スマートバリューに対する立入検査について
本日3日の日経新聞朝刊によると、2日、公正取引委員会が、自治体向けにウェブサイトの編集や更新に使うコンテンツ管理システム(CMS)を販売するスマートバリューほか1社に対して、新規参入を排除した疑いで立入検査をしたそうです。
疑いの内容は、CMSはオープンソースでも開発できるところ、自前で開発していたスマートバリューが、セキュリティー対策を理由に自治体の入札仕様書にオープンソースのソフトウェアを使っていないCMSであることを盛り込むようはたらきかけた、ということだそうです。
これは、違反になるかなかなか微妙な案件です。
というのは、入札仕様書に自己に有利な仕様を盛り込ませることは、世の中でふつうに行われていることだからです。
私も公取委から調査を受けたケースで依頼者から何度も同じようなことを聞いたことがあり、談合の容疑で調査を受けた企業の方が、
「先生、でも自分たちのやっている受注調整なんてかわいいもんで、大元のところで大手と発注者が結託して、競合が入れないような仕様にしているんですよ。そっちのほうが、ずっと競争を制限するんじゃないですか?」
とおっしゃっていて、至極もっともだとは思ったのですが、
「でもねぇ、発注者がそれで納得しているかぎりは、なかなかそれを独禁法違反というのは難しいのですよ。」
と答えていました。
また、別の案件でも、依頼者の方から、
「先生、自分の仕様をどれだけ仕様書に盛り込ませることができるかが競争なんであって、そこで負けたら、入札なんてもう負けたも同然なんですよ。」
という話も聞いて、なるほどそういうもんなんだなぁ、と思ったこともあります。
そして、発注者が、限定した仕様にすることのメリット(本件であれば、セキュリティが上がること)と、デメリット(本件であれば、入札参加企業が減って値段が上がる可能性があること)を天秤にかけて、納得の上でどちらにするか決めたのであれば、独禁法違反にはなりません。
ここで、スマートバリューに、新規参入排除の意図があったかどうかは、(公取委は裁判になればそういう証拠を山のように出してくるでしょうけれど)独禁法違反の有無とは関係がありません。
客観的に、セキュリティが上がるメリットがあるのであれば、たとえ同時に新規参入排除の意図があっても、独禁法違反にはならないからです。
世の中の同様の行為でも、「この仕様のほうがメリットがありますよ」と営業をかける企業には、常に、競合する企業の数を減らしたいという思いも併せ持っているわけです。
本件とやや似た事例としては、パラマウントベッド事件(平成10年3月31日勧告審決)というのがありますが、報道を見るかぎり、スマートバリューの件はパラマウントベッド事件とはずいぶん違うように見えます。
つまり、パラマウントベッド事件の勧告審決では、
「1 パラマウントベッド社は、仕様書⼊札において、前記⼀2(三)の東京都の⽅針〔注・仕様は複数の事業者が入札参加可能なものとする方針〕を承知の上、医療⽤ベッドの仕様に精通していない都⽴病院の⼊札事務担当者に対し、同社の製品のみが適合する仕様を含んでいても対外的には東京都の⽅針に反していることが露⾒しないように仕様書を作成することができると申し出るなどして
(⼀) 同社が実⽤新案権等の⼯業所有権を有している構造であることを伏せて、仕様書に同構造の仕様を盛り込むことを働きかけること
(⼆) 仕様書にフランスベッド社及びマーキスベッド社(以下「競合2社」という。)の標準品の仕様にはなく、競合2社がそれに適合する製品を製造するためには相当の費⽤及び時間を要することが予想されるパラマウントベッド社の標準品等の仕様を盛り込むことを働きかけること
により、同社の製品のみが適合する仕様書とすることを実現し〔た〕」
と認定されています。
つまり、知識のない入札担当者をだまして、さらには、自己が知的財産権を有することを隠して、自社の仕様を入札仕様書に盛り込ませているのです。
ただ、パラマウントベッド事件も、
「同社の製品のみが適合する仕様を含んでいても対外的には東京都の⽅針に反していることが露⾒しないように仕様書を作成することができると申し出るなど」
していることからすると、入札担当者もパラマウントベッドだけが適合できる仕様であることは認識していたことになるので、知的財産権を隠していたかどうかは、実は本質的な問題ではないようにも思います。
いずれにせよ、パラマウントベッド事件では、製品に詳しくない東京都の入札担当者をだまくらかして仕様に潜り込ませた、という匂いがプンプンします。
これに対して、スマートバリューの件については、セキュリティの問題なので、相当程度、会社の言い分に現実味がありそうです。
日経新聞にも、
「法令上の問題はないものと考えているが、公取委の検査に全面的に協力していく」
という会社のコメントが載っています。
なので、本件ではセキュリティ上の理由があったのかどうかという、まさにそこが争点になるのでしょう。
そしていうまでもなく、セキュリティ上の理由があったことの立証責任を会社が負うのではなく、セキュリティ上の理由がなかったことの立証責任を会社が負うのです。
実はパラマウントベッド事件でも、パラマウントベッドが都の入札担当者をだまくらかして(=同社の仕様にたいしたメリットがないのにあるかのようにだまして)入札仕様に自社仕様をもぐりこませたとまでいえるのかはやや微妙でした。
