センターフィーに関する下請法テキストの記述の変更とサンクゼール勧告
令和元年11月版の下請法テキストでは、センターフィー(親事業者が運営する物流センターの利用料として、親事業者が下請事業者に請求する手数料)については、
「親事業者D社は,食料品の製造を下請事業者に委託しているところ,
取引先に支払っているセンターフィーの一部を負担させるため,
下請事業者に対し,センターフィー協力費として,下請代金の額に一定率を乗じて得た額を提供させた。」(p80)
というのが、不当な経済上の利益の提供要請の違反事例としてあげられているだけでした。
(なおこの設例では、親事業者はセンターの運営者ではないことに注意して下さい。)
ところが、令和2年11月版p57では、
「Q77: 親事業者が,物流センターに商品を納品している下請事業者に対して,当該センターの利用料等の名目でセンターフィーと称して下請代金の額から差し引くことは問題ないか。」
という設問が新たに作られ、その回答として、
「A: 下請事業者からセンターフィーと称して下請代金の額から差し引く行為が下請法上問題となるか否かについては,
下請代金の額を定めた際の取引条件上,下請事業者が本来納品すべき場所がどこまでとされているかが重要となる。
例えば,取引条件上,本来納品すべき場所が各店舗であれば,下請事業者は各店舗への納品に係る物流コストを負担する責任を負うことになる。
この場合において,下請事業者が物流センターを利用するか否かを自由に選択でき,
さらにセンターフィーの額についてその自由意思に基づく交渉の上決定されるなどの事情の下,
物流センターへ一括納品して各店舗への納品は親事業者に任せることで,物流コストの軽減につながるなどの利益を得られるのであれば,
下請事業者が物流センターのサービスを受ける別の取引があり,
その場合のセンターフィーはそのサービスの対価であると評価することが可能である。
こうした評価が可能であれば,センターフィーを下請代金から差し引いたとしても,下請代金の減額には当たらない。
一方,取引条件上,本来納品すべき場所が物流センターであれば,下請事業者は物流センターに納品した後に発生する店舗までの配送コストについて負担すべき理由はなく,
センターフィーは下請事業者にとって一方的な不利益となることから,
これを下請代金から差し引くことは下請代金の減額として本法違反となる。」
と回答されています。
(ちなみに、前述の令和元年版の記述は、令和2年版p81にそのまま残っています。)
この令和2年版テキストのQ&Aが追加されるきっかけになったのが2020(令和2)年3月19日のサンクゼールに対する勧告で、同勧告の担当官解説(公正取引837号76頁)には、令和2年版テキストの上記引用部分とほぼ同じ内容の解説がなされています。
勧告の概要によれば、
「サンクゼールは,下請事業者に対し,納品責任を負うべき場所を物流センターと指定した食料品等について,
従前,物流センターの運営等に係る費用を徴収することなく物流センターに納品させていたが,
下請代金の単価改定の機会
及び
物流センターに納品せず自社の各店舗等に直接納品するか否かの選択の機会
を与えることなく,
前記費用の一部として,「センターフィー」と称して下請代金の額に一定率を乗じて得た額を徴収することとし,
平成29年12月から令和元年7月までの間,下請事業者の責めに帰すべき理由がないのに,「センターフィー」を下請代金の額から差し引くことにより,下請代金の額を減じていた。
減額した金額は,総額3725万4503円である(下請事業者31名)。」
ということです。
公取委が、従来は不当な経済上の利益の提供要請として処理してきた協賛金の提供要請を、あるときから代金減額にあたると解釈変更したことは、このブログでも何度か批判してきたところですが、そこにさらにセンターフィーも加わってきました。
まあ、サンクゼールの勧告では、下請代金から差し引いていたとのことなので、従前の運用でも代金減額に該当したのだと思いますが、現在の公取委の運用では、もし別途センターフィーを支払わせていても、代金減額になったのでしょう。
