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2022年5月

2022年5月27日 (金)

オンラインモールの商品供給主体性についての緑本第6版の解説について

西川編『景品表示法〔第6版〕』(2021年)48頁では、オンライン・ショッピングモールの運営事業者の供給主体性(自己の商品役務を供給しているか)について、

「オンライン・ショッピングモールの出店者(以下「出店者」という)が販売する商品に関し、出店者が供給主体性を有することについては議論の余地はないが、

当該オンライン・ショッピングモールの運営事業者(以下「運営事業者」という)も供給主体性を有しているといえるかについては、

当該商品の販売について運営事業者がどのように関与しているかといった、当該商品の提供・流通の実態を見て実質的に判断することになる。

したがって、当該オンライン・ショッピングモールの事業形態や

システム

(例えば、出店者と購入希望者とのマッチング、受注、決済等に関するシステム)

の態様、

当該商品に関する販売キャンペーン企画・実施状況

(例えば、運営事業者が出店者と共同して当該販売キャンペーンを企画し実施しているか)

等に鑑みて

実質的に判断した結果、

運営事業者が出店者と共同して供給主体性を有するとみられる場合があると考えられる。」

と解説されています。

この解説は第5版までにはなく、第6版で新たに加わったものです。

(なお、これは、不当表示規制に関する解説ですが、景品規制における表示主体性も条文上同じ文言(自己の供給する商品又は役務)を用いているため、同様に考えてよいと思われます。)

しかしながら、この解説を見ても、緑本がいったいどのような場合にオンラインモールの運営事業者に供給主体性が認められると考えているのか、さっぱりわかりません。

まず前提として、2017年12月27日のアマゾンジャパンに対する措置命令書2⑵では、

「アマゾンジャパンは、本件5商品を、本件ウェブサイトを通じて一般消費者に販売している。」

とされており、アマゾンジャパン自体が販売者であるもののみが命令の対象になっていることがわかります。

そこで上記緑本の解説も、アマゾンマーケットプレイスで販売されるものまでアマゾン(モール運営者)を供給主体とするものではないと理解できます。

上記の緑本のエッセンスを取り出すと、オンラインモールの運営者が供給主体となるかは、

商品の販売について関与態様を含む、商品の提供・流通の実態から実質的に判断する

といっているようです。

これだけでは、供給主体性は「実質的に判断する」といっているだけで、結局何が言いたいのかわかりません。

次に、

「オンライン・ショッピングモールの事業形態」

を考慮する、とされています。

しかし、「事業形態」を考慮すると言っても、やはり、具体的に何が言いたいのかわからない、といわざるを得ません。

少なくとも、店子に単に場所(サイト上のスペース)をかすだけの典型的なオンラインモールの「事業形態」であれば、運営者に供給主体性が認められないことは明らかでしょう。

そこで、緑本では、

「出店者と購入希望者とのマッチング、受注、決済等に関するシステム」

の態様が考慮される、とするのですが、まず、

「マッチング・・・に関するシステム」

については、商品名などを入力する通常の検索エンジンで検索結果が表示されるだけのものは、「マッチング・・・に関するシステム」といえますが、このようなものでは、運営事業者に供給主体性は認められないでしょう。

こんなものが供給主体となったら、すべてのオンラインモールの運営事業者が供給主体になってしまいます。

少なくとも、もっと手の込んだマッチングのシステムである必要があるでしょう。

たとえば、エクスペディアなどの旅行サイトでフライトを予約しようとして、出発地と目的地と出発日を入力すると、各航空会社のフライトが出てきて、直行便から乗り継ぎ便までいろいろ選択肢を提示してくれて、ただの検索に比べると手が込んでいて利便性も高いですが、この程度の「マッチング」でエクスペディアがフライトの供給主体になるかといえば、無理でしょう。

さらに、フライトに見合ったホテルやレンタカーまで提案してくれますが、これでも、エクスペディアが宿泊サービスやレンタカーの供給主体になるのかといえば、やはり無理だと思います。

では、エクスペディアで提案されるフライトとホテルとレンタカーのセット商品だと考えて、そのようなセット商品を提案(マッチング)するエクスペディアがセット商品の供給主体といえるかというと、やはり無理な気がします。

リアルの旅行代理店との対比で考えると、旅行代理店にフライトやホテルの予約も全部任せると、旅行代理店がフライトやホテルの供給主体になるのかといえば、やっぱりならないように思うので、オンラインモールの運営者はならなおさら供給主体にはならなさそうです。

(ちなみに、旅行代理店の場合には、旅行業法12条の8で虚偽誇大広告の責任を負うので、景表法の表示主体性のを議論する実益があまりなさそうです。)

と、いろいろ考えてみても、やはりどんな「マッチング・・・に関するシステム」なら問題なのか、思いつきません。

次に、「受注・・・に関するシステム」については、たとえば注文がモールのシステムを通過するというだけでは、モールの運営主体は供給主体にはならないでしょう。

それを言い出すと全てのモールで運営者が供給主体となってしまうし、かといって各店子が受注システムを自前で準備しないと運営者が供給主体になってしまうとしたのでは、オンラインモールがあまりに非効率的なものとなってしまいます。