というのは、同事件の勧告審決では、パラマウントベッドの違反行為として、同社が、
「入札事務担当者をして
(三)入札のための現場説明会において仕様書の内容を説明する際に、同社の製品の仕様のみに合致する内容を説明し、⼜はメーカー3社の標準品の機能等を比較しパラマウントベッド社の製品の機能が競合2社の製品の機能に比較て著しく優れていることを⽰すパラマウントベッド社の作成による⼀覧表を掲⽰して説明し、入札参加者に対し、同社の医療用べッドを発注する旨表明すること
(四) 仕様書が同社の製品しか対応できない内容ではないか等の競合2社等からの質問及び仕様書の修正要求に対して、パラマウントベッド社の作成した回答に従って当該仕様書の内容の必要性等を回答すること及び同社と相談の上修正要求に応じないなどとすることをさせている。」
という事実が認定されており、実際に、「パラマウントベッド社の製品の機能が競合2社の製品の機能に比較て著しく優れて」いた可能性が示唆されている(あるいは、可能性が排除されていない)からです。
そしてもし、「パラマウントベッド社の作成による⼀覧表」の内容が事実に反するなら、競合2社は、それは事実と異なると反論したはずですが、そのような反論はなく、ただ、
「仕様書が同社の製品しか対応できない内容ではないか等の競合2社等からの質問及び仕様書の修正要求」
があったと認定されているだけで、一覧表の内容がウソだという質問はなかったことがうかがわれます。
つまり、競合2社も一覧表の内容が事実だということは認めざるを得なかったわけです。
たしかに、パラマウントベッドが作成した一覧表を使ったり、パラマウントベッドと相談して回答したりしているのは、いかにも同社が都を操っているような印象を与えますが、もしパラマウントベッド社の製品が本当に優れているなら(そして、その可能性は勧告審決では排除されていません!)、たとえ一覧表を同社が作成したり、技術的なことがわからない都の担当者が同社に相談したりしても、それで競争が制限されていることになるのかは疑問でしょう。
医療用ベッドの場合は、いくら医療用とはいえ、たかが(失礼!)ベッドですから、競合2社であるフランスベッドとマーキスベッドの製品が病院で使い物にならないくらいだめな商品だということはなかったのだろう、という常識的判断がはたらきます。
ですが、理屈のうえでは、もしそうなら、勧告審決書に、
「パラマウントベッド社の製品は競合2社の製品に比べて特段優れているわけではないにもかかわらず、優れているかのように都を欺罔し」
とか、何らかの事実が認定される必要があったと思いますが、そのような事実は認定されていません。
それでも、3社の製品が実用に耐えるものであったことをうかがわせる事実として、勧告審決書に、都が、
「(1) パラマウントベッド社、フランスベッド社及びマーキスベッド社の3社(以下「メーカー3社」という。)が製造する医療⽤べッドが納⼊可能な仕様書⼊札を実施すること。」
を入札方針としていたという事実が認定されており、3社がいずれも実用に耐える製品であったことがうかがえます。
ではスマートバリューの件で、これに類するような、
「オープンソースのCMSが納入可能な仕様書入札を実施すること」
というような方針を各自治体が採用していたのかというと、きっとしていなかったのではないかと想像されます。
むしろ、
「セキュリティの確保されたものであること」
というような条件が入っていても(あるいは、そんなことは当たり前すぎて書かれていなくても当然そういう運用がなされていても)不思議ではありません。
というわけで、パラマウントベッド事件を知っている者からすると、システムのセキュリティみたいな重大な要件について、よく公取委が踏み込んで来たなあ(本当に大丈夫か???)と思わざるを得ません。
前述のように、自社に有利な仕様を入札仕様書に潜り込ませることは多くの入札でふつうに行われていることです。
それがもし、入札担当者をだまくらかすようなものならよろしくないのでしょう。
ですが、ほんとうに自社の仕様が優れている(スマートバリューの自前のCMSのほうが、オープンソースのCMSよりセキュリティに優れている)のなら、そのような営業行為を独禁法違反とされたのではたまりません。
というわけで、もし本件でおかしな判断が出たら、入札に参加する企業の営業の在り方を根本的に見直さないといけなくなるかもしれません。
それくらい、本件は重要な案件になりそうな気がします。
今は確約制度がありますが、スマートバリュー社は、もし自社の営業が何ら恥じるものでないと考えるなら、安易に確約を申し出るべきではないでしょう。
オープンソースでも作れるCMSを、あえて自前で作っているからには、そのほうが優れているからそうしているはずであり、その点をアピールする営業が禁じられるなら、自社の事業を全否定されているに等しいのではないかという気がします。
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コメント
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> 発注者が、限定した仕様にすることのメリット(本件であれば、セキュリティが上がること)
これが否定された、あるいはメリットを提示できない場合はどうなるのでしょうか?
投稿: henrich | 2021年11月 4日 (木) 11時56分