原産国告示2項3号の適用範囲について
昨日、原産国告示2項3号のために、外国産品の商品には常に原産国を表示しないといけないのか、という問題について書きました(結論としては、表示しなくてもいい)。
この点に関する記述が、
公正取引委員会景品表示指導課長利部脩二編『商品の原産国表示の実務』(1974年・商事法務研究会)
にありましたので、検討しておきます。
同書p42以下では、以下のとおり解説されています。
「告示では、単に「表示」としてとくにその範囲を限定していないから、この表示は、景品表示法2条2項により指定された「表示」を意味する。〔中略〕
ただし、告示1項、2項の各号に掲げられている表示のうち、国旗、紋章、文字等は、視覚に訴えなければ表示できないものであるから、この表示に限っていえばラジオ放送は対象となりえない。
要するに、原産国に関しなんらかの印象を与えることのできる表示であれば、如何なる媒体によるものであるかを問わないということである。
形式的に告示1項、2項の各号に該当しても、原産国についてなんらの印象も与えないものは、当然に告示規制の対象から除かれる。
たとえば、インド洋で捕れたマグロに魚屋の店頭で「マグロ100g、○○円」と表示したり、輸入肉について「シチュー用牛肉○○円」などと日本語で表示すると、形式的には、告示2項3号の表示に該当するが、この表示は、小売店で販売されている商品について国産品であるか外国産品であるかと全く無関係に、かつ、必要的な表示としてごく普通に行われているものであるから、これを見ても、一般消費者は、その商品の原産国についてなんらの想定もしないし、意識もしないことは明らかである。
したがって、このような表示は、当然にこの告示の規制とは無関係である。
百貨店、スーパーなどが店内で表示するプライスカード、あるいは、ネオン・サイン、看板等、英字新聞に掲載される国産品についての英文の広告なども同様に考えられる。」
告示の文言を無視した前近代的な解釈ですが、結論は妥当でしょう。
ですが、こういう文言無視の解釈を平気で行政がするというのは、法治主義の観点からは極めて大きな問題だと思います。
(自分を全知全能の神と勘違いした行政だからできる解釈だともいえますが。)
こういう、文言からはずれたところで線を引く裁量が、行政の力の源だからです。
それに、上記解説は、論理的にもかなりこじつけです。
まず解説は、「表示」の意味の説明からはじまり、文字等はラジオでは対象になり得ない、といいます(ラジオは音だけなので、あたりまえです)。
そのことから突然、解説は、
「要するに、原産国に関しなんらかの印象を与えることのできる表示であれば、如何なる媒体によるものであるかを問わないということである。」
というように、「なんらかの印象」を与えることが「表示」の要件であると言いたげな一文を挟みます。
ただこれも、「要するに」と言っていますが、「要するに」以下が、その前の部分の要約にはぜんぜんなっていません。
その前の部分で言っているのは、ラジオでは文字は表示できないという、あたりまえのことだけです。
さらに続けて解説は、
「原産国に関しなんらかの印象を与えることのできる表示であれば、如何なる媒体によるものであるかを問わない」
という当然のことから、なんらの印象を与えないなら「表示」ではない、という次の論理につなげますが、これは論理のすりかえです。
というのは、前述の、
「要するに、原産国に関しなんらかの印象を与えることのできる表示であれば、如何なる媒体によるものであるかを問わないということである。」
というのは、ラジオで文字は表示できないということの要約(「要するに」)という位置付けなので、その次の、
「形式的に告示1項、2項の各号に該当しても、原産国についてなんらの印象も与えないものは、当然に告示規制の対象から除かれる。」
には、まったくつながりません。
共通しているのは「なんら(か)の印象」という文字だけで、論理的には、まったく関係のないことをいっています。
ラジオで文字は表示できないということから、「マグロ100g、○○円」という表示が告示の対象外だなどという結論が、どうして導かれるのでしょうか?
しかも、この解説は、原産国告示の論理とも食い違っています。
つまり、原産国告示2項は、
「2 外国で生産された商品についての次の各号の一に掲げる表示であつて、その商品がその原産国で生産されたものであることを一般消費者が判別することが困難であると認められるもの
一 その商品の原産国以外の国の国名、地名、国旗、紋章その他これらに類するものの表示
二 その商品の原産国以外の国の事業者又はデザイナーの氏名、名称又は商標の表示
三 文字による表示の全部又は主要部分が和文で示されている表示」
を不当表示に指定しています。
つまり、
「その商品がその原産国で生産されたものであることを一般消費者が判別すること」
ができないと不当表示になる、というのが原産国告示の考え方です。
なので、問題の表示(「マグロ100g、○○円」)が、
「原産国についてなんらの印象も与えない」(例、国産という印象を与えない)
のであればよい、というのではなく、
「その商品がその原産国(例、インド)で生産されたものであることを一般消費者が判別すること」
ができないと不当表示になる、というのが告示の考え方です。
つまり、告示では、真偽不明ではよしとせず、明確にインド産とわからないといけない、ということです。
という具合に、この解説の論理はまったくでたらめですが、結論は常識的です。
どうしてこういうことになってしまうのかというと、告示がでたらめだからです。
でたらめな告示を、でたらめな解説で、常識的な結論に戻しているわけです。
しかし、これは行政の怠慢だと思います。
告示は公正取引委員会(現在は消費者庁)が自分で変えられるのですから、問題があるなら改正すべきです。
法律は国会が決めるので、行政にはどうしようもない面はありますが、告示は行政自身が決めるので、問題があるのに変えないのは怠慢以外の何物でもありません。
こんな古い解説書は一般の人は知らないわけですから、告示2項3号を文字どおりに解釈して、商品説明を日本語でするときには原産国を明記しないといけないのだと信じている国民(やそのようなアドバイスをする弁護士)がいても、何ら不思議ではありません。
それで律儀に原産国表示をしていたら、そのなかに1つ2つミスがあって、不当表示だとかいわれて措置命令が出されたのでは、たまったものではありません。
巷間には行政の解釈をありがたがる解説があふれていますが、少しでも、リーガルマインドをもった解説が増えることを望みます。
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