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2022年3月

2022年3月26日 (土)

行為者の意図が排除行為の認定に役立つ場合とは?

排除型私的独占ガイドラインでは、

「行為者が他の事業者の事業活動を排除する意図を有していることは、排除行為に該当するための不可欠の要件ではない。しかし、主観的要素としての排除する意図は、問題となる行為が排除行為であることを推認させる重要な事実となり得る。」(第2の1⑴)

としています。

ここで、排除の意図が排除行為性を推認させるというのは、どういう場合でしょうか。

排除効果は客観的な効果ですから、まさか、念力ではないのですから、行為者が強烈な排除の意図を持っていたからといって排除効果が生じるわけではありません。

(以下、意図の力があたかも念力のように排除効果を発生させるという考え方を、「念力説」といいます。)

この点について、排除型私的独占ガイドライン第2の3〔排他的取引〕⑵オ「行為の態様」では、

「取引の条件・内容,行為者の意図・目的等が,排他的取引が排除行為となるか否かを判断するに当たって考慮される。」

とされていますが、それに続く具体例では、

「例えば,取引先が競争者と取引をする場合に,取引した分だけ追加的な負担が生じたり,高額の違約金が生じたりするような取引の条件・内容であるときは,そうでない場合と比較して,取引先が競争者の商品を取り扱う際の障害がより大きくなる。

したがって,他に代わり得る取引先を容易に見いだすことができない競争者の事業活動を困難にさせると認められやすくなる。」

という例が挙げられており、肝心の「意図・目的」がどのように排他的取引の排除行為該当性の認定に役立つのかが、書かれていません。

ほかには、「商品を供給しなければ発生しない費用を下回る対価設定」に関する、第2の2⑵の「エ 行為の態様」では、

「行為者の意図・目的,広告宣伝の状況(廉売に係る行為者の評判を含む。)等が,当該行為が排除行為となるか否かを判断するに当たって考慮される。」

と、意図・目的が排除行為該当性の認定に用いられるとされていますが、続く具体例ではやはり、

「例えば,行為者が他の地域又は他の商品においても「商品を供給しなければ発生しない費用」を下回る対価で長期間にわたって供給しているような場合には,行為者による更なる当該対価での供給を警戒して他の事業者が新規参入を躊躇する可能性が高くなる。

このように,行為者による当該対価での供給が評判となっていると認められる場合は,そうでない場合と比較して,自らと同等又はそれ以上に効率的な事業者の事業活動を困難にさせると認められやすくなる。」

と述べられており、やはり肝心の意図・目的への言及がありません。

では、「意図・目的」が考慮されるというのは単なる建前で、実際には考慮されないのでしょうか?

そんなことはありません。

主観面を強調するのが大好きな公取委が、そんな自分の首を絞めるようなガイドラインを出すはずがありません。

(たぶん、今の公取委には、客観面を詰めていく、という力がないのだと思います。困ったことに、日本の裁判所にも、そのほうが受けがいいですし。)

では、意図・目的が考慮されるのは、どういう場合なのでしょうか。

この問題については、

Lao, Marina. "Reclaiming a Role for Intent Evidence in Monopolization Analysis." American University Law Review 54, no.1 (2004):151-213.

という論文に、以下のようにわかりやすく説明されています。

「As another example, assume that a dominant firm entered into exclusive dealings with the major suppliers of an important input, which substantially increased its small rival’s costs. In that event, it would be helpful to know why the dominant firm entered those exclusive arrangements, so that we can draw inferences regarding their effects. Suppose discovery reveals a document setting forth a plan to use exclusive arrangements to raise rivals’costs and an accompanying projection of how much the firm can raise prices after the rival is sidelined. In that case, we can reasonably infer that the dominant firm intended to exclude its rival anticompetitively. If, however, documents show that the dominant firm adopted its exclusive dealing strategy in hopes of improving its own distribution efficiency, the firm’s intent would be proper even if its competitors are left in the dust as a result. In the latter scenario, the exclusion of its rivals is merely a by-product of competition on the merits.」

ざっくりと日本語に意訳すると、こんな感じです。

「ある独占的企業が重要な投入財の主要な供給者と排他的取引を行い、小規模なライバルのコストが大幅に上昇したとする。

この場合、独占的企業が当該排他的取引を行った意図や目的を知ることは、その効果を推定するために有用である。

仮に、排他的契約を利用してライバルのコストを引き上げる計画や、それに伴う、ライバルが排除された後に当該独占的企業がどれだけ価格を引き上げることができるかの予測を記した文書が発見されたとする。

この場合、支配的企業はライバルを反競争的手段で排除する意図があったと合理的に推論することができ、ライバルを排除する効果があったと推認することができる。

これに対して、独占的企業が、自らの流通の効率性を高めるために排他的取引を行ったことが証拠から明らかになれば、結果としてライバルが排除されたとしても、その意図は妥当であると考えられる。

後者のシナリオでは、ライバルの排除は能率競争の結果に過ぎない。」

つまり、行為者の意図が証拠から明らかになれば、その意図通りの効果が生じ得たであろうことを、一応推認してよいのではないか、ということです。

裁判官が神様であれば、行為当時の状況はすべて知っていますから、排除効果を認定するためにはすべての客観的事情を考慮すればいいので、客観的な効果の認定のために行為者の主観を使う余地はないでしょう。