というわけで、どのような「受注・・・に関するシステム」であればモール運営者が供給主体になるのか、やはりわかりません。

次に、「決済・・・に関するシステム」についても、たんに店子がモールの決済システムを利用しているだけでは、モール運営者に供給主体性は認められないでしょう。

では、モールの決済システムがどのようなものであればモール運営者の供給主体性が認められるのかと言えば・・・やはり想像もできません。

次に、

当該商品に関する販売キャンペーン企画・実施状況」

が考慮されるとされ、具体的には、

「(例えば、運営事業者が出店者と共同して当該販売キャンペーンを企画し実施しているか)」

を考慮するとされていますが、まず、ここでいう「販売キャンペーン」というのは、文章を素直に読む限り、当該販売キャンペーンの内容について不当表示があった場合に限られないという趣旨でしょう。

たとえば、当該販売キャンペーン期間中に販売したキャンペーン対象商品に、キャンペーンの内容・表示とは関係のない(よってモール運営者がその作成に関与しない)原産国表示について違反があった場合でも、供給主体性は認められ得る、ということでしょう。

その前提であっても、さすがに、キャンペーン期間外に当該商品に不当表示があった場合には、モール運営者の供給主体性は否定されるのでしょう。

というのは、販売キャンペーンの企画・実施状況を供給主体性の根拠とするためには、当該販売キャンペーンにおいて店子とモール運営者が共同で当該商品を販売していたと認定するほかないはずで、キャンペーン期間外の販売はどう考えても共同販売にはなりそうにないからです。

でも、モール運営者が店子と共同で供給しているといえるほどモール運営者が深く関与するようなキャンペーンというのは、あまり考えられないのではないかと思います。

たとえば、モール運営者がその原資でポイント2倍キャンペーンをした、というくらいでは、到底、モール運営者が、店子と共同で商品を供給した、とはいえないでしょう。

そのようなキャンペーンはモール運営者が基本的には一方的に決めてやるものでしょうから、

「運営事業者が出店者と共同して当該販売キャンペーンを企画し実施している」

とはいえないでしょうし、そのようなものが全部共同供給になるなら、モール運営者は怖くてキャンペーンなんてできなくなります。

モール運営者が参加者を募って、参加する店子だけが対象になるキャンペーンも、やはり運営者が一方的に企画しているものですから、モール運営者が共同供給主体にはならないでしょう。

とすると、モール運営者が特定の店子に企画を提案するなり、店子が運営者に提案するなりすることをきっかけに、本当の意味で共同して行ったキャンペーン、という場合くらいしかないのではないでしょうか。

もしそういう一本釣り的なキャンペーンであれば、確かに共同供給主体ということもあり得るのかも知れませんが(また逆に、そのような結果を避けるための方策も色々ありそうですが)、そういうことはオンラインモール以外ではいくらでもあることであり、あえてオンラインモール運営者だから気をつけなければいけないと言うことでもないように思います。

逆に言えば、通常のオンラインモールの運営をしている限りは、やはり、モール運営者が共同供給主体となることは、まず考えられないだろうと思います。

これが、前記緑本解説についての私の理解です。

2022年5月19日 (木)

I stand with Ukraine.

Слава Україні! (ウクライナに栄光あれ!)

Ua

2022年5月18日 (水)

下請中小企業振興法の振興基準の法的効力

下請中小企業振興法3条に基づき経済産業大臣が定める「振興基準」には、どのような法的効力があるのでしょうか。

最も問題になるのは、振興基準第2の8)の、

「8) 取引停止の予告

親事業者は,継続的な取引関係を有する下請事業者との取引を停止し,又は大幅に取引を減少しようとする場合には,下請事業者の経営に著しい影響を与えないよう最大限の配慮を行い,相当の猶予期間をもって予告するものとする。」

でしょう。

では、振興基準の適用対象になる親事業者(資本金の額が自己より小さい法人たる中小企業者(≒資本金3億円以下の会社)又は常時使用する従業員の数が自己より小さい個人たる中小企業者に対し製造委託等をする発注者)がこの規定を守らず「相当の猶予期間をもって予告」をしないと、解除は無効になるのでしょうか。

そのようなことは、まったくありません。

これを根拠に契約解除は無効だという主張が訴訟でなされるのも時々見かけますが、認められたことはありません。

そもそも下請中小企業振興法は公法の中でも、取締法規ではなく、振興法であり、私法上の効力があるわけがありません。

この点については、中小企業庁のホームページのQ&Aの9番で、

「Q9.振興基準の内容について、違反した場合に行政処分や罰則はありますか。

下請中小企業振興法に基づく振興基準は、下請中小企業の振興を図るため下請事業者及び親事業者のよるべき一般的な基準を定めたものであり、

振興基準に定める事項について、主務大臣は、下請事業者又は親事業者に対し指導・助言を行うことがあります。

ただし、指導・助言は行政指導であって、振興基準に違反した場合の行政処分や罰則はありません。」

と明記されています。

中小企業庁の作成した「下請中小企業振興法について」という資料の6枚目でも、

「(1).振興基準の性格

①振興基準は、下請中小企業振興を目的として、経済産業大臣が定めることとしている(第3条第1項)。

②下請事業者の自助努力、親事業者による協力、相互協議に基づく適切な取引関係の構築等を規定しているが、これらは、親事業者と下請事業者との間のよるべき一般的な基準であり、望ましい取引関係を奨励しているもの。

