、前述のとおり、そのようなことはありません。

まあ、同協会は下請企業を保護するのが存在理由なのでしょうし、上記Q&Aでも嘘を言っているわけではないですし、注意深く読めば別に誤解するわけではないのでかまわないのでしょうけれど、「配慮することが必要」というのは、ちょっと誤解を招くと思います。

というわけで、親事業者のみなさんは、下請企業の代理人弁護士が「解除は振興基準違反だ!」といってきたら、無視してかまいません。

もちろん、民法上の継続的契約の法理の適用はありうるわけですが、それは、下請中小企業振興法とは無関係です。

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