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2021年11月

2021年11月29日 (月)

経済学の英語の文献を読むコツ

経済法に関係する経済学の文献は、英語のものが質量ともに日本語のものを圧倒しています。

なので、英語が読めないと話にならないことが多いのですが、日本人が経済学の英語文献を読むときには新聞やエッセーを読むのとは違うコツのようなものがあるように思います。

そこで、日本人が経済学に関する英語の文献を読むときのコツみたいなものを、いくつかまとめておきます。

1.a とtheの区別を意識すること

たとえば、ゲーム理論の文献で、an equilibriumなのか、the equilibriumなのかで、意味が全然違ってくることがあります。

aとtheの違いは、英語になれるとあたりまえで、しかもとても便利で、この便利さになれると、日本語を読んでいるときも、「この名詞の前にくるのは、aなんだろうか、theなんだろうか?」という疑問が浮かんできて、それがわからなくてストレスになったりするのですが、英語ははっきりと書いてあるので、とてもわかりやすいことがしばしばあります。

aなのかtheなのかを、日本語だと文脈から読み取るほかいのですが、英語では、その必要がありません。

日本人はaとtheを意識しないで読むことが多いのですが、これは、本来英語が日本語でないために文脈やニュアンスで意味を汲み取るのが苦手な日本人にとっては、すごいハンデです。

ネイティブが当然のように意識しているこの区別を、日本人が意識して使わないのは、とてももったいないです。

20年ほどまえにアメリカに留学していたときに、Simon & Blumeの「Mathematics for Economists」という経済学で使う比較的入門的な数学の本を読んでいて結構分からないことがあったのですが、最近読みなおしてみると、クリアにわかることがたいへん多く、それはなぜなのかを振り返ってみると、20年前にはあまり意識していなかったaとtheの区別なんだということが、とても多いです。

それくらい、このaとtheの区別は便利で、正確な内容を簡潔に伝えられる点で、むしろ日本語よりも英語のほうが優れているのではないか、という気にすらなります。

2.単数形と複数形の区別を意識すること

これも、aとtheの区別と同じで、日本人はあまり意識しないことが多いと思うのですが、大量の情報を簡潔な表現に押し込めて伝えようとする経済学の文献では、とても重要な役割を果たしていることが少なくありません。

たとえば、an equilibriumなのか、equilibriaなのかで、著者が伝えようとしているイメージが違ってくることがあり、これを意識しながら読むと、モヤモヤが晴れることがあります。

あるいは、予算制約線が「the constraint set」と単数形で書かれていて、効用関数(目的関数)のlevel curve(等高線、等位線)が、「level curves」と複数形になっていると、予算制約線は一定で、効用関数をパラメータを動かしながらいくつも引いていく、というイメージがビビッドに伝わってきます。

こういうのは、日本語の文章だけだとなかなかわからないのですが、英語だと、文章だけでそれが伝わります。

英語に慣れていないと、単数と複数のちがいというのは、たとえば主語が単数なら動詞はsがつかないからこれが主語でこれが述語なんだとわかるようなときとか、代名詞がthemなので複数の名詞を指しているんだなとわかる時ぐらいでしたが、一般的に、この単複の区別はけっこう大事なことが多いです。

とくに、単数形をあえて使っているときには、ちゃんと意味があることが多いように思います。

3.知らない句動詞は前置詞から意味を想像する

経済学の文献に限らず、法律の文献にも時々あるのかもしれませんが、句動詞が辞書にも載っていないことがあります。

それでも最近は、インターネットで調べると出てくることが多いので(日本のYahoo知恵袋みたいに、意味を質問できるサイトもあります)、まったく意味の見当がつかないということは少なくなったと思いますが、それでも、わからないことは出てきます。

そういうときには、前置詞のイメージから直感的に、そこで言わんとしているであろうことをイメージすると、見事に意味がつながったりします。

たとえば、onは「ぐりぐり押し付けるイメージ」とか、toは「到達するイメージ」とか、forは「到達していないイメージ」とか、英語の前置詞の空間的なイメージを解説している本があるので、そういうのを読んで、英語のまま(日本語になおさずに)理解すると、よく分かることがあります。