③このため、主務大臣が事業者に対して指導・助言を行う際の根拠となっている(遵守しない事業者に対して行政処分を行うような性格は有していない。)。」

と、行政処分の対象にすらならないことが明記されています。

上記③で、「指導・助言を行う際の根拠となっている」とされていますが、これは、下請振興法4条に、

「(指導及び助言)

第四条 主務大臣は、下請中小企業の振興を図るため必要があると認めるときは、下請事業者又は親事業者に対し、振興基準に定める事項について指導及び助言を行なうものとする。」

と規定されているもののことを言っています。

これは行政指導ですから、指導を受けたり、指導に従わなかったからといって、公表されることはありません。

以上が振興基準の私法上の効力ですが、下請振興法上の効力としては、振興事業計画(5条)の承認の要件の1つが「振興基準に照らして適切なもの」であることであったり(6条1項1号)、特定下請連携事業計画(8条)の認定の基準の1つが「振興基準に照らして適切なものであること」(9条1号)であったりしますが、それだけのことです。

普通の企業はこれらの制度に関心はないでしょうから、多くの企業にとっては、振興基準は無意味、ということになります。

ところが、全国中小企業振興機関協会の「下請中小企業振興法に関するQ&A」では、

「Q3 継続的な取引関係を有している下請事業者との取引を停止する場合は、取引停止のどのくらい以前に予告通知をしなければならいか。

という、あたかも予告通知をしなければならないことを前提とするかのような設問に対して、

「A

継続的な取引が行なわれているとき、止むを得ない事情で取引を停止せざるを得ないときは、親事業者は相当の猶予期間をもって下請事業者に通知することを下請中小企業振興法の振興基準で指導している

相当の猶予期間については、下請事業者の親事業者への依存度や製品の他への転用の可否、製品製造のための設備投資の状況など相手方の経営上の問題等を勘定し、ケースバイケースで判断することとなるものであり、下請事業者の経営に著しい影響を与えないように配慮することが必要である

なお、判例では、親事業者の取引停止による損害として6ヵ月間の損害賠償を認めたものもあるが、このことが直ちに一般論として「相当猶予期間」が6ヵ月と即断できるわけではないことに留意が必要である。」

と回答されています。

「配慮することが必要」であるとか、「6ヵ月間の損害賠償を認めたものもある」とか、あたかも振興基準に違反すると民事的効力があるかのような雰囲気をプンプンにおわせていますが、前述のとおり、そのようなことはありません。

まあ、同協会は下請企業を保護するのが存在理由なのでしょうし、上記Q&Aでも嘘を言っているわけではないですし、注意深く読めば別に誤解するわけではないのでかまわないのでしょうけれど、「配慮することが必要」というのは、ちょっと誤解を招くと思います。

というわけで、親事業者のみなさんは、下請企業の代理人弁護士が「解除は振興基準違反だ!」といってきたら、無視してかまいません。

もちろん、民法上の継続的契約の法理の適用はありうるわけですが、それは、下請中小企業振興法とは無関係です。

2022年5月17日 (火)

網走管内コンクリート製品協同組合事件について(協同組合の行為と独禁法)

掲題の事件は、掲題の協同組合(網走協組)が、個々の需要者に対して特定の組合員等を1社ずつ割り当てたことが独禁法8条1号(一定の取引分野における競争を実質的に制限すること)に該当するとして排除措置命令と課徴金納付命令がなされたものです(2015年1月14日)。

この事件では、違反者が協同組合でしたが、独禁法22条による独禁法適用免除は認められませんでした。

注目されるのはその理由で、排除措置命令書では、

「前記事実によれば,網⾛協組は,中⼩企業等協同組合法に基づいて設⽴された事業協同組合であるものの,

前記第1の2の決定は,網⾛協組の実施する販売について定めたものではなく,

組合員等の需要者に対する特定コンクリート⼆次製品の販売について取引の相⼿⽅及び対価を制限することを定めたものであって,

網⾛協組の当該⾏為は,独占禁⽌法第22条に規定する組合の⾏為に該当しない。

したがって,網⾛協組の前記⾏為は独占禁⽌法の適⽤を受けるものである。」

とされています。

これを見ると、同命令は、網走協組の行為が独禁法22条の「組合の行為」に該当しないので22条を適用しない(8条1号を適用する)と述べていることがわかります。

つまり、22条柱書では、

「この法律の規定は、次の各号に掲げる要件を備え、かつ、法律の規定に基づいて設立された組合(組合の連合会を含む。)の行為には、これを適用しない。ただし、不公正な取引方法を用いる場合又は一定の取引分野における競争を実質的に制限することにより不当に対価を引き上げることとなる場合は、この限りでない。」

とされているところ、ここでの、「組合・・・の行為」に該当しない、ということですね。

この「組合の行為」というのが何を意味するのかは争いがありまして、公取委は、各組合設立準拠法(ここでは中⼩企業等協同組合法9条の2)に定める行為だけが「組合の行為」にあたるのだ、という解釈で、多数説もそうなのだそうです。

(私は、文言通り素直に「組合の行為」に当たるものは全部あたるといっても、ほかの要件で絞れるので問題ないと思うのですが、今回の本題ではないのでひとまず措きます。)

