カラダファクトリーの措置命令とキャンペーンの繰り返し
同じキャンペーンを「好評につき延長」などといって繰り返すとどのような場合に景表法違反になるのかはしばしば質問を受ける論点ですが、この点について参考になる事例として、(株)ファクトリージャパングループに対する2019(令和元)年10月9日措置命令があります。
この事件では同社が運営する整体施術のフランチャイズで、初回だけ割り引く同じ内容のキャンペーンが連続して繰り返し行われたことが有利誤認表示とされました。
問題になったコースは5つあるのですが、一番違反期間が長い「全身整体コース」についてみると、違反表示期間は、
第1期 2015年8月(ただしセール期間は同年9月と合わせて2ヶ月間)
〔空白期間8ヶ月〕
第2期 2016年6月~2017年2月(セール期間も同じ)
〔空白期間1ヶ月〕
第3期 2017年4月(セール期間は同年5月と合わせて2ヶ月間)
〔空白期間3ヶ月〕
第4期 2017年9月~2018年5月(ただし2017年12月26日~31日はのぞく。また2017年11月に8,424円から8,964円に値上げ)
〔空白期間1ヶ月〕
第5期 2018年7月~8月
の5回でした。
なお、それぞれの表示は、毎月きっちり、当月末までの期間限定キャンペーンであることを謳い、それを毎月繰り返していた、というものです。
(ただし上述のように、第4期の2017年12月の表示はキャンペーン期間が12月1日から25日までだったので、厳密に言えば、翌月まで6日間空白があったことになります。)
さて、以上のような事実関係でまず注目されるのは、第1期が、たった1ヶ月のキャンペーンを、たった1回、1ヶ月だけ延長しただけで不当表示とされている、ということです。
1回くらいの延長は大目にみてもらえるのではないか、と思いたくなるのはやまやまですが、これだけはっきり命令でだめだといわれると、なかなかそうも言っていられないように思われます。
次に、第2期と第3期の間、および、第4期と第5期の間は、それぞれ1ヶ月しか空いていませんでしたが、それでも、第2期と第3期が通算されることも、第4期と第5期が通算されることも、ありませんでした。
このことから、連続するキャンペーンは、間に1ヶ月空ければ、連続とはみなさないと消費者庁は考えているのではないか、ということが想像できます(あくまで想像です)。
1ヶ月空ければいいというのはまったく根拠がないわけでもなくて、価格表示ガイドラインのいわゆる8週間ルール(過去8週の過半の比較対照価格での販売実績などを要求するルール)の考え方にしたがえば、過去8週間の過半つまり4週間の実績があれば比較対象に用いて良い、というのは合理的であるように思われます。
逆に、第4期中の2017年12月26日から31日までは途切れているのですが、この6日間空いていたからといって、連続性は否定されていません。
将来価格二重表示ガイドラインが、比較対象将来価格での2週間の実績があれば不当表示としないというルールを採用していることからすると、2週間空ければいいのではないかという議論もありえますが、何ヶ月もキャンペーンをやってて2週間あけたらまたやっていいというのはいかにも短すぎる感じがするので、やはり1ヶ月は空けるべきでしょう。
ほかには、第4期の途中の2017年11月に、通常料金が8,424円から8,964円に値上げされており、それにともない、キャンペーンの初回限定割引価格もそれまでの3,980円から4,520円に値上がりしています。
同じ内容のキャンペーンを繰り返すのがだめなら少し内容を変えればいいのではないか、と誰もが思うところですが、少なくとも500円程度の値上げでは同一性は否定されないということでしょう。
さらにいえば、このケースでは、通常料金からの値下げ幅は従来の4,480円(=8,424-3,980)から、4,444円(=8,964-4,520)と、あまりかわっていないともいえます。
ところがさらにおもしろいのは、このケースでは、翌月の2017年12月には、通常料金は8,964円で据え置いたものの、初回限定の値引は従来どおりの3,980円に戻している、ということです。
きっと、お客さんが思ったよりも減ってしまったのでしょう。
なので、2017年12月以降(2018年5月まで)の初回限定割引は4,984円(=8,964-3,980)となっており、従前の4,480円と比べるとそれなりに高くなっているようにもみえます。
ただ、通常料金と比べていくら安いかを考えても意味はなく、キャンペーンの異同を考える際には実際に支払う額を基準に考えるべきでしょう。
つまりこのケースでは、初回支払額は、
2017年10月まで、3,980円
11月 4,520円(プラス540円)
12月~翌5月 3,980円(マイナス540円)
となります。
なので、支払額が3,980円くらいのときに、540円くらい増額しても、キャンペーンの同一性は否定されない(連続とみなされる)と考えるべきでしょう。
さらにいえば、このような命令の発想からすると、やっぱり、キャンペーン期間が終わったら、いったんは、元の価格(8,424円)に戻さないといけないのではないかと思います。
ちなみに、第3期以降は、それまでの3,980円にくわえて、平日午後だと3,500円になるというキャンペーンになっていますが、消費者庁が認定した連続期間の途中で加わったプランではないので、論点にはなっていません。
もし期間の途中でこのようなプランが加わったとしても、連続性は否定されないでしょう。
今だからお得だと思って言ったら、翌月には新プラン(3,500円)が加わってさらにお得になった(つまり「今」はむしろ損だった)ことになるからです。
なお細かいことを言えば、第4期の2018年1月から2月は、2ヶ月分まとめて延長しており、次の3月から4月も2ヶ月分まとめて延長していますが、もちろん、連続性は認められています。
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