私が読んだので覚えているのは、刀祢雅彦『前置詞がわかれば英語がわかる』ですが(ほかにもありましたが忘れてしまいました)、最近ならもっと良い本もあると思います。

ともあれ、前置詞の空間的なイメージを持つことは、英語を英語的に理解するために、非常に重要です。

4.toに着目する

これも、上の前置詞の意味をイメージすることと関連するのですが、toには、一つの目標にまっしぐらに進んでいって到達する、というイメージがあるらしいです。

日本人が高校英語でto不定詞を習うときには、「~するために」という和訳をあてがうだけなので、この、まっしぐらなイメージが伝わりません。

なので、このまっしぐらなイメージをイメージしながら読むと、英語が生き生きと動きを持って理解でき、文章の意味が強烈に頭に残ったりします。

これは、to不定詞のtoだけでなく、前置詞一般のtoでも、基本的には同じことらしいです。

5.英英辞典を使う

これも大事です。

単語の意味を正確に理解できるということも大事なのですが、ある単語の中心概念は何で、それを何が説明している(修飾している)のか、という、単語自体の論理構造のようなものを理解することを心がけると、英語の正確な理解に役立ちます。

これが、英和辞典だと、日本語に言い換えているだけなので、英語の単語自体の論理構造が分からない、という欠点があります。

そして、この単語の論理構造の誤解が、文章の誤解につながることがけっこう多いような気がします。

たとえば、vectorを英和辞典で調べると「ベクトル」とカタカナになっているだけですが、Oxford Advanced Learner's Dictionaryで調べると、

「a quantity having direction as well as magnitude, especially as determining the position of one point in space relative to another」

と説明されていて、ベクトルというのはひとつの量(quantity)のことなんだ、という単語の意味の構造(論理構造)がわかります。

こういう、単語の論理構造がわかっていると、英語を書くときにも、少なくとも文法的にはおかしな英語にならない、というメリットがあります。

 

以上の点を意識して読むだけで、文脈やニュアンスにたよらない傾向がある、経済学や法律、より広くは一般的な学術文献の英語は、はるかに正確に理解できるようになると思います。

逆に言えば、これを知らないでいる間は、日本人は英語を読むのもすごいハンデがあるんだな、とわかったりして、けっこうショックだったりします。

これから経済学の文献を読んでみようという方は、参考にしていただけるとうれしいです。

2021年11月28日 (日)

総付と懸賞を併用した企画について

あるパンメーカーが、

食パン(1斤200円)に「1点」と記載されたシールを貼り、

あんパン(1個100円)には、「シール20点分を獲得できる抽選に参加できる抽選応募券」を貼って、

40点分のシールを獲得した人には豪華賞品をプレゼントする

という企画をしたとします。

この企画で提供できる景品類の価額はいくらまででしょう。

この企画では、食パン40斤を買えば確実に40点獲得できて賞品がもらえるので、その意味では総付です。

そして、あんパン2個を買って抽選に2回当選しても同じ賞品がもらえるので、その意味では懸賞です。

これだけなら、総付の制限(1斤200円×40斤×0.2=1600円)と、懸賞の制限(1個100円×2個×20=4000円)の、いずれも超えない範囲に収めればいいので、提供できる景品類の価額の上限は低いほうの1600円になりそうです。

ところがこの企画では、あんパン1個(100円)買って抽選に当選して20点獲得し、残り20点を食パン20斤(200円×20=4000円)を買って獲得することでも、同じ景品がもらえます。

このように、総付と懸賞を併用して景品がもらえる場合、景品類の上限価額はどのように考えればよいのでしょうか。

困ったときには定義に戻りましょう。

懸賞制限告示1項では、

「1 この告示において「懸賞」とは、次に掲げる方法によつて景品類の提供の相手方又は提供する景品類の価額を定めることをいう。

一 くじその他偶然性を利用して定める方法

二 特定の行為の優劣又は正誤によつて定める方法」

と規定されています。

この定義にしたがえば、40点全部を抽選(あんパン2個購入)により獲得することは、あきらかに「偶然性を利用して定める方法」「によつて景品類の提供の相手方・・・を定めること」に該当するので、懸賞にあたりそうです。