つまり、中小企業等協同組合法9条の2では、

「事業協同組合及び事業協同小組合は、次の事業の全部又は一部を行うことができる。

一 生産、加工、販売、購買、保管、運送、検査その他組合員の事業に関する共同事業

二 組合員に対する事業資金の貸付け(手形の割引を含む。)及び組合員のためにするその借入れ

三 組合員の福利厚生に関する事業

四 組合員の事業に関する経営及び技術の改善向上又は組合事業に関する知識の普及を図るための教育及び情報の提供に関する事業

五 組合員の新たな事業の分野への進出の円滑化を図るための新商品若しくは新技術の研究開発又は需要の開拓に関する事業

六 組合員の経済的地位の改善のためにする団体協約の締結

七 前各号の事業に附帯する事業」

と規定されていますが、この1号から7号のいずれかに当たらないと独禁法22条の「組合の行為」には該当しない、というのが公取委・多数説であるわけです。

ですが、本件排除措置命令は、これら1号から7号のいずれかに当たるかどうかを問題視しているのではありません。

そうではなくて、(1号から7号のいずれにあたるのかはさておき、あるいは、1号には当たることを前提にしても)「網⾛協組の実施する販売について定めたものではな」いことを、直接唯一の理由として、独禁法22条の適用を否定(8条1号の適用を肯定)しているのです。

逆に言えば、本件での決定が、「網走協組の実施する販売について定めたもの」であれば、独禁法22条が適用された(8条1号の適用が否定された)、ということになります。

たとえば、網走協組が主体となって、組合の共同販売事業として、組合員が製造する製品を販売する場合には、「組合の行為」なので、組合が受注した注文をどの組合員に割り振って製造させるかは、当然、組合が決めて良い、ということになります。

実際、担当官解説(公正取引776号65頁)では、

「独市禁止法第22条柱書に規定する「組合の行為」とは、各種組合の根拠法令に基づく組合本来の事業をいい、その範囲を逸脱した行為は独占禁止法の適用除外とはならないと解せられるところ、

本件においては、前記第1の5のとおり、法令の適用において、網走協組の行為は、「組合の行為」には該当せず、独占禁止法の適用を受けると判断されている。

これは、網走協組は、組合の共同受注事業としながらも、実際には、

組合内に受注窓口を置かず、また、

網走協組の名義で受注することもなく

組合員等が自社名義で契約を行っており、

網走協組が組合員等と需要者との間の取引に関与することはなかったことによるものである。

このように、網走協組は、共同受注事業と称しているものの、実態共同受注事業を行っておらず、

需要者ごとに契約予定者として組合員等のうち1社を割り当て、その販売価格に係る設計価格からの値引き率を決めていたにすぎず、

当該決定に基づく行為は、「組合の行為」とは認められないと判断されたものと考えられる。」

と説明されています。

つまり、本件で、

①組合内に受注窓口を置いて、

②網走協組の名義で受注

していれば、経済的には本件と似たり寄ったりの取引であっても、独禁法22条が適用された(8条1号は適用されなかった)ものと考えられます。

さらにいえば、網走協組自身が売買契約の当事者である必要も必ずしもないと思われます。

というのは、上記の担当官解説からは、要するに、「共同受注事業」の実態があるかどうかが決定的なのであり、組合に受注窓口を置いて、「共同受注事業」の実態を備えていればよい、と読めるからです。

なお、上記担当官解説では、「組合員等が自社名義で契約を行っており」という事情も挙げていますが、これは、共同受注事業の実態を備えていないことを示す一事情としてあげられているだけであり、組合委員が自社名義で契約していれば当然に共同受注事業の実態がなくなるというものではないでしょう。

なので、あくまで組合は注文を取るだけで、売買契約の当事者は組合員であってもかまわないことになります。

ちなみに、「そんなのはカルテルじゃないか?」「組合が組合員にカルテルをさせていいのか?」という疑問を持たれる方がいらっしゃるかもしれませんが、そもそも22条というのは、中小企業が協力して大企業に対抗できるようにそういうカルテルを容認するというのが本質であり、実質的にカルテル同様の効果が生じることは何の問題もありません。

この点、22条柱書ただし書によると、

「一定の取引分野における競争を実質的に制限することにより不当に対価を引き上げることとなる場合」

には22条は適用されませんが、これまでこれを理由に22条の適用が否定されたことはありませんし(担当官解説67頁注6)、今後もないでしょう。

というのは、前記のように、22条は中小企業にカルテルを許して大企業に対抗させることに本旨があるので、そもそも「一定の取引分野における競争を実質的に制限する」といえるのが難しい上に、「不当に対価を引き上げる」というのは、さらにハードルが高いと考えられるからです。

(まあ、中小企業がある事業分野では大企業に対抗しつつ、別の事業分野では消費者に販売していたり、同じ商品を大企業にも消費者にも販売しているといったケースでは、消費者に対しては「不当に対価を引き上げる」ということもあるかもしれませんが、実際には、あまりそのような手の込んだことは起こらないように思います。)

ともあれ、この事件からいえるのは、きちんと共同事業の実態を整えていれば、同じようなことをやっても適法だった可能性がある、ということです。

そして、このような結論を形式論だといいきれないところもあります。

というのは、正々堂々と組合の共同販売事業だといって行えば、需要者にもそういうものだということが分かりますが、実態としては個々の組合員との取引にしか見えないのに実は裏で顧客割り当てがなされていたとすると、それはそれで問題ではないか、という、いわば透明性・公正性の観点からの批判もありうるからです。