でも実際の訴訟では、証拠は常に不完全ですから、行為者の意図のみからうかがわれる事情というのも、当然存在するわけです。

そのような場合には、行為者の意図が排除効果認定の役に立つわけですね。

行為者の意図を、行為の排除効果(あるいは排除効果の不存在)を裏付ける様々な事情を映す鏡であるかのように捉えるわけです。

いわば、「鏡説」です。

主観的事情から客観的事情を推測できるというのは、そういうことでしょう。

鏡説は、実はあたりまえのことを言っているだけで、それだけにかなり応用の幅が広い考え方です。

たとえば、

⽣⽥ 勝義「正当防衛に関する一考察」

という論文では、行為者が侵害を予期していた場合には急迫性がなくなるという判例の立場を批判する中で、

「しかし、急迫性という要件は客観的要件であるはずだ。その判断は客観的な⾏為事情によって⾏われるべきであって、主観的事情を⽤いるとしてもそれはあくまでも客観的な事実を推測する<⼿がかり>にすぎない。」

と述べられています。

まさにそういうことですね。

急迫性(あるいはその不存在)を裏付ける客観的な事情が、行為者の主観に映し出されている、ということで、鏡説そのものです。

以上の検討から、念力説が誤りであることは明らかです。

どんなに強く念じても、どれだけ競争者排除の強烈な意図があっても、それで排除効果が生じるわけはないのです。

なお、以上と同趣旨のことが、公取委職員による、

古川博一「単独事業者の排他行為における行為者の意図と独禁法違反の成否一行為者の意図はどのように考慮されるべきか一」公正取引631号63頁

という論文に、これまたわかりやすく書かれているので、ご興味のある方は一読と言わず、二読、三読をおすすめします。

2022年3月 6日 (日)

アフィリエイト広告の内容を広告主が自ら決定していたことの認定

公正取引853号11頁の座談会で、消費者庁の片桐審議官が、

「T.S.コーポレーションが表示内容を自ら決定していたという認定の根拠ですが、本件では

T.S.コーポレーションは

広告代理店との間でアフィリエイト広告の作成を内容とする契約を締結し、

広告代理店と契約関係にあるASPを通じて本件商品に関する情報等を共有して表示内容について指示をし、

アフィリエイトクリエイターが制作した広告案を確認するとともに、

本件アフィリエイトサイトを通じて得られた成果に対して全て報酬を支払っていた

というような事実関係が認められており、

以上のことからT.S.コーポレーションがこの表示内容を自ら決定したというふうに認定したということです。」

と発言しています。

ここで、

「広告代理店と契約関係にあるASPを通じて本件商品に関する情報等を共有して表示内容について指示をし」

というのが、誰と「情報等を共有」し、誰に「表示内容について指示」をしたという意味なのかが、今ひとつよく分かりません。

文言だけを追っていけば、

「広告代理店と契約関係にあるASPを通じて本件商品に関する情報等を広告代理店と共有して表示内容について広告代理店に指示をし、」

という解釈も成り立たないわけではないと思いますが、アフィリエイトプログラムの一般的な仕組みは、

広告主→(広告代理店)→ASP→アフィリエイトクリエイター

ですし、その前後の文脈からしても、この部分は、

「広告代理店と契約関係にあるASPを通じて本件商品に関する情報等をアフィリエイトクリエイターと共有して表示内容についてアフィリエイトクリエイターに指示をし」

という意味ではないかと思われます。

そうすると、広告主がアフィリエイト広告の内容を自ら決定したといえるための要件は、

①広告主が、広告代理店に、広告の作成を依頼する

②商品に関する情報等をアフィリエイトクリエイターと共有する

③表示内容についてアフィリエイトクリエイターに指示をする

④アフィリエイトクリエイターが制作した広告案を確認する

⑤アフィリエイトサイトを通じて得られた成果に対して報酬を支払う

といったあたりになりそうです。

ここで、これらの要素が、広告主がアフィリエイト広告の内容を自ら決定したと言えるための要素である(他に委ねたことの要素ではない)ことからすると、②の共有情報内容も、③の指示された内容も、④の広告案も、すべて不当表示に該当するものであることが当然の前提になっていることが前提であると考えられます。

そうでないと、

①は普通にありそうですし、

②は、情報共有を全くしないとアフィリエイト広告をアフィリエイトクリエイターが書くのはそもそも困難ですし、

③は、指示した内容と違うアフィリエイト広告まで広告主が「その内容を自ら決定した」と言われるのはさすがに酷な気がしますし、

④は、(ランダムサンプリングなどで)確認がもれた広告に不当表示があったために広告主が責任を負わせられると、むしろ確認をしないほうがいいことになってしまいますし、

⑤は、報酬を払うのは当然

だからです。

ですので、T.S.コーポレーションのケースは広告主がアフィリエイト広告に対してかなり強いコントロールを及ぼしていた(まさに内容を自ら決定していた)といえる事例なのでしょう。

ですが問題は、アフィリエイト広告の内容の決定を他に委ねた場合も広告主が責任を負うことです。

(座談会の上記片桐審議官の発言も、白石先生の、

「もちろん、そこまでの〔T.S.コーポレーションのような自ら内容を決定したという〕事実関係がなくても、もう少し広く景品表示法の適用が可能であるということが前提になっていると思いますが」

という前置き付きの質問に答えたものです。)

つまり、いくら「内容を自ら決定」したとみられる場合だけを議論しても、ではどこからが違法になるのかはわかりません。

ただ、消費者庁が実際に広告主に措置命令を出すのは、広告主がアフィリエイトクリエイターに対してかなりきつい拘束をかけていた場合なのであろう、ということは読み取れます。

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