では、40点中20点をあんパン1個購入した抽選で獲得し、残り20点を食パン20斤購入して獲得する場合はどうでしょうか。

この場合も、現に賞品を獲得した人は、あんパン1個のくじに当選したから賞品を獲得できたのであり、くじに当選していなかったら賞品を獲得できなかったわけですから(賞品をもらえるかどうかはくじに当たるかどうか次第)、「偶然性を利用して定める方法」「によつて景品類の提供の相手方・・・を定めること」に該当し、懸賞に該当することになると考えられます。

では、40点全部を食パン40斤購入することで獲得した人についてはどうかというと、この人は、「偶然性を利用して定める方法」「によつて景品類の提供の相手方・・・を定めること」には該当しないので、この人に対してする賞品の提供は、懸賞ではないことになります。

懸賞だとして、次に問題になるのは、取引の価額です。

ここで、懸賞制限告示2項では、

「2 懸賞により提供する景品類の最高額は、懸賞に係る取引の価額の20倍の金額(当該金額が10万円を超える場合にあっては、10万円)を超えてはならない。」

と規定されています。

そして、「懸賞に係る取引の価額」の意味については、懸賞制限告示5(1)では、

「(1) 「一般消費者に対する景品類の提供に関する事項の制限」の運用基準第一項(1)から(4)までは、懸賞に係る取引の場合に準用する。」

と規定されていて、総付制限告示運用基準1項(1)から(4)では、

「1 告示第一項の「景品類の提供に係る取引の価額」について

(1) 購入者を対象とし、購入額に応じて景品類を提供する場合は、当該購入額を「取引の価額」とする。

(2) 購入者を対象とするが購入額の多少を問わないで景品類を提供する場合の「取引の価額」は、原則として、100円とする。

ただし、当該景品類提供の対象商品又は役務の取引の価額のうちの最低のものが明らかに100円を下回つていると認められるときは、当該最低のものを「取引の価額」とすることとし、

当該景品類提供の対象商品又は役務について通常行われる取引の価額のうちの最低のものが100円を超えると認められるときは、当該最低のものを「取引の価額」とすることができる。

(3) 購入を条件とせずに、店舗への入店者に対して景品類を提供する場合の「取引の価額」は、原則として、100円とする。

ただし、当該店舗において通常行われる取引の価額のうち最低のものが100円を超えると認められるときは、当該最低のものを「取引の価額」とすることができる。

この場合において、特定の種類の商品又は役務についてダイレクトメールを送り、それに応じて来店した顧客に対して景品類を提供する等の方法によるため、景品類提供に係る対象商品をその特定の種類の商品又は役務に限定していると認められるときはその商品又は役務の価額を「取引の価額」として取り扱う。

(4) 景品類の限度額の算定に係る「取引の価額」は、景品類の提供者が小売業者又はサービス業者である場合は対象商品又は役務の実際の取引価格を、製造業者又は卸売業者である場合は景品類提供の実施地域における対象商品又は役務の通常の取引価格を基準とする。」

と規定されています。

ここで、あんパン2個(200円)買って2回抽選を当てた消費者は、(1)の、

「購入者を対象とし、購入額に応じて〔懸賞=偶然性を利用して定める方法で〕景品類を提供する場合」

に該当するといってよいでしょう。

(なお、購入額に「応じて」とは、購入額に比例して、とか限定した意味ではもちろんなく、(2)の「購入額の多少を問わないで」ではない場合、つまり、購入額(の多少)で提供される景品類が決まる、あるいは、購入額と景品類が対応している、ということです。)

そして、その場合の「取引の価額」は、「当該購入額」、つまり、景品類の提供が「応じ」るところの「購入額」なので、あんパン2個の代金200円となる、というのが1つの考え方ですが、それでよいのでしょうか?

ここは、懸賞に該当する点数のすべての獲得パターンの中で、最も少なくてすむ取引額が、「取引の価額」であると考えるべきだと思います。

つまり、設問の企画では、賞品を獲得するためには、

①あんパン2個(200円)買って抽選を当てて賞品をもらう方法(合計200円)と、

②あんパン1個(100円)買って抽選を当てて(20点)、食パン20斤(4000円)買って(20点)賞品をもらう方法(合計4100円)

の2つのパターンがあるわけですが、最低必要な取引額は①の200円となります。

そして、この種の企画では抽選のほうが、(抽選に全部当たると仮定した場合に必要になる)取引価額が総付で必要になる取引価額より小さいのが通常です(∵抽選に全部当たっても総付のほうが割がいいと、誰も抽選を選ばなくなるため)。