というわけで、不当な経済上の利益の提供要請と代金減額の違いは、別途支払わせるか差し引くかではなく、お金か、それ以外の利益か、になってきたように見受けられます。
ところで、上記担当官解説とそれを取り込んだ令和2年テキストの考え方は、それはそれで興味深いものがあります。
まず、
「下請事業者からセンターフィーと称して下請代金の額から差し引く行為が下請法上問題となるか否かについては,
下請代金の額を定めた際の取引条件上,下請事業者が本来納品すべき場所がどこまでとされているかが重要となる。」
と言っていること自体、私には疑問に思われます。
まず、「本来納品すべき場所」ということの意味が、よくわかりません。
下請法にどっぷり浸かっている私などからみると、これは、3条書面に記載する「給付を受領する・・・場所」(3条書面規則1条1項1号)、つまり、納品場所のことだと読めてしまいます。
しかしそうすると、テキストの立場では、3条書面の納品場所が物流センターだと、センターフィーは一切請求できないことになってしまいます。
なので、実務上の対応としては、センターフィーを請求する場合には、3条書面の納品場所を各店舗にしなければならない(複数あれば全部記載する)、ということになります。
でもそうすると、それにもかかわらず親事業者が物流センターへの納入を指示したら契約内容の不当な変更になるのかならないのか、下請事業者のほうから物流センターに納入してきたら債務不履行になるのか、といった疑問が次々に湧いてきます。
なので、ここでの「本来納品すべき場所」というのは、形式的な3条書面の納品場所のことではなく、当事者間で以心伝心(?)で合意している本来の納品場所(あるいは、お役所風の硬い表現をすれば、「取引の実態や当事者間の交渉の経緯等を総合的に考慮して認定される納品場所」)、ということなのではないか、と疑われますが、そんなふわっとしたもので下請法違反かどうかが決まってしまうのは、予測可能性の観点から問題でしょう。
実務的には、3条書面の納品場所は物流センターとしておいて、別途、「本来の納品場所は親事業者の各店舗である。」なんていう覚書を巻くんですかね。
それもいかにも不細工な感じがしますが(そんなアドバイス、恥ずかしくってできません)、そうでもしないと、怖くてセンターフィーなんて取れなくなってしまいます。
また、
「下請代金の額を定めた際の取引条件上,下請事業者が本来納品すべき場所がどこまでとされているか」
を基準にするというのも、どうして「下請代金の額を定めた際」の取引条件であることをことさら特別視するのか、理論上の根拠が不明です。
たとえば、商品のスペックが変わった際や、支払条件が変わった際の取引条件では、どうしていけないのでしょう?
おそらくテキストの記載は、サンクゼール事件の判断に引きずられてしまったのでしょう。
というのは、この事件では、従前センターフィーを徴収することなく物流センターに納品させていた場合には、
①下請代金の単価改定の機会
及び
②物流センターに納品せず親事業者の各店舗等に直接納品するか否かの選択の機会
を与えなければならないという基準を立ててしまい、①が跳ね返って、「下請代金の額を定めた際の取引条件上」という基準になってしまったのだと思われます。
でもそれは、従来取っていなかったセンターフィーを取り出した事案なので、センターフィーを取るなら価格も見直してあげるべき(下請代金を上げてあげるべき)、というのがなんとなく据わりがよいようにみえますが、センターフィーに一般化できるのか、さらにいえば、ほかの協賛金等にも一般化できるのか、というと、いろいろと疑問が湧いてきます。
少なくとも、いきなり①②の基準が出てくるテキストの考え方は、どう考えても唐突ですし、あまり深いことを考えているフシはありません。
それに、①及び②なので、①と②の両方必要とされていることにも注意が必要です。
でもこもれ、①か②のどちらかでいいのではないでしょうか?