本件では、需要者は個々の組合員との取引だと思っていた可能性があります。

・・・と、ここまで考えて疑問に思うのは、本件で問題になった組合の決定、つまり、

「平成24年6⽉5⽇に開催した臨時総会において,

オホーツク地区におけるコンクリート⼆次製品の市況回復を図るため,

共同受注事業と称して,

あらかじめ,需要者ごとに契約予定者として組合員のうち1社を割り当て

その販売価格に係る設計価格からの値引き率を10パーセント以内とすることを決定し,

その実施に当たっては,対象とする品目及び需要者ごとに契約予定者として割り当てる組合員を事前に運営委員会において決定することとした。」

という決定を、どうやって実行していたのでしょうね。

裏でコソコソ割り当てているだけでは実効性はありませんから、ある需要者がある組合員のところに引き合いに来たら、もしその組合員がその需要者の担当でなかったら、黙って断ったんですかね?

でもそれではあまりに不自然だから、担当でない需要者から引き合いがあったときには、とうてい受注できないような高額の見積もりを出したのですかね?

あるいは同じことですが、ある需要者が複数の組合員に相見積もりをとったときには、見積依頼を受けた組合員間で情報交換して、担当の組合員が受注できるように、他の組合員は担当組合員よりも高い見積を出したのですかね?

つまり、こういう細工でもしない限り、本件での組合の決定は実行できないと思うのです。

もし、網走協組が需要者に、大々的に、「これからは、あなたの担当はこの組合員です。ほかは受注しません」と堂々と伝えていたとしていたら、前記担当官解説の、

組合員等と需要者との間の取引に関与すること

には当たるようにも見え、22条が適用されたのではないか、あるいは、そこまで組合が表に出て堂々とやるなら、「共同受注事業」の実態があるといえるまであと一歩だったのではないか、という気がします。

というわけで、価格が安定すること自体は22条が当然想定していることからすると、本件は、共同受注事業の実態(むしろ形式というべきか)を備えなかったために違反となったに過ぎないものといえ、ある意味、ちょっと残念な事件だったといえると思います。

2022年5月15日 (日)

流通取引慣行ガイドラインの抱き合わせに関する記述の問題点

2017(平成29)年の改正で流通取引慣行ガイドラインの第1部第2の7に「抱き合わせ販売」に関する記述が追加されました。

ですが、この記述は誤解を招くものでかなり問題だと思います。

というのは、他者排除型の抱き合わせの場合には20%のセーフハーバーが適用されるのはかまわないのですが、不要品強要型についてはこの20%のセーフハーバーが適用されないことが、ぱっと見た感じ、わかりにくいのです。

つまり、第1部の第2の7(2)では、

「ある商品(主たる商品)の市場における有力な事業者が,

取引の相手方に対し,

当該商品の供給に併せて他の商品(従たる商品)を購入させることによって,

従たる商品の市場において市場閉鎖効果が生じる場合には(注10),

不公正な取引方法に該当し,違法となる(一般指定10項(抱き合わせ販売等))。」

と説明され、その次の「具体例」では、他者排除型の典型例といえるマイクロソフト事件が挙げられています。

主体が「市場のおける有力な事業者」に限られていることから、20%のセーフハーバーが適用されることがわかります。

ところが、その次の「注10」では、

「(注10) 抱き合わせ販売は,顧客の選択の自由を妨げるおそれがあり,価格,品質,サービスを中心とする能率競争の観点から,競争手段として不当である場合にも,不公正な取引方法に該当し,違法となる。

事業者による抱き合わせ販売が競争手段として不当であるか否かは,主たる商品の市場力や従たる商品の特性,抱き合わせの態様のほか,当該行為の対象とされる相手方の数,当該行為の反復,継続性,行為の伝播性等の行為の広がりを総合的に考慮する。」

と釘が刺されているのです。

独禁法を知っている人なら、「ああ、これはドラクエⅣ事件のような、不要品強要型のことを言ってるんだな」とわかりますが、一般の人は、この注10の場合にも20%のセーフハーバーが適用されると誤解するのではないでしょうか?

つまり、このような脚注の書き方では、この脚注が、

「ある商品(主たる商品)の市場における有力な事業者が,取引の相手方に対し,当該商品の供給に併せて他の商品(従たる商品)を購入させることによって,従たる商品の市場において市場閉鎖効果が生じる場合には」