ということは、結局、取引の価額を最低にするには、全部抽選で獲得する方法を選ぶことになります。

よって本件では、①の200円が、取引の価額となり、懸賞で提供できる景品類の価額の上限はその20倍の4000円となります。

次に、懸賞では、景品総額の規制もあります。

つまり、懸賞制限告示3項では、

「3 懸賞により提供する景品類の総額は、当該懸賞に係る取引の予定総額の100分の2を超えてはならない。」

と規定されています。

ここで、「当該懸賞に係る取引」が、あんパンの取引だけなのか、食パンの取引も含むのかは、検討を要します。

「当該懸賞に係る取引」という文言だけをみれば、あんパンだけという解釈も、あんパンと食パン両方含むという解釈も、いずれも成り立つように思われます。

というのは、現にあんパン1個購入して抽選を当てて20点獲得し、食パン20斤買って20点獲得することによって賞品も獲得することが可能だからです。

前述の、景品額の上限の場合には、必要最低限の取引価額を特定するとあんパン2個購入(200円)だと考えましたが、これは、このようにすれば最低限の取引価額で賞品がもらえるといっているだけで、本当にもらえるかどうかは運次第です。

また、現にあんパン1個購入して抽選を当てて20点獲得し食パン20斤買って20点獲得することによって賞品を獲得する消費者も存在しうる以上、食パンの取引も誘引していることはあきらかですから、食パンも「当該懸賞に係る取引」に含めるのが、実質的に見ても妥当でしょう。

また食パンも含めたほうが、結果的に、提供できる賞品の総額も大きくすることができます。

ところで、②の、抽選と総付を併用する場合点数をあんパンと食パンのどちらで先に獲得するかは結論に影響しないと考えられます。

先に食パン20斤買って20点獲得ずみの人があんパン1個買って抽選に参加する場合、食パン20斤の購入は、不確実性のない、賞品を獲得するための客観的な条件にすぎない(ので懸賞の取引の価額には算入されない)、という考え方もありえますが、条件が取引そのものである場合には、当該条件も取引の価額に算入されるべきでしょう。

2021年11月26日 (金)

懸賞による景品類の提供の既遂時期

1回の取引で複数回の抽選に参加できる企画の場合、1回当たるだけでは景品規制の上限を超えないけれど、2回以上当選したら超えてしまう、ということが起こりえます。

たとえば、1万円の商品購入者に、10万円の賞品が当たる抽選に2回参加できる権利をあたえる場合、1回だけの当選なら10万円ですから懸賞規制の上限の範囲内ですが、2回当選してしまうと合計20万円の賞品(景品類)を獲得できてしまうので、上限を超えてしまいます。

1種類の取引で1種類の賞品が当たるだけの単純な企画なのであれば、わざわざ2回抽選に参加できる権利を与えたいということはあまりなさそうですが(2回くじを引けるので2回わくわくできる?)、たとえば、

1個1000円の商品に「1点」のシールを貼り、1個2000円の商品に「2点」のシールを貼り、1個1万円の商品に「10点」のシールを貼り、とにかく5点集めたら1回抽選に参加できる(なので1万円の商品を1個購入したら2回抽選に参加できる)というような場合や、

1回の抽選で複数の賞品のうちのどれが当たるのかわからない抽選(1等○○、2等××、残念賞△△)ではなく、特定の賞品が当たる複数種類の抽選から自由に選んで参加できる場合(○○が当たる抽選と、××が当たる抽選を選べる場合)

などのケースには、1つの取引に対して複数回の抽選参加権を与えたい、ということが起こりえます。

このように、2回当選してしまうと20万円で懸賞の上限を超えてしまうような場合には、重複当選を禁止する扱いにすることが考えられます。

しかし、重複当選を禁止しないと絶対に違反になるのかというと、必ずしもそういうわけではありません。

というのは、重複当選すれば上限を超えてしまうような企画であっても、現に重複当選者が現れないのであれば、景品類を未だ提供していることにはならず(比喩的に言えば、未だ未遂であり)、景表法違反には問われないからです。