また、どのようにすれば①と②を満たしたことになるのかも、定かではありません。
おそらく、①と②を要求してきた下請事業者に対して個別に対応したという実績があるというだけでは、親事業者は①と②の「機会を与えた」ことにはならないのでしょう。
たぶん、親事業者のほうから、適用対象の全下請事業者に対して、積極的に、①と②の機会を与えるのでどうしますか、という書面でも送らないとだめでしょう。
そして、機会を与えただけで実際に条件変更に応じていなかったり、一部アリバイ的に条件変更に応じた事例がある、というだけでもだめで、たぶん、下請事業者の言ってきたことには基本応じる、というくらいでないとだめなのでしょう。
テキストは「機会を与える」とか簡単に言いますが、実務で回していくのかけっこう大変そうです。
そもそもテキストの基準は、売主の義務は引渡しで完了するべきというドグマに基づいている点で優越的地位の濫用の返品と同じ匂いがするのも問題だと思いますが、下請法でこういう硬直的な基準を立てられると、民法の契約実務に跳ね返ってくるので大変です。
ちなみに担当官解説(公正取引837号76頁)では、
「サンクゼールは、「センターフィー」の徴収について下請事業者に事前に説明し、同意を得て開始したため、下請法に抵触しないと考えていたようである。」
なのだそうです。
なので、少なくとも事前に説明して同意を得ているだけでは①②の要件は満たさない、ということになります。
さらに続けて担当官解説では、
「サンクゼールは、「センターフィー」の徴収開始時の説明の際に、単価改定及び納品場所の選択の機会を与えていなかったため、
下請事業者にとっては従前の取引条件の変更の余地がないまま単に金銭の徴収のみが開始されたことになり、下請法上の「減額」となる。」
とされていますが、このあたりにこの事件の本質が出てますね。
つまり、この事件は、今まで取ってなかったセンターフィーを取り始めたという不利益変更が問題視されたといえます。
(でもそれだと、本来納品すべき場所がどこかで区別する、という前述の基準と矛盾するというか、当該基準があまり合理性のないものであることがますます明るみに出ることになりそうです。)
なので、少なくともここだけみると、取引開始時点からセンターフィーを取る取引条件であれば、問題なかったことになりますし、たぶん勧告もされなかったのでしょう。
取引開始時点からセンターフィーを取る取引条件であるにもかかわらず下請法違反になるのはどのような場合かについて、担当官解説に参考になる記載があって、解説p77では、
「なお、取引条件上、下請事業者が本来納品すべき場所が各店舗である取引において、下請事業者が物流センターのサービスを利用するという別の取引があるように思われる場合でも、
例えば、その対価として合理性を欠く著しく高額なセンターフィーを徴収していたり、
徴収したセンターフィーを物流センターとは全く別の使途に充当していたおりする場合には、
「センターフィー」は単なる名目であって、物流センターのサービスの対価とは認められず、問題となりうると考えられるため、注意が必要である。」
と解説されています。
まとめると、取引開始時点からセンターフィーを徴収することは、著しく高額でなく、使途を物流センターの運営に充当する限りは、下請法上問題ない、ということになります。
あと、「本来納品すべき場所」が各店舗でないといけないのが建前ですが、これは物流センター(=各店舗への配送費用を削減するために物流を集中する拠点)というものの性質からして、物流センターを使う取引では、原則として本来納品すべきは店舗だといっていいのではないかと思います。
公取委もきっとそのあたりはあまりこだわらないのではないかと思います(と期待したいです)。
なお、2020年3月19日付日経新聞電子版の記事によると、
「サンクゼールは15年、下請けが商品を納品する物流センターから店舗まで配送する費用を「センターフィー」として下請けへの支払額から3~7%差し引くことを決めた。」
ということなので、担当官解説がサンクゼールのセンターフィーが高すぎたことを問題視している素振りがないことからすると、(論理的にはやや飛躍がありますが)実務的には7%くらいまでなら著しく高額とは言われないのではないか、と思われます。