という部分全部にかかっているのか、それとも、

「従たる商品の市場において市場閉鎖効果が生じる場合には」

という部分だけにかかっているのか、わからないのではないでしょうか。

脚注はそれが付された単語やフレーズの説明であるというのが常識的な感覚だとすると、この注10は、

「従たる商品の市場において市場閉鎖効果が生じる場合には」

だけにかかるのだ、と読む人がいても、私はぜんぜんおかしくないと思います。

もしそう読むと、注10は、本文と併せて、

「ある商品(主たる商品)の市場における有力な事業者が,

取引の相手方に対し,

当該商品の供給に併せて他の商品(従たる商品)を購入させることによって,

顧客の選択の自由を妨げるおそれがあり,価格,品質,サービスを中心とする能率競争の観点から,競争手段として不当である場合にも」

違法になる、つまり、不要品強要型(不当手段型)の場合にも20%のセーフハーバーが適用される、と読まれてしまうことになります。

そもそも、不要品強要型のような大事なこと(実務ではむしろこちらが中心)を、脚注ですましてしまうというのが、ガイドラインとして大きな問題だと思います。

どうしてこういうことになったのかというと、平成29年のガイドラインの改正で、非価格制限の全体を、市場閉鎖効果と価格維持効果でくくろうとしたからでしょう。

でも、不要品強要型は、性質的には優越的地位の濫用であり、通常の非価格制限では本来くくれません。

そこで、脚注という中途半端な書き方になったのだと想像されます。

しかし、これはガイドラインとして大変不親切だと思われます。

実際、私も、このような誤解をされているのではないかと疑われる事象に遭遇したことがあります。

他者排除型と不要品強要型の区別とか、専門家しか知らない細かいことを捨象して一言で言えば、抱き合わせには20%のセーフハーバーは適用されません

細かく言えば、不要品強要型には適用されませんということなのでしょうけれど、両者が明確に区別できない場合もあるといわれることからすると、こんなものをそもそも「セーフハーバー」と呼んでよいのかも疑問です。

両者入り交じった場合もあることを忘れているのも、無理に全体を統一しようとしたことの弊害でしょう。

みなさん、十分注意しましょう。

しかも、注10をよくみると、(主たる商品の)「市場力」という言葉がいきなり出てきます。

これはmarket powerの直訳だと思われますが、こんな大事な概念を、何の説明もなく出してくるのは、法律家としてのセンスを疑われます。

しかも、market powerは、慣例的に「市場支配力」と訳されることが多く(私は「市場力」のほうが正しい訳だと思いますが)、すでに定着してしまっているので、「『市場力』と『市場支配力』の違いは何なのか?」といった、どうでも良い問題が出てきます。

(これは、essential facilityを「不可欠施設」と訳してしまったために、「物理的な施設でないものも不可欠施設に当たるのか」という、的外れな議論がかつてなされたことを想起させます。)

あるいは、優越的地位の濫用の「相対的に優越した地位」というのと、「市場力」は同じなのか違うのか、といった問題も出てくるかもしれません。

とはいえ、注10では、「主たる商品の市場力」というのは、抱き合わせが成立するかどうかを考慮するための一つの事情に過ぎないので、「市場力」の定義は他の要素のかき消され、表だって問題にはならないのかも知れません。

でも、たとえ要素の一つに過ぎなくても、その要素自体の定義を明確化することは重要です。

そうしないと、「何でもあり」になってしまいます。

そして、この「市場力」という用語は、流通取引慣行ガイドラインでも、この1箇所でしか出てきません。

木に竹を接ぐ場合には全体との整合性に常に気を配らなければならないと思いますが、この注10は、そもそも注にしてしまったことといい、ここでだけ「市場力」という言葉を使ったり、まったく全体(体系)との整合性がありません。

ガイドラインを改正するときは、ちゃんと、法律の体系的思考ができる人が、全体を見てあげないといけないと思います。

2022年5月14日 (土)

神奈川県LPガス協会事件と「心は事実の鏡」説

独禁法における行為者の意図・目的が違反行為の成否にとってどのような意味を持つのかについて、意図・目的が事実を鏡のように映すから意図・目的が排除効果や正当化事由の証拠となるのだ、ということを以前書きました(以下「『心は事実の鏡』説」といいます)。

これに対して、マイナミ事件東京地裁判決や公取委実務は、強烈な排除の意思があれば排除効果も強烈になるのだ(あるいは、違法性が高まるのだ)、と考えていると思われます(以下「念力説」といいます)。

私は、「心は事実の鏡」説が正しいと考えています。

そこで、この点に関して参考になる判決として、神奈川県LPガス協会事件に関する2020(令和2)年3月26日判決を紹介しておきます。

この事件は、神奈川県LPガス協会が、切替営業(つまり競争者の顧客を奪う営業)をする新規参入者の加入を拒否したことが独禁法8条3号(「一定の事業分野における現在又は将来の事業者の数を制限すること」)に該当するとして排除措置命令がなされた事件です。

原告協会は、

「独禁法8条3号の「現在⼜は将来の事業者の数を制限」に当たるためには,当該⾏為が不当に⾏われたことを要するとし,

本件否決は,《A》が,切替営業を⾏っていること⾃体を問題視したものではなく,

消費者利益の保護を目的とし,違法⼜は不当な訪問販売・勧誘を⾏う事業者を排除することを目的に⾏ったものであるから,

正当な理由があり,何ら不当に⾏われたものではなく,独禁法8条3号に違反しない」

などと主張しました。

その根拠としては、問題の新規参入者が特商法違反の営業をしており、これに対する苦情が突出して多かったことなどが主張されています。

これに対して東京地裁判決は、

「ウ 次に,本件否決を⾏った原告の理事会における審議状況をみるに,証拠・・・及び弁論の全趣旨によれば,

《A》の1回目及び2回目の⼊会申込みを否決した理事会の審議においては,《A》の勧誘に問題があるとされるお客様相談所への相談について,単に件数が紹介されるだけで,何ら具体的な相談内容が報告されてはいないこと,

《A》の3回目以降の⼊会申込みを否決した理事会の審議においては,《A》の相談事例は報告されているものの,《A》についての単なる照会等も含まれる中で,《A》の具体的な勧誘の違法不当性,あるいはこれが特商法違反に該当することについての検討がされたわけでもないこと,