このことは、懸賞告示2項において、

「懸賞により提供する景品類の最高額は、懸賞に係る取引の価額の20倍の金額(当該金額が10万円を超える場合にあっては、10万円)を超えてはならない。」

と規定されており、現に「提供する景品類」の価額のみを問題にしている(当選する可能性がある抽選を行うこと自体を問題にしていない)ことから明らかです。

比喩的に言えば、懸賞による賞品の提供は現に景品類を提供したときであり、企画を実施したときではありません。

もちろん、重複当選を明確に禁止していない限り、常に重複当選の可能性はあり、そのぶん、違反の可能性もあるわけですが、実際に違反になるのは、実際に重複当選が発生し、景品類を現に提供した時点です。

この点、過去の懸賞に対する公取時代の排除命令をみると、たとえば、平成11年3月30日のジャパンエンバに対する排除命令では、

「ジャパンエンバは、⽑⽪製の⾐服及び⾝の回り品の販売に関して、

1 「ダイアナ妃の故国、イギリスの旅ご招待」と称し、平成10年10⽉2⽇から同年11⽉30⽇までの間、店舗及び展⽰販売会場として借り上げた会場ごとに、それぞれ応募期間を定め、あらかじめ郵送したダイレクトメールに同封した応募券により当該期間中に当該店舗⼜は会場において応募した⼀般消費者を対象に、抽選により、「イギリスの旅」と称するイギリス及びフランスヘの6⽇間のペア旅⾏(24万6000円相当)を2名に、ハワイヘの5⽇間のペア旅⾏(16万円相当)を5名に、国内旅⾏券(4万円相当)を10名に、それぞれ提供すること

2 「クリスマスバザール」と称し、平成10年12⽉1⽇から同⽉25⽇までの間、店舗及び展⽰販売会場として借り上げた会場ごとに、それぞれ応募期間を定め、当該期間中に当該店舗⼜は会場において商品を購⼊した⼀般消費者を対象に、抽選により、ハワイヘの5⽇間のペア旅⾏(16万円相当)を5名に提供すること

をそれぞれ企画し、これらを実施した。」

と認定されており、これらの企画を企画し実施したとは認定されていますが、実際に、景品類が提供されたことは、厳密にいえば、認定されていません。

たぶん、実際には当選者がいて、旅行等も企画どおり提供されたことが当然の前提になっているのだとは思いますが、厳密に言えばこれは不正確で、実際に景品類が提供されたことまで認定する必要があったと思われます。

とはいえ、「当選者は少なくしているし(たとえば5名)、まさか2回当たる人はいないだろう」と高をくくって重複当選を明示的に禁止しない場合には、まさに違反するかどうかを「運にまかせる」ことになるので、あまり好ましくはないでしょう。

もちろん、当選者が1名だけの抽選であれば、重複当選は論理的にありえませんから、重複当選を禁じるまでもないでしょう。

2021年11月 3日 (水)

スマートバリューに対する立入検査について

本日3日の日経新聞朝刊によると、2日、公正取引委員会が、自治体向けにウェブサイトの編集や更新に使うコンテンツ管理システム(CMS)を販売するスマートバリューほか1社に対して、新規参入を排除した疑いで立入検査をしたそうです。

疑いの内容は、CMSはオープンソースでも開発できるところ、自前で開発していたスマートバリューが、セキュリティー対策を理由に自治体の入札仕様書にオープンソースのソフトウェアを使っていないCMSであることを盛り込むようはたらきかけた、ということだそうです。

これは、違反になるかなかなか微妙な案件です。

というのは、入札仕様書に自己に有利な仕様を盛り込ませることは、世の中でふつうに行われていることだからです。

私も公取委から調査を受けたケースで依頼者から何度も同じようなことを聞いたことがあり、談合の容疑で調査を受けた企業の方が、

「先生、でも自分たちのやっている受注調整なんてかわいいもんで、大元のところで大手と発注者が結託して、競合が入れないような仕様にしているんですよ。そっちのほうが、ずっと競争を制限するんじゃないですか?」

