« 懸賞運用基準5(2)(同一取引に複数懸賞が競合する場合)の読み方 | トップページ | 「同一の取引」に複数企画が競合する場合の「同一の取引」の意味について »

2022年1月 6日 (木)

懸賞の総額について(消費者庁景品Q&A59番)

懸賞で提供できる景品類の総額については以前も書いたことがあるのですが、消費者庁の景品に関するQ&Aの59番では、

「当店はスーパーですが、商品を合計3,000円以上購入してくれた顧客を対象に、抽選で景品を提供したいと考えています。

この場合の懸賞に係る取引の売上予定総額は、

1当店で商品を合計3,000円以上購入する顧客から見込まれる抽選実施期間中の売上予定額、

2当店における抽選実施期間中の売上予定額

のどちらで算定すればよいでしょうか。」

という質問に対して、

「A

懸賞に係る取引の売上予定総額とは、懸賞販売実施期間中における対象商品の売上予定総額を指します。

本件では、抽選対象を商品を合計3,000円以上購入した顧客に限定しているものの、

特定の商品を購入した顧客に限定しているわけではないため

懸賞に係る取引については、スーパーで販売されるすべての商品の取引が対象となり得ると考えられますので、

本件における懸賞に係る取引の売上予定総額は、

2当店における抽選実施期間中の売上予定額とすることができます。

なお、抽選対象を単価3,000円以上の商品を購入した顧客とした場合には、

特定の商品を購入した顧客に限定することとなり、

懸賞販売実施期間中における対象商品は単価3,000円以上の商品と考えられますので、

この場合の懸賞に係る取引の売上予定総額は、単価3,000円以上の商品の売上予定額となります。」

と回答されています。

しかし、わたしはこの回答はおかしいと思います。

懸賞告示3項では、

「3 懸賞により提供する景品類の総額は、当該懸賞に係る取引の予定総額の百分の二を超えてはならない。」

とされており、基準になるのは、「懸賞に係る取引」です。

「懸賞に係る取引」というのは、ふつうに読めば、その取引をすれば懸賞に応募できる(取引と懸賞応募の可否が必要十分条件の関係にある)、という意味でしょう。

これを、59番回答のように、

「懸賞販売実施期間中における対象商品の売上予定総額」

と読むと言うことは、「懸賞に係る取引」(=懸賞に応募できる取引)を、それだけでは懸賞に応募できる十分条件になるかどうかにかかわらず潜在的に応募資格の足しになるにすぎない「対象商品」という概念で勝手に置き換えたものといわざるをえません。

実質的に考えても、1回3000円以上の購入で初めて応募できる懸賞に、100円の取引は関係がありません。

(なお、1回100円の取引でも30回行えば応募できるような企画(たとえばレシートを30枚提示して参加できるような)を考え出すと話がややこしくなりますが、設問のようなスーパーでの懸賞がそんなめんどうなことをするはずはないので(コンビニで700円以上買うとその場でスピードくじが引ける企画がよくありますが、そんなイメージでしょう)、1回のお買い物で3000円以上買った場合に応募できる企画と考えておきましょう。)

スーパーにしてみても、3000円以上購入者に対して景品を提供するということは、3000円以上の取引を誘引する目的なわけですから、ここでの懸賞告示3項の「当該懸賞に係る取引」は、(1回あたり)3000円以上の取引である、と考えるべきでしょう。

また、それでスーパーにとっても何の問題もありません。

というのは、こういう企画をやる以上、スーパーは、当然、1回3000円以上の取引がどれくらい増えて、ひいては売上全体がどれくらい増えたかを(細かい数字まではさておき少なくとも大雑把には)把握しているはずだからです。

そういうことも把握しないでキャンペーンをやると考えるなんて、ビジネスの実態をわかっていないと思います。

また、59番の回答の理屈自体もよくわかりません。

59番の回答では、

特定の商品を購入した顧客に限定しているわけではないため、

懸賞に係る取引については、スーパーで販売されるすべての商品の取引が対象となり得ると考えられますので、」

とされていますが、確かに特定商品の購入を条件にしていないのですべての商品の取引が潜在的には懸賞の対象に「なり得る」というのは理解できます。

でも、潜在的に「なり得る」というだけで、どうして1回100円の取引が、応募に1回3000円以上の購入者に対する「懸賞に係る取引」になるのか不明です。

「係る」というのはゆるい関係を表しますが、いくらなんでもこれは広げすぎでしょう。

しかも、59番回答ではさらに続けて、

「なお、抽選対象を単価3,000円以上の商品を購入した顧客とした場合には、

特定の商品を購入した顧客に限定することとなり、

懸賞販売実施期間中における対象商品は単価3,000円以上の商品と考えられますので、

この場合の懸賞に係る取引の売上予定総額は、単価3,000円以上の商品の売上予定額となります。」

としていますが、単価3000円以上の商品なんてスーパーにはいくらでもあるので、それでどうして「特定の」商品といえるのか、そもそも議論の出発点からして疑問が生じます。

それに、そもそも、告示の基準は「当該懸賞に係る取引」なので、そこに「特定」か「不特定」かということは、日本語の意味として読み込む余地がありません。

その懸賞が特定の商品を対象にしていれば、当該特定の商品の取引が「当該懸賞に係る取引」であり、不特定の商品を対象にしていれば、当該不特定の商品が「当該懸賞に係る取引」になる、ただそれだけでしょう。