原告代表者《X4》(当時理事)は,《A》の2回目の⼊会申込みを否決した理事会の審議において,本⼼は《A》が会員の顧客を取ったことが理由であっても,それを表向きの理由にはできないため,理論武装が必要である旨の発⾔を⾏っていることが認められる。

そして,本件証拠上,原告が,本件否決をした5回の理事会を通じて,《A》にその勧誘⽅法の詳細を尋ね,実際にどのような特商法違反⾏為をしているかを確認した事実を認めることはできない

その上,原告の理事ら(元理事を含む。)は,本件排除措置命令に係る意⾒聴取の過程において,

原告の会員間で顧客を奪わないという不⽂律ないし暗黙の了解があったこと,

原告の会員間で顧客を奪い合うような関係になると原告の保安活動等の様々な活動に⽀障が⽣じること,

価格競争が続けば,各社が利益の出ない価格でLPガスを販売することになり,廃業者を出すことになってしまうことを供述している(証拠略)。」

「エ  以上に鑑みれば,本件否決は,会員の顧客の奪取に繋がる切替営業を防ぐ意図の下になされたといわざるを得ないのであり,《A》が特商法に抵触するような違法⼜は不当な勧誘をしていることを理由にされたということはできない。

よって,本件否決が,専ら公正な競争秩序維持の⾒地からみて正当な理由を有するものということはできず,本件否決が独禁法8条3号に該当するとの判断は揺るがない。」

と判断しました。

このように、判決は、「切替営業を防ぐ意図」があったので、正当な理由があったとは認められないとしているわけですが、その前提として、

「《A》の具体的な勧誘の違法不当性,あるいはこれが特商法違反に該当することについての検討」

の事実がないことを認定しています。

つまり、当該新規参入者の違法な勧誘があったとは認められないことが、正当化理由の否定につながっているというべきでしょう。

なので、もし、違法な勧誘があったことの検討はしていなかったけれども実際には違法な勧誘があった、という場合には、入会拒否には正当な理由があることが否定されないというべきでしょう。

そして、判決では、「切替営業を防ぐ意図」が認定されていますが、これも、

当該新規参入者は切替営業をしていた、かつ、

当該新規参入者の入会を拒否した理由は切替営業であった、

よって、将来同様の切替営業をする入会希望者も入会拒否されるだろう、

という推論に基づいて、正当化理由がないと判断しているものと考えられます。

このように、同判決の考え方では、入会拒否を正当化できる客観的な事情があったかどうかが決定的に重要なので、「心は事実の鏡」説に立っているといってよいでしょう。

8条3号の場合には、正当化理由を慮外に置けば、

「現在又は将来の事業者の数を制限」

してさえいれば違反になり、対市場効果は要件ではないので、「数を制限」する意図・目的が市場競争に与える影響は考慮する必要がないのですが、「事業者」を、「競争法上保護に値する事業者」と読み替えて、意図・目的から、当該事業者が客観的に「競争上保護に値する」かどうかを認定することは可能だし、そうすべきでしょう。

その意味で、判決の、

「特商法違反に該当することについての検討がされたわけでもない」

という部分などは、検討状況自体(≒内心)が正当化理由の成否に直結するように判決が考えているように読めてしまいますが、このように言ってしまった方がわかりやすいからそういっているだけで、実際には、特商法違反行為(あるいは特商法違反が将来行われる蓋然性)があったかどうかを裁判所も重視しているというべきでしょう。

少なくとも、排除の意図から排除効果を直接推認しているわけではないと思われます(上述のとおり、8条3号では排除効果は要件ではないので、もしこれが共同ボイコットや排除型私的独占の事例であれば、ということになりますが)。

さらにいえば、そもそも原告が、

「消費者利益の保護を目的とし,違法⼜は不当な訪問販売・勧誘を⾏う事業者を排除することを目的に⾏ったものである」

という問題の立て方をしたから、裁判所も「そういう目的ではない」という答え方になっただけなのだろうと思います。

いずれにせよ、本判決が念力説に立っていないことは明らかだと思われます。

2022年5月 2日 (月)

フリーランスガイドラインについて

2021年3月26日に内閣官房、公正取引委員会、中小企業庁、厚生労働省が連名で「フリーランスとして安心して働ける環境を整備するためのガイドライン」(フリーランスガイドライン)を出していますので、思うところを述べてみます。

まず、フリーランスの定義が、

「実店舗がなく、雇人もいない自営業主や一人社長であって、自身の経験や知識、スキルを活用して収入を得る者」(p2)

というように、かなり独特で、狭いものとなっています。

つまり、店舗も従業員もいない自営業者、ということです。

ギグ・エコノミーについて言及があったりすることからすると(p1)、ウーバーの配達員みたいなのが1つには想定されているようです。

また、別添として付けられている契約書のひな形をみると、雑誌へのコラムの原稿執筆、ソーシャルゲームに利用するイラスト作成、雑誌の写真撮影、コンサルタント、絵コンテ、などが想定されているようです。

なので、事務所も構えて事務員も雇っている私のような弁護士は、フリーランスには該当しません(笑)。

さて、このガイドラインの公取担当部分は、フリーランスに優越的地位の濫用と下請法が適用されるという前提で書かれています。

それ自体は、解釈論上も争いのないところでしょうから問題はないのですが、そもそも、フリーランスと呼ばれる者が、発注者に対して優越される地位に立つというのがどのくらいあるのか、私は疑問に思っています。