とおっしゃっていて、至極もっともだとは思ったのですが、

「でもねぇ、発注者がそれで納得しているかぎりは、なかなかそれを独禁法違反というのは難しいのですよ。」

と答えていました。

また、別の案件でも、依頼者の方から、

「先生、自分の仕様をどれだけ仕様書に盛り込ませることができるかが競争なんであって、そこで負けたら、入札なんてもう負けたも同然なんですよ。」

という話も聞いて、なるほどそういうもんなんだなぁ、と思ったこともあります。

そして、発注者が、限定した仕様にすることのメリット(本件であれば、セキュリティが上がること)と、デメリット(本件であれば、入札参加企業が減って値段が上がる可能性があること)を天秤にかけて、納得の上でどちらにするか決めたのであれば、独禁法違反にはなりません。

ここで、スマートバリューに、新規参入排除の意図があったかどうかは、(公取委は裁判になればそういう証拠を山のように出してくるでしょうけれど)独禁法違反の有無とは関係がありません。

客観的に、セキュリティが上がるメリットがあるのであれば、たとえ同時に新規参入排除の意図があっても、独禁法違反にはならないからです。

世の中の同様の行為でも、「この仕様のほうがメリットがありますよ」と営業をかける企業には、常に、競合する企業の数を減らしたいという思いも併せ持っているわけです。

本件とやや似た事例としては、パラマウントベッド事件(平成10年3月31日勧告審決)というのがありますが、報道を見るかぎり、スマートバリューの件はパラマウントベッド事件とはずいぶん違うように見えます。

つまり、パラマウントベッド事件の勧告審決では、

「1 パラマウントベッド社は、仕様書⼊札において、前記⼀2(三)の東京都の⽅針〔注・仕様は複数の事業者が入札参加可能なものとする方針〕を承知の上、医療⽤ベッドの仕様に精通していない都⽴病院の⼊札事務担当者に対し同社の製品のみが適合する仕様を含んでいても対外的には東京都の⽅針に反していることが露⾒しないように仕様書を作成することができると申し出るなどして

(⼀) 同社が実⽤新案権等の⼯業所有権を有している構造であることを伏せて、仕様書に同構造の仕様を盛り込むことを働きかけること

(⼆) 仕様書にフランスベッド社及びマーキスベッド社(以下「競合2社」という。)の標準品の仕様にはなく、競合2社がそれに適合する製品を製造するためには相当の費⽤及び時間を要することが予想されるパラマウントベッド社の標準品等の仕様を盛り込むことを働きかけること

により、同社の製品のみが適合する仕様書とすることを実現し〔た〕」

と認定されています。

つまり、知識のない入札担当者をだまして、さらには、自己が知的財産権を有することを隠して、自社の仕様を入札仕様書に盛り込ませているのです。

ただ、パラマウントベッド事件も、

同社の製品のみが適合する仕様を含んでいても対外的には東京都の⽅針に反していることが露⾒しないように仕様書を作成することができると申し出るなど」

していることからすると、入札担当者もパラマウントベッドだけが適合できる仕様であることは認識していたことになるので、知的財産権を隠していたかどうかは、実は本質的な問題ではないようにも思います。

いずれにせよ、パラマウントベッド事件では、製品に詳しくない東京都の入札担当者をだまくらかして仕様に潜り込ませた、という匂いがプンプンします。

これに対して、スマートバリューの件については、セキュリティの問題なので、相当程度、会社の言い分に現実味がありそうです。

日経新聞にも、

「法令上の問題はないものと考えているが、公取委の検査に全面的に協力していく」

という会社のコメントが載っています。

なので、本件ではセキュリティ上の理由があったのかどうかという、まさにそこが争点になるのでしょう。

そしていうまでもなく、セキュリティ上の理由があったことの立証責任を会社が負うのではなく、セキュリティ上の理由がなかったことの立証責任を会社が負うのです。

実はパラマウントベッド事件でも、パラマウントベッドが都の入札担当者をだまくらかして(=同社の仕様にたいしたメリットがないのにあるかのようにだまして)入札仕様に自社仕様をもぐりこませたとまでいえるのかはやや微妙でした。

というのは、同事件の勧告審決では、パラマウントベッドの違反行為として、同社が、

「入札事務担当者をして

(三)入札のための現場説明会において仕様書の内容を説明する際に、同社の製品の仕様のみに合致する内容を説明し、⼜はメーカー3社の標準品の機能等を比較しパラマウントベッド社の製品の機能が競合2社の製品の機能に比較て著しく優れていることを⽰すパラマウントベッド社の作成による⼀覧表を掲⽰して説明し、入札参加者に対し、同社の医療用べッドを発注する旨表明すること