別の切り口でいえば、

「なお、抽選対象を単価3,000円以上の商品を購入した顧客とした場合には、

特定の商品を購入した顧客に限定することとなり、

懸賞販売実施期間中における対象商品は単価3,000円以上の商品と考えられますので、

この場合の懸賞に係る取引の売上予定総額は、単価3,000円以上の商品の売上予定額となります。」

といえるのであれば、同じように、

「なお、抽選対象を1回3,000円以上の商品を購入した顧客とした場合には、

1回3,000円以上の商品を購入した顧客に限定することとなり、

懸賞販売実施期間中における対象商品の取引1回3,000円以上の取引と考えられますので、

この場合の懸賞に係る取引の売上予定総額は、1回3,000円以上の取引の売上予定額となります。」

といえない理由はどこにもないと思います。

やっぱり、告示が「当該懸賞に係る取引」と、あくまで、懸賞に「係る」かどうかを「取引」という概念で画定しているのに対して、59番の回答は、「対象商品」という概念をいきなり持ちだして、懸賞に「係る」かどうかを「商品」を基準にすりかえていることが、根本的な誤解の原因なのでしょう。

「取引」(法律行為)を基準にするのと、「商品」(物品)を基準にするのとでは、似ていますが、意味が違います。

こういう、レベルの違う概念を同列に扱うことで生じる誤解というのは法律の解釈でよく出てきますので、このあたりは十分に注意する必要があります。

ちなみに、中央法規から出ている加除式の『景品・表示相談事例集』p659では、

「当店では、毎月l回感謝デーとして、当店のカード会員のみに対して会員番号を当選番号とし、当選者に1000円、3000円、5000円の当店のみで使用可能な商品券を提供することを企画じています。この場合の景品類の総額はいくらにすればよいのでしょうか。」

という相談内容について、

「懸賞制限告示では、提供可能な景品類の総額は「取引予定総額の100分の2」までと定められています。

ご相談の場合の取引予定総額は、懸賞企画中の売上予定総額のことであり、前年の同時期あるいはここ数ヶ月間の販売実績や同種の懸賞企画を行った際の販売実績などを参考にして合理的に算定し、根拠のある金額としてください。

また、対象者があくまでもカード会員に限られていることから、カード会員に対する販売実績のみを売上予定総額として景品類の総額(商品券の総額)を算出してください。」

と回答されています。

カード会員のみに対して景品を提供するのだから、カード会員への売上を基準にしなさいという、至極全うな回答です。

この回答に従えば、1回3000円以上の買い物客に限定されている場合には、当然、

「また、対象者があくまでも1回3,000円以上の購入者に限られていることから、1回3,000円以上の購入者に対する販売実績のみを売上予定総額として景品類の総額(商品券の総額)を算出してください。」

となるのではないかと思われます。

もし、消費者庁がこの相談内容に答えたら、

「本件では、抽選対象をカード会員に限定しているものの、

特定の商品を購入した顧客に限定しているわけではないため

懸賞に係る取引については、貴店で販売されるすべての商品の取引が対象となり得ると考えられますので、

本件における懸賞に係る取引の売上予定総額は、

2当店における抽選実施期間中の売上予定額とすることができます。」

という回答になりそうで、やっぱりそれは変だと思います。

ともあれ、消費者庁がそれでいいと(企業に有利に)いっているなら、とやかく言わず、それに乗っかればいいのも事実です。

なので、59番の回答の結論だけを要約すると、

合計一定額以上の購入を基準にする懸賞では、全商品の予想売上げが基準

単価一定額以上の購入を基準にする懸賞では、当該単価以上の商品の予想売上が基準

ということになりそうです。

ちなみに、この消費者庁の考え方に従えば、たとえば、「A商品(1000円)を必ず含んで1500円以上の購入者に景品プレゼント」というような企画では、特定の商品(A商品)が条件ではあるものの、「すべての商品の取引が対象となり得る」ので、全ての商品の予想売上が基準になるのでしょう。

ただ、そうすると、全ての商品の予想売上を基準にする根拠である、

「特定の商品を購入した顧客に限定しているわけではないため、」

という理由が障害になります。

なぜなら、「A商品(1000円)を必ず含んで1500円以上の購入者に景品プレゼント」という企画では、まさに、特定の「A商品」を購入した顧客に限定しており(さらに言えば、A商品購入に加えてさらに500円購入することを条件にしており)、「特定の商品を購入した顧客に限定しているわけではない」とはいえないからです。

こういうところからも、59番の回答が論理的には破綻していることが見て取れます。

« 懸賞運用基準5(2)(同一取引に複数懸賞が競合する場合)の読み方 | トップページ | 「同一の取引」に複数企画が競合する場合の「同一の取引」の意味について »

景表法」カテゴリの記事

コメント

コメントを書く

(ウェブ上には掲載しません)

« 懸賞運用基準5(2)(同一取引に複数懸賞が競合する場合)の読み方 | トップページ | 「同一の取引」に複数企画が競合する場合の「同一の取引」の意味について »

フォト
無料ブログはココログ