この点に関しては、別紙2で、

「発注事業者がフリーランスに対し、取引上の地位が優越しているというためには、市場支配的な地位又はそれに準ずる絶対的に優越した地位である必要はなく、フリーランスとの関係で相対的に優越した地位であれば足りると解される。

発注事業者とフリーランスとの取引において、発注事業者がフリーランスに対して優越した地位にあるとは、

フリーランスにとって発注事業者との取引の継続が困難になることが事業経営上大きな支障を来すため、

発注事業者がフリーランスにとって著しく不利益な要請等を行っても、フリーランスがこれを受け入れざるを得 ないような場合である 。」

と説明されています。

これは優越ガイドラインそのままなのですが、特定の発注者との取引の継続が困難になることで事業経営上大きな支障が生じるなんていうフリーランスは、フリーランスとして生きていけるはずがないと思います。

フリーランスの実態はさまざまでしょうけれど、多くのフリーランスは、同じ発注者から継続的に発注があるとあてにすることすらしていないのではないかと思います。

少なくとも、伝統的なフリーランスは、組織に属するのがいやでフリーランスをやっているのだと思います(大門未知子のパターン)。

あるいは、組織に大きなマージンを持って行かれるくらいなら自分の看板でやりたいと思ってフリーランスになるのでしょう(大手法律事務所を独立するパターン?)。

どんなに大きな取引があるクライアントでも、次に発注があるかどうかはまったく保証されない、というのがフリーランスではないかと思います。

NHKのディレクターさんが書いた記事で故立花隆さんがそのようなことをおっしゃってますが、強く共感します。

フリーランスというのは、まさに、「自身の経験や知識、スキルを活用して収入を得る者」なのであって、組織に属さないし、基本的には特定のパトロンもいない、というのが本質だと思います。

ルソーが『エミール』の中で、芸術家は金持ちのパトロンに気に入られないと生きていけないので、手に職のある職人になるべきだ、というようなことを言っていますが、特定のパトロンに依存しないで自分のスキルだけで生きていけるのが、フリーランスのよいところです。

そういう意味で、特定の発注者に依存するようなフリーランスは、フリーランス失格だと思います。

だいたい、安心・安全をめざす人は、フリーランスになど、なってはいけません。

なので、「安心して働ける」なんていうことをうたうガイドラインのタイトル自体が、私は問題だと思います。

私が京都大学自体に講義を受けた国際政治学者の高坂正堯先生が『世界地図の中で考える』という著書の中で、タスマニア土人が白人に保護されながらも、否、保護されたからこそ、滅亡していった話を紹介されていますが、これが私の中では強烈なエピソードとして残っています。

明日どうなるか分からないという緊張感の中で仕事をしているから、一つ一つの仕事が真剣勝負になるのです。

将来の取引が保証されているフリーランスなんて、フリーランスではありません。

というわけで、フリーランスガイドラインは、本質的に優越的地位が成立しない(してはいけない)フリーランスに対して、半ば無理矢理に、伝統的なメーカー間の下請取引を念頭に置きながら優越的地位の濫用を適用しているように、私には見えます。

たとえば、

「・購入しなければフリーランスとの取引を打ち切る 、取引の頻度を減少させるなど 、今後の取引に影響すると受け取られるような要請をすることにより 、自己の指定する商品を購入させること。」(p12)

なんていうのが濫用の例としてあげられていますが、むしろあり得るとすれば、「次また仕事出すからさ、今回はよろしく!」みたいなことのほうが現実的ではないでしょうか。

つまり、ガイドラインは、将来の取引が期待できることが前提の例ばかりですが、実態は逆(次はないのがあたりまえ)だと思います。

(ちなみに、「次また仕事出すからさ、今回はよろしく!」みたなのは、濫用になるのですかね。公取は濫用になると言うでしょうが、これは、フリーランス観の根本にかかわる重要な問題だと思います。)

もちろん、契約しているのに一方的に代金を減額するとかしてはいけないのは当然ですが、それは契約法の話であって、競争法の話ではありません。

競争法を専門としている者からすると、このような、競争は厳しいものだという根本的な発想は当然のことのように思うのですが、フリーランス保護を専門にする弁護士さんの話を聞いたり読んだりすると、発想が全然違って(何でもかんでも濫用だということになって)、話が噛み合いません。

フリーランスがなぜ発注者に優越される地位に立つことが多いのかについて、ガイドラインでは、

「フリーランスが受注事業者として行う取引については、通常、企業組織である事業者が発注事業者となることが多く、発注事業者とフリーランスとの間には、役務等の提供に係る取引条件について情報量や交渉力の面で格差がある。」(p3)

と述べられています。

つまり、企業対個人だと情報量や交渉力で格差がある、ということです。

でも、こんなことはフリーランスの実態として一般的には決して言えないと思います。

これも以前、フリーランスの保護を熱心にされている弁護士さんが講演でおっしゃっていましたが、ライターの執筆料が1000円とか、めちゃくしゃ安いということでした。

でも、競争法の立場からみると、それが市場価格なのではないか、という気がしてしまいます。

フリーランスのみなさん、フリーランスに、安心・安全など、期待してはいけません。

それは、衰亡のはじまりです。

独禁法に期待するより、自分のスキルを上げることに集中しましょう。

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