(四) 仕様書が同社の製品しか対応できない内容ではないか等の競合2社等からの質問及び仕様書の修正要求に対して、パラマウントベッド社の作成した回答に従って当該仕様書の内容の必要性等を回答すること及び同社と相談の上修正要求に応じないなどとすることをさせている。」

という事実が認定されており、実際に、「パラマウントベッド社の製品の機能が競合2社の製品の機能に比較て著しく優れて」いた可能性が示唆されている(あるいは、可能性が排除されていない)からです。

そしてもし、「パラマウントベッド社の作成による⼀覧表」の内容が事実に反するなら、競合2社は、それは事実と異なると反論したはずですが、そのような反論はなく、ただ、

「仕様書が同社の製品しか対応できない内容ではないか等の競合2社等からの質問及び仕様書の修正要求」

があったと認定されているだけで、一覧表の内容がウソだという質問はなかったことがうかがわれます。

つまり、競合2社も一覧表の内容が事実だということは認めざるを得なかったわけです。

たしかに、パラマウントベッドが作成した一覧表を使ったり、パラマウントベッドと相談して回答したりしているのは、いかにも同社が都を操っているような印象を与えますが、もしパラマウントベッド社の製品が本当に優れているなら(そして、その可能性は勧告審決では排除されていません!)、たとえ一覧表を同社が作成したり、技術的なことがわからない都の担当者が同社に相談したりしても、それで競争が制限されていることになるのかは疑問でしょう。

医療用ベッドの場合は、いくら医療用とはいえ、たかが(失礼!)ベッドですから、競合2社であるフランスベッドとマーキスベッドの製品が病院で使い物にならないくらいだめな商品だということはなかったのだろう、という常識的判断がはたらきます。

ですが、理屈のうえでは、もしそうなら、勧告審決書に、

「パラマウントベッド社の製品は競合2社の製品に比べて特段優れているわけではないにもかかわらず、優れているかのように都を欺罔し」

とか、何らかの事実が認定される必要があったと思いますが、そのような事実は認定されていません。

それでも、3社の製品が実用に耐えるものであったことをうかがわせる事実として、勧告審決書に、都が、

「(1) パラマウントベッド社、フランスベッド社及びマーキスベッド社の3社(以下「メーカー3社」という。)が製造する医療⽤べッドが納⼊可能な仕様書⼊札を実施すること。」

を入札方針としていたという事実が認定されており、3社がいずれも実用に耐える製品であったことがうかがえます。

ではスマートバリューの件で、これに類するような、

「オープンソースのCMSが納入可能な仕様書入札を実施すること」

というような方針を各自治体が採用していたのかというと、きっとしていなかったのではないかと想像されます。

むしろ、

「セキュリティの確保されたものであること」

というような条件が入っていても(あるいは、そんなことは当たり前すぎて書かれていなくても当然そういう運用がなされていても)不思議ではありません。

というわけで、パラマウントベッド事件を知っている者からすると、システムのセキュリティみたいな重大な要件について、よく公取委が踏み込んで来たなあ(本当に大丈夫か???)と思わざるを得ません。

前述のように、自社に有利な仕様を入札仕様書に潜り込ませることは多くの入札でふつうに行われていることです。

それがもし、入札担当者をだまくらかすようなものならよろしくないのでしょう。

ですが、ほんとうに自社の仕様が優れている(スマートバリューの自前のCMSのほうが、オープンソースのCMSよりセキュリティに優れている)のなら、そのような営業行為を独禁法違反とされたのではたまりません。

というわけで、もし本件でおかしな判断が出たら、入札に参加する企業の営業の在り方を根本的に見直さないといけなくなるかもしれません。

それくらい、本件は重要な案件になりそうな気がします。

今は確約制度がありますが、スマートバリュー社は、もし自社の営業が何ら恥じるものでないと考えるなら、安易に確約を申し出るべきではないでしょう。

オープンソースでも作れるCMSを、あえて自前で作っているからには、そのほうが優れているからそうしているはずであり、その点をアピールする営業が禁じられるなら、自社の事業を全否定されているに等しいのではないかという気がします。

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